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女神のパン屋 ~飛ばされて異世界~ 17 ~?~
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彼女が花を編む姿を見ながら、期待に胸が膨らんだ。その様子を遠巻きに見ていた仲間達も、少しずつ近くに集まって来た。
静かに歌を歌いながら花輪を仕上げていくその姿は、光り輝くまさに女神。
誰も何も言わず、目だけで会話をして、一つ出来上がるごとに、一人が横に座り、彼女の周りを取り囲むように、すべて出来上がるのをじっと待った。
「はい、出来ました」
そう言って、顔を上げた彼女は、周りに座る我らを見て、少し驚いたようだった。そして全部をこちらに渡そうとする。
「申し訳ないのだが、出来れば一人一人に渡してもらえないだろうか」と頼むと、快く応じてくれた。
受け取るために手を差し出すと、少し考えた後、ニコッと笑ってその手をすり抜けるようにして、頭に乗せられた!?
頭の上の花輪から、何かがあふれ出して来るように思え、胸が痛い。
仲間を見たいが、下げた頭を上げることが出来ず、その場から動くことも出来なくなってしまった。
まるで熱い湯の中に全身入ってしまったような、長いのか短いのか分からない、そんな、今まで感じたことのない不思議な感覚に包まれ、そしてそれはふと終わり、胸の痛みも治まった。
仲間達の様子を見る。
みな、同じように感じていたようだが、だが?何かおかしい。
自分の手を見る。そこには、今まであったはずのものがない。
もう一度、仲間達を見る。
全員が、ひどく驚いた顔をしている。たぶん、自分も同じ顔をしているだろう。
長く探し続け、そしてとうとう待ちに待った瞬間が訪れたのだ。
「うぉーーーーーーーーーーーーーー」とみなが、歓喜の声を上げた。
全員で抱き合い、呪いが解けたことを喜び合った。
いつの間にか離れたところに行ってしまわれた彼女のもとへ行き、感謝と、これからの決意を伝えると、あっさりと断られてしまったが、泊めてくれると言うので、案内されるままありがたく部屋について行った。
そこは、この不思議な建物の上にあるという。
部屋の上に部屋、そしてまたその上に部屋があるとは、なんと丈夫な建物なんだ。
案内された部屋には我ら全員が囲めるテーブルがあり、寝台もいくつかあった。
全員の分はないようだったが、野宿に比べたらどれだけいいか。そう思っていたら、歌姫オルレアン達が泊まった部屋も使って良いと言われ、案内された。
末弟が色めきたったのを、仲間達全員が温かく受け止めた。
ヒロコ様、そう呼ぶことにした彼女は、我らを部屋に置いてさっさと出て行かれてしまった。
大きなテーブルの部屋に入り、その不思議を思いつつも、これからの事を話し合うことにした。
「兄者は先ほどヒロコ様に、これから仕えると言っておられたが、我らの旅の目的はどうするのか」
「そうだ。それに、ただここにいるだけでは、迷惑になってしまわないか」
「何が必要か、何をすればいいのか、まずはそれを探すべきではないか」
「里の家族の様子も見に行きたい」
などの意見が出された。
呪いをかけられてから、里には帰っていない。もとの姿に戻るまでは帰らない。そう言って出てきた手前、長い間帰れなかったのだが、呪いが解けた今、真っ先に帰るべきだろう。だが。
「まずは、この女神のパン屋が、人々にどう思われているか、そして彼女の役に立つためには何が出来るのか、それを見つけることにしよう」
と決めた。
久しぶりの人間の体になじむために、みなにはゆっくりするようにと伝え、自分だけ下に降りる。
パン屋の中では、再び何やら楽しそうに作業している。
子どもは何かを描いていたが、自分に気づくと嫌そうな顔をした。小さいくせに男なんだと思い、ニヤリと笑いかけてみたが、むっとした顔をされた。
入口にもたれかかり、しばらく二人の様子を眺める。どう話しかけようか。
二人が手を触りあい「きゃー」なんていう、可愛い声で笑い合っているところで、思い切って声をかけた。
すると、「ぎゃーーー」と叫ばれた。なんだろう?
小柄な女の方は、慌てたように作業に戻って行き、ヒロコ様だけが困ったように笑いながら応じてくれる。
しかし、彼女は不思議だ。
見るたびに違う。
普通の女性と変わらないように見えたり、女神のように光り輝いたり、若い娘のようだったり。今はとても可愛らしく見えるが、我らを気遣ってくれる様子は母のようでもある。
小柄な女性に声をかけられ、作業に戻ってしまわれたが、すぐにこちらにやって来た。手には湯気の立った何か。くれるのか?と思ったが、それは子どもに渡された。
子どもが美味しそうに食べ始めるのを見て、思わず唾を飲みこんだ。
先ほどもらったピザとは違う、食べ物、これもなんと美味しそうなことか。何か尋ねたら、ふかし芋だと言う。そして、食べるかと聞かれた。自分だけもらうわけにはいかないが、仲間達全員の分をまたもらうのも気が引けると思ったのだが、気にせず食べて良いと、子どもと同じものをもらってしまった。
ありがたくいただくことにしよう。
子どもの隣に座り、真似して食べてみた。
ほくほくとして、少し甘い。塩だけで食べるのも、トウニュウクリームというのをつけても美味しい。
子どもがちらりとこちらを見て、旨いだろう。と言うように目を細めた。
もらった一つをあっという間に食べてしまった。それから仲間達を呼びに上に行き、みなでたくさんの芋を食べた。
白っぽい、じゃがいもと彼女が呼んだものも、赤く細長いさつま芋と呼んだものも
何かほかの名前であったように思うが、そんなことはどうでもいい。これらがこんなに旨いとは。
しかも、まだまだ他にも美味しい料理があるのだと言う。もうすでに腹はいっぱいだと言うのに、子どもが描いた絵を見ただけで、よだれが垂れてくるようだった。
そうして部屋に戻って、今日のところはゆっくり休ませてもらうことにした。
こんなに安心した気持ちで寝ることが出来るのは、いつぶりだろう。
翌朝、まだ暗いうちに目が覚めたら、もう一度眠ることが出来ず、大きな窓から外を眺めていると、彼女たちが出てくるのが見えた。
そして三人はおかしな動きをし始めた。
手をこすったり、腕を振ったり、体を倒したり、何をやっているのだろう?
