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女神のパン屋~飛ばされて異世界~ 10
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それから三週間程、毎日毎日温泉に作ったパンを運び、配り、帰ってから翌日の仕込みをし、自分たちの食事の支度をした。
広場で待つ人たちは減ることがなく、いったんは一人に一つの品を渡すことが出来たけれど、結局半分しか渡せない日も多く、人々の期待に応えたい一心で日々を過ごしてきたけれど、いい加減休みが欲しい。20歳のカラダは疲労を溜めない力があったけれど、52歳の精神は、休みを欲している。
元の世界では、四日間営業し、基本三日間定休日があり、そのうち二日は事務作業や買い出し、銀行に行ったり翌日の仕込みをしたりする為に、休みと言っても休まないものの、一日はしっかり休むことが出来ていた。
月に一度は定休日にイベント出店することもあり、前日は早朝から深夜までノンストップで作業するような感じだったけれど、基本の日々の作成量は今の半分以下で、かなりのんびりやっていた。
なのに今は、毎日がイベント出店日のような状態で、フル回転。よくぞ三週間も続けて来られたと思う。
夕食時に「休みたいよぉ~」とぼやいたら、ササラに「休み?」と不思議な顔をされた。
どうやら休みと言う概念がないらしい。農業が主ならば、休みというのは無いのかもしれない。作物は待ってくれないものね。
「何もせず、ぼーっとする日が欲しいの。朝も寝坊して、何もせず、ごろごろしてもいい日」と言うと
「いいんじゃないですか?」と軽く答えられた。
そこで、計画を練ることにした。
考えたら、この世界の暦はどうなっているのかとか、時間の考え方も知らない。
店には、時間だけじゃなく温湿度や日付も表示される電波時計を壁に掛けて使っており、この世界でも今まで通り動き続けるその時計を見て、勝手にそれを見て作業したりしているけれど、実際のところどうなっているのだろう。
ササラに聞くと、13日周期で一週間となるとのこと。時間は世界樹の花が教えてくれると言う。世界樹?詳しく聞きたかったけれど、ササラの説明は分かりにくく、わたしの理解力も乏しく、とりあえず13日周期ってところだけ考えて、休みをとることにした。
10日間は温泉に通い、11日目は完全に休みにし、12日目はなんとなく店を開けて、パンは作らないけれど、発酵不要な他のものを作り、店に来たら何か食べさせてあげる日、13日目はパンの仕込みもするし、サンドイッチ用のパンも焼く、もちろん店に来たら何か食べさせてあげる日。とした。
カレンダーを作り、温泉に貼りだしてもらい、周知に努める。
ササラに聞くと、今日は13日周期の8日目なので、休みを始めるのに良いタイミングかと思う。
翌日、浴場主さんにその旨を伝え、カレンダーを見せると
「英気を養うのは良いことですじゃな。皆にもよく言って聞かせましょう」と同意してくれた。
カレンダーは男女それぞれの脱衣所と、入口のところの計三か所に貼り出してもらうことになった。
パンを配る時にも、休みをとる事を人々に説明し、理解に努め
10日目は、パンを配り終えた後、久しぶりに温泉に浸かった。
毎日通っていたのに、温泉に入るのはこれで2回目。何しろ毎日早く帰って仕込みをしたかったから、温泉の誘惑に負けずにいたのだ。
浴場では、わたしが歌った歌が流行っているらしく、歌のない楽器演奏か、あの歌ばかりで、わたしの順番が来ると人々の口から「他の歌を」と希望された。他の歌か。何がいいだろう。明るく楽しく、みんなで口ずさめる歌か。としばし考えた後、子供向けの、いわゆる音楽の時間に習う歌を選んで歌った。
「♪草のうぅみぃ、かぜぇがゆくよ~♪」
短い歌なので、2回繰り返して歌うと、楽器の伴奏が付き、人々の声が重なった。今回の歌も喜んでもらえたみたい。次回の歌も、考えておかねば。
風呂から上がり、ベランダで休憩をとる。今回は話しかけてくる人はいない。程よく冷めたところで店に戻る。
ササラ達は、定休日に伴い自宅に帰したから、今日は一人だ。本当に一人なのは久しぶり。一人でも寂しくない。わたしには一人の時間が必要なのだ。
でもやっぱりちょっと寂しい。でも、一人の寂しさを味わうことも必要だと思う。一人で大きなベッドに横になる。大きなベッドなのに、いつも通り端っこで寝る。とても静かだ。完全に一人だ。こっちに来てから、いや、オットが帰ってこなくなってからの日々を振り返っていたら、いつの間にか眠ってしまった。
寝坊したい。寝坊するぞ。と休みの日にはいつも思ってベッドに入る。
