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「ハウさん、ここに住む為に来たの?」
マリンと名乗った一頭にそう聞かれてハウは声をあげて笑った。
「あははっ、僕が展示される為に来たかってこと? 違うよ。君たちに聞きたいことがあって」
「聞きたいことってなーに?」
水飛沫を上げることに夢中になっていたもう一頭、マーレもジャンプをやめるとハウに寄ってくる。
「人間の男ってどうやったら僕に惚れてくれると思う?」
「人間の……」
「男……」
マリンとマーレはハウの隣にいた冴えない人間の男の顔を思い出すと恐る恐る質問してくる。
「それは、さっきの男の人に好きになって貰いたいってこと?」
「あの男好きなの? もっとカッコいい人間にしようよー。釣り合ってないよー」
「こら。マーレ、ハウさんの好きな人間だったら大変でしょ」
「大丈夫だよ。別に好きじゃないからね。でも僕のことは好きになって貰いたいんだ」
ハウがそう言うと、マーレは頭に疑問符を浮かべていたがマリンは何かに感づいたようだ。
「……もしかして、足が欲しいんですか?」
「うん。そうなんだ」
「どういうことー?」
「マーレはここで生まれたから聞いたことがないのね。私は海で怪我してたとこを保護されたから……海では人魚は自分のことを人魚のまま愛してくれる人間の男から口付けをして貰えれば、海の神様の祝福が貰えて尾が足になるって言い伝えがあるのよ」
「何で足がほしいのー?」
「昔、僕が小さかった頃に助けてくれた人間にもう一度会ってお礼が言いたいんだよ。向こうは僕ってわかんないと思うし、僕もぼんやりとしか覚えてないんだけどさ。でも、もしかしたら見たらわかるかもしれないでしょ? だからどうしても足を手に入れたいんだ」
「確かに海の中にいるよりは可能性があるかもですが……」
「無謀だねー」
「こら!」
「いいよ。僕もそう思うし」
「どんな人なんですか?」
「髪の毛が黒い女の子」
「……」
「無謀だねー」
「お、女の子なのはわかるんですね」
「スカートだったのは覚えてるんだよ。あと名前はユキだったよ。後から来たお友達が大声でユキちゃんって呼んでたからそこだけ印象深くて」
「名前がわかってるなんてすごいじゃないですか!」
「ユキって人間の中じゃ超メジャーじゃーん。探すものが砂一粒から真珠一粒になったて感じー」
「こら!」
「だからさ、とりあえず足が欲しいなって思ってるんだよ。今までも挑戦してみたけど怯えて逃げられたりとか僕の仲間に人間と関わるなって邪魔されたりとかして失敗しちゃって。3週間くらい続いた人間もいたんだけど、僕のことを動画にして世界の人に配信したいとか言われたからそのときは逃げちゃったし」
「マーレ達もよく撮られるよー。人間ってなんで動画好きなんだろうねー?」
「人間は可愛いものや美しものを撮りたくなるとは聞きますが……」
「だからって人魚の存在が大勢にバレるのはまずいよね。僕以外の人魚達はあんまり人間に姿を見せないし、乱獲でもはじまったら流石に申し訳が立たないよ」
「事情はわかりましたけど、さっきの人間は大丈夫なんですか?」
マリンが不安そうに聞いてきたが、ハウは迷いなく答えた。
「シイカなら大丈夫だよ」
「それなら良いんですが……」
「じゃあ、あの人間オトす方法考えようよー」
「うん。考えて欲しいな。人間のことなら君たちのほうが詳しいでしょ?」
「お役に立てれば良いのですが……番になりそうな人間達は大体手を繋いでますよ」
「それって番になった後の話じゃないの?」
「ううん。番になる前から手を繋いだりるんだよー。そんでまた来たときは番になってたりとかもよく見たよねー」
「スキンシップが大事ってことかな。結構してるつもりなんだけど」
「人間はいつも行かないような場所の方がスキンシップの気分も盛り上がるみたいですよ」
「あの人間の好きそうな場所に行ってデートしたら良いんじゃないかなー?」
「シイカの好きそうな場所かぁ……」
「上手く足が手に入ってユキちゃんと会えたら恋人になれるといいねー」
「……恋人にはならないよ。お礼が言いたいだけだからさ」
「えー、だって好きだからずっと探してるんじゃー?」
「こら! 違うって言ってるんだから違うわよ……すみません、私にはそれくらいしか思いつかなくて」
「ううん、すごく助かったよ。ありがとうね。僕はそろそろ行くよ」
ハウはイルカに別れを告げると、大きい声で新井の名前を呼んだ。手を振りながら車椅子を押されて去って行くのを眺め続けた二頭は静寂が訪れたプールの中でまたぐるぐると泳ぎ始める。
「祝福、貰えるといいねー」
「貰えるといいけど……無理じゃないかしら」
「えー? なんでー?」
「だって、ユキちゃんのこと話すときの顔、絶対ハウさんってユキちゃんのこと好きだもの」
「えー、さっきは違うって言ったのにー」
「ハウさんの前で言えないわよ。人魚の祝福は、大昔に陸の男に恋した人魚の一途な想いに心を打たれた神様が捧げたものだから、別の人に恋をしたことがあったら貰えないって言い伝えもあるの。無理だから諦めろって言ってるようなものじゃない」
「えー、言ってあげるほうが優しさなんじゃないー? 無駄な時間過ごすことになるよー」
