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20, 客
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「仕事には慣れたか」
美しい所作で食事を口に運ぶクロッセスはこちらを一瞥し、そう尋ねる。普段から領地のことなど、公爵家の主としての対外的な仕事があるせいでなかなか家に居ないため、毎晩の夕食で必ず私の近況を尋ねてくれる。彼は本当に面倒見がよく優しい。
「まあまあかな、もう足を引っ張らない程度には慣れたと思うけど」
その優しさに報いるために始めたお手伝いは、最近実を結び始めたと自負している。今日に限っては長いティータイムが邪魔をしたが。
「セイナさんが手伝ってくださるようになってから随分仕事が捗っています。私の睡眠時間も確保できるようになりありがたい限りです」
アルがそう言えば、隣からペネが「僕のおかげでもある」と口を挟んだ。
「あなたはいつもセイナさんの邪魔をしているだけじゃないですか」
「そんなことない、今日も書類を3枚も片付けた」
「たった3枚でしょう、セイナさんは20枚終わらせてくださいましたよ」
「手伝ってやっただけ感謝しろ」
「本来は成人したもの皆でやる仕事なんですが!」
机を挟み喧嘩が始まった。1人上座に座ったクロッセスは素知らぬ顔で食事を進めている。私もそれに倣いお肉を口に運ぼうとした時、ナイフを握った手が大きく揺れる。右腕にペネがしがみついたのだ。
「ねえ、セイナ。僕今日も頑張ったよね」
瞳をうるませ上目遣いでこちらを見つめる姿はまるで子犬のようである。この子は自分の魅せ方をよく分かっているようだ。
「そうね。でも、もっとたくさんの書類を手伝ってくれたらペネと遊ぶ時間が増えて私は嬉しいのに」
私がそう言えば、ペネは少し俯き考えたあと大きく頷いた。
「分かった。明日からは2時間で仕事を終わらせて、その後はセイナと遊ぶ」
ペネがそういうのでアルの方に目をやれば、視線で私にありがとうと伝えていた。
「それよりも、今日も来たの?」
私が話を変えるためにそう尋ねると、3人の動きが止まった。そのうちのクロッセスがナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を拭って話し出した。
「ああ、昼頃に。そうそうに帰ってもらったよ。また今回も同じ、セイナの引渡し命令だった。だが、今回は珍しく妹君の使いだったよ」
「そう」と私もナイフを置く。
ここ1週間毎日欠かさず王宮からの使いが来る。もちろん私の引渡しのためにである。聖女反対の聖女の姉と、聖女反対の公爵家が一緒にいるとなれば王宮も黙って見てはいないだろう。必死に私を連れ帰ろうとする。
彼らに捕まったとして、死なないとしても洗脳は免れない。それでも、
「私のことなど無視して、聖女の戦いなど始めればいいのでは? いつまでも私に構うなんて、時間の無駄でしょうに」
独り言に似たそのつぶやきにペネは頷く。
「そうだよ。いつまでもセイナに構って、宮殿は相当暇なんだろうね」
「お前ほどじゃないけどな」と、アルが小声で呟いたのをペネは聞き逃さなかった。
「アル、うるさい」
ペネがアルを睨みつけるのを横目にクロッセス口を開く。
「セイナの魔力を警戒してるんだろう。ホルフマン家の洗脳が効かなかったのなら警戒して当然だ。それに、聖女が魔力持ちならばその家族、少なくとも姉妹兄弟に同じような魔力があると考えるだろう」
「それは、私を戦に利用出来たらってこと?」
私は尋ねる。
「いや、そうではなく。第2の脅威にさせないためだろう。まあ、戦に連れて行きたいのもあるだろうが。洗脳が効かないのなら幽閉、監禁は覚悟した方がいい。最悪殺されるかもな」
クロッセスの言葉に背筋が凍る。まだ、私の考えは甘かったようだ。
美しい所作で食事を口に運ぶクロッセスはこちらを一瞥し、そう尋ねる。普段から領地のことなど、公爵家の主としての対外的な仕事があるせいでなかなか家に居ないため、毎晩の夕食で必ず私の近況を尋ねてくれる。彼は本当に面倒見がよく優しい。
「まあまあかな、もう足を引っ張らない程度には慣れたと思うけど」
その優しさに報いるために始めたお手伝いは、最近実を結び始めたと自負している。今日に限っては長いティータイムが邪魔をしたが。
「セイナさんが手伝ってくださるようになってから随分仕事が捗っています。私の睡眠時間も確保できるようになりありがたい限りです」
アルがそう言えば、隣からペネが「僕のおかげでもある」と口を挟んだ。
「あなたはいつもセイナさんの邪魔をしているだけじゃないですか」
「そんなことない、今日も書類を3枚も片付けた」
「たった3枚でしょう、セイナさんは20枚終わらせてくださいましたよ」
「手伝ってやっただけ感謝しろ」
「本来は成人したもの皆でやる仕事なんですが!」
机を挟み喧嘩が始まった。1人上座に座ったクロッセスは素知らぬ顔で食事を進めている。私もそれに倣いお肉を口に運ぼうとした時、ナイフを握った手が大きく揺れる。右腕にペネがしがみついたのだ。
「ねえ、セイナ。僕今日も頑張ったよね」
瞳をうるませ上目遣いでこちらを見つめる姿はまるで子犬のようである。この子は自分の魅せ方をよく分かっているようだ。
「そうね。でも、もっとたくさんの書類を手伝ってくれたらペネと遊ぶ時間が増えて私は嬉しいのに」
私がそう言えば、ペネは少し俯き考えたあと大きく頷いた。
「分かった。明日からは2時間で仕事を終わらせて、その後はセイナと遊ぶ」
ペネがそういうのでアルの方に目をやれば、視線で私にありがとうと伝えていた。
「それよりも、今日も来たの?」
私が話を変えるためにそう尋ねると、3人の動きが止まった。そのうちのクロッセスがナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を拭って話し出した。
「ああ、昼頃に。そうそうに帰ってもらったよ。また今回も同じ、セイナの引渡し命令だった。だが、今回は珍しく妹君の使いだったよ」
「そう」と私もナイフを置く。
ここ1週間毎日欠かさず王宮からの使いが来る。もちろん私の引渡しのためにである。聖女反対の聖女の姉と、聖女反対の公爵家が一緒にいるとなれば王宮も黙って見てはいないだろう。必死に私を連れ帰ろうとする。
彼らに捕まったとして、死なないとしても洗脳は免れない。それでも、
「私のことなど無視して、聖女の戦いなど始めればいいのでは? いつまでも私に構うなんて、時間の無駄でしょうに」
独り言に似たそのつぶやきにペネは頷く。
「そうだよ。いつまでもセイナに構って、宮殿は相当暇なんだろうね」
「お前ほどじゃないけどな」と、アルが小声で呟いたのをペネは聞き逃さなかった。
「アル、うるさい」
ペネがアルを睨みつけるのを横目にクロッセス口を開く。
「セイナの魔力を警戒してるんだろう。ホルフマン家の洗脳が効かなかったのなら警戒して当然だ。それに、聖女が魔力持ちならばその家族、少なくとも姉妹兄弟に同じような魔力があると考えるだろう」
「それは、私を戦に利用出来たらってこと?」
私は尋ねる。
「いや、そうではなく。第2の脅威にさせないためだろう。まあ、戦に連れて行きたいのもあるだろうが。洗脳が効かないのなら幽閉、監禁は覚悟した方がいい。最悪殺されるかもな」
クロッセスの言葉に背筋が凍る。まだ、私の考えは甘かったようだ。
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