でも結局、いつもの時間に目が覚め、トイレに行きたくなって我慢が出来なくなると、しぶしぶベッドから出て、用を足してベッドに戻っても、もう寝ることが出来ない。頭の中にいろんな考えが浮かび、活性化してしまうのが原因だと思っている。
仕方ないのでベッドから出て、いつも通り体操をして、洗濯をする。
洗濯物をベランダに干したら、お湯を沸かしてお茶を飲む。
今日は一日、何もしない。をしようと思っている。ごろごろと本当にのんびりするつもりだ。レンゲ畑に降り、寝転がる。空は青く澄み渡っていて、レンゲはわたしを優しく包んでくれる。
しばらくそこでウトウトとしていたら、お腹がぐぅと鳴った。何か作ろうか。自分の為だけに、何か作ろうか、何を作ろうか。寝転がったまま、しばらく考えていたら、そのまま眠ってしまった。
夢も見ない、深く心地の良い眠りから覚めたら、体がすっきりと軽くなっていた。うぅ~んと伸びをして立ち上がり、部屋に戻る。
そうだ、ヒエを炊こう。ヒエを炊いて、ヒエフィッシュを作って食べよう。ヒエをよく洗い、鍋に水を入れて火にかける。沸いたところに塩を一つまみと、水を切ったヒエを入れ、かき混ぜながらヒエに水を吸わせる。完全に吸わせたら蓋をして極弱火にして15分炊く。その間にご飯も炊き、みそ汁を作り、山芋をすりおろす。15分たったら火からおろし、10分蒸らしてから風を入れ、山芋と混ぜ、すりおろした蓮根も混ぜる。ヒエは炊き上がってからすぐに調理しないと、固くなってしまうので、手早く作業を行う。
板麩を戻して、海苔をのせ、ヒエをその上に伸ばして形を整えたら、葛粉を水で溶いたものを絡めて、フライパンで揚げ焼きにする。
揚げ焼きしている間に、タレを用意。タレは玉ねぎ酵母と生姜酵母、醤油、お酒を混ぜただけのもの。焼きあがったヒエをそのままタレに浸ける。
数切れタレに浸けておいて、残りはそのまま網に上げておく。
炊き上がったご飯にタレに漬けたヒエを乗せたら、ヒエのアナゴ丼風の完成。
さて食べようかと思ったら、ピンポーンとドアホンが鳴る。
こっちに来てから聞いたことが無い音。いったい誰が来たというのだろう?
「来ちゃった」
ドアを開けたら、そこに浴場主さんが立っていた。
ちょっと驚いたけれど、気恥ずかしそうに佇む姿を見て、そしてその似つかわしくないセリフを聞いて、クスッと笑みが零れ、どうぞと中に招き入れた。部屋に入るとホォーっと部屋を見回した後、テーブルの上の食事に目を輝かせる。
「ちょうど今、ご飯を食べようと思っていたところなのですが、良かったら一緒にいかがですか?」と、答えが分かっている質問をする。
「良いのですかな?ぜひいただきたい」と、椅子にいそいそと座る。
そして二人でヒエのアナゴ丼風を食べた。
浴場主さんは、ササラが毎日パンを持っていくたびに一口食べると大男になって頭を天井に打つ というリアクションをやっているらしいけれど、今日はなかった。
「初めは驚いたのですが、毎回なさるので、だんだん慣れてちょっと笑っちゃうんです。カッタもクスクス笑ってるんですよ」とササラが言うのを聞いて、「きっとそれは笑わせる為にやってくれる、いわばお約束ってやつだよ」と解釈したら、ササラは『お約束』が分からず、不思議そうな顔をしていたので、さらに説明したのだけれど、今回は変身することもなく、嬉しそうに食べる姿を見て、それがやっぱり当たりなんだろうと思った。
そして食後のお茶を出すと、ゆっくりそれを飲んでから、ほぅっとため息をつ
いて
「やはり、ヒロコ殿の作るものは何でも美味しいのだのぉ。毎日十歳若返る気
持ちじゃが、今日の食事でさらに50歳くらい若返ったようじゃ」と言うので
「そんなに若返ったら、種に戻っちゃいますよ」と言ったら、フォフォフォ
と笑った。そして
「こちらの生活には慣れたかの?」と聞いてきた。
「えぇ、おかげさまで、すっかり慣れました」
「そうか、そうか、慣れない事も多いのではと心配しておったのだが、それなら良かった。じゃが」ちょっと真剣な表情で
「向こうに未練はないのかの?」と聞かれた。わたしが何処から来たかご存知なのだろうか。本来の姿という、あの仁王像に似た感じを思い出す。この方はすごい方なのかもしれない。優しい眼差しを見て、正直なところを話そうと思った。
「そうですね。未練はありません」
「ほぉ?」
「確かに、向こうにはわたしの母や姉弟がおりますが、一緒に暮らしていたわけではないので、滅多に会うことがありませんでした。子どももおらず、オットが居なくなってしまってからは、どうしていけばいいかと思っていたところでした。年老いた母のことは心配ですが、弟の家族と暮らしていますし、私が居なくても大丈夫だと思っています。それに」
「それに?」
