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8.ホロ肉の煮込み1
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やっと台所が片付いた。と、言っても部屋の両端に荷物を積み上げ人の動くスペースを確保しただけだが。
本と水気は相性が悪い。早めに他の部屋も片づけて、移動させたいところだ。
廊下から台所を整理するだけで、長いたたかいだった。床で死んでいる虫の死骸を素材かもしれないと悩む日々とはおさらばしたいが、他の部屋はまだ片付いていないのだ。
家のどこかにあると言われていた金貨も見つけることができた。
台所の戸棚にあった。金貨の入った袋の下に、帳面もあった。英雄のこれまでの助手の誰かが、出納をつけようと、角張った字で奮闘した後が残っていた。
金の管理も任されたからには、きちんと家計簿をつけたいところだったので、以前の助手の努力に感謝する。少しでも以前の金の流れがわかるのはありがたい。
(ありがとう。助かります)
***
片づいた台所で、とりあえず野菜と保存肉でスープを作る。
とにもかくにも英雄は胃に優しい物を食べさせないといけない。
彼は少し固いだけのパンでさえ、少しかじって食べるのを辞めている。油で揚げたパンも同様だ。
胃に重い物も、口当たりの悪い物も残している。ひょろひょろしているし、きっと病人が食べるような物がいい。
しかし小麦だけの白くて柔らかいパンは、高いわりに保存がきかない。
自分の懐から出ていなくても、食べ物が無駄になるのは忍びない。
食卓についてくれるなら、果物でもなんでも新鮮な物を用意するのだが。
しかしせっかく用意した料理だが、食べられることはなかった。翌日、皿によそったそのままの姿で食卓に残っていた。
食事ができていると、声をかけたぐらいでは生ぬるかったのだ。
キースは反省した。
***
家の片づけをしながら、食事を用意する。
そして声をかけても返事をしない英雄を、むりやり引きずってでも台所の食卓まで連れてくる。
邪魔をされたから調合は失敗だ、とブツブツ呟く英雄に、続きは食べてからですと、食事を出す。
そこまでしても、英雄が食べる量は少なかった。食事中でも何か思いつくと、紙に何かを書きつけ始めるし、本を手に持っていれば、読み続ける。読書の合間に、何かを口に運ぶ程度だ。
王都の味つけは、キースの出身の村とは違う。自分の料理では、味覚が合わないのかと、寮のおばちゃんに王都の料理の味つけを学んだりしたが、結果はかんばしくなかった。
キースはそれまで、台所が片づいて、温かい食事が出せれば英雄は食事を食べるだろうと楽観していた。
売ってあるものは、保存のきく食べ物か、その場で食べる物だけだ。毎日の食事にはむいていない。
しかし温かい料理でも英雄はあまり食べない。というより、できたてを提供してもなかなか食べ始めないので冷えていく。
ちょっとつまむほうが英雄の生活に合っているかもしれない。ドライフルーツや乾燥させた豆を貯蔵して、手に取りやすいところに置いたり工夫したが、それもたいして減らない。食べたいと思う時にすぐ食べられるよう、台所に常に柔らかく煮込んだスープをおいておくようにする。
キースは英雄に食べさせるために、台所が片づいてからも試行錯誤していた。
弟妹の食事の世話をしている時に、やはり食べない妹がいた。いろんなことを試した。小さい子どもは味にこだわりがあるらしく、少しの味つけの加減で残すのだ。生家の食材は畑の大麦や森で採れるものに限られていたし、妹の好みの味を理解するまで苦労した覚えがある。
英雄が口をつけなかった残りを勝手に(食べていいか聞いたけど答えはなかった)食べながら、キースは考える。癇の強い子の好物を見つけるように、英雄の好物を見つけなければならない。
食べ物を捨てるなど、キースの中ではありえなかった。
本と水気は相性が悪い。早めに他の部屋も片づけて、移動させたいところだ。
廊下から台所を整理するだけで、長いたたかいだった。床で死んでいる虫の死骸を素材かもしれないと悩む日々とはおさらばしたいが、他の部屋はまだ片付いていないのだ。
家のどこかにあると言われていた金貨も見つけることができた。
台所の戸棚にあった。金貨の入った袋の下に、帳面もあった。英雄のこれまでの助手の誰かが、出納をつけようと、角張った字で奮闘した後が残っていた。
金の管理も任されたからには、きちんと家計簿をつけたいところだったので、以前の助手の努力に感謝する。少しでも以前の金の流れがわかるのはありがたい。
(ありがとう。助かります)
***
片づいた台所で、とりあえず野菜と保存肉でスープを作る。
とにもかくにも英雄は胃に優しい物を食べさせないといけない。
彼は少し固いだけのパンでさえ、少しかじって食べるのを辞めている。油で揚げたパンも同様だ。
胃に重い物も、口当たりの悪い物も残している。ひょろひょろしているし、きっと病人が食べるような物がいい。
しかし小麦だけの白くて柔らかいパンは、高いわりに保存がきかない。
自分の懐から出ていなくても、食べ物が無駄になるのは忍びない。
食卓についてくれるなら、果物でもなんでも新鮮な物を用意するのだが。
しかしせっかく用意した料理だが、食べられることはなかった。翌日、皿によそったそのままの姿で食卓に残っていた。
食事ができていると、声をかけたぐらいでは生ぬるかったのだ。
キースは反省した。
***
家の片づけをしながら、食事を用意する。
そして声をかけても返事をしない英雄を、むりやり引きずってでも台所の食卓まで連れてくる。
邪魔をされたから調合は失敗だ、とブツブツ呟く英雄に、続きは食べてからですと、食事を出す。
そこまでしても、英雄が食べる量は少なかった。食事中でも何か思いつくと、紙に何かを書きつけ始めるし、本を手に持っていれば、読み続ける。読書の合間に、何かを口に運ぶ程度だ。
王都の味つけは、キースの出身の村とは違う。自分の料理では、味覚が合わないのかと、寮のおばちゃんに王都の料理の味つけを学んだりしたが、結果はかんばしくなかった。
キースはそれまで、台所が片づいて、温かい食事が出せれば英雄は食事を食べるだろうと楽観していた。
売ってあるものは、保存のきく食べ物か、その場で食べる物だけだ。毎日の食事にはむいていない。
しかし温かい料理でも英雄はあまり食べない。というより、できたてを提供してもなかなか食べ始めないので冷えていく。
ちょっとつまむほうが英雄の生活に合っているかもしれない。ドライフルーツや乾燥させた豆を貯蔵して、手に取りやすいところに置いたり工夫したが、それもたいして減らない。食べたいと思う時にすぐ食べられるよう、台所に常に柔らかく煮込んだスープをおいておくようにする。
キースは英雄に食べさせるために、台所が片づいてからも試行錯誤していた。
弟妹の食事の世話をしている時に、やはり食べない妹がいた。いろんなことを試した。小さい子どもは味にこだわりがあるらしく、少しの味つけの加減で残すのだ。生家の食材は畑の大麦や森で採れるものに限られていたし、妹の好みの味を理解するまで苦労した覚えがある。
英雄が口をつけなかった残りを勝手に(食べていいか聞いたけど答えはなかった)食べながら、キースは考える。癇の強い子の好物を見つけるように、英雄の好物を見つけなければならない。
食べ物を捨てるなど、キースの中ではありえなかった。
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