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第二章 危険な依頼と怪しい依頼人
新たな依頼
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「なぁ歩夢、最近やけに疲れてないか?」
「そ、そうか?」
バイトの休憩中、テーブルに突っ伏していたおれを見て直哉は心配そうに声を掛けてきた。
直哉から手渡された飲み物を受け取っておれは一気に飲む。
直哉は意外と鋭い。
というかおれが分かりやすいのか?
直哉の言う通りおれは少し疲れていた。
というのも、あれから何度か龍ケ崎に拉致られそうになりそのたびに逃げ回っていたのだ。
龍ケ崎も忙しいのかあまりしつこく追ってこないので今のところ無事に家に帰れている。
ネックレスについているGPSがある限りおれはあいつから逃げ切ることなんて出来ないんだろうけど。
それを分かっていながらネックレスを身に付けないわけにもいかずGPSを外すことも出来ず、なんとなくそのままにしていた。
それが仇となるとは……。
「歩夢の体質上色々問題抱えるのも分かるけどさ、話いくらでも聞いてやるから一人で抱え込むなよな」
直哉はくしゃっとおれの頭を撫でて休憩室を出ていった。
直哉は本当にいいやつだ。
ちょっと心配性なところはあるけど常におれの身を案じてフォローしてくれる。
非常にありがたい存在である。
なんてしみじみと考えていると直哉が休憩室に戻ってきた。
「歩夢、お前に客だ」
――――――――――――
慌ててフロアに出てみると革ジャンを羽織りアクセサリーをジャラジャラと身に付けた銀髪オールバックの男性がレジの近くに立っていた。
直哉に案内されて男性の元へ向かう。
男性はおれに気付くとおれを訝しむように見る。
「アンタがなんでも解決してくれるっつー御子柴歩夢さん?」
「はい。なんでもという訳では無いですが、お客様のお悩み相談はいくつもお受けしてきました」
おれがそう答えると男性は少し驚いたように目を見開いて、ガキじゃんかよとボソッとつぶやく。
聞こえてるんだけど……。
悪かったな、ガキっぽい見た目で!
内心カチンときながらも聞こえてないフリをして微笑む。
この男性も何やら解決してほしいことがあるらしい。
苦手なタイプではあるけど依頼人を無下にもできない。
「アンタにお願いしたいことがあんだけど」
「おれで良ければ話を聞きましょう。お好きな席にお座り下さい」
おれがそう促すと男性は首を横に振った。
「いや、あんま人に聞かれたくない話なんだよ。個室とかないのか?」
「それでしたら奥の部屋へどうぞ」
おれは男性をホールから少し離れた部屋へと案内する。
今は使われていない物置部屋を掃除してテーブルとイス等を置いただけのシンプルな部屋だ。
これは前回龍ケ崎に拉致られたことから学んで店長と決めたことだ。
おれに来る依頼は月々増えている。
気付けば身近な人の悩み相談という域を超えていた。
なのでお客様と外で会ってトラブルにならないための対策である。
「座ってください。今お茶を用意しますね」
おれは男性のお茶を用意してからイスに腰掛ける。
おれと男性の二人だけの空間に少し緊張が走る。
さてこれで準備は整ったな。
「お名前お伺いしてもよろしいですか?」
「あぁ、影山朝日だ」
「それでお願いというのは?」
影山さんは話すのを躊躇っているようだ。
少し間を空けてから意を決したように口を開いた。
「実はな一週間くらい前に家に泥棒が入ったんだよ。そこでオレの大事な物を盗られた。それを取り返して欲しい。丁度それくらいの黒い箱だ」
影山さんはテーブルの横に置いてあったティッシュの箱を指さした。
「警察には話したのですか?」
「いいや……。色々事情があってあんまり大事にしたくないっつーか……」
影山さんの返事はどうにも歯切れが悪い。
訳ありか……。
この場合は警察に相談した方が絶対早い。
おれはちょっと特殊能力を使えるただの一般人だ。
