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第一章 絶望と異世界と狼男と少女
第七話 そして依頼が舞い込む─1
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声のした方へ振り向くと、私の足下に小さな子どもが立っていた。
頭にドングリの形をした帽子を被り、服は緑の葉っぱが散りばめられている──というより葉っぱで出来てるんじゃないだろうか? 身長は私よりずっと低くて、幼稚園児くらいだ。
その子を一瞥したネロは、大きな溜め息をついた。
「またかボックル。もう何度言ったら分かるんだ。僕は探偵であって相談窓口じゃない。君の店の事なんか頼まれたって引き受けられないよ」
「店を手伝えと言ってるんじゃない。ただうちの店のために知恵を貸せって言ってるんだ」
「ならば言おう。答えは『無理』。君の店の経営が傾いて、いずれ店を畳む事になっても僕に損は無いしね」
「ヒッドーイ‼」
ネロの冷たい言葉に、私は思わず叫んだ。
「アンタちゃんと血ぃ流れてる⁉ こんな可愛い子が頼んできているのよ⁉ 依頼よ依頼‼ なのになんでそう無下にするの⁉」
私の剣幕に圧されたのか、後退したネロがおずおずと答える。
「いや……でも探偵の依頼ってそういうのじゃないし……」
「じゃあ何? アンタは『探偵の依頼じゃない』って理由で、アンタを頼ってきた人を見捨てるんだ? へぇーそっかーへぇー」
「べ……別にそこまで責めなくてもいいだろう⁉」
タジタジになったネロが反論するけど、その語尾が震えていたのを私は聴き逃さなかった。
「じゃあ引き受ける? この子の依頼」
「ッ──あぁ分かったよ‼ 引き受けてやろうじゃないか‼ ただし引き受けるからには、ちゃんとそれ相応の依頼料は払ってもらうからな‼」
それを聴いた私と、私達の会話をポカーンと眺めていたボックルはお互いに顔を合わせ、ニィっと笑った。
「あんた……見慣れない顔だけどいい人間だな。名前なんて言うんだ? どこから来た?」
「私? 私は久留米舞。来たところは……」
そこまで言って、ネロの方を見る。ネロは少し不本意そうな顔をしてたけど、怒ってるようには見えない。
「……遠いところ。私にも分からないくらいに」
「そっか。俺はボックル。このパルーシブ商店街で雑貨屋をやってる」
差し出されたボックルの手を握って、私は「よろしくね」と言った。たぶん今の私は、久しぶりに笑顔で会話出来ていたと思う。
「それで? ネロに頼みたい事ってなんなの?」
「あぁ、毎度ネロには頼んでる事なんだが……」
「君の店の経営を良くしたい。そのために客足が伸びる方法を考えろ。そういうことだろ?」
ボックルが頷く。しかし雑貨屋でそんなに店の経営が悪いって……一体どうしてだろう。
そんな私の心中が読めたのかは知らないが、ネロがボックルに向かって言った。
「僕は何度か店を覗いているから分かるが、舞はまだ君の店を見ていない。一度連れていったらどうだ?」
「それもそうだな。よし舞、一度店を案内してやるよ」
そう言って事務所を出たボックルに私も着いていって──その足がピタッと止まった。
振り向くと、ネロは椅子に座って「まだ行かないのか?」と言いたげな顔でこっちを見ていた。
「……ネロ、アンタは来ないの?」
「僕は頭脳労働者だからね。わざわざ外に出て手伝いはしたくない。せっかくだからボックルに商店街も案内してもらいなよ」
「その間ネロは何してるの?」
「ちょうどこの前図書館で借りてた本があるんだ。それを読んで待ってるよ。また事務所に来たまえ」
そう言ってネロはくつろいで本を読み始めた。
「……」
冷たい目をしたボックルが黙って事務所の中に入り、読書に夢中になってるネロの脛に向かって、おもいっきり頭突きをかました。
「痛っでぇ‼」
弁慶の泣き所に大ダメージを喰らったネロはそのまま立ち上がって右脛を抑えながら片足でピョンピョンと跳び跳ねる。
続けてボックルが言った。
「右だけじゃ寂しいだろ……左もしてやろうか?」
「分かった‼ 僕だけ楽しようとしたのは謝る‼ 謝るからこれ以上頭突きはやめろ‼ お前の帽子固いんだよ‼」
しばらく跳び跳ねていたネロは、少し落ち着いてから観念して、壁に掛けてあったハンチング帽を被る。
「さて──じゃあ改めて店に案内するぞ‼」
明るい声で歩き始めたボックルちゃんの後ろに私、そしてその後ろにネロの順番で、一列に並んで行進する。