「元の場所では、わたしの作るものはさほど求められてらず、一日にいらっしゃるお客様が片手で足りる程度の日々でした」
「こんなに美味しいのにかの?」
「元の世界には、様々な美味しいものが溢れておりました。体に良いかどうかは関係なく、お腹が膨らめば良いとか、安ければよいとか、甘ければ、柔らかければ、アレルギーを起こさなければなど『美味しい』の基準は人其々で、わたしが作るものは、パン屋の世界でも、ヴィーガンの世界でも異端でした」
思い出すと、深いため息が零れた。体や心に負担をかけない食べ物を作りたくて、日々努力を続けていたけれど、動物性のものを使わないだけでなく、一切の砂糖も使わないで作るわたしのパンとお菓子は、ごくわずかな人達にしか受け入れてもらう事が出来なかった。
上質だとしても量の多い油でお腹を壊し、砂糖で頭が痛くなり、気持ち悪くなるわたしには、一般的なものに迎合した品を作ることが出来ず、美味しいと言っていただけても、続けて求めてはもらえない現実に、何度打ちひしがれたことか。
それでも10年以上店を続けてこられたのは、少数とはいえ買い求め続けてくださるお客様の存在と、何より、支えてくれたオットの存在があったからこそ。オットがいなければ、とうに店を畳んでいただろう。
「こちらに来て、多くの方に喜んでいただく姿を見ることが出来て、とても幸せだと感じています」
「ほぉ」
「ただ」
「ただ?」
「わたしがこんな風に生活出来るのは、生活や材料に困ることがないようにしていただいているからこそで、そんな援助の中、何も気にせずパンやお菓子を作って配ることは、ただの自己満足に過ぎないのではと思ったり、一人で出来ることには限りがありますから、多くの人に行き渡らせられないという現実も心苦しくて、これが良いことなのか、分からないです」
今の生活に不満はない。わたしのパンを食べてくれる人々の、満足そうな顔を思い出すと、毎日充実した気持ちがあり、やる気もわいてくる。でもそれは、尽きる事のない材料のおかげで、家賃や光熱費などの支払い、生活費を心配することがないからこそ出来る事。それに甘えているのではないか?そして、この森の温泉に来れる人に渡すだけで、女神の言う危機に対応出来るとは思えず、これで良いのか悩んでしまうのだ。
「自分に厳しいのぉ」
「わたしは、わたしだけが作れるものを作って配ることは、この世界の為にならないと思っています。出来れば、作り方を広めたい。でもこの世界には、ここにある冷蔵庫もオーブンもなく、もし作る技術が出来るとしても、それは何十年、何百年後の話になりますよね。でも、それでは遅すぎますよね」
「確かにの、じゃが、出来る事を探しておられるじゃろう」
「えぇ。ご存知でしたか」
そう。この世界にあるもので何とかならないかと、レンゲの本数を変えた籠を作り、短期保存、長期保存、発酵を促すことが出来ないか実験を繰り返しているし、オーブンが無くても作れるパンを模索中だ。もともとフライパンで焼いたり、蒸し器で蒸したものも作っているから、酵母を作ることさえ出来ればと、常に出来る事を探している。
「ササラ殿が、教えてくれるのじゃよ。実験だと言うて、浴場にも籠が置いてあるしのぉ」
そうだった。この、レンゲに守られた場所では、森の外と同じ環境とは思えないので、浴場にもパンやオムスビを入れた籠を置いてもらって実験をしているのだ。今回は、ササラの自宅にも持って行ってもらっている。
「今日いただいたこの食事に使われたものは、持って来られたものかの?」
「いえ、もともと持っていたものと、こちらで入手したものの両方を使っています」
「どれが、持って来られたものかの?」
「ご飯の米、ヒエフィッシュのヒエ、山芋、板麩、海苔、調味料がもともと持っていたものです」
「ふむ。少なくとも、米とヒエは、この世界にもある。こちらでは穀は粉にしてしまうが、同じものが見つかるじゃろう。芋もある。調味料はまだまだじゃが、それ以外は近いうちになんとかなるじゃろう。そのきっかけを、ヒロコ殿が作り、皆にやる気を起こさせることになるじゃろう。この世界の者に足りないのはの、やる気じゃからのぉ」
そう言うと、ベランダに続く窓のそばに行き
「ここは美しい場所だと思わんか」と、外を眺めた。
「思います。こんなに良いところに住めて、すごく嬉しいです」
「そうじゃろう、あの花はの、女神さまのお好きな花でのぉ、女神さまの住まう場所にも、同じ花が咲き乱れておるのじゃぞ」
「浴場主さんは、女神さまのところに行かれたことがあるのですか?」
「ある。それに、ここを作られた時も、お傍におったのじゃ。女神さまはまずこの場所を作られて、徐々に世界を広げていかれた」
