One Night Stand

文字の大きさ
上 下
21 / 38

相良宅へ

しおりを挟む
 帰りの車の中はほとんど会話がなかった。奇妙な緊張が瑛斗の体を駆け巡って、自然に振る舞うことができない。

 左右に木々が連なる電灯の少ない暗闇の道を、静かに車が進んでいく。ステレオからは微かにラジオが流れていた。瑛斗でもどこかで聴いたことがあるような流行の洋楽が、車内の静かな空気とは真逆の明るい旋律を奏でている。

 ハンドルを握りながら、相良がふとこちらを見た。

「瑛斗、静かだな。疲れた?」
「……うん、ちょっと」
「あとちょっとで着くから」
「うん……」

 さっきから。相良の問いかけに『うん』しか答えていない。こんなに緊張することなんて初めてだった。経験豊富とは言えないが、今まで何人か彼女もできてそれなりにすることはしている。でも、最初の彼女とセックスをした時でさえ、こんなに緊張したような覚えはない。

 って、俺、なんでセックスする前提で考えてんだよっ。

 違う違うと心に言い聞かせる。相良は襲わないと言った(怪しいけど)。自分はただ、もう少し相良と仲良くなりたいと思っただけだ。だから、相良の誘いに乗ったのだ。そこに他意はない。

 あわわわ、とひとりで動揺している内に、辺りに大きな家と電灯が増えてきた。そこに一際目立つ、見覚えのある大きな屋敷が見えてくる。門の前に到着すると、扉が自動で開いた。そのまま車ごと中へと進んだ。

 森のような庭を過ぎて屋敷玄関前のロータリーに車を停めると、控えていた使用人らしき人たちが出迎えてくれた。運転席と助手席がすぐさま開けられる。

「葵様、お帰りなさいませ」

 なんか、映画とかドラマとかの世界だな。

 そう思いながら相良に恭しく挨拶をする使用人たちの様子を見ていると、助手席側のドアを開けてくれたアジア系の年配の男性がニコリと瑛斗に笑顔を向けてきた。

「中嶋様ですね。お帰りなさいませ。ようこそおいで下さいました」
「あ、お世話になります」

 アジア系のこの男性は日本人だった。よく見ると、使用人の中には日本人も多いようだ。瑛斗もちょこんと頭を下げてお礼を言ってから車を降りた。

辺りを興味本位で見回していると、さわさわと木の葉を揺らす風に混じって微かに水の音が聞こえた。

あ、きっと昨日のプールだ。

そう思い、一体あのプールはどの辺にあるのだろうとキョロキョロしていると、相良に声をかけられた。

「瑛斗、なにしてんの?」
「いや、昨日のプールってどっちにあんのかと思て」
「あっちだけど。見る?」

 相良は瑛斗の手を取ると、瑛斗の返事も待たずに木の生い茂る小道を進んでいった。ほんの30秒ぐらい歩いたところで、木々に囲まれた、あの見覚えのある立派なプールが目の前に現れた。

「こんな近かったんだ。外から見ると、めちゃくちゃ敷地が大きく見えたから。もっと家から離れてんのかと思った」

 昨晩はあまり心に余裕がなかったし暗くてよく見えなかったが、今夜はプールサイドの灯りが全て点いていてプール全体が眺められた。

 長さは競技用のプールよりも少し短めの20メートルくらいに見えた。長方形のシンプルな形だが使われている素材が瑛斗の目から見ても高級そうだった。プールの周りにはデイベッドが置かれていて、プールから少し離れた場所に昨晩は点灯されていなかったので気づかなかったがジャグジーもあった。

 プールの底からもジャクジーからもライトが照らされており、その光が水面に反射して幻想的にキラキラと輝いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

処理中です...