この、外が見えるのに突き抜けることが出来ない窓と言い、ここはおかしなものばかりだ。だが、とても快適だ。
おかしな動きをする三人を見ていたら、また眠くなったので、寝台に戻ってまた寝てしまった。
明るい陽射しに目が覚め、仲間たちと今日はどうするか話し合い、それを伝えに彼女の元へ行く。
二人は昨日と同じように、店の奥に立って楽しそうに何かを作っていた。
子どもは隅に座って籠を編んでいるようだった。
声をかけると、二人ともビクッとした後、笑顔で答えてくれた。なぜいつも驚くのだろうか。
「今日は、昨日入ってこなかったので、温泉に行ってこようと思っていますが、今日も泊めていただいても良いでしょうか」と尋ねると
「もちろん構いません。ご飯はどうします?」と、目の前に積まれたものにちらりと目を落とす。
「あぁ、いや、このまま出かけようかと思っているのですが」と答えると、少し考えたようだったが
「では、お弁当に持っていってくださいね」と、目の前に積まれたものを手渡された。白いかたまり。これはなんだろうか。
「この中には、カブのバーガーが入っています。これは一人一個で、こっちの包みには半分に切ったひえフィッシュバーガーが入っていますから、これは二人で一個、つまり一人半分です。この包み紙は燃やしても大丈夫ですからね」と教えてくれた。そうかこの白いのは包み紙と言うのか。
ありがたく全員の分をもらい、温泉に向けて出かけた。
とはいえ、本当に温泉に行くのは後で、まずはそのまま通り過ぎる。
しかし、温泉の前を通り過ぎると黄色い道はなくなり、ただの森の踏み分け道となる。何故か木と木の間が他より広い場所があり、そこを選んで通って来る者が多く歩きやすい道となっているのだが、あの黄色い道に比べると、それはやはりただの森の中。気を付けていないと迷ってしまう。だが今日は温泉をめがけて向こうから来る者もそこそこいて、さほど迷わず森の外れまで行くことが出来た。
「さて、どうする?皆で出るか、誰かまず一人で出るか」
「皆で出るのは少しためらわれる。半分ずつでどうだろうか」
「皆で出よう」
「いや、何かあった時の為に、まずは一人か二人で出た方が」
などと話し、結局なぜか自分が一人で出ることになった。
出る。というのは、この森から出てみて、呪いが本当に解けたか確かめようということだ。
この森は聖なる森。この中でだけ、元の姿に戻れたのではないか?という不安もあり、試してみることにしたのだ。
下映えのある森の中から、ほんの一歩、外に足を踏み出すことにためらいが出る。ほんの一歩のことなのに、なかなかその一歩が出ない。また胸が痛くなってきた。
出るに出られずにいたら、後ろから背中を押され、よろけるように外に出る。
「何をっ!?」と怒りながら振り返ると、仲間達が嬉しそうに次々とこちらにやって来る。呪いは、完全に解けていたのだ。
改めて、その喜びをみなで味わう。
「あのぉ、何かあったのですか?」
男と女の二人連れに、そう声をかけられた。
温泉に行く森の外れで騒いでいたのだから何かあったと思われたのだろう。
「いや、どうぞお気になさらずに」
と言いつつ、ついでに少し尋ねてみることにした。
「ところでお二人は、これから温泉ですか?」
「そうなのよ。明日からまた女神さまのパンがいただけるでしょう。だから早めに来たのよ」
「明日からなのですから、明日でいいと思うのですが、どうしても早めに来ておきたいって言うんでね~」と苦笑いする男。
「それにしても、すごい荷物ですね」
二人とも大きな荷物を背負っている。温泉に必要なのか?とちょっと気になったので聞いてみた
「これですか?これは女神さまへの捧げものですよ。命のパンをいただくのですから、これくらい持って来ないと」
「命のパン?」
「そうですよ。あのパン一つで、どれほどの力をいただけるかを考えると、それに見合うものは、どれだけあっても足りないと思っています」
「ですが、女神さまはパン一つに一つの野菜で良いとおっしゃるのです」
「では、どれだけのパンと交換しようと考えているのですか?」ものすごい荷物を見て、聞かずにはおられない。
「あぁいえ、これを全部交換すると思っていません。パンは毎日一つずついただいて、村の人たちにお土産もいただくつもりですが、同じように作物を持ってくる人たちとも交換するのですよ」
「女神さまが必要な分を受け取られたら、残りは皆で程よく分ければ良いとおっしゃったのです」
「村によって、作っているものが違うので、作っていないものをいただけるのはありがたいことですよ」
「それに、自分たちが作った野菜を使ってパンを作ってきてくださるのが、また嬉しくてねぇ」
「ほぉ。それはいいですね。ところで、その、野菜などを持たないものはどうすればいいのでしょう?」そう聞くと、二人は我らを見て
「みなさんは、何も持っていらっしゃらないのですね。でも大丈夫ですよ」
「そうそう。何もなくてもパンをくださいます。それで代わりにセンデンしてくれれば良いとおっしゃいました」
「センデン?」
「そうです。あの温泉でパンを配っていらっしゃることを、人に教えてあげるのです。それで十分なのだそうですよ」
パンの代わりに作物だけではなく、そういうおこないでも良いのか。そういえばオルレアン達も作物など持っていないはずなのに、泊めてもらって、旅の時に食べるものまでもらっていたようだし。
と、考えて、自分たちは何も持っていないことに気が付いた。
呪いを解いてもらったこと、食事や宿のことなど、これから何かしらの役に立つことをせねばならない。
「じゃあ、わたし達はそろそろ」と、二人が行きかけたので
「話を聞かせてもらったお礼に」と、今日もらって来たカブバーガーを一つ差し出した。
「えぇっ!?これはまさか?」
「今日、女神のパン屋でいただいて来たカブのバーガーです」
「あんたたち、まさか奥の店に行ったのかい?」
二人にすごい驚きの目で見られた。
「ええ。実はわれらは昨日ここに来たのですが、温泉でのパンはテイキュウビだとかで、明日まで待つことが出来ず、奥の店に押しかけたのですよ。それで泊めてもらって、今日これをいただいたのです」
そう言って二人の方にカブバーガーを差し出すと、二人はそれを大事そうに受け取り、ごくっと唾を飲みこんだ。
「あ、開けていいかい?」声を少し震わせて聞いてくる。
先ほどまで、嬉々として話してくれていたのに、この変わりようはなんだろう?