「ここがこの世界の最初の場所?」すごい事実を、軽く言われて驚いた。
「そうじゃ。じゃからここは聖域で、不浄のものは入れん」
「あ、あの花をとって、籠に使ったりしていますけれど・・・」
「フォフォフォ。それは構わん。新しい芽を出す為には、場所を開けねばならんのに、枯れる事もなく、女神さまの他には誰もあれを抜くことが出来んかった。やっと世代交代が出来るのじゃから、奴らも喜んでその手に飛んでくるであろう?」
確かに、わたしが手を出しただけで飛び込んで来た。あれはそういう事だったのか。
「そしてここまで来れる者は、ヒロコ殿にとって必要な者ばかりじゃ。もちろん、その者たちにとってもヒロコ殿は必要じゃ。わしにとってもな。まだ、始まったばかりじゃ。焦らんでも良い」
「あ、ありがとうございます」
「それとな、わしの名前はフローケじゃ。ぜひ、名前で呼んでおくれ」
「風呂桶?」そんな面白すぎる名前っ!?女神さまの隣で世界の始まりを見届けた人に、そんな名前。いや、もしかしたらこの名前が先?と思っていたら
「フロオケではない、フローケじゃ。浴場にピッタリとか思わんでくれよ」
「あ、ごめんなさい。フローケさん。すごい方に失礼を」
「フォフォフォ。女神さまが地上を離れられた後も、わしはここが好きで、この世界の皆が好きで、この地に留まったのじゃ。じゃが、わしの力にも限界がある。風呂に入りに来る者の歌の力も弱まっておっての、ほれ、ヒロコ殿が最初に来られた日、わしの姿は見えんかったじゃろ?」
「はい。番台にいらっしゃいませんでしたよね」
「いや、おったのじゃ。おったのじゃが、消えかけておったのじゃよ」
「消えかけて?」そういえば、オルレアンも透き通るような姿だった。
「力が消えていくと、姿を保つことが出来んようになるんじゃ。じゃからもう、女神さまのところに行くのじゃと思っておったところに、ヒロコ殿がやって来られ、あのくっきーとやらを置いてくださった。あれでわしはこの姿を維持することが出来、パンをいただくことで、元の姿にまで戻ることが出来たのじゃ。ありがたいことじゃ。
毎日美味しいものが食べられて、留まって良かったと思っておるぞ。女神さまも羨ましがっておられることじゃろう。自信を持ちなされ」
「そう、なんですか」
「そうじゃ。じゃからの、明日も昼飯を楽しみに来させてもらうからの、よろしくの。困ったり迷ったりしたら、いつでも相談に乗るでの」
そして
「長居をしてしもぉた。そろそろ戻らねば、半身に怒られる。ではまたの」と言って、ふっと消えるように立ち去られた。
凄い話をさらりとされて、頭の中の整理が追いつかない。しばらく立ったままぼぅっとしていたら、予定より早く、ササラ母子が戻ってきた。
「ただ今戻りました。わたし達がいない間に、なんだか美味しい物をつくっていらっしゃるような気がして、予定より早く戻ってきてしまいました」と言うので、ササラ達にもヒエのアナゴ丼を作ってあげた。
「やっぱり、こんなに美味しい物を一人で作って!戻って来るのが予定通りだったら、食べさせてもらえなかったんですね」と怒ったふりをする。
「その代り、パンにはさんで出してあげようと思っていたのよ」と言ったら
「それはそれで食べたいから、作ってくださいね」と返され、カッタもうんうんと頷いている。
「ところで、パンは上手く出来た?」
パン作りを教え始めていたので、自分でこねたパン生地を持って行かせたのだ。
「はい。言われた通り、串に付けて焼いたり、フライパンで焼いたりして、村の皆に食べてもらったら、とっても喜ばれました」
「それは良かったわね」
「はい、それで夫に頼んで、ヒロコさん用にも背負子を作ってもらって来ましたよ。下に置いてきてしまいましたけれど」
「まぁありがとう。これでわたしも運べるから、今までよりたくさん持っていけるわね」
背負子は、カルキとかいう特殊な木から作られており、その木は軽く、根っこは逆にものすごく硬くて重いのだそう。そして軽い部分を使うと、なぜかそれ自体だけでなく、そこに乗せたものまでも軽くなるということで、それがササラのように小柄な女性が大量のパンを軽々と持てる秘密だった。
ササラの旦那さんは木材加工の名手で、畑をやりつつ、木材加工も請け負っているということだった。
「夫も近いうちにこちらに来て、棚などを作ってくれると言っていました」
「それは助かるわ。倉庫の整理が付かなくなっているものね」
隣の空き店舗に、もらった野菜などを置いているのだが、パンをもらいに来る人が増え、当然のようにお返しも増え、一度に使い切れなくなったものであふれて来たために、早急になんとかする必要が出てきていた。
人手が足りない。時間も足りない。作りたいもの、やりたい事が多すぎて、どうしていいか分からなくなる。でも、一つずつ、なんとかしていくしかない。
