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第二章 最高の幕の下ろし方
第三十話 街は踊り、人は騒ぐ─1
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「うわ~……凄い賑わいね」
目の前の光景に圧倒され、思わず声を漏らしてしまう。
今日は遂に、ルソーさんの店の閉店日。それを受けて商店街では、商店街全体による催し物が行われていた。
具体的に言えば、店の一部商品を割引したり、ルソーさんに関連した商品を作っていたり……それルソーさんから見てどうなの? と聞きたくなるよう店も多い。
まぁとりあえずお客さんは沢山来てるのだし、とりあえずの目標は達成された、という事で良いのだろうか。
「にしても、この商店街に人がこんなにいるなんて……」
「驚いたかい?」
私の隣を歩くネロの言葉に、うんうんと頷く。
「まぁいつもは少し閑散としてるからね。でも周りには住宅も多いし、この先をずーっと進めば、大きな国道にも出る。決して人がいないわけでは無いんだよ」
歩きながら説明するネロ。でも私は、正直その半分を聞き流していた。
今日この日が、ルソーさんにとっての最後の開店日。この日が終わって明日になれば、ルソーさんの店は無くなってしまう。
自分で選択したこととはいえ、それで本当に良かったのだろうか? もっと正しい選択はあったのでは無いのか? ルソーさんの子どもの話を聞いてから、ずっとそんな風に思っていた。
だって──ルソーさんには、もう家族と呼べる人すらいないのに。
「……い……舞……」
「え? 何?」
「あぁやっと反応した。なんだい、急に難しい顔なんかしちゃって」
「う、うん…ちょっとね……」
「体調が優れないのか? なんなら……」
「そういうのじゃ無いから! 大丈夫だから!」
訝しげな顔をするネロに、無理矢理笑顔を作って返事をする。
今日のために、ネロは振興会の人達とも一緒に企画を立てて、必死に努力していた。
ここで私が彼を困らせるのは、さすがにはばかれる。耐えるのは慣れてるのだから、変に心配させないようにしなければ。
「それで? まずこれからどうするの?」
「とりあえずルソーさんの所に顔を出そう。その後は商店街を好きに回っていい。ただ、お昼頃に僕は一旦噴水時計塔へ行く約束をしてるから、その時は別行動だ」
噴水時計塔というのは、商店街の中心に設置されたモニュメントの事だ。時計塔から十字になるように、商店街の道は重なっている。
「約束? 誰と? 何しに?」
「それは秘密。知りたかったら、夕方頃にルソーさんの所を訪れると良いよ」
ネロはそれ以上何も言わなかった。相変わらず変なところで、謎の多い奴だと思う。
謎といえば……私はネロの家族の事を知らない。親は生きているのか、きょうだいはいるのか、ひょっとすると子どももいるのでは? なんて、考えると止まらなくなる。
そもそもネロは一体いくつだ? 20代にしては言葉に重みがある気がするし、かといってお年寄りもピンとこない。というよりネロみたいな獣人って、一体いくつまで生きるんだろう。ルソーさんとかは長生きしてそうだけど。
まぁ難しいことは考えても仕方ないか。この先しばらく一緒にいるんだし。寛大な気持ちで受け止めておきましょう。
そう思ってネロに暖かい目を向けていたら、「どうしたニヤニヤして。気持ち悪い」と言われた。
その瞬間ネロの膝にローキックをかました事で醜い小競り合いが勃発したんだけど、詳しい事はパスするね。
「あぁいらっしゃいネロちゃん、舞ちゃん。よく来てくれたわねぇ」
店の裏口からノックをすると、すぐにルソーさんが出てきた。ルソーさんはしばらくニコニコして私達を見ていたが、すぐに奇妙な視線を向ける。
「二人とも……走ってきたの? ゼェゼェ言ってるけど」
「いや、走ってきた訳では……」
「……無いんだけどね……」
「そうなの? なら良いけど……」
「あぁ……それよりどうだ? とうとうこの日を向かえたが」
幾分か息の整ったネロが、ルソーさんに尋ねる。かなり直球で少しひやひやしてしまった。
「そうねぇ……結構あっという間だったわね。今日で終わりなのかと思うと、やっぱり寂しいわ」
ルソーさんの言葉に、私は言葉に詰まる。
やはりルソーさんも、店を閉じるのは辛いんだ。何十年も、ルソーさんの生活の一部だった店を閉じるのは……
……あれ?