「もちろんですよ」
二人はそぉっと包みを開き、中からバーガーを取り出す。
「こ、これがカブバーガー」
「お二人は、今まで女神のパンをたくさん食べて来たのではないのですか?」
不思議に思い尋ねると
「たくさん食べて来たさ。でも、これは奥の店で作られたテイキュウビのトクベツなメニューってやつなんだろう?わたし達には食べられないはずのものだよ」
「奥の店に行かれればいいじゃないですか?」そう言うと二人は驚きと恐れが入り混じったような顔をして、激しく顔を左右に振る。
「そ、そんな恐れ多い事、出来やしないよ」
「そうさ、わたし達は温泉で配られるパンだけで、もう・・・」そう言いながらも、目はカブバーガーから離さない。
「これ、今食べてもいいかな」
「ちょっとだけ、食べてみたいね」
「どうぞ、それはお二人に差し上げたものですから、どうぞお好きに召し上がってください」
二人はホッとした顔をして、一口ずつかじる。
すると、なんとも幸せそうな顔になり
「これはまたすごいね。パンがサクサクで、カブは柔らかくて瑞々しい。すごく満たされるよ」
「も、もう一口食べようか」
「もう一口だけね」
二人は、あと一口、あと一口と言いながら止まらない。
もう、我らの事を気にする様子もないので、二人をそのままそこに残して先に進むことにした。
「兄者、あそこにまた変わった者がいますよ」
見ると、ふらふらと風になびくように歩いている男がいる。
なんとも薄っぺらく、危なっかしい。進みは遅く、すぐに追いつく。
見ていると、今にも木にぶつかりそうだ。
「危ないっ」男の腕をつかんで、木に体当たりするのを止める。
「あぁ、ありがとうございます」頼りなく笑って礼を言う男を見ると、見たこともない変わった姿かたちをしている。
頭と足先だけは我らと同じだが、それ以外は薄く何かに伸ばされたようだ。
つかんだ腕からは、なんの力も感じない。
「温泉に行くところですか?」
「えぇ、このぺたんこの体を治すために、この温泉と、女神のパンの噂を聞いて、やって来たのですよ」
どうやらこの男、もともとこんな体ではないらしい。
「わたしは、山で木こりをしているのですが、ある日ぺたんこの木を切っている時に、うっかり伸されてしまったのですよ」
「ぺたんこの木、ですか?」
「そうです。ぺたんこの木は、どんなものでもぺたんこに伸ばすことが出来るので、わたしの里ではそれをこう、使いやすい大きさの棒にしているのですが、うっかり切った木の下敷きになりましてね。幸いなことに、頭と足先だけは免れたので、こうして生きて歩けるのです」
この辺りに山なんてないから、かなり遠くから来たのではないだろうか?ぺたんこの木なんて、長い旅暮らしでも聞いたことがない。まぁ、我らの暮らしにはなじみのないものだからかもしれないが。
「体に力が入らないから、何も持てないので、木こりは出来ないし、他のことも何も出来ません。仕方ないので山を下りて、この体を治すべく、癒しの海の温泉に行くか、聖なる森の温泉に行くか、山のふもとの村に泊めてもらって考えていましたらね、この地の女神のパン屋の話を聞いたのですよ」
「癒しの海の温泉に行くのも、こちらに来るのも同じくらいですか?」
「えぇ、だから悩んでいたのです」
癒しの海の温泉と、この森の間にある山か。つまり女神のパン屋が始まってからすぐに食べることが出来た者から聞いて来たのだろう。運がいいのかもしれないな。
「女神のパン屋の話を聞きましてね、その人からは話を聞いただけなのですが、途中の村では運よく分けてくれる人達に出会いました。
みなさんたくさん持っているわけではなかったので、ほんの一口でしたが、一口食べた後は、一日元のように歩き続けることが出来ましてね、それでなんとかここまでやって来れたのですよ」
こんなそよ風にさえ飛ばされるような体で、よくここまで。と思ったが、そういう事か。
「ですが、ここ数日はそれもなく、この有様ですよ」
温泉まではあと少しだが、今日はテイキュウビ。明日までもつだろうか?仕方ない。半分のヒエフィッシュバーガーを出す。
「これは、女神のパン屋で今日いただいたヒエフィッシュバーガーだ。滅多に食べられないものらしいから、全部あげられないけれど、とりあえず一口食べるといい」と言って、男の口元にそれを近付ける。
男は驚きの目でバーガーを見、そしてわたしを見た。
「いいのですか?」
黙って頷く。本当はあげたくない。だが、こんな弱り切った男をほおっては置けない。それに、このバーガーがどんな力を与えてくれるのか見てみたいのだ。
男はごくっと唾を飲みこむと、ぎゅっと目をつぶってバーガーにかじりついた。
一口齧るとそのまま後ろに倒れた。
まさか倒れると思っていなかったのでそれを防ぐことが出来ず、慌てて助け起こそうとしたが、男はそれを断り、口をもぐもぐと動かしながら、嬉しそうに涙を流している。
「あぁ、やっと横になれた」
聞くと男は伸されてから、頭は軽く足だけが重く、横になることが叶わなかったそうだ。
「わたしはここでこうして、しばらく横になっていたい。どうかほっておいてください」
「いや、こんなところで寝ていては、ここを通る人を驚かすし、温泉まであとちょっと。温泉についたら心ゆくまで横になっていればいい。ほら、もう一口あげるから立って歩くんだ」そう言って、もう一口食べさせる。
男は、それもそうだと起き上がり、自分の手をじーっと見た。
「あぁ、なんだか体に力が戻ってきたようです」
確かに、初めに見た時より体に厚みが増している。
「これが、女神のパンの力なのですね。ありがとうございます」
男はそういうと、深々と頭を下げた。そして
「力がどんどん湧いてくる」と言って、あっという間に走って行ってしまった。
「なんだかすごかったですね」
「あぁ、女神のパンの力がまさかこれほどとは」耐え切れず、手に持っていたヒエフィッシュバーガーの残りを口に放り込む。それはほんのわずか一口だったが、体の隅々まで力が行き渡り、何とも言えない心地よさに包まれた。
「さぁこれで、私の分はなくなった。あとは皆でよろしくな」
