上 下
19 / 23
第二章 危険な依頼と怪しい依頼人

意味深な言葉と疑問

しおりを挟む
小難しい会議?の後、次に連れてこられたのはとある料理亭だった。
おれなんかが入っていいのか?と入口で逡巡していると龍ケ崎に腕を引かれあれよあれよという間に席に座らされてしまった。
しぶしぶメニューを開き目を疑った。
お値段の桁が多い……!
しかも知らないメニュー名ばかり。
目を白黒させている間にささっと冬吾が注文を済ませる。
え、はやっ。
待っておれ、財布にいくら入ってたっけ?
ぐるぐると考えているとおれの心中を察したのか龍ケ崎は同じものを二つ注文した。

「安心しろ、ここは俺の奢りだ」

このときばかりは感謝した。
奢りならいっかとメニューを閉じて料理を待つ。
日下部さんは所用があるとのことで席を外していた。
改めて考えてみるとなんでおれはこんな所に龍ケ崎といるんだろうか。
本来ならさっさと帰って家でゆっくりする予定だったのに。
なんせ今日は久しぶり何も予定のない休日だったのだ。
食べたら即刻帰ってやる!
そう息巻いていたがその願いはあっさり叶うこととなる。
料理を待っている間に龍ケ崎のスマホが鳴った。
画面の表示を見た龍ケ崎は一瞬顔をしかめて席を外した。
数分して戻ってきた龍ケ崎は不機嫌そうな顔をしていた。

「……悪いがこの後急用が入ったから俺は店を出る。お前はどうする?このまま食べていくなら千影を迎え用に呼ぶが」

「じゃあ食べてく」

滅多に食べられないような額の高級料理なのだ。ここで食べなかったら次はいつ食べられるのかわからない。
それに龍ケ崎と早く離れられるならそれに越したことはない。
おれがそう答えると龍ケ崎は少し眉根を下げて「そうか」と頷く。
着いてきて欲しかったんだろう。
龍ケ崎の機嫌なんか知るか。おれはご馳走を食べるんだ。

「なら、千影が来るまでここを離れるなよ」

龍ケ崎はいつものおれの行動を見越して釘を刺す。
しかし余程急ぎの用だったのかそれだけ言うと出入口で待機していた日下部さんを連れて行ってしまった。
程なくして料理が次々と運ばれてくる。おれはその料理の数々に目を輝かせながら舌鼓を打つ。
どれもこれも美味しい~!
自然と零れる笑みを抑えつつおれは次々と料理に手を伸ばす。
そして運ばれてきた料理を全てたいらげる頃、千影さんがやって来た。

「美味しかった?」

「はい、それはもう!」

普段あまり見せないおれの満面の笑みに千影さんはふふっと笑って「そんな顔もするんだね」と口にする。
おれだって笑うわ、とは思ったものの美味しい料理を食べられて満足したおれは口にするのを止めた。
どうやら食事代は先に龍ケ崎が支払っていたようで、そのまま千影さんの後を追って車に乗り込んだ。
やっと家に帰れる……。
到着まで寝てようと目を閉じたところ車を運転する千影さんに話しかけられる。

「冬吾とのデート楽しかった?」

「で、デート?」

思わぬ言葉におれは首を傾げる。
あれは拉致りの延長でありデートなどでは断じてない。しかも社会見学という名の修羅場を見せられて、龍ケ崎の金で一人でご飯を食べただけだ。デートらしさの欠けらも無い。

「あれ、違った? 昨日冬吾から明日連れ回すから歩夢くんを連れてきたらすぐ帰っていいって言われてたんだけど」

「拡大解釈しすぎです」

おれがバッサリと言い切ると千影さんは「なんだ~」と少し残念そうにした。
そこで残念がる意味がわからない。
というか龍ケ崎ははなからおれを泊める気でいたのか。
ブランケットなんてかけずにそのまま帰れば良かった!
そうすればあんな恥ずかしいこと……!
そう悔やんでも後の祭りだ。
おれは頭に浮かび上がる昨日の記憶をぶんぶんと頭を振って追い出す。

千影さんと会話しているうちにあっという間におれの家に到着する。
おれは千影さんにお礼を告げて車を降りた。
すると何かを思い出したように千影さんは車の窓を開けて顔を出す。

「多分しばらくは誰も迎えに行けないと思うからゆっくり休めると思うよ」

「もう来ないでくれたらもっとゆっくり休めるんですけどね」

「まぁまぁそんなこと言わずにさ~」

千影さんは楽しそうにおれの嫌味を受け流した。
そうか、しばらくは来ないのか。
それはとても助かるな。

「……あと少しだね~」

千影さんは突拍子もなくそんなことを言う。
なんのことなのかさっぱりわからない。

「何がですか?」

「ん~、なんだろうね~?」

千影さんはおれの問いに答えてくれなかった。
この感じだと多分教えてはくれないだろう。
前もそうだった。
教えてくれないくせに匂わせるのやめて欲しいんだけど。

「それじゃ、僕はもう行くね」

「はい、ありがとうございました」

おれはぺこりと頭を下げて数歩下がる。
千影さんはハンドルに手をかけて車の窓を閉めながら口を開く。

「……君のこと気に入ってるんだ。お願いだから僕に殺させないでよ」

「え、今の」

どういう意味ですか? そう問いかけようとして車に近付く。しかし窓は完全に閉まってしまい、千影さんもニッコリ笑うだけでそのまま行ってしまった。

おれはそのまま玄関へ向かう。
その間もなぜか千影さんの言葉が頭から離れない。
あれは冗談、だよな?
ふとおれは自分が関わっている人達が何者なのか全く知らないことに気付く。
知る必要もないと思っていた。
そもそも何も教えてくれないくせに仲間になれというのもおかしな話だ。
龍ケ崎達は裏で何をやってる……?
それになんでこんなにおれに構うんだろう……?
いや、考えるだけ時間の無駄か。
おれは次々湧いてくる疑問を頭の隅に追いやって依頼の資料を取り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

可愛い男の子が実はタチだった件について。

桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。 可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

悠遠の誓い

angel
BL
幼馴染の正太朗と海瑠(かいる)は高校1年生。 超絶ハーフイケメンの海瑠は初めて出会った幼稚園の頃からずっと平凡な正太朗のことを愛し続けている。 ほのぼの日常から運命に巻き込まれていく二人のラブラブで時にシリアスな日々をお楽しみください。 前作「転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった」を先に読んでいただいたほうがわかりやすいかもしれません。(読まなくても問題なく読んでいただけると思います)

処理中です...