妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世渡 世緒

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28, 家族思い

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「それが冗談でなく本気なら、お前は頭がおかしいぞ。俺たちは敵だぞ」
 呆れたような声でトアセスは言った。
「敵、では無いと思うんだけど……」
「敵だよ。俺たちの安全を脅かすならみんな敵だ」
 トアセスの言葉に私は少し考える。
 俺“たち”という言葉が引っかかった。彼は聞く限りクロッセスとアルーセスのことを嫌っている。ペネセスのことはペネ兄と呼ぶあたり、それなりに尊敬しているのだろう。そんな彼がまるで4人は味方でそれ以外は敵のように言う。もしかして、私が思っているよりトアセスは兄弟を、家族を大切に思っているのかもしれない。
 私は少しの沈黙の後、顔を上げ笑って言う。
「お兄ちゃんたちのことが好きなんだね」
「なんでそうなる! お前の耳はおかしいのか? それとも頭がおかしいのか?」
 トアセスの罵倒も今の私には届かない。トアセスが兄たちのことを本当に嫌っているのなら、彼らの仲を取り持つことに苦労しただろうし、彼らの気持ちを思い少し躊躇ったかもしれない。しかし、お互いの気持ちがお互いを向いているなら、私はそれに気づかせてあげるだけでいい。
「やっぱり、私はあなたたち兄弟に仲良くして欲しいな」
「なんで、お前には関係ないだろ」
 真っ直ぐ向けた私の視線から、トアセスはそっと逃げる。
「私も両親は亡くなってて、妹と2人で暮らしてる。あの時はお互い辛くて辛くて、二人でいたから乗り越えられたと思ってる。だから、あなたたちもそうであって欲しいと、そう思っただけ」
 視線はこちらを向かないが、意識が向いているのは感じていた。トアセスなりに私の言葉を咀嚼してくれているのだろう。
「俺たちの親のこと聞いたのか?」
 不意にトアセスがそう問う。
「アルから、少しだけ。事故で亡くなったんだよね」
 彼らの両親が火に飲まれて亡くなったと聞いた時、何となく親近感を覚えた。私たちの親も火事で死んだ。残された兄弟だけが、身を寄せあって今まで生きてきた。その苦労や悲しみだけは彼らと共感しあえるのではないかと、少し期待をした。しかし、私の言葉にトアセスは大きく首を振った。
「ちがう、あれは事故じゃない」
「え?」
 トアセスの真剣な瞳がこちらを向いた。
「殺されたんだ、貴族たちに」
 私は言葉を詰まらせる。
「知りたい? あんたが今からどんなヤツらと戦おうとしているのか」
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