再び温泉に向かい、出逢った人たちに同じように話を聞いていく。何度も通っているもの、噂を聞いてやって来たもの、全く知らないものなど、様々な人から話を聞くことが出来、気づけば全員のバーガーがなくなっていた。
「あとは、温泉に入って少しゆっくりしましょう」
「そうだな」
浴場の入り口に行くと、一人の老人が腰かけており、昨日は無かった貼り紙が貼られていた。
「温泉かな?女神のパン屋のセイリケンかな?」と聞かれたので
「温泉だが、セイリケンとは?」と聞き返す。
「明日から配られるパンを受け取るための順番待ちのケンじゃよ」
「ケン?それがないと、パンをもらえないのか?」そんな事、聞いていないからおかしいと思いながら、尋ねると
「いいや、そんなことはないさね。だが、持っておると、安心して温泉に入れるんじゃよ」
「安心?」
「あぁ。何しろ女神さまはお一人でパンを作っておられるから、いつここにおいでになるか分からない。それをただ待っているのは大変じゃろうと、女神さまが、この仕組みを作られたのじゃよ」
そういうと老人は、貼られた紙を指して
「ほれ、そこに名前を書いてのぉ、そこに書いてある番号と同じケンを持っていくのじゃよ。そうしたら、自分の番が来るまで、温泉に入っていられるじゃろう」
見ると、紙には名前と、見たことのない文字が書かれており、まだ書かれていないところの方が多かった。
「これは?」と見たことのない文字を指す
「それは、女神さまの文字じゃよ。最初に書いてあるのが番号というもので、一から始まる。次に書いてあるのはわしらの文字で、自分で書けるものはそこに名前を書く。書けないものには、わしが書いてやるんじゃよ。次に書いてあるのは女神さまの文字じゃ。それは、女神さまが名前を呼ぶために書いておる。ほれ、ここにどの文字が、女神さまの文字になるのか、一目で分かるように女神さまと、あの手伝いのササラ様が作ってくださったものがあるのじゃよ」
老人は、壁に貼ってあるのと別の紙を見せてくれた。そういえばあのパン屋の中のいたるところに同じように、我らの文字とこの文字が書いて貼ってあったように思う。
「順番が来たらの、これを見て女神さまが名前を呼んでくださるのじゃよ。それがまた嬉しくてのぉ」老人が嬉しそうに笑う。
「おじいさぁん、僕たちの名前を書いて~」
振り向くと、小さな兄妹が立っていて、手には札を持っている。
「僕たちもうケンは持っているんだよ。でもまだ名前を書いていいないんだ。おじいさんが書いてくれるんでしょ?」
老人は札を見て、それと同じところに子どもたちの名前を書いていく。
「おかあさんの名前も書いてね」
「はいよ。坊やたち、リクエストも書くかい?」
「いいの?」
「もちろんじゃよ」老人がそう答えると、二人の子どもはヒソヒソと話し合い
「じゃあね、木の実のパンと、あんこのパンって書いてくれる?」
「あぁ分かったよ。木の実のパン、あんこのパン」そう言いつつ、手にしたものを見ながら、名前の表とは別の貼り紙に書いていく。
「ありがとうー」兄妹は嬉しそうにそう言うと、広場にいる母親らしき女の元に走って行った。
「リクエストとは?」察するに、食べたいものを先に言っておくってことだろうか。
「リクエストって言うのはじゃな、また食べたいものや、食べてみたいものを女神さまに伝えておくことじゃよ。そうするとそれに応えてくださるのじゃ。女神さまはなぁ、なるべくわしらの願いを叶えてくれようとしてくださっておるのじゃよ。ありがたいことじゃな」
「そうなのか。その、リクエストが多いのはどういうものか教えてもらえるだろうか」
「リクエストが多いものは、先ほどの子どもらが言っておった、あんこのパンかのぉ。あとは、そうじゃのぉ、おかずのパンも人気があるの。わしも野菜が入ったものが好きじゃしのぉ」老人は目を閉じて、それを思い出しているようだった。
「お前さんたちも、セイリケンを取っておくかい?」
「いや、われらは奥の店にやっかいになっているので、明日は配るのを手伝うつもりだ」
「なんと、そうであったか。奥の店に行かれたのか。そうかそうか。ではこのリクエストを女神さまに、あっ」
「なんだ、どうした?」
「女神さまに、わしが女神さまと呼んでおったのは言わんでくれよ。女神さまは女神さまと呼ばれるのがお好きではないからの」
「そうなのか」
「あぁ、名前で呼んでくれとおっしゃるのじゃが、わしらはどうしても女神さまと呼んでしまうのじゃ、じゃから、おられない時にだけ女神さまとお呼びして、おられる時はお名前を呼ぶようにしておるのじゃ。みなそうじゃよ」
「女神さまと呼ばれるのは好きじゃないのは、どうしてなのだろう?」
「女神さまではない。そうおっしゃっておられた。よく分からない話じゃよ」
「そうか。色々聞かせてくれてありがとう」礼を言って、浴場に入る。
仲間たちはとうに、浴場の中だ。
中に入ると、聞いたこともないような楽しげな歌が響き渡っている。
聞くと、女神さまが歌った歌なのだと言う。パンだけじゃなく、歌でまで、皆を喜ばせているのか。自分の番になり、どうしようかと思ったが、いつものように仲間と声を合わせて、いつもの歌を歌う。
「お前さんたち、もしかして、前は違う姿だったのではないか?」と聞かれたので、奥の店に行き、呪いを解いてもらったのだと、本当の事を話す。
呪いをかけられた時も、この歌で、自分たちが誰なのかを示したのだ。
呪いが解かれたことを、そこにいた者たちみんなに喜んでもらえ、さらに女神さまと呼ばれる、ヒロコ様の力を知らしめることになった。
静かに歌を歌いながら花輪を仕上げていくその姿は、光り輝くまさに女神。
誰も何も言わず、目だけで会話をして、一つ出来上がるごとに、一人が横に座り、彼女の周りを取り囲むように、すべて出来上がるのをじっと待った。
「はい、出来ました」
そう言って、顔を上げた彼女は、周りに座る我らを見て、少し驚いたようだった。そして全部をこちらに渡そうとする。
「申し訳ないのだが、出来れば一人一人に渡してもらえないだろうか」と頼むと、快く応じてくれた。
受け取るために手を差し出すと、少し考えた後、ニコッと笑ってその手をすり抜けるようにして、頭に乗せられた!?
