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第八章 大精霊契約者vs.大精霊の親友
最強の敵
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バーサーカーとレンジャーの大隊規模部隊にイノリは突進した。
直近のバーサーカーが戦槌を振り上げる。
振り下ろすより早く横に回ったイノリは、がら空きの右脇の下を火炎槍で突いた。
停止しつつ槍を押え、破裂の反動で抜く。
素早く移動、次の敵に槍を突き立てる。
手当たり次第に攻撃するルークスに、インスピラティオーネが警告した。
「主様、軽量型が後方をふさぎつつあります」
「敵からは見えないよね?」
シルフが巻き上げる砂塵のため、ルークスには近くの敵しか見えない。
「近隣は隈なく捜索しましたが、人間は一人として見つかっておりません」
「地中に潜ったか、偽装した岩に隠れているのかな?」
「人間が隠れられる大きさの岩は、近くにありません」
イノリはさらに一基を倒した。
その間に残るバーサーカーやレンジャーがイノリを囲むように動いている。
「このグラン・ノーム、手練れのようだね」
「分かるのですか?」
「イノリの未来位置を予測してバーサーカーを動かしている。砂嵐で地上は視界が通らないから、地中から見られるグラン・ノームの芸当だ」
振り下ろされた戦槌を火炎槍で逸らし、横に回ったイノリの正面に別のバーサーカーがいた。
「凄い。ゴーレムの移動速度だけじゃなく、イノリの攻撃パターンまで把握している。これだけ働くんだから、君たちくらい契約者が大切なんだろうね」
「まさか」
「それだけ精霊と仲良くなれる人がいたのか、サントル帝国で」
ルークスの知識では「軍の精霊士は大衆の下士官止まり」だ。
市民に理不尽を押しつけられながら、どうやって精霊に信頼されたのか。
考えながら撃破するごとに、バーサーカーの残骸が周囲を埋めてゆく。
そしてついに、イノリは敵と残骸とで動くに動けなくなってしまった。
残基を攻撃しようと右横に回れば、その後ろの基に攻撃される配置だ。
「お見事。最強の敵は大精霊だったか」
ルークスの口ぶりは軽かった。
「でも相手が精霊なら、やりようはあるさ」
イノリは不用意に敵の間合いに踏み込んだ。
バーサーカーに空振りをさせ、下がった戦槌を踏みつけ地面に埋め込む。
それを足場に腕から肩へと駆け上った。
「想定外への対応は人間より遅い!」
火炎槍を下に向け、後ろ襟から突き込んだ。
破裂と同時に跳躍、後ろのバーサーカーに飛び乗った。
世界中のどの国も、ゴーレムを操るノームに「肩に飛び乗った敵への対応」など教えていない。
次のバーサーカーも後ろ襟から穂先を突き込み撃破する。
その後ろにいるレンジャーに跳びかかって蹴り倒し、包囲を脱した。
赤い駒が次々と倒れていく。
しかも白のクイーンから離れた場所まで。
ランプの灯りでも分かるほどシノシュの顔が青ざめた。
そんな穴蔵に、オブスタンティアが顔だけ出す。
「シノシュ、敵新型ゴーレムを見失った」
「いないわけないだろ!? 味方が倒されているんだ。敵は宙に浮いているのか!?」
「撃破される直前に、味方に急激な重量増加が見られた」
「まさか……乗っかって攻撃しているのか?」
ケンタウロスに飛び乗れたのだから、できるのかもしれない。
「く……くくく」
少年は笑いだした。座り込んだまま上を向いて嬌笑する。
「デタラメだ。ゴーレムを足場に跳ね回っているのか? デタラメ過ぎる! ああ、でもあの大穴を中心までひとっ飛びできたのだから、不可能じゃないか」
あまりに笑うのでグラン・ノームが心配するが止まらない。
「酷すぎる。こんなのはゴーレムじゃない。別の何かだ……」
笑いが治まると、次は涙が出てきた。
「なんで……なんで神様は……サントル帝国という狂った社会だけじゃなく……あんなデタラメに強い敵まで……」
一度希望を抱いただけに、絶望との落差が精神の限界を超えてしまった。
「世界は不公平だ。奴は貴族にもなれたのに、俺は……家族まで失う……」
「シノシュ、まだ決まったわけではない」
「分かっていたことだ。勝てないなんて」
シノシュの体から力が抜けていく。
「でも、奇蹟に匹敵しようと、作戦概要に『勝利する可能性がある』と書いた以上は、粘らないと。それでちょっと、熱が入っただけだよ」
この戦いを誰が見ているか分からないのだから、全力で戦う必要があった。
「予定どおりだ。全て予定どおり。パトリアの新型ゴーレムには従来型では歯が立たない、そう再確認したまでだ。予定どおり残存基は散開しつつ南へ向かえ。本隊が帰還するまで時間を稼げれば、本作戦は成功だ」
家族を守ることが唯一の成功で、そこにシノシュ自身の命は含まれていない。
黙って聞いていたグラン・ノームが提案した。
