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第二章 危険な依頼と怪しい依頼人
お呼ばれしちゃいました
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千景さんに送られて数日が経った天気のいい昼下がり、おれは依頼人の影山さんとカフェの奥の部屋で依頼の打ち合わせをしていた。
「先日頂いた資料に一通り目を通しました。お知り合いということもあってか細かく書かれていてとても分かりやすかったです」
「そりゃ頑張ったかいがあったな」
影山さんは満足そうに頷く。
「簡単にではありますがおれも調べてみました」
おれは影山さんの目の前にプリントアウトした資料を並べる。
「まず千崎渉について調べたものが一枚目の資料です」
「あぁ、俺はそいつが犯人だと確信してる」
自信ありげに影山さんは頷いた。
盗られた所を目撃した訳でもないのにどうしてここまで断言出来るのだろうか。
千崎渉。
千崎グループ社長の一人息子。二十四歳。
千崎グループもかなり大きい会社だからお金に困ることもあまりないはず。
彼は男色家らしくゲイバーやその手の風俗に金を湯水のように使っているらしい。
金目のもの目当てとは考えにくい。
ということは影山さんが盗まれたという黒い箱の中身が重要だろうな。
「彼はとても用心深い方のようですね。セキュリティ対策にかなりお金をかけている。余程盗られたくない物があるのか、あるいは見られて困るものがあるのか……」
おれの言葉に影山さんの目が鋭く光った。
影山さんは盗られた箱の中身については教えてくれなかった。
ということは知らなくてもいいということだろう。
受けた以上は目の前の依頼をただこなすだけだ。
影山さんはおれを探るようにじっと見つめる。
その瞳に何故かおれは違和感を覚えた。
あぁカラコンか。
まぁカラコンなんて今どき珍しくもないよな。
「ところで影山さん。セキュリティ調査で一番手っ取り早い方法ってなんだと思います?」
「あ?」
影山さんはキョトンとした顔をした。
「潜入ですよ。潜入!」
「潜入出来ないからこっちはセキュリティ調査頼んでんだけど?」
「潜入出来ても物を持ち出せるのとは別の話ですからね。それに内部からセキュリティ調べた方が早いですよ。ということで今度千崎さんの家に行ってきますね」
「待て、どうやって入るってんだ?アイツの用心深さからして真正面から入っても怪しまれて追い出されるだけだぞ」
影山さんは訝しむようにおれを見る。
「実はなんでか千崎さんの家にお呼ばれしちゃいました」
「え!?なんで、どうやって!?」
影山さんは心底驚いたように目を見開いた。
驚きのあまり口調が変わってるよ。
もしかしてこっちが素なんじゃないだろうか?
「まぁたまたま知り合いになりまして……」
「アイツがそんな簡単に家に人を呼ぶなんて思えないんだけど……」
おれは笑ってごまかす。
「機嫌がよかったんじゃないでしょうか?」
なんてね。
知り合ったのは偶然じゃない。
そのあとの展開は色々と予想外で不本意な部分もあったけど。
それは一昨日のことである。
千崎の情報を得るために千崎家周辺を歩いていたときだった。
「郵便配達の人の話だとそろそろ帰ってくる頃だよな」
時刻は午後四時。
この時間帯に千崎が帰宅するのをよく見掛けるらしい。
陰からこっそり様子を伺う。
すると千崎家の目の前に一台の黒い車が止まった。
車から降りてくる人物を目を凝らして見る。
……千崎渉だ。
顔写真を事前に貰っていてよかった。
いかにも女遊びしてますって感じのチャラさだな。
実際してるのは男遊びだけど。
正直自分の身体を使いたくはなかったが、いざとなれば能力で逃げれるしと覚悟を決める。
ぎゅっと拳を握り締め、おれは勢い良く千崎目掛けて走り出した。
そして思いっきり千崎にぶつかる……はずだった。
しかし思っていたような衝撃もなくただポスンと温もりに包まれた。
不思議に思って顔を上げると千崎と目が合った。
どうやら千崎に受け止められたらしい。
「ごごめんなさいっ、おれ前ちゃんと見てなくて!」
とりあえず慌てて謝る、フリをする。
当初の予定とは違ったけど接触は成功かな。
「俺は大丈夫だよ。可愛い天使が走ってきたから思わず抱きとめてしまったけど、君こそ怪我はないかい?」
微笑みながらも真剣な眼差しの千崎の台詞に思わず固まる。
て、天使……?