頭の上の花輪から、何かがあふれ出して来るように思え、胸が痛い。
仲間を見たいが、下げた頭を上げることが出来ず、その場から動くことも出来なくなってしまった。
まるで熱い湯の中に全身入ってしまったような、長いのか短いのか分からない、そんな、今まで感じたことのない不思議な感覚に包まれ、そしてそれはふと終わり、胸の痛みも治まった。
仲間達の様子を見る。
みな、同じように感じていたようだが、だが?何かおかしい。
自分の手を見る。そこには、今まであったはずのものがない。
もう一度、仲間達を見る。
全員が、ひどく驚いた顔をしている。たぶん、自分も同じ顔をしているだろう。
長く探し続け、そしてとうとう待ちに待った瞬間が訪れたのだ。
「うぉーーーーーーーーーーーーーー」とみなが、歓喜の声を上げた。
全員で抱き合い、呪いが解けたことを喜び合った。
いつの間にか離れたところに行ってしまわれた彼女のもとへ行き、感謝と、これからの決意を伝えると、あっさりと断られてしまったが、泊めてくれると言うので、案内されるままありがたく部屋について行った。
そこは、この不思議な建物の上にあるという。
部屋の上に部屋、そしてまたその上に部屋があるとは、なんと丈夫な建物なんだ。
案内された部屋には我ら全員が囲めるテーブルがあり、寝台もいくつかあった。
全員の分はないようだったが、野宿に比べたらどれだけいいか。そう思っていたら、歌姫オルレアン達が泊まった部屋も使って良いと言われ、案内された。
末弟が色めきたったのを、仲間達全員が温かく受け止めた。
ヒロコ様、そう呼ぶことにした彼女は、我らを部屋に置いてさっさと出て行かれてしまった。
大きなテーブルの部屋に入り、その不思議を思いつつも、これからの事を話し合うことにした。
「兄者は先ほどヒロコ様に、これから仕えると言っておられたが、我らの旅の目的はどうするのか」
「そうだ。それに、ただここにいるだけでは、迷惑になってしまわないか」
「何が必要か、何をすればいいのか、まずはそれを探すべきではないか」
「里の家族の様子も見に行きたい」
などの意見が出された。
呪いをかけられてから、里には帰っていない。もとの姿に戻るまでは帰らない。そう言って出てきた手前、長い間帰れなかったのだが、呪いが解けた今、真っ先に帰るべきだろう。だが。
「まずは、この女神のパン屋が、人々にどう思われているか、そして彼女の役に立つためには何が出来るのか、それを見つけることにしよう」
と決めた。
久しぶりの人間の体になじむために、みなにはゆっくりするようにと伝え、自分だけ下に降りる。
パン屋の中では、再び何やら楽しそうに作業している。
子どもは何かを描いていたが、自分に気づくと嫌そうな顔をした。小さいくせに男なんだと思い、ニヤリと笑いかけてみたが、むっとした顔をされた。
入口にもたれかかり、しばらく二人の様子を眺める。どう話しかけようか。
二人が手を触りあい「きゃー」なんていう、可愛い声で笑い合っているところで、思い切って声をかけた。
すると、「ぎゃーーー」と叫ばれた。なんだろう?
小柄な女の方は、慌てたように作業に戻って行き、ヒロコ様だけが困ったように笑いながら応じてくれる。
しかし、彼女は不思議だ。
見るたびに違う。
普通の女性と変わらないように見えたり、女神のように光り輝いたり、若い娘のようだったり。今はとても可愛らしく見えるが、我らを気遣ってくれる様子は母のようでもある。
小柄な女性に声をかけられ、作業に戻ってしまわれたが、すぐにこちらにやって来た。手には湯気の立った何か。くれるのか?と思ったが、それは子どもに渡された。
子どもが美味しそうに食べ始めるのを見て、思わず唾を飲みこんだ。
先ほどもらったピザとは違う、食べ物、これもなんと美味しそうなことか。何か尋ねたら、ふかし芋だと言う。そして、食べるかと聞かれた。自分だけもらうわけにはいかないが、仲間達全員の分をまたもらうのも気が引けると思ったのだが、気にせず食べて良いと、子どもと同じものをもらってしまった。
ありがたくいただくことにしよう。
子どもの隣に座り、真似して食べてみた。
ほくほくとして、少し甘い。塩だけで食べるのも、トウニュウクリームというのをつけても美味しい。
子どもがちらりとこちらを見て、旨いだろう。と言うように目を細めた。
もらった一つをあっという間に食べてしまった。それから仲間達を呼びに上に行き、みなでたくさんの芋を食べた。
白っぽい、じゃがいもと彼女が呼んだものも、赤く細長いさつま芋と呼んだものも
何かほかの名前であったように思うが、そんなことはどうでもいい。これらがこんなに旨いとは。
しかも、まだまだ他にも美味しい料理があるのだと言う。もうすでに腹はいっぱいだと言うのに、子どもが描いた絵を見ただけで、よだれが垂れてくるようだった。
そうして部屋に戻って、今日のところはゆっくり休ませてもらうことにした。
こんなに安心した気持ちで寝ることが出来るのは、いつぶりだろう。
翌朝、まだ暗いうちに目が覚めたら、もう一度眠ることが出来ず、大きな窓から外を眺めていると、彼女たちが出てくるのが見えた。
そして三人はおかしな動きをし始めた。
手をこすったり、腕を振ったり、体を倒したり、何をやっているのだろう?
