冷酷社長の愛人なんてお断りだ!〜特殊能力系男子の受難〜(仮)

月影うさぎ

文字の大きさ
上 下
11 / 23
第二章 危険な依頼と怪しい依頼人

新たな依頼

しおりを挟む
「なぁ歩夢、最近やけに疲れてないか?」

「そ、そうか?」

バイトの休憩中、テーブルに突っ伏していたおれを見て直哉は心配そうに声を掛けてきた。
直哉から手渡された飲み物を受け取っておれは一気に飲む。
直哉は意外と鋭い。
というかおれが分かりやすいのか?
直哉の言う通りおれは少し疲れていた。
というのも、あれから何度か龍ケ崎に拉致られそうになりそのたびに逃げ回っていたのだ。
龍ケ崎も忙しいのかあまりしつこく追ってこないので今のところ無事に家に帰れている。
ネックレスについているGPSがある限りおれはあいつから逃げ切ることなんて出来ないんだろうけど。
それを分かっていながらネックレスを身に付けないわけにもいかずGPSを外すことも出来ず、なんとなくそのままにしていた。
それが仇となるとは……。

「歩夢の体質上色々問題抱えるのも分かるけどさ、話いくらでも聞いてやるから一人で抱え込むなよな」
 
直哉はくしゃっとおれの頭を撫でて休憩室を出ていった。
直哉は本当にいいやつだ。
ちょっと心配性なところはあるけど常におれの身を案じてフォローしてくれる。
非常にありがたい存在である。
なんてしみじみと考えていると直哉が休憩室に戻ってきた。

「歩夢、お前に客だ」
 

――――――――――――


慌ててフロアに出てみると革ジャンを羽織りアクセサリーをジャラジャラと身に付けた銀髪オールバックの男性がレジの近くに立っていた。
直哉に案内されて男性の元へ向かう。
男性はおれに気付くとおれを訝しむように見る。

「アンタがなんでも解決してくれるっつー御子柴歩夢さん?」

「はい。なんでもという訳では無いですが、お客様のお悩み相談はいくつもお受けしてきました」

おれがそう答えると男性は少し驚いたように目を見開いて、ガキじゃんかよとボソッとつぶやく。
聞こえてるんだけど……。
悪かったな、ガキっぽい見た目で!
内心カチンときながらも聞こえてないフリをして微笑む。
この男性も何やら解決してほしいことがあるらしい。
苦手なタイプではあるけど依頼人を無下にもできない。

「アンタにお願いしたいことがあんだけど」

「おれで良ければ話を聞きましょう。お好きな席にお座り下さい」

おれがそう促すと男性は首を横に振った。

「いや、あんま人に聞かれたくない話なんだよ。個室とかないのか?」

「それでしたら奥の部屋へどうぞ」

おれは男性をホールから少し離れた部屋へと案内する。
今は使われていない物置部屋を掃除してテーブルとイス等を置いただけのシンプルな部屋だ。
これは前回龍ケ崎に拉致られたことから学んで店長と決めたことだ。
おれに来る依頼は月々増えている。
気付けば身近な人の悩み相談という域を超えていた。
なのでお客様と外で会ってトラブルにならないための対策である。

「座ってください。今お茶を用意しますね」

おれは男性のお茶を用意してからイスに腰掛ける。
おれと男性の二人だけの空間に少し緊張が走る。
さてこれで準備は整ったな。

「お名前お伺いしてもよろしいですか?」

「あぁ、影山朝日かげやまあさひだ」

「それでお願いというのは?」

影山さんは話すのを躊躇っているようだ。
少し間を空けてから意を決したように口を開いた。

「実はな一週間くらい前に家に泥棒が入ったんだよ。そこでオレの大事な物を盗られた。それを取り返して欲しい。丁度それくらいの黒い箱だ」

影山さんはテーブルの横に置いてあったティッシュの箱を指さした。

「警察には話したのですか?」

「いいや……。色々事情があってあんまり大事にしたくないっつーか……」

影山さんの返事はどうにも歯切れが悪い。
訳ありか……。
この場合は警察に相談した方が絶対早い。
おれはちょっと特殊能力を使えるただの一般人だ。

「犯人の検討はついてんだ。ただオレじゃ顔が割てて警戒されちまうし、セキュリティが厳しい。だからアンタにお願いしたいのはセキュリティ調査と盗られた箱の在り処を探すこと、そして持ち出すこと」

影山さんはそう言うけどなかなかの難題だ。
セキュリティが厳しい所に入り込むのもなかなかに難しいが、そこから物を持ち出すとなると……。
おれはリスクの高さにこの依頼を受けるべきかどうか悩む。
基本的におれはお客さんの依頼は無報酬で受けている。
まぁ集客に貢献してるってことで給料は他の人より多く貰ってはいるが、善意のみで協力するにはリスクが高すぎる。

「セキュリティさえわかればロック解除はこっちでやる。ロック解除は得意だからな。オレがロックを解除した隙にアンタは箱を家の外まで持ち出す。外にオレの仲間を待機させるからそいつに渡せば完了。どうだ?」

どうやら影山さんは取り返す計画も立てていたらしい。
用意周到なことだ。
そこまで計画を立てているのならセキュリティ調査も出来そうな気もするけど。
よく見るとチャラチャラした見た目の割りには身に着けている物は高そうなものばかりだ。
見た目ただの不良というわけでもなさそうだな。
影山さんは外見や口調に比べて動作に上品さがあった。
そこに違和感を感じたけど家か親がしっかりしてるんだろうと結論づけた。

「そうですね。そこまで計画を立てているのならお受けしましょう。ですがリスクが高い依頼ですのでこちらから条件を出させていただきます」

「なんだ?」

「おれに依頼したことをいっさい口外しないこと。この依頼においておれがどんな手段を用いたか聞かないこと。それと取り返した後で何かあってもおれは責任を負いません。それでもいいですか?」

おれの条件に対し影山さんは余裕の笑みを浮かべた。
この条件は要するに保身だ。
危険と隣り合わせの依頼は今までもいくつかあったが今回は特に気をつけなければならない。
それなのにどうしてだろう。
自然と湧き出る高揚感におれは胸を高鳴らせた。
ちょっとしたスリルを感じて楽しんでいるとでもいうのだろうか。

「ああ、かまわない」

影山さんはニヤリと口角をあげた。
影山さんがじっと見つめていることに気付かずにおれはお茶を口に含んだ。

かくしておれは新たな依頼を引き受けたのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...