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第一章 おれとアイツの出逢い

龍ケ崎の目的

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「説明してこいつが納得して着いてくると思うか?」

「……思いませんね」

日下部さんは何か言いたげにおれを見る。
いや、だからって何も言わず無理矢理連れてくなんて拉致と変わんないからな!
警戒しなかったおれにも非はあるけど。

「龍ケ崎ホールディングスの名はご存じですよね?」

おれは日下部さんの問いかけにこくりと頷く。
さっきは龍ケ崎の名前に気を取られていたけど、龍ケ崎ホールディングスといえば多数のホテルを運営している一流会社だ。
その他にも数多くの飲食店も運営しているらしい。
テレビやチラシなどでよく見る会社名だ。

「私共はその龍ケ崎ホールディングスの社員です。そしてあなたの隣座っているのが弊社の社長、龍ケ崎冬吾様です」

そう言われてバッと振り返ると龍ケ崎が得意げに笑っていた。
コイツまじで社長だったんか!
そうかなとは思ってたけど!
思ってたけど!

「それで、そんな一流企業の方々がおれなんかに何の用ですか?それに仲間って要するにここで働けと?」

「端的に言うとそうなりますね。まぁ、あなたにしてもらう仕事は会社のこととはまた別ですが」

「別?」

なんか含みのある言い方だ。
会社のこととは別の仕事というのも引っかかる。
それにおれはカフェでバイトしてるし、掛け持ちする気もない。

「ここにいる僕達は他の社員と違ってちょっと特殊な仕事もしているんだ。これは誰にでも出来る仕事じゃない。自分の身は守れないとね」

おれが首をかしげていると優しげな顔をした男がそう言った。
顔はにこやかだが目は笑ってない。
深く聞くなという圧力みたいなのも感じる。
特殊、ね。
危険な目に遭うことも覚悟しろ、と。
やはりヤバそうな奴らなのは間違いないってことか。

「そこで優れた身体能力と情報収集力を持つお前を仲間にしたい」

「おれは仲間になるつもりはないし、第一おれはただの一般人だ。お前が期待するような能力はねぇよ」

たかだか二日間暗闇で顔を合わせただけの男におれの何がわかる。
第一優れた身体能力と情報収集力ってどこ情報だよ。

「ほう、ただの一般人か」

龍ケ崎は挑発的におれを見つめる。
おれがただの一般人かと言われると違うのは自分でもわかっているが、能力のことは隠さないといけない。
悟られてもいけない。

「御子柴歩夢。二十三歳。両親は小学生の頃に他界。五つ上の兄とは離れて暮らす。バイト先はカフェ『スイート・ロマン』。男女問わず人気で指名も多い。人気の理由は裏表のない人当たりの良い性格と悩みの解決。特に探し物やストーカーの撃退等が得意。先日絡まれていたのは知り合いのネックレスを取り返すため、だったか?ただの一般人にしておくには勿体ない人材だな」

龍ケ崎は書類を読み上げるかのようにすらすらと述べる。
その内容は全ておれのことで全て事実。
両親のことを他人に話すことなんて滅多にないのに、なんでこの男は知ってる?
おれは龍ケ崎をきっ、と睨んだ。
今は能力を使わずに。
たった二日やそこらでそんなこと調べられるものなのか?

「……お前何者だよ?」

「だから言っただろ?俺の情報網を甘く見るなと」

龍ケ崎は満足そうに口角を上げた。
コイツの仲間になるつもりなんて毛頭ないがおれの情報をここまで握られているとなると、下手に逃げることも出来ない。
それにおれの力のことを知らないとも限らない。

「あぁちなみに今のバイトは辞めてもらう」

そして龍ケ崎の中ではおれが仲間になることは確定事項らしい。
龍ケ崎は事も無げにそんなことを言う。

「はぁ!?嫌だよ!」

「俺との関わりが周囲に漏れればお前に危害を加えるやつが出ないとも限らない。その代わり金は弾むぞ。給料は今の倍以上になるだろう」

それって龍ケ崎が危ない奴だって言ってるようなものでは……?
てかおれ狙われんの!?
うわー、ぜってぇ関わりたくない、バイトも辞めたくない。
おれにとってのメリットって金くらい?
いやお金は大事だけどな。

「何を悩んでいる?どっちにしろお前に拒否権はないんだ。ここに来た時点で」

何も説明せずに連れてきといてそれ言うの卑怯だろ?
おれはぎゅっと拳を握り俯いた。

「はぁあ、こんなガキ本当に使えんのか?ほっせぇしぐだぐだうっせぇし、すぐ死にそう」

「こら健斗けんと、そうすぐに突っかからない」

さっきまで黙っていた目つきの悪い男がおれを蔑むような目つきで見る。
それを優しげな顔をした男が窘めた。
健斗と呼ばれた男は尚もおれを睨んでいる。
皆して好き勝手言いやがって……!
おれの意見は無視かよ!

「おれだってなぁ関わりたくて関わったんじゃねぇ!お前が勝手に絡んできたんだろ!待ち伏せまでしやがってこの変態痴漢男!お前らの事情なんか知らねぇよ。仲間になれだって?お断りだよ!」

おれは感情に任せて声を荒らげる。
おれが大声を出したせいか辺りが静まり返る。
それでも怒りが治まらないおれは龍ケ崎を睨みつけてからこの部屋を出た。
もう知らん、帰る!
こんなとこ二度と来るか!


――――――――――――

俺は御子柴歩夢が出ていった後ドアをしばらく見つめていた。

「思った以上に元気な子だったね~」

へらへらと笑うのは俺の幼なじみであり、部下の朝比奈千影あさひなちかげだ。
そして忌々しげにドアを見つめ不機嫌を隠さずにいるのがもう一人の部下、柊健斗ひいらぎけんとだ。
そういえば千影には簡単に説明していたが、健斗には何も話していなかったな。
それにしても先程の剣幕……。

「ふふっ、はははっ」

面白すぎて思わず笑いが込み上げてくる。
この俺に刃向かってくるどころか、変態とは……。
本当に読めない奴だ。

「冬吾様、どうされました……?」

普段笑わないおれが急に笑いだしたからか日下部が動揺している。
日下部も動揺することがあるのか。
ふと顔をあげれば、千影も健斗も気味悪そうに俺を見ていた。
それは上司に向ける顔じゃないと思うが。

「そういえば歩夢くんが言ってた待ち伏せして痴漢って何?」

「言葉通りの意味ですよ。まんまと逃げられてしまいましたがね」

日下部が面白そうに説明する。
すると千影が目を丸くした。

「冬吾から手を出したの?益もないのに?めっずらし~」

「…………」

「それで逃げられたの?」

「…………」

千影はどうやら面白がっているらしい。
俺は無視を決め込むことにした。
さて、次はどう捕まえてやろうか。
アレは使える奴だ。
そして丁度いい暇つぶしにもなる。
そんなことを考えていると自然に口角が上がっていくのを抑えられなかった。
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