「見つめてくれるのは嬉しいけど一旦離れようか」
「え、あ、すみませんっ」
慌てて離れると千崎は楽しそうに笑った。
「いいよ。それと君、ワイシャツのボタン掛け違えてるよ」
そう言われて見てみるとボタン全部がかけ違えている状態だった。
「本当だ!?」
なんでおれ、肝心なときにドジるんだ……。
これはさすがに恥ずかしい。
顔に熱が集まるのがわかる。
慌てて直そうとするけど焦っているせいか上手くいかない。
「焦んなくてもいいよ。ほっぺ赤くなっちゃって可愛い。なんならお兄さんがやってあげる」
そう言って千崎はぱぱっとおれのワイシャツのボタンを直した。
その最中に千崎の指がおれの乳首を掠めたのは気のせいだと思いたい。
そしておれの頭をぽんぽんと撫でる。
なんか子供扱いされてる……?
「ありがとうございます」
「君本当に可愛いね。名前はなんて言うの?」
「御子柴歩夢です」
あ、しまった。
うっかり本名名乗ってしまった。
千崎のペースに呑まれかけていることに気付き、気を引き締める。
「俺は千崎渉だよ。歩夢君さ、今度俺の家で遊ばない?ここ俺の家なんだ。今日は時間的に無理なんだけど三日後なら予定空いてるんだ」
千崎はそう提案する。
よくわかんないけどこれは絶好のチャンスだ。
行かない手はない。
「行きます!」
おれは元気よくそう返した。
と、まぁそんなこんなで千崎の家にお呼ばれしたわけです。
千崎が単純で助かった……。
用心深いくせにそっち方面はガバガバか!
「先日頂いた資料に一通り目を通しました。お知り合いということもあってか細かく書かれていてとても分かりやすかったです」
「そりゃ頑張ったかいがあったな」
影山さんは満足そうに頷く。
「簡単にではありますがおれも調べてみました」
おれは影山さんの目の前にプリントアウトした資料を並べる。
「まず千崎渉について調べたものが一枚目の資料です」
「あぁ、俺はそいつが犯人だと確信してる」
自信ありげに影山さんは頷いた。
盗られた所を目撃した訳でもないのにどうしてここまで断言出来るのだろうか。
千崎渉。
千崎グループ社長の一人息子。二十四歳。
千崎グループもかなり大きい会社だからお金に困ることもあまりないはず。
彼は男色家らしくゲイバーやその手の風俗に金を湯水のように使っているらしい。
金目のもの目当てとは考えにくい。
ということは影山さんが盗まれたという黒い箱の中身が重要だろうな。
「彼はとても用心深い方のようですね。セキュリティ対策にかなりお金をかけている。余程盗られたくない物があるのか、あるいは見られて困るものがあるのか……」
おれの言葉に影山さんの目が鋭く光った。
影山さんは盗られた箱の中身については教えてくれなかった。
ということは知らなくてもいいということだろう。
受けた以上は目の前の依頼をただこなすだけだ。
影山さんはおれを探るようにじっと見つめる。
その瞳に何故かおれは違和感を覚えた。
あぁカラコンか。
まぁカラコンなんて今どき珍しくもないよな。
「ところで影山さん。セキュリティ調査で一番手っ取り早い方法ってなんだと思います?」
「あ?」
影山さんはキョトンとした顔をした。
「潜入ですよ。潜入!」
「潜入出来ないからこっちはセキュリティ調査頼んでんだけど?」
「潜入出来ても物を持ち出せるのとは別の話ですからね。それに内部からセキュリティ調べた方が早いですよ。ということで今度千崎さんの家に行ってきますね」
「待て、どうやって入るってんだ?アイツの用心深さからして真正面から入っても怪しまれて追い出されるだけだぞ」
影山さんは訝しむようにおれを見る。
「実はなんでか千崎さんの家にお呼ばれしちゃいました」
「え!?なんで、どうやって!?」
影山さんは心底驚いたように目を見開いた。
驚きのあまり口調が変わってるよ。
もしかしてこっちが素なんじゃないだろうか?
