恋を諦めたヤンキーがきっかけの男と再会する話

てぃきん南蛮

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成就編

告白

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「……気絶してたお前を拾ったのはさ、本当に偶然だったんだ」
「ああ」
「その頃には確かにゲイになってたけど、寺崎への恋心とかなくなってたし。拾った男が寺崎だって知った後も、何とも思わなかったから"あ、平気そうだ"って安心したんだ」
「……ああ」
「平気、そうだったんだけどなぁ……」
荒垣は申し訳なさそうに頭をボリボリと掻いた。
「料理作って渡してさ、『ありがとう』って言われた時にあの寺崎に褒められた!って舞い上がったというか、ときめいたというか……」
「ときめいたって、乙女か」
「本当だよな」

「それで、あっという間に惚れ直しちまった」

たはは、と空元気に荒垣が笑う姿は風邪で弱っているのも合間って痛々しい印象が拭えなかった。
「俺さ、元がノンケだから性欲は男にしか反応しないけど、寺崎以外の男を好きになったことないんだよ」
「それなら女の恋人を作ることもできるだろ」
「無茶言うなって。かわいいなー、綺麗だなー、とは思うけど、そんだけ止まり。寺崎以外にこんなに好きになったことねーもん」
サラリと、会話に混ぜ込まれた好意に動揺から瞬きをする。
正直困った気持ちと、好意を寄せられている人としての仄暗い優越感がせめぎ合う。
感情の器の中を満たすのはその2つのみだ。
好意を寄せられること自体には、先日まではあったはずの嫌悪感は不思議と殆ど湧かなかった。
「俺以外に好きになったことないって……この前のアレは何なんだ」
「アイツは身体の関係的な。俺恋人いたことないんだよ」
「初めて会った時にイチャついてた女子高生は?」
「アレは適当に引っ掛けただけ」
「……だらしないな」
「寺崎といた期間は誰とも肉体関係はないからな!」
荒垣は慌てたように注意を差し込む。
信じたいのは山々だったが、寺崎にはまだ一番大きな疑念が残っていた。
「じゃあ真島は何なんだ」
「……なんで真島?」
荒垣は心底不思議そうに聞き返した。
「あいつ、お前がゲイだってことも知ってたぞ。それに、どうしてお前の家に居たんだ」
「あぁ、引っ越した先の高校の頃からの付き合いだからな、真島は。一番信頼してる。実はお前にフラれた夜に外に長居しすぎて風邪ひいた見たいで……真島には看病を頼んでた」
「看病……?それだけ?」
「おう。逆にそれ以外何があんの?」
「アイツ、『荒垣に"今の生き方"を教え込んだ』って言ってたぞ」
「生き方……?ああ!」
暫く心当たりがなさそうに頭をかしげていた荒垣が、納得したように目を見開いた。
「高校出てから独り暮らしするために、真島には料理とか家事とか色々教え込まれたんだよ。確かに生き方を教わったなァ」
ハハハと昔を思い出して笑う荒垣の一方で、寺崎は頭を抱えてがっくりと項垂れた。
確かに真島は味がどうのこうのと言っていた気がする。
ややこしい言い方をする奴……いや、あれは絶対にわざとだ。
邪推して間違いをした恥ずかしさと、勘違いするよう誘導した真島への怒りから、寺崎は声にならない唸り声を上げた。
「……真島には色々問い質す必要がありそうだな」
「あー……なんで今の話しの流れで真島が出たのかはわからねェけど、俺が好きなのは寺崎だけだよ」
「……お前はまだ俺のことが好きなのか?」
「好きだよ。きっと何度諦めても、その度にまた惚れ直す」
荒垣は掛け布団を握りしめて、あっけらかんと答えた。
最低な形でフラれたのに、まだコイツは俺のことが好きなのか。
バカな奴だと思った。どうしようもない奴だと呆れた気持ちもある。
けれども、愚直な荒垣にどこか安心した自分がいることに寺崎も気づいていた。
すると突然、荒垣がボフリと再びベッドに倒れた。
「おい!?荒垣!」
「やっと、好きって言えた」
ずっと抱えていた気持ちを自分の口で曝け出したからだろうか。熱でしんどそうながら、荒垣の表情はどこか吹っ切れていた。
言われてみれば、寺崎が荒垣の気持ちを言い当てただけで、荒垣本人の口から好意を直接告げられたことはなかった。
「もう悔いねェわ。死んでもいい」
「死ぬって、大袈裟な……」
「大袈裟なもんか」