「犯人の検討はついてんだ。ただオレじゃ顔が割てて警戒されちまうし、セキュリティが厳しい。だからアンタにお願いしたいのはセキュリティ調査と盗られた箱の在り処を探すこと、そして持ち出すこと」
影山さんはそう言うけどなかなかの難題だ。
セキュリティが厳しい所に入り込むのもなかなかに難しいが、そこから物を持ち出すとなると……。
おれはリスクの高さにこの依頼を受けるべきかどうか悩む。
基本的におれはお客さんの依頼は無報酬で受けている。
まぁ集客に貢献してるってことで給料は他の人より多く貰ってはいるが、善意のみで協力するにはリスクが高すぎる。
「セキュリティさえわかればロック解除はこっちでやる。ロック解除は得意だからな。オレがロックを解除した隙にアンタは箱を家の外まで持ち出す。外にオレの仲間を待機させるからそいつに渡せば完了。どうだ?」
どうやら影山さんは取り返す計画も立てていたらしい。
用意周到なことだ。
そこまで計画を立てているのならセキュリティ調査も出来そうな気もするけど。
よく見るとチャラチャラした見た目の割りには身に着けている物は高そうなものばかりだ。
見た目ただの不良というわけでもなさそうだな。
影山さんは外見や口調に比べて動作に上品さがあった。
そこに違和感を感じたけど家か親がしっかりしてるんだろうと結論づけた。
「そうですね。そこまで計画を立てているのならお受けしましょう。ですがリスクが高い依頼ですのでこちらから条件を出させていただきます」
「なんだ?」
「おれに依頼したことをいっさい口外しないこと。この依頼においておれがどんな手段を用いたか聞かないこと。それと取り返した後で何かあってもおれは責任を負いません。それでもいいですか?」
おれの条件に対し影山さんは余裕の笑みを浮かべた。
この条件は要するに保身だ。
危険と隣り合わせの依頼は今までもいくつかあったが今回は特に気をつけなければならない。
それなのにどうしてだろう。
自然と湧き出る高揚感におれは胸を高鳴らせた。
ちょっとしたスリルを感じて楽しんでいるとでもいうのだろうか。
「ああ、かまわない」
影山さんはニヤリと口角をあげた。
影山さんがじっと見つめていることに気付かずにおれはお茶を口に含んだ。
かくしておれは新たな依頼を引き受けたのだった。
「そ、そうか?」
バイトの休憩中、テーブルに突っ伏していたおれを見て直哉は心配そうに声を掛けてきた。
直哉から手渡された飲み物を受け取っておれは一気に飲む。
直哉は意外と鋭い。
というかおれが分かりやすいのか?
直哉の言う通りおれは少し疲れていた。
というのも、あれから何度か龍ケ崎に拉致られそうになりそのたびに逃げ回っていたのだ。
龍ケ崎も忙しいのかあまりしつこく追ってこないので今のところ無事に家に帰れている。
ネックレスについているGPSがある限りおれはあいつから逃げ切ることなんて出来ないんだろうけど。
それを分かっていながらネックレスを身に付けないわけにもいかずGPSを外すことも出来ず、なんとなくそのままにしていた。
それが仇となるとは……。
「歩夢の体質上色々問題抱えるのも分かるけどさ、話いくらでも聞いてやるから一人で抱え込むなよな」
直哉はくしゃっとおれの頭を撫でて休憩室を出ていった。
直哉は本当にいいやつだ。
ちょっと心配性なところはあるけど常におれの身を案じてフォローしてくれる。
非常にありがたい存在である。
なんてしみじみと考えていると直哉が休憩室に戻ってきた。
「歩夢、お前に客だ」
――――――――――――
慌ててフロアに出てみると革ジャンを羽織りアクセサリーをジャラジャラと身に付けた銀髪オールバックの男性がレジの近くに立っていた。
直哉に案内されて男性の元へ向かう。
男性はおれに気付くとおれを訝しむように見る。
「アンタがなんでも解決してくれるっつー御子柴歩夢さん?」
「はい。なんでもという訳では無いですが、お客様のお悩み相談はいくつもお受けしてきました」
おれがそう答えると男性は少し驚いたように目を見開いて、ガキじゃんかよとボソッとつぶやく。
聞こえてるんだけど……。
悪かったな、ガキっぽい見た目で!
