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第三章 力の秘密と裏社会
帰ってきた(非)日常……?
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『……ごめんな、この前行けなくて。大丈夫だったか?』
「うん、ネックレスがあったからへーき」
『それなら良かった。次の新月のときは家に行けるようにするから歩夢も無理するなよ?』
「ありがと、兄ちゃん……」
* *
「おはようございます~」
朝、いつものようにあくびを殺しながらカフェのバイトに出勤するとみんな一斉にこっちを向いてしんとなる。
あれ、もしかしてシフト間違えた……?
一瞬そう思ったが、全く違うことが次の瞬間にわかった。
「歩夢、急に辞めるなんてどういうことだよ」
「え?」
真っ先に口を開いたのは直哉だった。
深刻そうな顔をしてこちらへ歩み寄ってくる。
え、急になに?
「どうして言ってくれなかったんだ」
「歩夢くん、お兄さんの体調は大丈夫なの?」
「その、もう長くないって……」
「え、は?」
店長や仕込みをしていた他のバイトの子達までも口を揃えてそんなことを言う。
みんなが何のことを言っているのかさっぱりわからない。
なんせ兄ちゃんとは昨日電話したばかりだし元気そうだった。
「バイト、辞めるんだろ?」
「辞めないよ!?」
「でも昨日歩夢くん電話で……」
おれは店に電話なんてしてないし、辞めるなんて全く考えてもいない。
皆がざわつく中おれはまさかと考え込む。
心当たりがあるとすれば――――。
*
「おい、どういうことだよ!」
おれは乱暴に事務所のドアを開けて声を張り上げる。
おれの怒りの対象はゆっくり顔を上げてこちらを向いた。
「やっと来たか。想像より遅かったな」
「遅かったな、じゃない。なんでおれがバイト辞めることになってるんだよ」
「辞めてもらうと言ったはずだが?」
怒りの対象である龍ケ崎は事も無げに言ってのける。
やっぱりお前じゃんか!
「おれは拒否したし!なのになんで勝手に」
「お前に話したところで辞めるとは言わんだろうが」
当たり前だ!
「それでも言うもんだろ、普通!報・連・相大事!!」
ぜぇはぁと息を切らしながら叫んでいると、横から日下部さんがお茶を差し出してくる。
それを受け取って一気に飲み干す。
ちょっと落ち着いた。
「とにかくおれはバイトを辞めないし、仲間になるつもりなんてない。そもそも何をする集まりなのかも分かってない」
おまけに銃なんて危ない物が普通に出てくるような世界に足を踏み入れたくない。
確かに依頼を受けたときは非日常感に少しそわっとしたけど、これが日常になってしまったら命がいくつあっても足りない。
「そうだな。やってることはお前の依頼とそう変わらない」
「どこが」
「違いといえばこちらに利益があるかどうか。それ次第ではどんな手を使ってでも遂行する」
どんな手を使ってでも、その言葉に偽りがないことは身をもって知っている。
「そうそう、だから受け入れちゃった方が楽だよ~」
「千影さんいつの間に!」
さっきまで部屋にいなかった千影さんがソファに座ってお茶を飲んでいた。
健斗さんは我関せずといった様子でスマホをいじっている。
「それにもう歩夢くんは手遅れなんじゃないかなぁ~?」
「な、何が……」
「冬吾を狙う悪~い奴らに歩夢くんとの関わりがバレちゃったからね~」
前にナイフ突きつけられたでしょ、と千影さんは続けた。
口調は緩いのに千影さんの目は笑っていなかった。
そういえばそうだ。
確かあのとき龍ケ崎の居場所を聞かれた気がする。
おれに特殊能力がなかったら人質として捕まっていたか、最悪殺されていただろう。
「その点に関しては仲間としてこちらにいる限りはお前の身の安全を保障しよう」
ここまで言われてしまうとその方が安心な気もしてくる。
いくらおれに力があれど武装して大勢で来られたらどうにも出来ないし、けど龍ケ崎と関わる方がもっと危険な気はする。
でも龍ケ崎関連なら龍ケ崎達の方が詳しいのは間違いない。
あ~もうわからん。
「……言っておくけど、おれは仲間になるんじゃない。身の安全のためにアンタらを利用するだけだ」
おれは仲間になってやるつもりは毛頭ない。
「強情だな。その意地がいつまで持つか」
「言ってろ。それとバイトは辞めないからな」
「まぁ好きにしろ。どうせ自ら辞めることを選ぶことになるだろうからな」
「それは絶対にない」
そう断言すると龍ケ崎は勝ち誇ったように笑った。
「こうして歩夢が仲間になることを了承したわけだ」
「してねぇ」
「しかも自らここへやってきたということは何されても文句はないということだ」
「はい?」
龍ケ崎は口角を上げて立ち上がり、わざわざ隣に腰掛けてくる。
毎回思うけどなんでいつもおれの隣は都合よく空いてるんだ。
「冬吾様、今日はこの後大事な会談、会食が控えておりますので歩夢様を大人しく帰した方が良いかと」
「チッ」
いや舌打ちデカッ。
大人しく引き下がる辺り本当に忙しいんだろう。
そういや龍ケ崎って社長だもんな。
「おい、千影。歩夢を家まで送ってやれ」
「はいは~い」
こうしておれは今日は無事に家に帰れたのだった。
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