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26, 魔獣

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 その時、先程とは比べ物にならないほどの物音が聞こえてきた。薮を書き分ける音と共に、どすんどすんと、大きな足音がする。子犬はまたも震えだし、しっぽを丸めた。
 これはこの世界に詳しくない私でもわかる。魔獣の気配だった。
 木々の隙間から光る赤い目が見えた。

 走れない子犬を抱き抱え森をかける。後ろからドスンドスンと追いかけてくる生き物が、3mくらいある熊だと認識したのはつい数秒前だった。
 いや、それは熊と言うにはおこがましいほど、大きく凶暴で恐ろしかった。今にも足がもつれて倒れてしまいそうなのを、堪えて必死に走る。
 どこに向かえばいいのだろうかと、ふと考えた。こんなものを連れて屋敷に戻ると、時間も時間で大騒ぎになりかねない。何より私の勝手であの人たちに迷惑をかけるのは避けたい。だからといってこのまま奥に進めばほかの魔獣とエンカウントしかねない。ならば、と私はその場に立ち止まった。
 子犬を足元におろし、「逃げなさい」と言い剣を構えた。子犬は後退りをしながら藪の中に入っていく。
 私は突進してくる大熊を剣でとめた。

 止められる訳もなく、私は大きく後ろに吹っ飛び、木の幹に頭をうちつけていた。数秒の気絶のあと目を開けると熊が目の前に股がっていた。大きな爪がこちらに下ろされる。剣をかまえ何とか当たる前に防ぐが、力くらべとなれば数秒も持たない。覚悟を決めた時、小さな衝撃とともに熊がぐらりと傾いた。
 私の傍には先程逃がしたはずの子犬がいた。この子が熊に突進して私を助けてくれたらしい。一食の恩を忘れないとはできた子犬だが、こんな小さな子があの大熊に勝てるとは思えない。
 案の定熊は体勢をたてなおし、こちらに向かってくる。またこの子を抱えて逃げようとすると、右足にずきりと痛みが走った。後ろに吹っ飛ばされた時に捻ったのだろう。このままでは走ることも出来ない。振りかぶられる熊の爪に子犬を抱きしめ身構えた時、どこからかため息が聞こえた。

「ほんとばかだろ、」

 その言葉が聞こえた瞬間目を開けると、熊は胴が真っ二つになった状態で地面に倒れていた。弾けた鮮血が、アルーセスのお下がり服を汚した。私の前には血まみれの顔を袖で拭いながら、剣を収めるトアセスが立っていた。

「あーあ、ペネ兄に怒られる」
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