「まぁたまたま知り合いになりまして……」
「アイツがそんな簡単に家に人を呼ぶなんて思えないんだけど……」
おれは笑ってごまかす。
「機嫌がよかったんじゃないでしょうか?」
なんてね。
知り合ったのは偶然じゃない。
そのあとの展開は色々と予想外で不本意な部分もあったけど。
それは一昨日のことである。
千崎の情報を得るために千崎家周辺を歩いていたときだった。
「郵便配達の人の話だとそろそろ帰ってくる頃だよな」
時刻は午後四時。
この時間帯に千崎が帰宅するのをよく見掛けるらしい。
陰からこっそり様子を伺う。
すると千崎家の目の前に一台の黒い車が止まった。
車から降りてくる人物を目を凝らして見る。
……千崎渉だ。
顔写真を事前に貰っていてよかった。
いかにも女遊びしてますって感じのチャラさだな。
実際してるのは男遊びだけど。
正直自分の身体を使いたくはなかったが、いざとなれば能力で逃げれるしと覚悟を決める。
ぎゅっと拳を握り締め、おれは勢い良く千崎目掛けて走り出した。
そして思いっきり千崎にぶつかる……はずだった。
しかし思っていたような衝撃もなくただポスンと温もりに包まれた。
不思議に思って顔を上げると千崎と目が合った。
どうやら千崎に受け止められたらしい。
「ごごめんなさいっ、おれ前ちゃんと見てなくて!」
とりあえず慌てて謝る、フリをする。
当初の予定とは違ったけど接触は成功かな。
「俺は大丈夫だよ。可愛い天使が走ってきたから思わず抱きとめてしまったけど、君こそ怪我はないかい?」
微笑みながらも真剣な眼差しの千崎の台詞に思わず固まる。
て、天使……?
「見つめてくれるのは嬉しいけど一旦離れようか」
「え、あ、すみませんっ」
慌てて離れると千崎は楽しそうに笑った。
「いいよ。それと君、ワイシャツのボタン掛け違えてるよ」
そう言われて見てみるとボタン全部がかけ違えている状態だった。
「本当だ!?」
なんでおれ、肝心なときにドジるんだ……。
これはさすがに恥ずかしい。
顔に熱が集まるのがわかる。
慌てて直そうとするけど焦っているせいか上手くいかない。
「焦んなくてもいいよ。ほっぺ赤くなっちゃって可愛い。なんならお兄さんがやってあげる」
そう言って千崎はぱぱっとおれのワイシャツのボタンを直した。
その最中に千崎の指がおれの乳首を掠めたのは気のせいだと思いたい。
そしておれの頭をぽんぽんと撫でる。
なんか子供扱いされてる……?
「ありがとうございます」
「君本当に可愛いね。名前はなんて言うの?」
「御子柴歩夢です」
あ、しまった。
うっかり本名名乗ってしまった。
千崎のペースに呑まれかけていることに気付き、気を引き締める。
「俺は千崎渉だよ。歩夢君さ、今度俺の家で遊ばない?ここ俺の家なんだ。今日は時間的に無理なんだけど三日後なら予定空いてるんだ」
千崎はそう提案する。
よくわかんないけどこれは絶好のチャンスだ。
行かない手はない。
「行きます!」
おれは元気よくそう返した。
と、まぁそんなこんなで千崎の家にお呼ばれしたわけです。
千崎が単純で助かった……。
用心深いくせにそっち方面はガバガバか!
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