この、外が見えるのに突き抜けることが出来ない窓と言い、ここはおかしなものばかりだ。だが、とても快適だ。
おかしな動きをする三人を見ていたら、また眠くなったので、寝台に戻ってまた寝てしまった。
明るい陽射しに目が覚め、仲間たちと今日はどうするか話し合い、それを伝えに彼女の元へ行く。
二人は昨日と同じように、店の奥に立って楽しそうに何かを作っていた。
子どもは隅に座って籠を編んでいるようだった。
声をかけると、二人ともビクッとした後、笑顔で答えてくれた。なぜいつも驚くのだろうか。
「今日は、昨日入ってこなかったので、温泉に行ってこようと思っていますが、今日も泊めていただいても良いでしょうか」と尋ねると
「もちろん構いません。ご飯はどうします?」と、目の前に積まれたものにちらりと目を落とす。
「あぁ、いや、このまま出かけようかと思っているのですが」と答えると、少し考えたようだったが
「では、お弁当に持っていってくださいね」と、目の前に積まれたものを手渡された。白いかたまり。これはなんだろうか。
「この中には、カブのバーガーが入っています。これは一人一個で、こっちの包みには半分に切ったひえフィッシュバーガーが入っていますから、これは二人で一個、つまり一人半分です。この包み紙は燃やしても大丈夫ですからね」と教えてくれた。そうかこの白いのは包み紙と言うのか。
ありがたく全員の分をもらい、温泉に向けて出かけた。
とはいえ、本当に温泉に行くのは後で、まずはそのまま通り過ぎる。
しかし、温泉の前を通り過ぎると黄色い道はなくなり、ただの森の踏み分け道となる。何故か木と木の間が他より広い場所があり、そこを選んで通って来る者が多く歩きやすい道となっているのだが、あの黄色い道に比べると、それはやはりただの森の中。気を付けていないと迷ってしまう。だが今日は温泉をめがけて向こうから来る者もそこそこいて、さほど迷わず森の外れまで行くことが出来た。
「さて、どうする?皆で出るか、誰かまず一人で出るか」
「皆で出るのは少しためらわれる。半分ずつでどうだろうか」
「皆で出よう」
「いや、何かあった時の為に、まずは一人か二人で出た方が」
などと話し、結局なぜか自分が一人で出ることになった。
出る。というのは、この森から出てみて、呪いが本当に解けたか確かめようということだ。
この森は聖なる森。この中でだけ、元の姿に戻れたのではないか?という不安もあり、試してみることにしたのだ。
下映えのある森の中から、ほんの一歩、外に足を踏み出すことにためらいが出る。ほんの一歩のことなのに、なかなかその一歩が出ない。また胸が痛くなってきた。
出るに出られずにいたら、後ろから背中を押され、よろけるように外に出る。
「何をっ!?」と怒りながら振り返ると、仲間達が嬉しそうに次々とこちらにやって来る。呪いは、完全に解けていたのだ。
改めて、その喜びをみなで味わう。
「あのぉ、何かあったのですか?」
男と女の二人連れに、そう声をかけられた。
温泉に行く森の外れで騒いでいたのだから何かあったと思われたのだろう。
「いや、どうぞお気になさらずに」
と言いつつ、ついでに少し尋ねてみることにした。
「ところでお二人は、これから温泉ですか?」
「そうなのよ。明日からまた女神さまのパンがいただけるでしょう。だから早めに来たのよ」
「明日からなのですから、明日でいいと思うのですが、どうしても早めに来ておきたいって言うんでね~」と苦笑いする男。
「それにしても、すごい荷物ですね」
二人とも大きな荷物を背負っている。温泉に必要なのか?とちょっと気になったので聞いてみた
「これですか?これは女神さまへの捧げものですよ。命のパンをいただくのですから、これくらい持って来ないと」
「命のパン?」
「そうですよ。あのパン一つで、どれほどの力をいただけるかを考えると、それに見合うものは、どれだけあっても足りないと思っています」
「ですが、女神さまはパン一つに一つの野菜で良いとおっしゃるのです」
「では、どれだけのパンと交換しようと考えているのですか?」ものすごい荷物を見て、聞かずにはおられない。
「あぁいえ、これを全部交換すると思っていません。パンは毎日一つずついただいて、村の人たちにお土産もいただくつもりですが、同じように作物を持ってくる人たちとも交換するのですよ」
「女神さまが必要な分を受け取られたら、残りは皆で程よく分ければ良いとおっしゃったのです」
「村によって、作っているものが違うので、作っていないものをいただけるのはありがたいことですよ」
「それに、自分たちが作った野菜を使ってパンを作ってきてくださるのが、また嬉しくてねぇ」
「ほぉ。それはいいですね。ところで、その、野菜などを持たないものはどうすればいいのでしょう?」そう聞くと、二人は我らを見て
「みなさんは、何も持っていらっしゃらないのですね。でも大丈夫ですよ」
「そうそう。何もなくてもパンをくださいます。それで代わりにセンデンしてくれれば良いとおっしゃいました」
「センデン?」
「そうです。あの温泉でパンを配っていらっしゃることを、人に教えてあげるのです。それで十分なのだそうですよ」
パンの代わりに作物だけではなく、そういうおこないでも良いのか。そういえばオルレアン達も作物など持っていないはずなのに、泊めてもらって、旅の時に食べるものまでもらっていたようだし。
と、考えて、自分たちは何も持っていないことに気が付いた。
呪いを解いてもらったこと、食事や宿のことなど、これから何かしらの役に立つことをせねばならない。
「じゃあ、わたし達はそろそろ」と、二人が行きかけたので
「話を聞かせてもらったお礼に」と、今日もらって来たカブバーガーを一つ差し出した。
「えぇっ!?これはまさか?」
「今日、女神のパン屋でいただいて来たカブのバーガーです」
「あんたたち、まさか奥の店に行ったのかい?」
二人にすごい驚きの目で見られた。
「ええ。実はわれらは昨日ここに来たのですが、温泉でのパンはテイキュウビだとかで、明日まで待つことが出来ず、奥の店に押しかけたのですよ。それで泊めてもらって、今日これをいただいたのです」
そう言って二人の方にカブバーガーを差し出すと、二人はそれを大事そうに受け取り、ごくっと唾を飲みこんだ。
「あ、開けていいかい?」声を少し震わせて聞いてくる。
先ほどまで、嬉々として話してくれていたのに、この変わりようはなんだろう?
