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コンビニ

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 裕太はコンビニエンスストアで、夕飯の弁当を手に取った。50円引きのシールが貼ってある。店内調理を宣伝文句にしている弁当は揚げ物が多く、それなりに美味しい。油は正義である。
 ついでにハイボール缶とホットスナックのナゲットも追加し、会計をすませる。
 
 仕事で疲れた日にはコンビニエンスストアがありがたかった。選択肢が少ないので、悩むことがない。スーパーで惣菜を選ぶと、種類が多すぎて、自分が何を食べたいかわからなくなる。

 家に帰って、ローテーブルを片付け、買ってきた弁当を広げる。
 タブレットでYouTubeをみながら、Twitterをチェック。
 もちろん帰り道も通知がないか気がけている。
 Twitterの通知は、バナーにもロック画面にもくるようにしているが、不具合で通知そのものがこない時があるので、気が抜けない。

 一人暮らしの食事はわびしい。弁当はすぐに食べ終わってしまう。食後はだらしなく寝転んで、平日は一缶だけと決めているハイボールをダラダラと飲む。

 栄養のバランスが悪いことがわかっていても、自炊する元気はない。
 そして一人暮らしの自炊は、食材のやりくりが難しい。牛乳一本、1リットルを賞味期限内に一人で飲むのは難しく、量が半分の500mlパックになれば割高だ。

 一人暮らし始めたころ、自炊するぞと意気込んでいた気持ちはとうに消え失せた。
 残った食材と、自分にも作れる簡単な料理レシピ、買いたす食材。もろもろを管理するのはわずらわしく、保存のきくものを中心にストックするようになった。最近は、どうしても食べたいものがあるときにしか作らない。

 仕事帰りはスーパーやコンビニの割引の弁当を買ってすますことが多くなった。
 
 親に小言を言われることもなく見れると喜んだ動画も、すぐに飽きた。
 実家にいた頃より、うまく楽しめない。
 動画で流れる声は、誇張された感情の起伏が激しく、押しつけがましく感じ、耳ざわりになった。
 
 好きだったYouTuberの動画視聴すら、面倒になった頃だった。
 Twitterのアップデートに合わせて、スペースが検索しやすくなり、素人の語りをハシゴして聞くようになった。
 少し仕事に疲れた裕太に、スペースの声はちょうどよかった。居酒屋で偶然隣り合った隣のテーブルの話が聞こえてくる感じ。
 裕太にはまったくわからないゲームのキャラクターについて、熱く語っていたりする。YouTubeや他の動画コンテンツのように、収益につながらないからだろう。リスナーをあまり意識していない。作っていない素の声。意気込むこともなく、スピーカーのアカウント主が好きなことを好きなように話している。
 笑いや楽しさ、感情の起伏を押しつけられることがない。
 効率や生産性など考えていない、ただの雑談が裕太を魅了した。
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