「シノシュ、他は南に向けるが一基を――」
突然それは起こった。
イノリに翻弄されていたバーサーカーたちが、一斉に向きを変えて移動を始めたのだ。
向かう先はまちまちだが、最終的に南へ向かうのは明々白々だった。
「ちきしょう!」
最悪の事態に、ルークスは激怒した。
イノリなら国境までに全基撃破も不可能ではない。
だが、その間に農地や道路などが蹂躙され、人々の生活が破壊されるのだ。
「本隊の帰国はこっちも願っていることなのに! リスティアは交渉に失敗したのか!?」
イノリの中で怒鳴っていても意味がない。
「片っ端から片付けるしかないか」
イノリは真南に向かう二基の前に回り込んだ。
前を行くバーサーカーが戦槌を振り上げる。
素早く右横に回り込み、火炎槍で脇の下を突いた。
破裂するバーサーカーの右横に僚基が差しかかり――楯を横に振り回した。
「!?」
ルークスが気付くよりノンノンが反応する。後ろに下がったところに盾を受け、イノリは弾き飛ばされた。
倒れかけるも、背中を打たないよう身をよじり、手を着いてすぐに立ち上がる。
と、バーサーカーが目の前にいた。戦槌を振り上げる。
また後方に避けるイノリのすぐ前で、戦槌が止まった。
「横だ!」
ルークスの声で左にステップした直後、戦槌が前に向かってきた。
前方に伸ばした手をそのままに、突撃してきたのだ。
二の腕をかすめただけでイノリはよろけた。
距離を置いて立ち直るイノリの中で、ルークスは冷や汗にまみれていた。
「ノームの自律行動じゃない! コマンダーが指示しているぞ!」
しかし吹き荒れる強風により、視界は大幅に制限されている。
たった今破壊したバーサーカーでさえ砂塵に霞むほどだ。
人間に戦況が分かるはずがない。
だのに人間が指示しているとしか思えないバーサーカーが向かってくる。
まだ距離があるのに、真横から戦槌を横振りしてきた。
嫌な予感がして、ルークスはイノリをしゃがませる。
案の定、バーサーカーは途中で戦槌を手放した。
遠心力で飛ぶ戦槌が、イノリの頭上を通過する。
バーサーカーはその場で半回転、さらに回転して――
「避けろ!」
右に避けた場所に、盾が飛んで来た。
さらに回避して姿勢を崩したイノリに、重量を減らしたバーサーカーが突進してきた。
前傾し、あり得ない速さで。
「走れ!」
イノリは横に走った。
直後にバーサーカーは両手を左右に広げる。腕も使った体当たりだ。
ステップで避けていたら当たっていた。
「こいつは――」
あり得ない速さの理由をルークスは悟った。
「操作しているのはグラン・ノームだ!!」
直近のバーサーカーが戦槌を振り上げる。
振り下ろすより早く横に回ったイノリは、がら空きの右脇の下を火炎槍で突いた。
停止しつつ槍を押え、破裂の反動で抜く。
素早く移動、次の敵に槍を突き立てる。
手当たり次第に攻撃するルークスに、インスピラティオーネが警告した。
「主様、軽量型が後方をふさぎつつあります」
「敵からは見えないよね?」
シルフが巻き上げる砂塵のため、ルークスには近くの敵しか見えない。
「近隣は隈なく捜索しましたが、人間は一人として見つかっておりません」
「地中に潜ったか、偽装した岩に隠れているのかな?」
「人間が隠れられる大きさの岩は、近くにありません」
イノリはさらに一基を倒した。
その間に残るバーサーカーやレンジャーがイノリを囲むように動いている。
「このグラン・ノーム、手練れのようだね」
「分かるのですか?」
「イノリの未来位置を予測してバーサーカーを動かしている。砂嵐で地上は視界が通らないから、地中から見られるグラン・ノームの芸当だ」
振り下ろされた戦槌を火炎槍で逸らし、横に回ったイノリの正面に別のバーサーカーがいた。
「凄い。ゴーレムの移動速度だけじゃなく、イノリの攻撃パターンまで把握している。これだけ働くんだから、君たちくらい契約者が大切なんだろうね」
「まさか」
「それだけ精霊と仲良くなれる人がいたのか、サントル帝国で」
ルークスの知識では「軍の精霊士は大衆の下士官止まり」だ。
市民に理不尽を押しつけられながら、どうやって精霊に信頼されたのか。
考えながら撃破するごとに、バーサーカーの残骸が周囲を埋めてゆく。
そしてついに、イノリは敵と残骸とで動くに動けなくなってしまった。
残基を攻撃しようと右横に回れば、その後ろの基に攻撃される配置だ。
「お見事。最強の敵は大精霊だったか」
ルークスの口ぶりは軽かった。
「でも相手が精霊なら、やりようはあるさ」
イノリは不用意に敵の間合いに踏み込んだ。
バーサーカーに空振りをさせ、下がった戦槌を踏みつけ地面に埋め込む。
それを足場に腕から肩へと駆け上った。
「想定外への対応は人間より遅い!」
火炎槍を下に向け、後ろ襟から突き込んだ。
破裂と同時に跳躍、後ろのバーサーカーに飛び乗った。
世界中のどの国も、ゴーレムを操るノームに「肩に飛び乗った敵への対応」など教えていない。