「もちろんですよ」
二人はそぉっと包みを開き、中からバーガーを取り出す。
「こ、これがカブバーガー」
「お二人は、今まで女神のパンをたくさん食べて来たのではないのですか?」
不思議に思い尋ねると
「たくさん食べて来たさ。でも、これは奥の店で作られたテイキュウビのトクベツなメニューってやつなんだろう?わたし達には食べられないはずのものだよ」
「奥の店に行かれればいいじゃないですか?」そう言うと二人は驚きと恐れが入り混じったような顔をして、激しく顔を左右に振る。
「そ、そんな恐れ多い事、出来やしないよ」
「そうさ、わたし達は温泉で配られるパンだけで、もう・・・」そう言いながらも、目はカブバーガーから離さない。
「これ、今食べてもいいかな」
「ちょっとだけ、食べてみたいね」
「どうぞ、それはお二人に差し上げたものですから、どうぞお好きに召し上がってください」
二人はホッとした顔をして、一口ずつかじる。
すると、なんとも幸せそうな顔になり
「これはまたすごいね。パンがサクサクで、カブは柔らかくて瑞々しい。すごく満たされるよ」
「も、もう一口食べようか」
「もう一口だけね」
二人は、あと一口、あと一口と言いながら止まらない。
もう、我らの事を気にする様子もないので、二人をそのままそこに残して先に進むことにした。
「兄者、あそこにまた変わった者がいますよ」
見ると、ふらふらと風になびくように歩いている男がいる。
なんとも薄っぺらく、危なっかしい。進みは遅く、すぐに追いつく。
見ていると、今にも木にぶつかりそうだ。
「危ないっ」男の腕をつかんで、木に体当たりするのを止める。
「あぁ、ありがとうございます」頼りなく笑って礼を言う男を見ると、見たこともない変わった姿かたちをしている。
頭と足先だけは我らと同じだが、それ以外は薄く何かに伸ばされたようだ。
つかんだ腕からは、なんの力も感じない。
「温泉に行くところですか?」
「えぇ、このぺたんこの体を治すために、この温泉と、女神のパンの噂を聞いて、やって来たのですよ」
どうやらこの男、もともとこんな体ではないらしい。
「わたしは、山で木こりをしているのですが、ある日ぺたんこの木を切っている時に、うっかり伸されてしまったのですよ」
「ぺたんこの木、ですか?」
「そうです。ぺたんこの木は、どんなものでもぺたんこに伸ばすことが出来るので、わたしの里ではそれをこう、使いやすい大きさの棒にしているのですが、うっかり切った木の下敷きになりましてね。幸いなことに、頭と足先だけは免れたので、こうして生きて歩けるのです」
この辺りに山なんてないから、かなり遠くから来たのではないだろうか?ぺたんこの木なんて、長い旅暮らしでも聞いたことがない。まぁ、我らの暮らしにはなじみのないものだからかもしれないが。
「体に力が入らないから、何も持てないので、木こりは出来ないし、他のことも何も出来ません。仕方ないので山を下りて、この体を治すべく、癒しの海の温泉に行くか、聖なる森の温泉に行くか、山のふもとの村に泊めてもらって考えていましたらね、この地の女神のパン屋の話を聞いたのですよ」
「癒しの海の温泉に行くのも、こちらに来るのも同じくらいですか?」
「えぇ、だから悩んでいたのです」
癒しの海の温泉と、この森の間にある山か。つまり女神のパン屋が始まってからすぐに食べることが出来た者から聞いて来たのだろう。運がいいのかもしれないな。
「女神のパン屋の話を聞きましてね、その人からは話を聞いただけなのですが、途中の村では運よく分けてくれる人達に出会いました。
みなさんたくさん持っているわけではなかったので、ほんの一口でしたが、一口食べた後は、一日元のように歩き続けることが出来ましてね、それでなんとかここまでやって来れたのですよ」
こんなそよ風にさえ飛ばされるような体で、よくここまで。と思ったが、そういう事か。
「ですが、ここ数日はそれもなく、この有様ですよ」
温泉まではあと少しだが、今日はテイキュウビ。明日までもつだろうか?仕方ない。半分のヒエフィッシュバーガーを出す。
「これは、女神のパン屋で今日いただいたヒエフィッシュバーガーだ。滅多に食べられないものらしいから、全部あげられないけれど、とりあえず一口食べるといい」と言って、男の口元にそれを近付ける。
男は驚きの目でバーガーを見、そしてわたしを見た。
「いいのですか?」
黙って頷く。本当はあげたくない。だが、こんな弱り切った男をほおっては置けない。それに、このバーガーがどんな力を与えてくれるのか見てみたいのだ。
男はごくっと唾を飲みこむと、ぎゅっと目をつぶってバーガーにかじりついた。
一口齧るとそのまま後ろに倒れた。
まさか倒れると思っていなかったのでそれを防ぐことが出来ず、慌てて助け起こそうとしたが、男はそれを断り、口をもぐもぐと動かしながら、嬉しそうに涙を流している。
「あぁ、やっと横になれた」
聞くと男は伸されてから、頭は軽く足だけが重く、横になることが叶わなかったそうだ。
「わたしはここでこうして、しばらく横になっていたい。どうかほっておいてください」
「いや、こんなところで寝ていては、ここを通る人を驚かすし、温泉まであとちょっと。温泉についたら心ゆくまで横になっていればいい。ほら、もう一口あげるから立って歩くんだ」そう言って、もう一口食べさせる。
男は、それもそうだと起き上がり、自分の手をじーっと見た。
「あぁ、なんだか体に力が戻ってきたようです」
確かに、初めに見た時より体に厚みが増している。
「これが、女神のパンの力なのですね。ありがとうございます」
男はそういうと、深々と頭を下げた。そして
「力がどんどん湧いてくる」と言って、あっという間に走って行ってしまった。
「なんだかすごかったですね」