そこまで考えて、私はまたしても違和感に襲われる。
そういえば……そもそもルソーさんが店を閉じようとした切っ掛けって何だっけ?
確か体調不良で入院して……それで、体力の限界とか考慮して店を閉じるんだっけ?
あれ? でもやっぱりおかしい。
だってルソーさんの店は──
そこまで考えた瞬間、私の中で一つの推理が出来上がった。いや、ひょっとすると推理と呼ぶほどのものでも無いかもしれないけど……でも、仮説とは呼べそうなものだ。
「にしても、もう店の前に大勢の人がいるなぁ。これから挨拶するんだろ? 大丈夫か?」
そんなネロの言葉で、私の意識は現実に引き戻される。
「大丈夫よ。大勢の人に向けて挨拶なんて、これが初めてって訳でも無いんだし」
「そうか、なら良いが……あぁそうそう忘れてた。これ」
そう言ってネロはルソーさんに、携えていた紙袋を渡す。
「昨日舞と一緒に作ってみたんだ。自分としては中々の出来映えだと思ってる。良かったら食べてみてくれ」
差し出した紙袋の中には、昨日ネロと一緒に焼いたクッキーが入っている。私の提案で、フレーバーティーのお茶っ葉を入れてみたクッキーだ。
「まぁまぁ丁寧にありがとう。大事に食べるわね。ところで、これからどうするの?」
「しばらくは二人で商店街をぶらつくよ。その後僕は用事があるから、そこからは別行動だ」
「そうなのね。あ、じゃあさ、舞ちゃんお昼からお店を手伝ってくれる?」
「お店を? でも、私床屋の仕事なんてしたことありませんよ?」
そもそもバイト自体やったことが無いけど。
「髪を切るのは私がするわ。その周りのサポートをしてほしいの。引き受けてくれる?」
「ルソーさんにそう言われたら……分かりました、お手伝いします!」
「ふふっ……ありがとうね」
これで私のお昼からの予定は埋まった。
さっき思い付いた事は……その時に聞いてみようか。
目の前の光景に圧倒され、思わず声を漏らしてしまう。
今日は遂に、ルソーさんの店の閉店日。それを受けて商店街では、商店街全体による催し物が行われていた。
具体的に言えば、店の一部商品を割引したり、ルソーさんに関連した商品を作っていたり……それルソーさんから見てどうなの? と聞きたくなるよう店も多い。
まぁとりあえずお客さんは沢山来てるのだし、とりあえずの目標は達成された、という事で良いのだろうか。
「にしても、この商店街に人がこんなにいるなんて……」
「驚いたかい?」
私の隣を歩くネロの言葉に、うんうんと頷く。
「まぁいつもは少し閑散としてるからね。でも周りには住宅も多いし、この先をずーっと進めば、大きな国道にも出る。決して人がいないわけでは無いんだよ」
歩きながら説明するネロ。でも私は、正直その半分を聞き流していた。
今日この日が、ルソーさんにとっての最後の開店日。この日が終わって明日になれば、ルソーさんの店は無くなってしまう。
自分で選択したこととはいえ、それで本当に良かったのだろうか? もっと正しい選択はあったのでは無いのか? ルソーさんの子どもの話を聞いてから、ずっとそんな風に思っていた。
だって──ルソーさんには、もう家族と呼べる人すらいないのに。
「……い……舞……」
「え? 何?」
「あぁやっと反応した。なんだい、急に難しい顔なんかしちゃって」
「う、うん…ちょっとね……」
「体調が優れないのか? なんなら……」
「そういうのじゃ無いから! 大丈夫だから!」
訝しげな顔をするネロに、無理矢理笑顔を作って返事をする。
今日のために、ネロは振興会の人達とも一緒に企画を立てて、必死に努力していた。
ここで私が彼を困らせるのは、さすがにはばかれる。耐えるのは慣れてるのだから、変に心配させないようにしなければ。
「それで? まずこれからどうするの?」
「とりあえずルソーさんの所に顔を出そう。その後は商店街を好きに回っていい。ただ、お昼頃に僕は一旦噴水時計塔へ行く約束をしてるから、その時は別行動だ」