やれることを、少しずつ増やして行こう。そう決意を新たにした休日だった。
広場で待つ人たちは減ることがなく、いったんは一人に一つの品を渡すことが出来たけれど、結局半分しか渡せない日も多く、人々の期待に応えたい一心で日々を過ごしてきたけれど、いい加減休みが欲しい。20歳のカラダは疲労を溜めない力があったけれど、52歳の精神は、休みを欲している。
元の世界では、四日間営業し、基本三日間定休日があり、そのうち二日は事務作業や買い出し、銀行に行ったり翌日の仕込みをしたりする為に、休みと言っても休まないものの、一日はしっかり休むことが出来ていた。
月に一度は定休日にイベント出店することもあり、前日は早朝から深夜までノンストップで作業するような感じだったけれど、基本の日々の作成量は今の半分以下で、かなりのんびりやっていた。
なのに今は、毎日がイベント出店日のような状態で、フル回転。よくぞ三週間も続けて来られたと思う。
夕食時に「休みたいよぉ~」とぼやいたら、ササラに「休み?」と不思議な顔をされた。
どうやら休みと言う概念がないらしい。農業が主ならば、休みというのは無いのかもしれない。作物は待ってくれないものね。
「何もせず、ぼーっとする日が欲しいの。朝も寝坊して、何もせず、ごろごろしてもいい日」と言うと
「いいんじゃないですか?」と軽く答えられた。
そこで、計画を練ることにした。
考えたら、この世界の暦はどうなっているのかとか、時間の考え方も知らない。
店には、時間だけじゃなく温湿度や日付も表示される電波時計を壁に掛けて使っており、この世界でも今まで通り動き続けるその時計を見て、勝手にそれを見て作業したりしているけれど、実際のところどうなっているのだろう。
ササラに聞くと、13日周期で一週間となるとのこと。時間は世界樹の花が教えてくれると言う。世界樹?詳しく聞きたかったけれど、ササラの説明は分かりにくく、わたしの理解力も乏しく、とりあえず13日周期ってところだけ考えて、休みをとることにした。
10日間は温泉に通い、11日目は完全に休みにし、12日目はなんとなく店を開けて、パンは作らないけれど、発酵不要な他のものを作り、店に来たら何か食べさせてあげる日、13日目はパンの仕込みもするし、サンドイッチ用のパンも焼く、もちろん店に来たら何か食べさせてあげる日。とした。
カレンダーを作り、温泉に貼りだしてもらい、周知に努める。
ササラに聞くと、今日は13日周期の8日目なので、休みを始めるのに良いタイミングかと思う。
翌日、浴場主さんにその旨を伝え、カレンダーを見せると
「英気を養うのは良いことですじゃな。皆にもよく言って聞かせましょう」と同意してくれた。
カレンダーは男女それぞれの脱衣所と、入口のところの計三か所に貼り出してもらうことになった。
パンを配る時にも、休みをとる事を人々に説明し、理解に努め
10日目は、パンを配り終えた後、久しぶりに温泉に浸かった。
毎日通っていたのに、温泉に入るのはこれで2回目。何しろ毎日早く帰って仕込みをしたかったから、温泉の誘惑に負けずにいたのだ。
浴場では、わたしが歌った歌が流行っているらしく、歌のない楽器演奏か、あの歌ばかりで、わたしの順番が来ると人々の口から「他の歌を」と希望された。他の歌か。何がいいだろう。明るく楽しく、みんなで口ずさめる歌か。としばし考えた後、子供向けの、いわゆる音楽の時間に習う歌を選んで歌った。
「♪草のうぅみぃ、かぜぇがゆくよ~♪」
短い歌なので、2回繰り返して歌うと、楽器の伴奏が付き、人々の声が重なった。今回の歌も喜んでもらえたみたい。次回の歌も、考えておかねば。
風呂から上がり、ベランダで休憩をとる。今回は話しかけてくる人はいない。程よく冷めたところで店に戻る。
ササラ達は、定休日に伴い自宅に帰したから、今日は一人だ。本当に一人なのは久しぶり。一人でも寂しくない。わたしには一人の時間が必要なのだ。
でもやっぱりちょっと寂しい。でも、一人の寂しさを味わうことも必要だと思う。一人で大きなベッドに横になる。大きなベッドなのに、いつも通り端っこで寝る。とても静かだ。完全に一人だ。こっちに来てから、いや、オットが帰ってこなくなってからの日々を振り返っていたら、いつの間にか眠ってしまった。
寝坊したい。寝坊するぞ。と休みの日にはいつも思ってベッドに入る。
でも結局、いつもの時間に目が覚め、トイレに行きたくなって我慢が出来なくなると、しぶしぶベッドから出て、用を足してベッドに戻っても、もう寝ることが出来ない。頭の中にいろんな考えが浮かび、活性化してしまうのが原因だと思っている。