「あぁ、女神のパンの力がまさかこれほどとは」耐え切れず、手に持っていたヒエフィッシュバーガーの残りを口に放り込む。それはほんのわずか一口だったが、体の隅々まで力が行き渡り、何とも言えない心地よさに包まれた。
「さぁこれで、私の分はなくなった。あとは皆でよろしくな」
再び温泉に向かい、出逢った人たちに同じように話を聞いていく。何度も通っているもの、噂を聞いてやって来たもの、全く知らないものなど、様々な人から話を聞くことが出来、気づけば全員のバーガーがなくなっていた。
「あとは、温泉に入って少しゆっくりしましょう」
「そうだな」
浴場の入り口に行くと、一人の老人が腰かけており、昨日は無かった貼り紙が貼られていた。
「温泉かな?女神のパン屋のセイリケンかな?」と聞かれたので
「温泉だが、セイリケンとは?」と聞き返す。
「明日から配られるパンを受け取るための順番待ちのケンじゃよ」
「ケン?それがないと、パンをもらえないのか?」そんな事、聞いていないからおかしいと思いながら、尋ねると
「いいや、そんなことはないさね。だが、持っておると、安心して温泉に入れるんじゃよ」
「安心?」
「あぁ。何しろ女神さまはお一人でパンを作っておられるから、いつここにおいでになるか分からない。それをただ待っているのは大変じゃろうと、女神さまが、この仕組みを作られたのじゃよ」
そういうと老人は、貼られた紙を指して
「ほれ、そこに名前を書いてのぉ、そこに書いてある番号と同じケンを持っていくのじゃよ。そうしたら、自分の番が来るまで、温泉に入っていられるじゃろう」
見ると、紙には名前と、見たことのない文字が書かれており、まだ書かれていないところの方が多かった。
「これは?」と見たことのない文字を指す
「それは、女神さまの文字じゃよ。最初に書いてあるのが番号というもので、一から始まる。次に書いてあるのはわしらの文字で、自分で書けるものはそこに名前を書く。書けないものには、わしが書いてやるんじゃよ。次に書いてあるのは女神さまの文字じゃ。それは、女神さまが名前を呼ぶために書いておる。ほれ、ここにどの文字が、女神さまの文字になるのか、一目で分かるように女神さまと、あの手伝いのササラ様が作ってくださったものがあるのじゃよ」
老人は、壁に貼ってあるのと別の紙を見せてくれた。そういえばあのパン屋の中のいたるところに同じように、我らの文字とこの文字が書いて貼ってあったように思う。
「順番が来たらの、これを見て女神さまが名前を呼んでくださるのじゃよ。それがまた嬉しくてのぉ」老人が嬉しそうに笑う。
「おじいさぁん、僕たちの名前を書いて~」
振り向くと、小さな兄妹が立っていて、手には札を持っている。
「僕たちもうケンは持っているんだよ。でもまだ名前を書いていいないんだ。おじいさんが書いてくれるんでしょ?」
老人は札を見て、それと同じところに子どもたちの名前を書いていく。
「おかあさんの名前も書いてね」
「はいよ。坊やたち、リクエストも書くかい?」
「いいの?」
「もちろんじゃよ」老人がそう答えると、二人の子どもはヒソヒソと話し合い
「じゃあね、木の実のパンと、あんこのパンって書いてくれる?」
「あぁ分かったよ。木の実のパン、あんこのパン」そう言いつつ、手にしたものを見ながら、名前の表とは別の貼り紙に書いていく。
「ありがとうー」兄妹は嬉しそうにそう言うと、広場にいる母親らしき女の元に走って行った。
「リクエストとは?」察するに、食べたいものを先に言っておくってことだろうか。
「リクエストって言うのはじゃな、また食べたいものや、食べてみたいものを女神さまに伝えておくことじゃよ。そうするとそれに応えてくださるのじゃ。女神さまはなぁ、なるべくわしらの願いを叶えてくれようとしてくださっておるのじゃよ。ありがたいことじゃな」
「そうなのか。その、リクエストが多いのはどういうものか教えてもらえるだろうか」
「リクエストが多いものは、先ほどの子どもらが言っておった、あんこのパンかのぉ。あとは、そうじゃのぉ、おかずのパンも人気があるの。わしも野菜が入ったものが好きじゃしのぉ」老人は目を閉じて、それを思い出しているようだった。
「お前さんたちも、セイリケンを取っておくかい?」
「いや、われらは奥の店にやっかいになっているので、明日は配るのを手伝うつもりだ」
「なんと、そうであったか。奥の店に行かれたのか。そうかそうか。ではこのリクエストを女神さまに、あっ」
「なんだ、どうした?」
「女神さまに、わしが女神さまと呼んでおったのは言わんでくれよ。女神さまは女神さまと呼ばれるのがお好きではないからの」
「そうなのか」
「あぁ、名前で呼んでくれとおっしゃるのじゃが、わしらはどうしても女神さまと呼んでしまうのじゃ、じゃから、おられない時にだけ女神さまとお呼びして、おられる時はお名前を呼ぶようにしておるのじゃ。みなそうじゃよ」
「女神さまと呼ばれるのは好きじゃないのは、どうしてなのだろう?」
「女神さまではない。そうおっしゃっておられた。よく分からない話じゃよ」
「そうか。色々聞かせてくれてありがとう」礼を言って、浴場に入る。
仲間たちはとうに、浴場の中だ。
中に入ると、聞いたこともないような楽しげな歌が響き渡っている。
聞くと、女神さまが歌った歌なのだと言う。パンだけじゃなく、歌でまで、皆を喜ばせているのか。自分の番になり、どうしようかと思ったが、いつものように仲間と声を合わせて、いつもの歌を歌う。
「お前さんたち、もしかして、前は違う姿だったのではないか?」と聞かれたので、奥の店に行き、呪いを解いてもらったのだと、本当の事を話す。
呪いをかけられた時も、この歌で、自分たちが誰なのかを示したのだ。
呪いが解かれたことを、そこにいた者たちみんなに喜んでもらえ、さらに女神さまと呼ばれる、ヒロコ様の力を知らしめることになった。
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