噴水時計塔というのは、商店街の中心に設置されたモニュメントの事だ。時計塔から十字になるように、商店街の道は重なっている。
「約束? 誰と? 何しに?」
「それは秘密。知りたかったら、夕方頃にルソーさんの所を訪れると良いよ」
ネロはそれ以上何も言わなかった。相変わらず変なところで、謎の多い奴だと思う。
謎といえば……私はネロの家族の事を知らない。親は生きているのか、きょうだいはいるのか、ひょっとすると子どももいるのでは? なんて、考えると止まらなくなる。
そもそもネロは一体いくつだ? 20代にしては言葉に重みがある気がするし、かといってお年寄りもピンとこない。というよりネロみたいな獣人って、一体いくつまで生きるんだろう。ルソーさんとかは長生きしてそうだけど。
まぁ難しいことは考えても仕方ないか。この先しばらく一緒にいるんだし。寛大な気持ちで受け止めておきましょう。
そう思ってネロに暖かい目を向けていたら、「どうしたニヤニヤして。気持ち悪い」と言われた。
その瞬間ネロの膝にローキックをかました事で醜い小競り合いが勃発したんだけど、詳しい事はパスするね。
「あぁいらっしゃいネロちゃん、舞ちゃん。よく来てくれたわねぇ」
店の裏口からノックをすると、すぐにルソーさんが出てきた。ルソーさんはしばらくニコニコして私達を見ていたが、すぐに奇妙な視線を向ける。
「二人とも……走ってきたの? ゼェゼェ言ってるけど」
「いや、走ってきた訳では……」
「……無いんだけどね……」
「そうなの? なら良いけど……」
「あぁ……それよりどうだ? とうとうこの日を向かえたが」
幾分か息の整ったネロが、ルソーさんに尋ねる。かなり直球で少しひやひやしてしまった。
「そうねぇ……結構あっという間だったわね。今日で終わりなのかと思うと、やっぱり寂しいわ」
ルソーさんの言葉に、私は言葉に詰まる。
やはりルソーさんも、店を閉じるのは辛いんだ。何十年も、ルソーさんの生活の一部だった店を閉じるのは……
……あれ?
そこまで考えて、私はまたしても違和感に襲われる。
そういえば……そもそもルソーさんが店を閉じようとした切っ掛けって何だっけ?
確か体調不良で入院して……それで、体力の限界とか考慮して店を閉じるんだっけ?
あれ? でもやっぱりおかしい。
だってルソーさんの店は──
そこまで考えた瞬間、私の中で一つの推理が出来上がった。いや、ひょっとすると推理と呼ぶほどのものでも無いかもしれないけど……でも、仮説とは呼べそうなものだ。
「にしても、もう店の前に大勢の人がいるなぁ。これから挨拶するんだろ? 大丈夫か?」
そんなネロの言葉で、私の意識は現実に引き戻される。
「大丈夫よ。大勢の人に向けて挨拶なんて、これが初めてって訳でも無いんだし」
「そうか、なら良いが……あぁそうそう忘れてた。これ」
そう言ってネロはルソーさんに、携えていた紙袋を渡す。
「昨日舞と一緒に作ってみたんだ。自分としては中々の出来映えだと思ってる。良かったら食べてみてくれ」
差し出した紙袋の中には、昨日ネロと一緒に焼いたクッキーが入っている。私の提案で、フレーバーティーのお茶っ葉を入れてみたクッキーだ。
「まぁまぁ丁寧にありがとう。大事に食べるわね。ところで、これからどうするの?」
「しばらくは二人で商店街をぶらつくよ。その後僕は用事があるから、そこからは別行動だ」
「そうなのね。あ、じゃあさ、舞ちゃんお昼からお店を手伝ってくれる?」
「お店を? でも、私床屋の仕事なんてしたことありませんよ?」
そもそもバイト自体やったことが無いけど。
「髪を切るのは私がするわ。その周りのサポートをしてほしいの。引き受けてくれる?」
「ルソーさんにそう言われたら……分かりました、お手伝いします!」
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これで私のお昼からの予定は埋まった。
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