「海では有名な話だし、ハウさんも知ってそうな雰囲気だったもの。諦めがつかないところに追い打ちかけるみたいで出来るわけないじゃない」
マリンと名乗った一頭にそう聞かれてハウは声をあげて笑った。
「あははっ、僕が展示される為に来たかってこと? 違うよ。君たちに聞きたいことがあって」
「聞きたいことってなーに?」
水飛沫を上げることに夢中になっていたもう一頭、マーレもジャンプをやめるとハウに寄ってくる。
「人間の男ってどうやったら僕に惚れてくれると思う?」
「人間の……」
「男……」
マリンとマーレはハウの隣にいた冴えない人間の男の顔を思い出すと恐る恐る質問してくる。
「それは、さっきの男の人に好きになって貰いたいってこと?」
「あの男好きなの? もっとカッコいい人間にしようよー。釣り合ってないよー」
「こら。マーレ、ハウさんの好きな人間だったら大変でしょ」
「大丈夫だよ。別に好きじゃないからね。でも僕のことは好きになって貰いたいんだ」
ハウがそう言うと、マーレは頭に疑問符を浮かべていたがマリンは何かに感づいたようだ。
「……もしかして、足が欲しいんですか?」
「うん。そうなんだ」
「どういうことー?」
「マーレはここで生まれたから聞いたことがないのね。私は海で怪我してたとこを保護されたから……海では人魚は自分のことを人魚のまま愛してくれる人間の男から口付けをして貰えれば、海の神様の祝福が貰えて尾が足になるって言い伝えがあるのよ」
「何で足がほしいのー?」
「昔、僕が小さかった頃に助けてくれた人間にもう一度会ってお礼が言いたいんだよ。向こうは僕ってわかんないと思うし、僕もぼんやりとしか覚えてないんだけどさ。でも、もしかしたら見たらわかるかもしれないでしょ? だからどうしても足を手に入れたいんだ」
「確かに海の中にいるよりは可能性があるかもですが……」
「無謀だねー」
「こら!」
「いいよ。僕もそう思うし」
「どんな人なんですか?」
「髪の毛が黒い女の子」
「……」
「無謀だねー」
「お、女の子なのはわかるんですね」
「スカートだったのは覚えてるんだよ。あと名前はユキだったよ。後から来たお友達が大声でユキちゃんって呼んでたからそこだけ印象深くて」
「名前がわかってるなんてすごいじゃないですか!」
「ユキって人間の中じゃ超メジャーじゃーん。探すものが砂一粒から真珠一粒になったて感じー」
「こら!」
「だからさ、とりあえず足が欲しいなって思ってるんだよ。今までも挑戦してみたけど怯えて逃げられたりとか僕の仲間に人間と関わるなって邪魔されたりとかして失敗しちゃって。3週間くらい続いた人間もいたんだけど、僕のことを動画にして世界の人に配信したいとか言われたからそのときは逃げちゃったし」
「マーレ達もよく撮られるよー。人間ってなんで動画好きなんだろうねー?」
「人間は可愛いものや美しものを撮りたくなるとは聞きますが……」
「だからって人魚の存在が大勢にバレるのはまずいよね。僕以外の人魚達はあんまり人間に姿を見せないし、乱獲でもはじまったら流石に申し訳が立たないよ」
「事情はわかりましたけど、さっきの人間は大丈夫なんですか?」
マリンが不安そうに聞いてきたが、ハウは迷いなく答えた。
「シイカなら大丈夫だよ」
「それなら良いんですが……」
「じゃあ、あの人間オトす方法考えようよー」
「うん。考えて欲しいな。人間のことなら君たちのほうが詳しいでしょ?」
「お役に立てれば良いのですが……番になりそうな人間達は大体手を繋いでますよ」
「それって番になった後の話じゃないの?」
「ううん。番になる前から手を繋いだりるんだよー。そんでまた来たときは番になってたりとかもよく見たよねー」
「スキンシップが大事ってことかな。結構してるつもりなんだけど」
「人間はいつも行かないような場所の方がスキンシップの気分も盛り上がるみたいですよ」
「あの人間の好きそうな場所に行ってデートしたら良いんじゃないかなー?」
「シイカの好きそうな場所かぁ……」
「上手く足が手に入ってユキちゃんと会えたら恋人になれるといいねー」
「……恋人にはならないよ。お礼が言いたいだけだからさ」
「えー、だって好きだからずっと探してるんじゃー?」
「こら! 違うって言ってるんだから違うわよ……すみません、私にはそれくらいしか思いつかなくて」
「ううん、すごく助かったよ。ありがとうね。僕はそろそろ行くよ」
ハウはイルカに別れを告げると、大きい声で新井の名前を呼んだ。手を振りながら車椅子を押されて去って行くのを眺め続けた二頭は静寂が訪れたプールの中でまたぐるぐると泳ぎ始める。
「祝福、貰えるといいねー」
「貰えるといいけど……無理じゃないかしら」
「えー? なんでー?」
「だって、ユキちゃんのこと話すときの顔、絶対ハウさんってユキちゃんのこと好きだもの」
「えー、さっきは違うって言ったのにー」
「ハウさんの前で言えないわよ。人魚の祝福は、大昔に陸の男に恋した人魚の一途な想いに心を打たれた神様が捧げたものだから、別の人に恋をしたことがあったら貰えないって言い伝えもあるの。無理だから諦めろって言ってるようなものじゃない」
「えー、言ってあげるほうが優しさなんじゃないー? 無駄な時間過ごすことになるよー」
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