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相良宅へ
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帰りの車の中はほとんど会話がなかった。奇妙な緊張が瑛斗の体を駆け巡って、自然に振る舞うことができない。
左右に木々が連なる電灯の少ない暗闇の道を、静かに車が進んでいく。ステレオからは微かにラジオが流れていた。瑛斗でもどこかで聴いたことがあるような流行の洋楽が、車内の静かな空気とは真逆の明るい旋律を奏でている。
ハンドルを握りながら、相良がふとこちらを見た。
「瑛斗、静かだな。疲れた?」
「……うん、ちょっと」
「あとちょっとで着くから」
「うん……」
さっきから。相良の問いかけに『うん』しか答えていない。こんなに緊張することなんて初めてだった。経験豊富とは言えないが、今まで何人か彼女もできてそれなりにすることはしている。でも、最初の彼女とセックスをした時でさえ、こんなに緊張したような覚えはない。
って、俺、なんでセックスする前提で考えてんだよっ。
違う違うと心に言い聞かせる。相良は襲わないと言った(怪しいけど)。自分はただ、もう少し相良と仲良くなりたいと思っただけだ。だから、相良の誘いに乗ったのだ。そこに他意はない。
あわわわ、とひとりで動揺している内に、辺りに大きな家と電灯が増えてきた。そこに一際目立つ、見覚えのある大きな屋敷が見えてくる。門の前に到着すると、扉が自動で開いた。そのまま車ごと中へと進んだ。
森のような庭を過ぎて屋敷玄関前のロータリーに車を停めると、控えていた使用人らしき人たちが出迎えてくれた。運転席と助手席がすぐさま開けられる。
「葵様、お帰りなさいませ」
なんか、映画とかドラマとかの世界だな。
そう思いながら相良に恭しく挨拶をする使用人たちの様子を見ていると、助手席側のドアを開けてくれたアジア系の年配の男性がニコリと瑛斗に笑顔を向けてきた。
「中嶋様ですね。お帰りなさいませ。ようこそおいで下さいました」
「あ、お世話になります」
アジア系のこの男性は日本人だった。よく見ると、使用人の中には日本人も多いようだ。瑛斗もちょこんと頭を下げてお礼を言ってから車を降りた。
辺りを興味本位で見回していると、さわさわと木の葉を揺らす風に混じって微かに水の音が聞こえた。
あ、きっと昨日のプールだ。
そう思い、一体あのプールはどの辺にあるのだろうとキョロキョロしていると、相良に声をかけられた。
「瑛斗、なにしてんの?」
「いや、昨日のプールってどっちにあんのかと思て」
「あっちだけど。見る?」
相良は瑛斗の手を取ると、瑛斗の返事も待たずに木の生い茂る小道を進んでいった。ほんの30秒ぐらい歩いたところで、木々に囲まれた、あの見覚えのある立派なプールが目の前に現れた。
「こんな近かったんだ。外から見ると、めちゃくちゃ敷地が大きく見えたから。もっと家から離れてんのかと思った」
昨晩はあまり心に余裕がなかったし暗くてよく見えなかったが、今夜はプールサイドの灯りが全て点いていてプール全体が眺められた。
長さは競技用のプールよりも少し短めの20メートルくらいに見えた。長方形のシンプルな形だが使われている素材が瑛斗の目から見ても高級そうだった。プールの周りにはデイベッドが置かれていて、プールから少し離れた場所に昨晩は点灯されていなかったので気づかなかったがジャグジーもあった。
プールの底からもジャクジーからもライトが照らされており、その光が水面に反射して幻想的にキラキラと輝いていた。
左右に木々が連なる電灯の少ない暗闇の道を、静かに車が進んでいく。ステレオからは微かにラジオが流れていた。瑛斗でもどこかで聴いたことがあるような流行の洋楽が、車内の静かな空気とは真逆の明るい旋律を奏でている。
ハンドルを握りながら、相良がふとこちらを見た。
「瑛斗、静かだな。疲れた?」
「……うん、ちょっと」
「あとちょっとで着くから」
「うん……」
さっきから。相良の問いかけに『うん』しか答えていない。こんなに緊張することなんて初めてだった。経験豊富とは言えないが、今まで何人か彼女もできてそれなりにすることはしている。でも、最初の彼女とセックスをした時でさえ、こんなに緊張したような覚えはない。
って、俺、なんでセックスする前提で考えてんだよっ。
違う違うと心に言い聞かせる。相良は襲わないと言った(怪しいけど)。自分はただ、もう少し相良と仲良くなりたいと思っただけだ。だから、相良の誘いに乗ったのだ。そこに他意はない。
あわわわ、とひとりで動揺している内に、辺りに大きな家と電灯が増えてきた。そこに一際目立つ、見覚えのある大きな屋敷が見えてくる。門の前に到着すると、扉が自動で開いた。そのまま車ごと中へと進んだ。
森のような庭を過ぎて屋敷玄関前のロータリーに車を停めると、控えていた使用人らしき人たちが出迎えてくれた。運転席と助手席がすぐさま開けられる。
「葵様、お帰りなさいませ」
なんか、映画とかドラマとかの世界だな。
そう思いながら相良に恭しく挨拶をする使用人たちの様子を見ていると、助手席側のドアを開けてくれたアジア系の年配の男性がニコリと瑛斗に笑顔を向けてきた。
「中嶋様ですね。お帰りなさいませ。ようこそおいで下さいました」
「あ、お世話になります」
アジア系のこの男性は日本人だった。よく見ると、使用人の中には日本人も多いようだ。瑛斗もちょこんと頭を下げてお礼を言ってから車を降りた。
辺りを興味本位で見回していると、さわさわと木の葉を揺らす風に混じって微かに水の音が聞こえた。
あ、きっと昨日のプールだ。
そう思い、一体あのプールはどの辺にあるのだろうとキョロキョロしていると、相良に声をかけられた。
「瑛斗、なにしてんの?」
「いや、昨日のプールってどっちにあんのかと思て」
「あっちだけど。見る?」
相良は瑛斗の手を取ると、瑛斗の返事も待たずに木の生い茂る小道を進んでいった。ほんの30秒ぐらい歩いたところで、木々に囲まれた、あの見覚えのある立派なプールが目の前に現れた。
「こんな近かったんだ。外から見ると、めちゃくちゃ敷地が大きく見えたから。もっと家から離れてんのかと思った」
昨晩はあまり心に余裕がなかったし暗くてよく見えなかったが、今夜はプールサイドの灯りが全て点いていてプール全体が眺められた。
長さは競技用のプールよりも少し短めの20メートルくらいに見えた。長方形のシンプルな形だが使われている素材が瑛斗の目から見ても高級そうだった。プールの周りにはデイベッドが置かれていて、プールから少し離れた場所に昨晩は点灯されていなかったので気づかなかったがジャグジーもあった。
プールの底からもジャクジーからもライトが照らされており、その光が水面に反射して幻想的にキラキラと輝いていた。
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