「今まで1番好きになったのが寺崎だから、もう恋人は諦めた。俺はもう1人で生きていく」

声色こそ明るく言い切った荒垣だったが、浮かべた笑顔には落胆と諦めが滲んでいた。
このまま放っておいたら本当に荒垣が消えてしまいそうで、どうすればいいかわからなかった寺崎はシーツを握りしめる荒垣の手を握った。
「……なに」
「そんな寂しいこと言うな」
「寂しくねェよ。今まで通りだ」
「俺がいればいいんだろ」
寺崎が言葉を返した途端、それまで途切れることのなかった荒垣の言葉が聞こえなくなった。
不思議に思って寺崎が荒垣の顔を覗き込もうとした時、荒垣が寺崎の手を振り払った。
振り払われた手に寺崎が視線を逸らした瞬間、あっという間に荒垣は布団の中に包まってしまった。
「そんなこと簡単に言うな!お前、男無理なんだろ!」
篭って聞き取り辛かったが、ここにきて初めて荒垣が寺崎に対して怒鳴った。
「別に恋人としてでなくても、友人として……」
「無理に決まってんだろ!俺は寺崎だけが好きなんだ!もう告白しちまったし、今までみたいに気持ちを隠して一緒にいるなんて無理だ!」
「…………」
「どれだけ自然に振る舞おうとしても、絶対寺崎に対する好きがどっかで見え隠れする。そん時少しでも寺崎に嫌な顔されるのが……俺は、怖い」
少しずつ荒垣の声が小さくなっていき、最後は聞き取るのもやっとだった。
寺崎は己の発言が軽はずみなものだったのかを、荒垣の悲痛な叫びで痛感した。
荒垣はこれから先の人生を孤独に生きる覚悟で告白したのに、寺崎の心はずっとふわふわと宙ぶらりんになったままだ。
このままでは、ダメだ。
「……荒垣」
「…………グスッ……」
「捲るぞ」
鼻を啜る音が聞こえて、寺崎は布団に手をかけた。
荒垣を包む布団は以外にも握りしめられておらず、あっさりと荒垣から剥がれた。
布団の中から現れた荒垣は、寺崎も初めて見る泣き顔を晒していた。
クシャクシャの下手くそな泣き顔は、まるで荒垣の心そのものみたいだ。
「お前はもう、俺に合わないつもりか?」
「……ズッ……てらさきに、嫌われたくねェから……」
鼻を啜りながら、荒垣は頷いた。
寺崎は男と付き合う趣味はないし、嫌悪感も感じる。
それでも、優柔不断でどうしようもない寺崎にここまで心を砕いて泣きじゃくる荒垣を、寺崎は手放し難いと感じていた。
「荒垣に2度と会えないか、お前の好意を受け止めるかどちらかしかないのなら」
「…………?」

「俺はお前と離れたくないよ」

荒垣の告白に嫌悪感を抱かない時点で、きっともう答えは出ていた。
荒垣のことが恋愛的な意味で好きかと言われると、答えはノーだ。そんな対象として荒垣を見ていたことがないから。
ただ、もしも恋愛感情が芽生える可能性があるなら、育ててみるのもアリだと思った。
それほどまでに、荒垣が寺崎の心を動かした。
寺崎の言葉に暫くポカンとしていた荒垣は、次第に言葉の意味を噛み砕いて理解したのか、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
「それは……俺の都合のいいように受け取っていいの?」
「ああ」
「でも……でも、俺のことが好きってわけでもないんだろ」
「側にいたいと思えるだけ可能性はあるさ。俺とお前で、お互いが好きになれるよう頑張ろう」
荒垣の涙が余計に溢れて仕方がない。
拭ってもキリがないので、落ち着かせるように再び荒垣の手を握った。今度は振り払われることはなかった。
「……1つだけワガママ言っていい?」
「なんだ?」
今まで散々荒垣を振り回してきたようだし、多少の我儘なら叶えてやるつもりだった。
「……ハグしたい」
しかし、荒垣が口にした我儘は、図体とは似つかわしくない、随分とかわいいものだった。
「どうぞ」
寺崎は腕を広げて荒垣を待った。
鼻を啜りながら起き上がった荒垣は、警戒するように、ゆっくりと寺崎に身を寄せる。
荒垣の動きがあまりにじれったいので、荒垣の手が寺崎の背に触れる前に、寺崎は荒垣を抱き寄せた。
腕の中で寺崎よりも大きな図体がビクリと大袈裟に跳ねる。右の胸からバクバクと慌ただしい鼓動の音が聞こえるので、荒垣に気づかれないように寺崎は笑った。
 
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