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第45話
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「しかし、監視カメラにも誰にも見られずに明智君を散髪できる場所はあるのかな? それにホテルの人が、私が出る時はゴールデンのぬいぐるみを抱いていたのに、帰ってきた時はラブラドールを抱いているだなんて怪しまないかな?」
「ああ、忘れてました。明智君を散髪する事しか考えてなかったみたいですね。あっでも、それなら簡単に解決するじゃないですか。人目につかない場所は美術館まで歩きながら探して、見つけたらそこで明智君に絵を乗せましょう。これだけ広いんだから、一か所くらいはすぐにありますよ。そしてこのホテルはチェックアウトして、別のホテルに移りましょう。できればペット同伴でも泊まれるホテルに。そうすればいちいち……じゃなくてわざわざ明智君とトラゾウをぬいぐるみ扱いしなくてもいいし」
「その手があったか。よし、それで決まりだ。うん? どうした明智君? そんな恐い目で私を見て」
明智君は完全に私に対して逆恨みをしているな。インドネシアがふさふさの毛皮では耐えきれないほど暑くなっているように願おう。でも、その時に感謝されるのは阿部君だけなのだろう。
ホテルを出てしばらく歩くと、ちょうど美術館との中間地点で監視カメラも人目にもつかない路地裏を見つけた。そんな所はまずないだろうという意見があるかもしれないが、物語なのでそれは許してほしい。
まずは、丁寧に梱包された絵をハーネスに取り付け、そしてそのハーネスを明智君に装着した。ちなみに、このハーネスはワンタッチで明智君が自ら外せるようになっているので、美術館で明智君は美術館の案内係のような人の前で外す予定だ。それから一言「ワン!」とアピールして逃げる手はずとなっている。
明智君に絵を装着するのと同時進行で、ぬいぐるみと化していたトラゾウに日本でも使ったライオンの覆面と犬用のおまわりさん風の服を着せていた。ホテルを出る時から変装した方が私の体力的には遥かに楽だったが、ホテルに入る時にはぬいぐるみだったのに出る時に生きた犬になっていたら怪しまれてしまうのだ。こういう横着をしたことによる些細なミスが大きな後悔を生むことになるものだ。
それはさておき、明智君が出発するのと同時に、トラゾウ犬を連れた阿部君がこの人目につかない路地裏から立ち去った。阿部君とトラゾウはもちろん別のホテルにチェックインするためだ。そしてそれはすでに昨日の時点でネットで予約済みなので、問題なくチェックインできるだろう。ちなみにペットも同伴できるホテルだ。なので少々割高だ。
私はと言えば、ここで明智君が無事に到着するまで待機して、明智君が戻ってくると手際よく散髪する。それから、一応念の為にバラバラで今日泊まるホテルの近くまで行き、そこで合流する手はずだ。用心するに越したことはないのだ。それでも、街の監視カメラを念入りに根気よく調べれば、おそらく私たちにたどり着けるだろう。
しかし私たちは別にこのフランスでは犯罪を犯したわけではないので、そこまで細かくじっくり几帳面に長期に渡って捜査しないことを祈ろう。絵が戻ってきた事だけを素直に喜んでおくれ。
「よし、美術館に絵の返却作戦開始!」
「はい!」「ワン!」「ガッ!」
明智君は勢いよく走り去り、阿部君とトラゾウは観光を楽しみがてらのんびり歩いて去り、そして私はここで明智君の帰還を待つだけだ。待つと言っても、美術館までそんなに遠くないし、あの明智君の足なら5分も待たないだろう。と思ってから30分も経つのに、明智君が戻ってこないじゃないか。
散髪されてラブラドールになるのがそんなに嫌だったのだろうか。私にお金を貸していなかったならありえなくもないが、あの強欲な明智君が2000万円もの大金を捨ててフランスで野良犬になるのを選ぶはずがない。
ということは、結論は一つしかない。明智君は美術館のスタッフか警備員に捕まったのだ。
えっ! ということは、私は明智君に2000万円返さなくても……。そんなわけないだろ。私が大事な仲間を見捨てはしないのだ。命がけで私を守ってくれた仲間を。ひとまず阿部君に連絡をしよう。
「もしもし、リーダーですか? こっちのホテルもなかなか快適ですよ。トラゾウも喜んでます。早く合流してくださいね。ガチャ」
あっ、切られた。まったくもー、阿部君らしいな。ハハッ。いや、違う違う。もう一度。
「何ですか、もうー。ランチをどこで何を食べるかトラゾウと相談してるんだから、邪魔しないでください。では……」
「おおー、切るなー」
「何ですか? 明智君が最後の悪あがきでもして散髪できないんですか? それなら後頭部をおもいっきり『ゴンッ』てしてやれば楽勝ですよ。では……」
「おおー、待てー」
「もうー、何ですか?」
「明智君が捕まったかもしれない。全然戻ってこないんだ」
「…………。……。ええー! なんでもっと早く言わないんですか。いや、ちょっとそこで待っていてください。すぐに行きます」
阿部君を待つ間に、私は散髪セットをリュックサックに片付け、すぐにでも動けるように準備した。そして阿部君が来るまでに状況を整理する。明智君が戻ってこないのは、捕まったと考えるのが妥当だろう。でもなぜ、明智君ほどの者が捕まったんだ?