店に着くまでずっとネロはブツブツ文句を言っていたけど、痛い思いをしたのは十中八九ネロが悪いじゃないか。
帰ったら、『自業自得』という言葉を大きな紙に書いて読ませてやろう。
頭にドングリの形をした帽子を被り、服は緑の葉っぱが散りばめられている──というより葉っぱで出来てるんじゃないだろうか? 身長は私よりずっと低くて、幼稚園児くらいだ。
その子を一瞥したネロは、大きな溜め息をついた。
「またかボックル。もう何度言ったら分かるんだ。僕は探偵であって相談窓口じゃない。君の店の事なんか頼まれたって引き受けられないよ」
「店を手伝えと言ってるんじゃない。ただうちの店のために知恵を貸せって言ってるんだ」
「ならば言おう。答えは『無理』。君の店の経営が傾いて、いずれ店を畳む事になっても僕に損は無いしね」
「ヒッドーイ‼」
ネロの冷たい言葉に、私は思わず叫んだ。
「アンタちゃんと血ぃ流れてる⁉ こんな可愛い子が頼んできているのよ⁉ 依頼よ依頼‼ なのになんでそう無下にするの⁉」
私の剣幕に圧されたのか、後退したネロがおずおずと答える。
「いや……でも探偵の依頼ってそういうのじゃないし……」
「じゃあ何? アンタは『探偵の依頼じゃない』って理由で、アンタを頼ってきた人を見捨てるんだ? へぇーそっかーへぇー」
「べ……別にそこまで責めなくてもいいだろう⁉」
タジタジになったネロが反論するけど、その語尾が震えていたのを私は聴き逃さなかった。
「じゃあ引き受ける? この子の依頼」
「ッ──あぁ分かったよ‼ 引き受けてやろうじゃないか‼ ただし引き受けるからには、ちゃんとそれ相応の依頼料は払ってもらうからな‼」
それを聴いた私と、私達の会話をポカーンと眺めていたボックルはお互いに顔を合わせ、ニィっと笑った。
「あんた……見慣れない顔だけどいい人間だな。名前なんて言うんだ? どこから来た?」
「私? 私は久留米舞。来たところは……」
そこまで言って、ネロの方を見る。ネロは少し不本意そうな顔をしてたけど、怒ってるようには見えない。
「……遠いところ。私にも分からないくらいに」
「そっか。俺はボックル。このパルーシブ商店街で雑貨屋をやってる」
差し出されたボックルの手を握って、私は「よろしくね」と言った。たぶん今の私は、久しぶりに笑顔で会話出来ていたと思う。
「それで? ネロに頼みたい事ってなんなの?」
「あぁ、毎度ネロには頼んでる事なんだが……」
「君の店の経営を良くしたい。そのために客足が伸びる方法を考えろ。そういうことだろ?」
ボックルが頷く。しかし雑貨屋でそんなに店の経営が悪いって……一体どうしてだろう。
そんな私の心中が読めたのかは知らないが、ネロがボックルに向かって言った。
「僕は何度か店を覗いているから分かるが、舞はまだ君の店を見ていない。一度連れていったらどうだ?」
「それもそうだな。よし舞、一度店を案内してやるよ」
そう言って事務所を出たボックルに私も着いていって──その足がピタッと止まった。
振り向くと、ネロは椅子に座って「まだ行かないのか?」と言いたげな顔でこっちを見ていた。
「……ネロ、アンタは来ないの?」
「僕は頭脳労働者だからね。わざわざ外に出て手伝いはしたくない。せっかくだからボックルに商店街も案内してもらいなよ」
「その間ネロは何してるの?」
「ちょうどこの前図書館で借りてた本があるんだ。それを読んで待ってるよ。また事務所に来たまえ」
そう言ってネロはくつろいで本を読み始めた。
「……」
冷たい目をしたボックルが黙って事務所の中に入り、読書に夢中になってるネロの脛に向かって、おもいっきり頭突きをかました。
「痛っでぇ‼」
弁慶の泣き所に大ダメージを喰らったネロはそのまま立ち上がって右脛を抑えながら片足でピョンピョンと跳び跳ねる。
続けてボックルが言った。
「右だけじゃ寂しいだろ……左もしてやろうか?」
「分かった‼ 僕だけ楽しようとしたのは謝る‼ 謝るからこれ以上頭突きはやめろ‼ お前の帽子固いんだよ‼」
しばらく跳び跳ねていたネロは、少し落ち着いてから観念して、壁に掛けてあったハンチング帽を被る。
「さて──じゃあ改めて店に案内するぞ‼」
明るい声で歩き始めたボックルちゃんの後ろに私、そしてその後ろにネロの順番で、一列に並んで行進する。
店に着くまでずっとネロはブツブツ文句を言っていたけど、痛い思いをしたのは十中八九ネロが悪いじゃないか。
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