仕方ないのでベッドから出て、いつも通り体操をして、洗濯をする。
洗濯物をベランダに干したら、お湯を沸かしてお茶を飲む。
今日は一日、何もしない。をしようと思っている。ごろごろと本当にのんびりするつもりだ。レンゲ畑に降り、寝転がる。空は青く澄み渡っていて、レンゲはわたしを優しく包んでくれる。
しばらくそこでウトウトとしていたら、お腹がぐぅと鳴った。何か作ろうか。自分の為だけに、何か作ろうか、何を作ろうか。寝転がったまま、しばらく考えていたら、そのまま眠ってしまった。
夢も見ない、深く心地の良い眠りから覚めたら、体がすっきりと軽くなっていた。うぅ~んと伸びをして立ち上がり、部屋に戻る。
そうだ、ヒエを炊こう。ヒエを炊いて、ヒエフィッシュを作って食べよう。ヒエをよく洗い、鍋に水を入れて火にかける。沸いたところに塩を一つまみと、水を切ったヒエを入れ、かき混ぜながらヒエに水を吸わせる。完全に吸わせたら蓋をして極弱火にして15分炊く。その間にご飯も炊き、みそ汁を作り、山芋をすりおろす。15分たったら火からおろし、10分蒸らしてから風を入れ、山芋と混ぜ、すりおろした蓮根も混ぜる。ヒエは炊き上がってからすぐに調理しないと、固くなってしまうので、手早く作業を行う。
板麩を戻して、海苔をのせ、ヒエをその上に伸ばして形を整えたら、葛粉を水で溶いたものを絡めて、フライパンで揚げ焼きにする。
揚げ焼きしている間に、タレを用意。タレは玉ねぎ酵母と生姜酵母、醤油、お酒を混ぜただけのもの。焼きあがったヒエをそのままタレに浸ける。
数切れタレに浸けておいて、残りはそのまま網に上げておく。
炊き上がったご飯にタレに漬けたヒエを乗せたら、ヒエのアナゴ丼風の完成。
さて食べようかと思ったら、ピンポーンとドアホンが鳴る。
こっちに来てから聞いたことが無い音。いったい誰が来たというのだろう?
「来ちゃった」
ドアを開けたら、そこに浴場主さんが立っていた。
ちょっと驚いたけれど、気恥ずかしそうに佇む姿を見て、そしてその似つかわしくないセリフを聞いて、クスッと笑みが零れ、どうぞと中に招き入れた。部屋に入るとホォーっと部屋を見回した後、テーブルの上の食事に目を輝かせる。
「ちょうど今、ご飯を食べようと思っていたところなのですが、良かったら一緒にいかがですか?」と、答えが分かっている質問をする。
「良いのですかな?ぜひいただきたい」と、椅子にいそいそと座る。
そして二人でヒエのアナゴ丼風を食べた。
浴場主さんは、ササラが毎日パンを持っていくたびに一口食べると大男になって頭を天井に打つ というリアクションをやっているらしいけれど、今日はなかった。
「初めは驚いたのですが、毎回なさるので、だんだん慣れてちょっと笑っちゃうんです。カッタもクスクス笑ってるんですよ」とササラが言うのを聞いて、「きっとそれは笑わせる為にやってくれる、いわばお約束ってやつだよ」と解釈したら、ササラは『お約束』が分からず、不思議そうな顔をしていたので、さらに説明したのだけれど、今回は変身することもなく、嬉しそうに食べる姿を見て、それがやっぱり当たりなんだろうと思った。
そして食後のお茶を出すと、ゆっくりそれを飲んでから、ほぅっとため息をつ
いて
「やはり、ヒロコ殿の作るものは何でも美味しいのだのぉ。毎日十歳若返る気
持ちじゃが、今日の食事でさらに50歳くらい若返ったようじゃ」と言うので
「そんなに若返ったら、種に戻っちゃいますよ」と言ったら、フォフォフォ
と笑った。そして
「こちらの生活には慣れたかの?」と聞いてきた。
「えぇ、おかげさまで、すっかり慣れました」
「そうか、そうか、慣れない事も多いのではと心配しておったのだが、それなら良かった。じゃが」ちょっと真剣な表情で
「向こうに未練はないのかの?」と聞かれた。わたしが何処から来たかご存知なのだろうか。本来の姿という、あの仁王像に似た感じを思い出す。この方はすごい方なのかもしれない。優しい眼差しを見て、正直なところを話そうと思った。
「そうですね。未練はありません」
「ほぉ?」
「確かに、向こうにはわたしの母や姉弟がおりますが、一緒に暮らしていたわけではないので、滅多に会うことがありませんでした。子どももおらず、オットが居なくなってしまってからは、どうしていけばいいかと思っていたところでした。年老いた母のことは心配ですが、弟の家族と暮らしていますし、私が居なくても大丈夫だと思っています。それに」
「それに?」
「元の場所では、わたしの作るものはさほど求められてらず、一日にいらっしゃるお客様が片手で足りる程度の日々でした」
「こんなに美味しいのにかの?」