次のバーサーカーも後ろ襟から穂先を突き込み撃破する。
その後ろにいるレンジャーに跳びかかって蹴り倒し、包囲を脱した。
赤い駒が次々と倒れていく。
しかも白のクイーンから離れた場所まで。
ランプの灯りでも分かるほどシノシュの顔が青ざめた。
そんな穴蔵に、オブスタンティアが顔だけ出す。
「シノシュ、敵新型ゴーレムを見失った」
「いないわけないだろ!? 味方が倒されているんだ。敵は宙に浮いているのか!?」
「撃破される直前に、味方に急激な重量増加が見られた」
「まさか……乗っかって攻撃しているのか?」
ケンタウロスに飛び乗れたのだから、できるのかもしれない。
「く……くくく」
少年は笑いだした。座り込んだまま上を向いて嬌笑する。
「デタラメだ。ゴーレムを足場に跳ね回っているのか? デタラメ過ぎる! ああ、でもあの大穴を中心までひとっ飛びできたのだから、不可能じゃないか」
あまりに笑うのでグラン・ノームが心配するが止まらない。
「酷すぎる。こんなのはゴーレムじゃない。別の何かだ……」
笑いが治まると、次は涙が出てきた。
「なんで……なんで神様は……サントル帝国という狂った社会だけじゃなく……あんなデタラメに強い敵まで……」
一度希望を抱いただけに、絶望との落差が精神の限界を超えてしまった。
「世界は不公平だ。奴は貴族にもなれたのに、俺は……家族まで失う……」
「シノシュ、まだ決まったわけではない」
「分かっていたことだ。勝てないなんて」
シノシュの体から力が抜けていく。
「でも、奇蹟に匹敵しようと、作戦概要に『勝利する可能性がある』と書いた以上は、粘らないと。それでちょっと、熱が入っただけだよ」
この戦いを誰が見ているか分からないのだから、全力で戦う必要があった。
「予定どおりだ。全て予定どおり。パトリアの新型ゴーレムには従来型では歯が立たない、そう再確認したまでだ。予定どおり残存基は散開しつつ南へ向かえ。本隊が帰還するまで時間を稼げれば、本作戦は成功だ」
家族を守ることが唯一の成功で、そこにシノシュ自身の命は含まれていない。
黙って聞いていたグラン・ノームが提案した。
「シノシュ、他は南に向けるが一基を――」
突然それは起こった。
イノリに翻弄されていたバーサーカーたちが、一斉に向きを変えて移動を始めたのだ。
向かう先はまちまちだが、最終的に南へ向かうのは明々白々だった。
「ちきしょう!」
最悪の事態に、ルークスは激怒した。
イノリなら国境までに全基撃破も不可能ではない。
だが、その間に農地や道路などが蹂躙され、人々の生活が破壊されるのだ。
「本隊の帰国はこっちも願っていることなのに! リスティアは交渉に失敗したのか!?」
イノリの中で怒鳴っていても意味がない。
「片っ端から片付けるしかないか」
イノリは真南に向かう二基の前に回り込んだ。
前を行くバーサーカーが戦槌を振り上げる。
素早く右横に回り込み、火炎槍で脇の下を突いた。
破裂するバーサーカーの右横に僚基が差しかかり――楯を横に振り回した。
「!?」
ルークスが気付くよりノンノンが反応する。後ろに下がったところに盾を受け、イノリは弾き飛ばされた。
倒れかけるも、背中を打たないよう身をよじり、手を着いてすぐに立ち上がる。
と、バーサーカーが目の前にいた。戦槌を振り上げる。
また後方に避けるイノリのすぐ前で、戦槌が止まった。
「横だ!」
ルークスの声で左にステップした直後、戦槌が前に向かってきた。
前方に伸ばした手をそのままに、突撃してきたのだ。
二の腕をかすめただけでイノリはよろけた。
距離を置いて立ち直るイノリの中で、ルークスは冷や汗にまみれていた。
「ノームの自律行動じゃない! コマンダーが指示しているぞ!」
しかし吹き荒れる強風により、視界は大幅に制限されている。
たった今破壊したバーサーカーでさえ砂塵に霞むほどだ。
人間に戦況が分かるはずがない。
だのに人間が指示しているとしか思えないバーサーカーが向かってくる。
まだ距離があるのに、真横から戦槌を横振りしてきた。
嫌な予感がして、ルークスはイノリをしゃがませる。
案の定、バーサーカーは途中で戦槌を手放した。
遠心力で飛ぶ戦槌が、イノリの頭上を通過する。
バーサーカーはその場で半回転、さらに回転して――
「避けろ!」
右に避けた場所に、盾が飛んで来た。
さらに回避して姿勢を崩したイノリに、重量を減らしたバーサーカーが突進してきた。
前傾し、あり得ない速さで。
「走れ!」
イノリは横に走った。
直後にバーサーカーは両手を左右に広げる。腕も使った体当たりだ。
ステップで避けていたら当たっていた。
「こいつは――」
あり得ない速さの理由をルークスは悟った。
「操作しているのはグラン・ノームだ!!」
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