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相良のこと ②
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「な? 大した話じゃないだろ?」
ふっと笑って、相良がこちらを見た。
「いや、大したことあるよ」
しごく真面目な顔で瑛斗が答えると、相良がその瑛斗の顔を見て噴き出した。
「瑛斗、なんちゅー顔してんの。そんなところで真剣な顔されても困るって」
相良はよほど瑛斗の顔が可笑しかったらしく、笑いはしばらく止まらなかった。涙を滲ませて笑い続けている。
「お前、それ失礼じゃね? 俺の真面目な顔でどんだけウケてんだよ」
「いや、だって……」
「まあ、いいけど。今は許してやる。いい話聞いたから」
「そう?」
「うん……。だって、良かったじゃん」
「ん? なにが?」
「そんな、めちゃくちゃいいじいちゃんに会えて」
「…………」
相良の笑顔が少し驚いた顔に変わった。そこから、ゆっくりと時間をかけて瑛斗に微笑んで見せた。
「……そうだな」
「相良って、ただの金持ちのボンボンじゃなかったんだな。ごめんな、俺、めちゃめちゃ変態の脛齧り野郎かと思ってた」
「……すげぇ言われようだな」
そこで、瑛斗はふと疑問に思った。
「なあ、でもお前日本人なんだろ? ずっとハワイに住んでんの? 永住権かなにか取ってんの?」
「取ってないよ。ここにはホリデーで来てるだけだし」
「え?? そしたら、あのでかい家って、別荘??」
「そう。俺の住んでるマンションは一応ある、日本に。何か所か」
「もう、俺の理解の範疇を越えてるわ……」
「まあ、俺、しょっちゅうあちこち移動してるから。色んなところに住む場所あったほうがホテルとかいちいち気にする必要ないし、楽なんだよ」
「そうなんだ……」
「うん。今やってる仕事が移動多いから」
「え?? 働いてたの?」
「なんだよ、瑛斗、俺のこと、ほんとに脛齧りまくってると思ってたんだな」
「……いや、その、ごめん」
「別にいいけど」
レストランのウェイターが近づいてきて、夕食の準備が整ったことを知らせてきた。
相良にまたもや当たり前のように手を繋がれて、テーブルまで連れていかれる。もう、抵抗する気も、抗議する気も起きなかった。
それは、多分、相良のことが少しだけわかって、本当はそこまで最低なやつではないのでは、と感じたからだろう。根っからの悪いやつだったら、あんなふうに、あんな顔して、祖父のことを語ったりしない。そんな気がする。
しかも、この男は祖父が亡くなってからずっと寂しかったのではないか。家族がいない、なんて普通の家庭に育った瑛斗には想像もつかない。両親との思い出さえも記憶になく、唯一愛してくれた祖父もいなくなってしまって、ずっとひとりで生きてきた相良は人知れず苦労してきたのかもしれない。
いくら財産があって望むものが手に入っても、人の心や愛情を簡単に手に入れたり、ましてや失った人を取り戻したりすることはできない。
そう思うと、相良のことが少し不憫に思えてきた。
この、瑛斗の心の中に芽生えた感情はなんだろう。相良に対するただの同情心だろうか。でも、それよりももっとなにか強く突き動かされるようなそんな感情。自分でもよくわからない。でも、瑛斗はもう相良に冷たくすることはできない気がした。
ふっと笑って、相良がこちらを見た。
「いや、大したことあるよ」
しごく真面目な顔で瑛斗が答えると、相良がその瑛斗の顔を見て噴き出した。
「瑛斗、なんちゅー顔してんの。そんなところで真剣な顔されても困るって」
相良はよほど瑛斗の顔が可笑しかったらしく、笑いはしばらく止まらなかった。涙を滲ませて笑い続けている。
「お前、それ失礼じゃね? 俺の真面目な顔でどんだけウケてんだよ」
「いや、だって……」
「まあ、いいけど。今は許してやる。いい話聞いたから」
「そう?」
「うん……。だって、良かったじゃん」
「ん? なにが?」
「そんな、めちゃくちゃいいじいちゃんに会えて」
「…………」
相良の笑顔が少し驚いた顔に変わった。そこから、ゆっくりと時間をかけて瑛斗に微笑んで見せた。
「……そうだな」
「相良って、ただの金持ちのボンボンじゃなかったんだな。ごめんな、俺、めちゃめちゃ変態の脛齧り野郎かと思ってた」
「……すげぇ言われようだな」
そこで、瑛斗はふと疑問に思った。
「なあ、でもお前日本人なんだろ? ずっとハワイに住んでんの? 永住権かなにか取ってんの?」
「取ってないよ。ここにはホリデーで来てるだけだし」
「え?? そしたら、あのでかい家って、別荘??」
「そう。俺の住んでるマンションは一応ある、日本に。何か所か」
「もう、俺の理解の範疇を越えてるわ……」
「まあ、俺、しょっちゅうあちこち移動してるから。色んなところに住む場所あったほうがホテルとかいちいち気にする必要ないし、楽なんだよ」
「そうなんだ……」
「うん。今やってる仕事が移動多いから」
「え?? 働いてたの?」
「なんだよ、瑛斗、俺のこと、ほんとに脛齧りまくってると思ってたんだな」
「……いや、その、ごめん」
「別にいいけど」
レストランのウェイターが近づいてきて、夕食の準備が整ったことを知らせてきた。
相良にまたもや当たり前のように手を繋がれて、テーブルまで連れていかれる。もう、抵抗する気も、抗議する気も起きなかった。
それは、多分、相良のことが少しだけわかって、本当はそこまで最低なやつではないのでは、と感じたからだろう。根っからの悪いやつだったら、あんなふうに、あんな顔して、祖父のことを語ったりしない。そんな気がする。
しかも、この男は祖父が亡くなってからずっと寂しかったのではないか。家族がいない、なんて普通の家庭に育った瑛斗には想像もつかない。両親との思い出さえも記憶になく、唯一愛してくれた祖父もいなくなってしまって、ずっとひとりで生きてきた相良は人知れず苦労してきたのかもしれない。
いくら財産があって望むものが手に入っても、人の心や愛情を簡単に手に入れたり、ましてや失った人を取り戻したりすることはできない。
そう思うと、相良のことが少し不憫に思えてきた。
この、瑛斗の心の中に芽生えた感情はなんだろう。相良に対するただの同情心だろうか。でも、それよりももっとなにか強く突き動かされるようなそんな感情。自分でもよくわからない。でも、瑛斗はもう相良に冷たくすることはできない気がした。
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