梱包された大きな絵を背中に背負っている犬なんてまずいないから、テロリストが爆弾でも付けて送り込んだと思われ、有無を言わさず捕まえたのだろうか。いや、もし爆弾だと思ったなら下手に刺激を与えたくないから、明智君に近寄るはずがない。だから明智君はゆっくり絵を外してから、のんびり逃げられたはずだ。
それなら、明智君の背負っている物が梱包されているとはいえ、すぐに絵だと見抜いてさらに以前盗まれた絵だと想像した強者がいて、明智君が行動を起こす前にすきを突いて明智君もろとも確保したのだろうか。うーん、やや信憑性に欠けるなあ。
やはり一番可能性が高いのは、明智君が美術館に入って絵を付けたハーネスを外すまでは予定通りにいって、「ワン!」と一声かけた美術館の受付の人が明智君好みのすごく素敵なお姉さんだったのだ。それもフランスだから、そのお姉さんの髪の色は明智君とおそろいだったはず。明智君が美術館に何をしに来たのか忘れるには十分だろう。
明智君がその素敵なお姉さんに喜んで話しているところを、大勢の警備員にあっさり捕まったに違いない。うん、それしかないな。そして、明智君が持ってきた絵を確認して、以前盗まれた絵だとすぐに分かったのだ。そこで明智君は何らかの関係があると思われて、今ごろ閉じ込められて泣きべそをかいていることだろう。
「ああ、忘れてました。明智君を散髪する事しか考えてなかったみたいですね。あっでも、それなら簡単に解決するじゃないですか。人目につかない場所は美術館まで歩きながら探して、見つけたらそこで明智君に絵を乗せましょう。これだけ広いんだから、一か所くらいはすぐにありますよ。そしてこのホテルはチェックアウトして、別のホテルに移りましょう。できればペット同伴でも泊まれるホテルに。そうすればいちいち……じゃなくてわざわざ明智君とトラゾウをぬいぐるみ扱いしなくてもいいし」
「その手があったか。よし、それで決まりだ。うん? どうした明智君? そんな恐い目で私を見て」
明智君は完全に私に対して逆恨みをしているな。インドネシアがふさふさの毛皮では耐えきれないほど暑くなっているように願おう。でも、その時に感謝されるのは阿部君だけなのだろう。
ホテルを出てしばらく歩くと、ちょうど美術館との中間地点で監視カメラも人目にもつかない路地裏を見つけた。そんな所はまずないだろうという意見があるかもしれないが、物語なのでそれは許してほしい。
まずは、丁寧に梱包された絵をハーネスに取り付け、そしてそのハーネスを明智君に装着した。ちなみに、このハーネスはワンタッチで明智君が自ら外せるようになっているので、美術館で明智君は美術館の案内係のような人の前で外す予定だ。それから一言「ワン!」とアピールして逃げる手はずとなっている。
明智君に絵を装着するのと同時進行で、ぬいぐるみと化していたトラゾウに日本でも使ったライオンの覆面と犬用のおまわりさん風の服を着せていた。ホテルを出る時から変装した方が私の体力的には遥かに楽だったが、ホテルに入る時にはぬいぐるみだったのに出る時に生きた犬になっていたら怪しまれてしまうのだ。こういう横着をしたことによる些細なミスが大きな後悔を生むことになるものだ。
それはさておき、明智君が出発するのと同時に、トラゾウ犬を連れた阿部君がこの人目につかない路地裏から立ち去った。阿部君とトラゾウはもちろん別のホテルにチェックインするためだ。そしてそれはすでに昨日の時点でネットで予約済みなので、問題なくチェックインできるだろう。ちなみにペットも同伴できるホテルだ。なので少々割高だ。
私はと言えば、ここで明智君が無事に到着するまで待機して、明智君が戻ってくると手際よく散髪する。それから、一応念の為にバラバラで今日泊まるホテルの近くまで行き、そこで合流する手はずだ。用心するに越したことはないのだ。それでも、街の監視カメラを念入りに根気よく調べれば、おそらく私たちにたどり着けるだろう。