「元の世界には、様々な美味しいものが溢れておりました。体に良いかどうかは関係なく、お腹が膨らめば良いとか、安ければよいとか、甘ければ、柔らかければ、アレルギーを起こさなければなど『美味しい』の基準は人其々で、わたしが作るものは、パン屋の世界でも、ヴィーガンの世界でも異端でした」
思い出すと、深いため息が零れた。体や心に負担をかけない食べ物を作りたくて、日々努力を続けていたけれど、動物性のものを使わないだけでなく、一切の砂糖も使わないで作るわたしのパンとお菓子は、ごくわずかな人達にしか受け入れてもらう事が出来なかった。
上質だとしても量の多い油でお腹を壊し、砂糖で頭が痛くなり、気持ち悪くなるわたしには、一般的なものに迎合した品を作ることが出来ず、美味しいと言っていただけても、続けて求めてはもらえない現実に、何度打ちひしがれたことか。
それでも10年以上店を続けてこられたのは、少数とはいえ買い求め続けてくださるお客様の存在と、何より、支えてくれたオットの存在があったからこそ。オットがいなければ、とうに店を畳んでいただろう。
「こちらに来て、多くの方に喜んでいただく姿を見ることが出来て、とても幸せだと感じています」
「ほぉ」
「ただ」
「ただ?」
「わたしがこんな風に生活出来るのは、生活や材料に困ることがないようにしていただいているからこそで、そんな援助の中、何も気にせずパンやお菓子を作って配ることは、ただの自己満足に過ぎないのではと思ったり、一人で出来ることには限りがありますから、多くの人に行き渡らせられないという現実も心苦しくて、これが良いことなのか、分からないです」
今の生活に不満はない。わたしのパンを食べてくれる人々の、満足そうな顔を思い出すと、毎日充実した気持ちがあり、やる気もわいてくる。でもそれは、尽きる事のない材料のおかげで、家賃や光熱費などの支払い、生活費を心配することがないからこそ出来る事。それに甘えているのではないか?そして、この森の温泉に来れる人に渡すだけで、女神の言う危機に対応出来るとは思えず、これで良いのか悩んでしまうのだ。
「自分に厳しいのぉ」
「わたしは、わたしだけが作れるものを作って配ることは、この世界の為にならないと思っています。出来れば、作り方を広めたい。でもこの世界には、ここにある冷蔵庫もオーブンもなく、もし作る技術が出来るとしても、それは何十年、何百年後の話になりますよね。でも、それでは遅すぎますよね」
「確かにの、じゃが、出来る事を探しておられるじゃろう」
「えぇ。ご存知でしたか」
そう。この世界にあるもので何とかならないかと、レンゲの本数を変えた籠を作り、短期保存、長期保存、発酵を促すことが出来ないか実験を繰り返しているし、オーブンが無くても作れるパンを模索中だ。もともとフライパンで焼いたり、蒸し器で蒸したものも作っているから、酵母を作ることさえ出来ればと、常に出来る事を探している。
「ササラ殿が、教えてくれるのじゃよ。実験だと言うて、浴場にも籠が置いてあるしのぉ」
そうだった。この、レンゲに守られた場所では、森の外と同じ環境とは思えないので、浴場にもパンやオムスビを入れた籠を置いてもらって実験をしているのだ。今回は、ササラの自宅にも持って行ってもらっている。
「今日いただいたこの食事に使われたものは、持って来られたものかの?」
「いえ、もともと持っていたものと、こちらで入手したものの両方を使っています」
「どれが、持って来られたものかの?」
「ご飯の米、ヒエフィッシュのヒエ、山芋、板麩、海苔、調味料がもともと持っていたものです」
「ふむ。少なくとも、米とヒエは、この世界にもある。こちらでは穀は粉にしてしまうが、同じものが見つかるじゃろう。芋もある。調味料はまだまだじゃが、それ以外は近いうちになんとかなるじゃろう。そのきっかけを、ヒロコ殿が作り、皆にやる気を起こさせることになるじゃろう。この世界の者に足りないのはの、やる気じゃからのぉ」
そう言うと、ベランダに続く窓のそばに行き
「ここは美しい場所だと思わんか」と、外を眺めた。
「思います。こんなに良いところに住めて、すごく嬉しいです」
「そうじゃろう、あの花はの、女神さまのお好きな花でのぉ、女神さまの住まう場所にも、同じ花が咲き乱れておるのじゃぞ」
「浴場主さんは、女神さまのところに行かれたことがあるのですか?」
「ある。それに、ここを作られた時も、お傍におったのじゃ。女神さまはまずこの場所を作られて、徐々に世界を広げていかれた」
「ここがこの世界の最初の場所?」すごい事実を、軽く言われて驚いた。
「そうじゃ。じゃからここは聖域で、不浄のものは入れん」
「あ、あの花をとって、籠に使ったりしていますけれど・・・」
