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スペース2

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 裕太は、一日の仕事を終え、会社を出ると、すぐにTwitterのアプリに通知が出てないかをチェックする。

(大丈夫。白い鳥の横に赤い数字はない)

 裕太は、気になるアカウントがツイートすると通知がくるよう設定しているのだ。
   もちろん、裕太のツイートにリプライやイイネがついても通知はくるが、Twitterでもボッチな裕太のアカウント自体に通知がくることはあまりなかった。
 
 サッとアプリを開いて、気になるアカウントをチェック。大丈夫。ツイートは朝の「おはようございます」から、追加はなし。スペース予告もない。いや彼女は何時からスペースです。と予約を設定することはない。ただたまにツイートで、「今日スペースどうしよ?」と書かれてるぐらいだ(そういう日は、スペースが行われる確率が高い)。

 彼女のTwitterのアイコンはクマさんのぬいぐるみの写真。アカウント名は「saki♡」。もちろん本名か適当につけたアカウント名なのかもわからない。
 
 だが、声はいい。
 とてもいい。
 少しだけ甘やかな若い女性の声。
 新緑が似合う声だ。ぜひピクニックに一緒に行きたい。
 横でこの声の持ち主に話してもらえたら、最高に癒される。

 だが残念なことに、「saki♡」はスペースを録音してはくれない。録音機能を使ってツイートに残していてくれたら、何度でも聞くのに。

「saki♡」の話す内容は、今日飲んだスタバの新作が美味しかったとか、そんなたわいもない雑談だ。

 だからリスナーも一桁しか集まらない。
 ただの雑談だから残さないのだろう。 
 理屈はわかる。でもこちらは同じ話でもいいのだ。何度でも聞きたい。

 「saki♡」のスペースはまさに一期一会。
 聞き逃したら、その日のスペースで何を話されたか、永遠にわからない。

「saki♡」は芸能人でもYouTuberでもないし、個人で音声配信なんかもやってない。ただの日本のどこかにいる一般の女性だ。

 暇つぶしに、Twitterで今日の出来事や自分の趣味をちょっと話しているだけ。リスナーを増やそうとか考えていないから、媚びることもないし、何か誇張して話すこともない。声も作ったものではなく、自然体だ。素朴な彼女本来の声。
 本当にスタバで友達と話すような、生産的でない話をTwitterのスペースで話している。

 そこがいい。

 配信者ではないから、どこにもアーカイブがない。供給が少ないからこそ、裕太は「saki♡」の声に執着していた。
 
(ああ、「saki♡」の声がもっと聞きたい)
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