内心カチンときながらも聞こえてないフリをして微笑む。
この男性も何やら解決してほしいことがあるらしい。
苦手なタイプではあるけど依頼人を無下にもできない。
「アンタにお願いしたいことがあんだけど」
「おれで良ければ話を聞きましょう。お好きな席にお座り下さい」
おれがそう促すと男性は首を横に振った。
「いや、あんま人に聞かれたくない話なんだよ。個室とかないのか?」
「それでしたら奥の部屋へどうぞ」
おれは男性をホールから少し離れた部屋へと案内する。
今は使われていない物置部屋を掃除してテーブルとイス等を置いただけのシンプルな部屋だ。
これは前回龍ケ崎に拉致られたことから学んで店長と決めたことだ。
おれに来る依頼は月々増えている。
気付けば身近な人の悩み相談という域を超えていた。
なのでお客様と外で会ってトラブルにならないための対策である。
「座ってください。今お茶を用意しますね」
おれは男性のお茶を用意してからイスに腰掛ける。
おれと男性の二人だけの空間に少し緊張が走る。
さてこれで準備は整ったな。
「お名前お伺いしてもよろしいですか?」
「あぁ、影山朝日だ」
「それでお願いというのは?」
影山さんは話すのを躊躇っているようだ。
少し間を空けてから意を決したように口を開いた。
「実はな一週間くらい前に家に泥棒が入ったんだよ。そこでオレの大事な物を盗られた。それを取り返して欲しい。丁度それくらいの黒い箱だ」
影山さんはテーブルの横に置いてあったティッシュの箱を指さした。
「警察には話したのですか?」
「いいや……。色々事情があってあんまり大事にしたくないっつーか……」
影山さんの返事はどうにも歯切れが悪い。
訳ありか……。
この場合は警察に相談した方が絶対早い。
おれはちょっと特殊能力を使えるただの一般人だ。
「犯人の検討はついてんだ。ただオレじゃ顔が割てて警戒されちまうし、セキュリティが厳しい。だからアンタにお願いしたいのはセキュリティ調査と盗られた箱の在り処を探すこと、そして持ち出すこと」
影山さんはそう言うけどなかなかの難題だ。
セキュリティが厳しい所に入り込むのもなかなかに難しいが、そこから物を持ち出すとなると……。
おれはリスクの高さにこの依頼を受けるべきかどうか悩む。
基本的におれはお客さんの依頼は無報酬で受けている。
まぁ集客に貢献してるってことで給料は他の人より多く貰ってはいるが、善意のみで協力するにはリスクが高すぎる。
「セキュリティさえわかればロック解除はこっちでやる。ロック解除は得意だからな。オレがロックを解除した隙にアンタは箱を家の外まで持ち出す。外にオレの仲間を待機させるからそいつに渡せば完了。どうだ?」
どうやら影山さんは取り返す計画も立てていたらしい。
用意周到なことだ。
そこまで計画を立てているのならセキュリティ調査も出来そうな気もするけど。
よく見るとチャラチャラした見た目の割りには身に着けている物は高そうなものばかりだ。
見た目ただの不良というわけでもなさそうだな。
影山さんは外見や口調に比べて動作に上品さがあった。
そこに違和感を感じたけど家か親がしっかりしてるんだろうと結論づけた。
「そうですね。そこまで計画を立てているのならお受けしましょう。ですがリスクが高い依頼ですのでこちらから条件を出させていただきます」
「なんだ?」
「おれに依頼したことをいっさい口外しないこと。この依頼においておれがどんな手段を用いたか聞かないこと。それと取り返した後で何かあってもおれは責任を負いません。それでもいいですか?」
おれの条件に対し影山さんは余裕の笑みを浮かべた。
この条件は要するに保身だ。
危険と隣り合わせの依頼は今までもいくつかあったが今回は特に気をつけなければならない。
それなのにどうしてだろう。
自然と湧き出る高揚感におれは胸を高鳴らせた。
ちょっとしたスリルを感じて楽しんでいるとでもいうのだろうか。
「ああ、かまわない」
影山さんはニヤリと口角をあげた。
影山さんがじっと見つめていることに気付かずにおれはお茶を口に含んだ。
かくしておれは新たな依頼を引き受けたのだった。
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