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1話『ナン』
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うちの猫は「ナン」と鳴く。
子猫の時からそうだった。
森の中で小さな木箱に入れられたみすぼらしいそれは、必死に「ナーン、ナーン」と泣いていた。
初めは醜い泥色の猫だと思っていたのだが、洗ってみれば驚きの灰色だった。
雑種特有の珍妙な模様は、今ではこいつのトレードマークである。
客の来ない森の中の宿屋は、いつも小鳥の声がする。
今日のような五月晴れの心地よい風が吹く日には、森の奥からホトトギスの声が聞こえる。
風流と言われるそれも、一日中聞けば鬱陶しくて仕方がない。
ホトトギスと同じくらいうるさく鳴くのがうちの猫である。
先程餌をやったばかりなのに、ナーンナーンと騒がしい。
餌は1日2回と決めているため、こいつは俺の部屋の菓子を盗み食いする。
そんなんだから、毛皮で隠しようもないほどぶくぶく太るのだ。
みすぼらしかった子猫の頃が嘘のようだ。
ここは多少有名な避暑地なので、エアコン要らず。窓を開けておくだけで、涼やかな風が吹き抜ける。
客が来ない狭いこの宿屋では、猫の毛がすぐにたまる。
風が吹き抜ける度、あいつの灰色の毛が宙を舞う。
「はっくしょい!」
ああ、唾が新聞紙についてしまった。
これはもう読めないな。
丸めてゴミ箱に放り投げると、あいつがガラス戸のそばで佇んでいるのが見えた。
外にカラスかネズミでもいたのだろう。
「ナーン」
そんなふうに鳴いたって、今日も客は来ないよ。
子猫の時からそうだった。
森の中で小さな木箱に入れられたみすぼらしいそれは、必死に「ナーン、ナーン」と泣いていた。
初めは醜い泥色の猫だと思っていたのだが、洗ってみれば驚きの灰色だった。
雑種特有の珍妙な模様は、今ではこいつのトレードマークである。
客の来ない森の中の宿屋は、いつも小鳥の声がする。
今日のような五月晴れの心地よい風が吹く日には、森の奥からホトトギスの声が聞こえる。
風流と言われるそれも、一日中聞けば鬱陶しくて仕方がない。
ホトトギスと同じくらいうるさく鳴くのがうちの猫である。
先程餌をやったばかりなのに、ナーンナーンと騒がしい。
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そんなんだから、毛皮で隠しようもないほどぶくぶく太るのだ。
みすぼらしかった子猫の頃が嘘のようだ。
ここは多少有名な避暑地なので、エアコン要らず。窓を開けておくだけで、涼やかな風が吹き抜ける。
客が来ない狭いこの宿屋では、猫の毛がすぐにたまる。
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ああ、唾が新聞紙についてしまった。
これはもう読めないな。
丸めてゴミ箱に放り投げると、あいつがガラス戸のそばで佇んでいるのが見えた。
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そんなふうに鳴いたって、今日も客は来ないよ。
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