裏路地の異世界商店街

TEL

文字の大きさ
上 下
8 / 38
第一章 絶望と異世界と狼男と少女

第七話 そして依頼が舞い込む─1

しおりを挟む
 声のした方へ振り向くと、私の足下に小さな子どもが立っていた。
 頭にドングリの形をした帽子を被り、服は緑の葉っぱが散りばめられている──というより葉っぱで出来てるんじゃないだろうか? 身長は私よりずっと低くて、幼稚園児くらいだ。

 その子を一瞥したネロは、大きな溜め息をついた。
「またかボックル。もう何度言ったら分かるんだ。僕は探偵であって相談窓口じゃない。君の店の事なんか頼まれたって引き受けられないよ」
「店を手伝えと言ってるんじゃない。ただうちの店のために知恵を貸せって言ってるんだ」
「ならば言おう。答えは『無理』。君の店の経営が傾いて、いずれ店を畳む事になっても僕に損は無いしね」


「ヒッドーイ‼」
 ネロの冷たい言葉に、私は思わず叫んだ。
「アンタちゃんと血ぃ流れてる⁉ こんな可愛い子が頼んできているのよ⁉ 依頼よ依頼‼ なのになんでそう無下にするの⁉」
 私の剣幕に圧されたのか、後退したネロがおずおずと答える。

「いや……でも探偵の依頼ってそういうのじゃないし……」
「じゃあ何? アンタは『探偵の依頼じゃない』って理由で、アンタを頼ってきた人を見捨てるんだ? へぇーそっかーへぇー」
「べ……別にそこまで責めなくてもいいだろう⁉」
 タジタジになったネロが反論するけど、その語尾が震えていたのを私は聴き逃さなかった。

「じゃあ引き受ける? この子の依頼」
「ッ──あぁ分かったよ‼ 引き受けてやろうじゃないか‼ ただし引き受けるからには、ちゃんとそれ相応の依頼料は払ってもらうからな‼」
 それを聴いた私と、私達の会話をポカーンと眺めていたボックルはお互いに顔を合わせ、ニィっと笑った。

「あんた……見慣れない顔だけどいい人間だな。名前なんて言うんだ? どこから来た?」
「私? 私は久留米舞。来たところは……」
 そこまで言って、ネロの方を見る。ネロは少し不本意そうな顔をしてたけど、怒ってるようには見えない。
「……遠いところ。私にも分からないくらいに」
「そっか。俺はボックル。このパルーシブ商店街で雑貨屋をやってる」
 差し出されたボックルの手を握って、私は「よろしくね」と言った。たぶん今の私は、久しぶりに笑顔で会話出来ていたと思う。


「それで? ネロに頼みたい事ってなんなの?」
「あぁ、毎度ネロには頼んでる事なんだが……」
「君の店の経営を良くしたい。そのために客足が伸びる方法を考えろ。そういうことだろ?」
 ボックルが頷く。しかし雑貨屋でそんなに店の経営が悪いって……一体どうしてだろう。

 そんな私の心中が読めたのかは知らないが、ネロがボックルに向かって言った。
「僕は何度か店を覗いているから分かるが、舞はまだ君の店を見ていない。一度連れていったらどうだ?」
「それもそうだな。よし舞、一度店を案内してやるよ」


 そう言って事務所を出たボックルに私も着いていって──その足がピタッと止まった。
 振り向くと、ネロは椅子に座って「まだ行かないのか?」と言いたげな顔でこっちを見ていた。
「……ネロ、アンタは来ないの?」
「僕は頭脳労働者だからね。わざわざ外に出て手伝いはしたくない。せっかくだからボックルに商店街も案内してもらいなよ」
「その間ネロは何してるの?」
「ちょうどこの前図書館で借りてた本があるんだ。それを読んで待ってるよ。また事務所に来たまえ」

 そう言ってネロはくつろいで本を読み始めた。
「……」
 冷たい目をしたボックルが黙って事務所の中に入り、読書に夢中になってるネロの脛に向かって、おもいっきり頭突きをかました。
「痛っでぇ‼」
 弁慶の泣き所に大ダメージを喰らったネロはそのまま立ち上がって右脛を抑えながら片足でピョンピョンと跳び跳ねる。


 続けてボックルが言った。
「右だけじゃ寂しいだろ……左もしてやろうか?」
「分かった‼ 僕だけ楽しようとしたのは謝る‼ 謝るからこれ以上頭突きはやめろ‼ お前の帽子固いんだよ‼」

 しばらく跳び跳ねていたネロは、少し落ち着いてから観念して、壁に掛けてあったハンチング帽を被る。

「さて──じゃあ改めて店に案内するぞ‼」
 明るい声で歩き始めたボックルちゃんの後ろに私、そしてその後ろにネロの順番で、一列に並んで行進する。
 店に着くまでずっとネロはブツブツ文句を言っていたけど、痛い思いをしたのは十中八九ネロが悪いじゃないか。

 帰ったら、『自業自得』という言葉を大きな紙に書いて読ませてやろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神さま御用達! 『よろず屋』奮闘記

九重
キャラ文芸
旧タイトル:『よろず屋』奮闘記~ヤマトタケルノミコトは、オトタチバナヒメを諦めない!~ 現在、書籍化進行中! 無事、出版された際は、12月16日(金)に引き下げ、レンタル化されます。 皆さまの応援のおかげです。ありがとうございます! (あらすじ) その昔、荒れ狂う海に行く手を阻まれ絶体絶命になったヤマトタケルノミコトを救うため、妻であるオトタチバナヒメは海に身を投じ彼を救った。 それから千年以上、ヤマトタケルノミコトはオトタチバナが転生するのを待っている。 アマテラスオオミカミに命じられ、神々相手の裏商売を営む『よろず屋』の店主となったヤマトタケルノミコトの前に、ある日一人の女性が現れる。 これは、最愛の妻を求める英雄神が、前世などきれいさっぱり忘れて今を生きる行動力抜群の妻を捕まえるまでのすれ違いラブコメディー。

ナイトパーティ 〜狼男と吸血鬼だって仲良く異世界生活おくれます!〜

緑卯
ファンタジー
 あなたは、太陽と月、どちらが好きですか?  月が好きという方は、満月の日は気をつけてくださいね。もしかしたら、お月様がちょっとしたイタズラをしちゃうかもしれませんよ♡  このお話は、お月様が幼馴染の男女2人にちょっとしたイタズラをしてしまったお話です♡ *この話は ナイトパーティ 〜吸血鬼と狼男だって仲良くできます!〜 を改めて書いた物です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...