しかし私たちは別にこのフランスでは犯罪を犯したわけではないので、そこまで細かくじっくり几帳面に長期に渡って捜査しないことを祈ろう。絵が戻ってきた事だけを素直に喜んでおくれ。
「よし、美術館に絵の返却作戦開始!」
「はい!」「ワン!」「ガッ!」
明智君は勢いよく走り去り、阿部君とトラゾウは観光を楽しみがてらのんびり歩いて去り、そして私はここで明智君の帰還を待つだけだ。待つと言っても、美術館までそんなに遠くないし、あの明智君の足なら5分も待たないだろう。と思ってから30分も経つのに、明智君が戻ってこないじゃないか。
散髪されてラブラドールになるのがそんなに嫌だったのだろうか。私にお金を貸していなかったならありえなくもないが、あの強欲な明智君が2000万円もの大金を捨ててフランスで野良犬になるのを選ぶはずがない。
ということは、結論は一つしかない。明智君は美術館のスタッフか警備員に捕まったのだ。
えっ! ということは、私は明智君に2000万円返さなくても……。そんなわけないだろ。私が大事な仲間を見捨てはしないのだ。命がけで私を守ってくれた仲間を。ひとまず阿部君に連絡をしよう。
「もしもし、リーダーですか? こっちのホテルもなかなか快適ですよ。トラゾウも喜んでます。早く合流してくださいね。ガチャ」
あっ、切られた。まったくもー、阿部君らしいな。ハハッ。いや、違う違う。もう一度。
「何ですか、もうー。ランチをどこで何を食べるかトラゾウと相談してるんだから、邪魔しないでください。では……」
「おおー、切るなー」
「何ですか? 明智君が最後の悪あがきでもして散髪できないんですか? それなら後頭部をおもいっきり『ゴンッ』てしてやれば楽勝ですよ。では……」
「おおー、待てー」
「もうー、何ですか?」
「明智君が捕まったかもしれない。全然戻ってこないんだ」
「…………。……。ええー! なんでもっと早く言わないんですか。いや、ちょっとそこで待っていてください。すぐに行きます」
阿部君を待つ間に、私は散髪セットをリュックサックに片付け、すぐにでも動けるように準備した。そして阿部君が来るまでに状況を整理する。明智君が戻ってこないのは、捕まったと考えるのが妥当だろう。でもなぜ、明智君ほどの者が捕まったんだ?
梱包された大きな絵を背中に背負っている犬なんてまずいないから、テロリストが爆弾でも付けて送り込んだと思われ、有無を言わさず捕まえたのだろうか。いや、もし爆弾だと思ったなら下手に刺激を与えたくないから、明智君に近寄るはずがない。だから明智君はゆっくり絵を外してから、のんびり逃げられたはずだ。
それなら、明智君の背負っている物が梱包されているとはいえ、すぐに絵だと見抜いてさらに以前盗まれた絵だと想像した強者がいて、明智君が行動を起こす前にすきを突いて明智君もろとも確保したのだろうか。うーん、やや信憑性に欠けるなあ。
やはり一番可能性が高いのは、明智君が美術館に入って絵を付けたハーネスを外すまでは予定通りにいって、「ワン!」と一声かけた美術館の受付の人が明智君好みのすごく素敵なお姉さんだったのだ。それもフランスだから、そのお姉さんの髪の色は明智君とおそろいだったはず。明智君が美術館に何をしに来たのか忘れるには十分だろう。
明智君がその素敵なお姉さんに喜んで話しているところを、大勢の警備員にあっさり捕まったに違いない。うん、それしかないな。そして、明智君が持ってきた絵を確認して、以前盗まれた絵だとすぐに分かったのだ。そこで明智君は何らかの関係があると思われて、今ごろ閉じ込められて泣きべそをかいていることだろう。
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