「フォフォフォ。それは構わん。新しい芽を出す為には、場所を開けねばならんのに、枯れる事もなく、女神さまの他には誰もあれを抜くことが出来んかった。やっと世代交代が出来るのじゃから、奴らも喜んでその手に飛んでくるであろう?」
確かに、わたしが手を出しただけで飛び込んで来た。あれはそういう事だったのか。
「そしてここまで来れる者は、ヒロコ殿にとって必要な者ばかりじゃ。もちろん、その者たちにとってもヒロコ殿は必要じゃ。わしにとってもな。まだ、始まったばかりじゃ。焦らんでも良い」
「あ、ありがとうございます」
「それとな、わしの名前はフローケじゃ。ぜひ、名前で呼んでおくれ」
「風呂桶?」そんな面白すぎる名前っ!?女神さまの隣で世界の始まりを見届けた人に、そんな名前。いや、もしかしたらこの名前が先?と思っていたら
「フロオケではない、フローケじゃ。浴場にピッタリとか思わんでくれよ」
「あ、ごめんなさい。フローケさん。すごい方に失礼を」
「フォフォフォ。女神さまが地上を離れられた後も、わしはここが好きで、この世界の皆が好きで、この地に留まったのじゃ。じゃが、わしの力にも限界がある。風呂に入りに来る者の歌の力も弱まっておっての、ほれ、ヒロコ殿が最初に来られた日、わしの姿は見えんかったじゃろ?」
「はい。番台にいらっしゃいませんでしたよね」
「いや、おったのじゃ。おったのじゃが、消えかけておったのじゃよ」
「消えかけて?」そういえば、オルレアンも透き通るような姿だった。
「力が消えていくと、姿を保つことが出来んようになるんじゃ。じゃからもう、女神さまのところに行くのじゃと思っておったところに、ヒロコ殿がやって来られ、あのくっきーとやらを置いてくださった。あれでわしはこの姿を維持することが出来、パンをいただくことで、元の姿にまで戻ることが出来たのじゃ。ありがたいことじゃ。
毎日美味しいものが食べられて、留まって良かったと思っておるぞ。女神さまも羨ましがっておられることじゃろう。自信を持ちなされ」
「そう、なんですか」
「そうじゃ。じゃからの、明日も昼飯を楽しみに来させてもらうからの、よろしくの。困ったり迷ったりしたら、いつでも相談に乗るでの」
そして
「長居をしてしもぉた。そろそろ戻らねば、半身に怒られる。ではまたの」と言って、ふっと消えるように立ち去られた。
凄い話をさらりとされて、頭の中の整理が追いつかない。しばらく立ったままぼぅっとしていたら、予定より早く、ササラ母子が戻ってきた。
「ただ今戻りました。わたし達がいない間に、なんだか美味しい物をつくっていらっしゃるような気がして、予定より早く戻ってきてしまいました」と言うので、ササラ達にもヒエのアナゴ丼を作ってあげた。
「やっぱり、こんなに美味しい物を一人で作って!戻って来るのが予定通りだったら、食べさせてもらえなかったんですね」と怒ったふりをする。
「その代り、パンにはさんで出してあげようと思っていたのよ」と言ったら
「それはそれで食べたいから、作ってくださいね」と返され、カッタもうんうんと頷いている。
「ところで、パンは上手く出来た?」
パン作りを教え始めていたので、自分でこねたパン生地を持って行かせたのだ。
「はい。言われた通り、串に付けて焼いたり、フライパンで焼いたりして、村の皆に食べてもらったら、とっても喜ばれました」
「それは良かったわね」
「はい、それで夫に頼んで、ヒロコさん用にも背負子を作ってもらって来ましたよ。下に置いてきてしまいましたけれど」
「まぁありがとう。これでわたしも運べるから、今までよりたくさん持っていけるわね」
背負子は、カルキとかいう特殊な木から作られており、その木は軽く、根っこは逆にものすごく硬くて重いのだそう。そして軽い部分を使うと、なぜかそれ自体だけでなく、そこに乗せたものまでも軽くなるということで、それがササラのように小柄な女性が大量のパンを軽々と持てる秘密だった。
ササラの旦那さんは木材加工の名手で、畑をやりつつ、木材加工も請け負っているということだった。
「夫も近いうちにこちらに来て、棚などを作ってくれると言っていました」
「それは助かるわ。倉庫の整理が付かなくなっているものね」
隣の空き店舗に、もらった野菜などを置いているのだが、パンをもらいに来る人が増え、当然のようにお返しも増え、一度に使い切れなくなったものであふれて来たために、早急になんとかする必要が出てきていた。
人手が足りない。時間も足りない。作りたいもの、やりたい事が多すぎて、どうしていいか分からなくなる。でも、一つずつ、なんとかしていくしかない。
やれることを、少しずつ増やして行こう。そう決意を新たにした休日だった。
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