26 / 48
第26話
しおりを挟む
「バンッ!」
とうとう撃ちやがったな。でも極限を超えた疲労困憊のせいで痛みを感じないのかもしれないが、私に命中はしていないようだ。でも意識は朦朧としてきたな。これで、本当にさよならだ。
「と、トラが出たー」「こっちのトラは、頭はトラだけど胴体は小さなライオンみたいだぞー」「ひぃー、助けてくれー」「警察を呼んでくれー」「バカヤロー、警察なんて呼ぶんじゃないぞ」「誰かを生贄にして、その隙に逃げろー」
はあー、天国は穏やかで静かな所だと想像していたのに、地上よりも賑やかだな。まあ賑やかな所は嫌いじゃないから、十分にやっていけるだろう。一つ誤算があるとしたなら、天国に来ても体中がだるくて目を開ける元気すらも回復してないじゃないか。そういうものなのか? まあいい。少しばかり眠ればなんとでもなるから、その後でゆっくり天国を散策するか。時間はたっぷりあるだろう。
「リーダー? リーダー! リィーダァー!」
痛い痛い。私の頭を遠慮なくバンバン叩くのは誰だ? まるで阿部君みたいじゃないか。まさか天国にも阿部君のような非情な人がいるというのか。なんか想像と全然違うじゃないか。このままじっとしていたら何をされるか分かったものではないな。
私の目よ、開けー。やったぞ。こんな力がまだ残っていたんだな。私を叩いている天国に紛れたやつの顔を確認してやるか。ん? こ、これは……『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』で視界が塞がれているぞ。私の手よ、動けー。あれ? 蓋が開いているぞ。でも中身はぎっしり詰まっている。迷っている場合ではない。これが誰かが毒か何かと入れ替えられていたとしても、飲むしかない。飲まないなら、ここが天国であろうと、私は死んでしまうような気がする。
私は飲んだ。それも一気に。おおー、みるみるうちに体力が回復してきているのが実感できるぞ。これは、この『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』のおかげか。それとも、たまたまちょっとした手違いがあって、時間差でやっと天国らしさを発揮してくれて回復したのだろうか。
とりあえず、ここが本当に天国なのか、あの賑やかな人たちに聞きに行こう。いや、待てよ。何らかの行き違いでまちがって、この私が地獄に来てしまったのなら、あいつらは地獄の鬼かもしれないぞ。
うーん、どうしようか。
「リーダー?」
誰かが私を呼んでいるぞ。なぜ私が『リーダー』だと分かったのだ。そんなに『リーダー』のオーラが出ているのだろうか? 出ているのだろう。すぐにでも返事してやらないとかわいそうだけど、どこかのおとぎ話で、返事をしたら瓢箪の中に吸い込まれて閉じ込められるのがあったな。私は何を迷っているんだ。体力が完全に戻っている私に不可能はないのだから、恐れる必要なんてないじゃないか。
「リーダー、大丈夫ですか?」
せっかちなやつだな。今、返事してやるよ。
「だいじょ……ええー! あ、阿部君じゃないか」
ここは、天国かもしくは地獄だぞ。そして阿部君がいるということは、残念ながら地獄だな。阿部君までも悪徳政治家の毒牙にかかったっていうのか? じゃあ、誰が明智君とトラゾウの面倒をみてやるというんだ? いや、もしかすると明智君とトラゾウまでも。あそこで鬼たちを威嚇するように立っているトラのようなライオンのような犬のような動物は、明智君とトラゾウなのか。許さんぞ、悪徳政治家。何が何でも今すぐ地上に戻って、お前たちに制裁を加えてやるからな。
「リーダー、何をぶつぶつ言ってるんですか? 気持ち悪いですよ。じゃなくて、もう大丈夫そうですね。元気になりました? あと、ミッション中は、私は『レッド』ですよ」
「ミッション中? 大丈夫か、阿部君? 阿部君は悪徳政治家に殺されて、じご……天国に来てしまったんだぞ。辛い気持ちはわかるが、現実を受け止めないといけないよ」
「ああー、リーダー! かわいそうに。とうとう本当に頭がおかしくなったんですね? もしかしたら私がさっき調子に乗ってフルパワーでリーダーの頭を何回も叩いたせいですか? どうしようかな? 同じ衝撃を加えれば元通りになるって、ドラマの中のお医者さんが言ってたような。リーダー、治してあげますからね」
「痛い痛い痛ーい!」
やっぱりここは地獄確定だな。しょうがない諦めよう。地獄なら地獄なりに振る舞わないといけないぞ。私は自他ともに認める臨機応変人間なのだ。
「リーダー、治りました?」
えっとー、『レッド』と呼べばいいのだな。
「ありがとう、レッド。私はもう大丈夫だ。だからもう帰ってもいいぞ」
「分かりましたー。それじゃ先にアジトに戻りますね。たくさん盗ったから、分け前を楽しみにしておいてくださいね」
「ああ」
阿部君は死んでもまだミッション中だと思っているのだな。それはそれで幸せなのかもしれない。
「ああー、どうしよう」
「どうした、あ……レッド?」
「パトカーが来ちゃいました。屋敷の方まで後退して隠れましょう。ブルー、おいで。イエローは目立たないように偵察をお願い」
引きづられるように屋敷の方まで行きじっとしていると、トラゾウのようなトラが私の足元までやって来た。この屋敷は見覚えがあるし、ちょっと離れた所に記憶に新しいへっぽこ警備員がまだ気持ちよさそうに気絶しているぞ。うん? あれ? もしかすると、私は死んでいないんじゃないか。よく考えたら生命力の塊の阿部君が簡単に死ぬわけないじゃないか。
「レッド、確認だが、私は生きてるよな?」
「あれー、また頭がおかしくなったのかな? よし、もう一度。それー」
「やめろー! 私はまともだ。そして元気だ。いやっほー」
「リーダー、静かに。おとなしくしないと……」
私は瞬時に石となった。でも状況が飲み込めないぞ。私は撃たれたはずなのに、これはどういうことなんだろう? あー簡単だ。あのへっぽこSPが外したのだ。2人とも。
でもなんで阿部君がいるんだ? まさか私を助けに? いやいや、阿部君が……来てくれた。
とうとう撃ちやがったな。でも極限を超えた疲労困憊のせいで痛みを感じないのかもしれないが、私に命中はしていないようだ。でも意識は朦朧としてきたな。これで、本当にさよならだ。
「と、トラが出たー」「こっちのトラは、頭はトラだけど胴体は小さなライオンみたいだぞー」「ひぃー、助けてくれー」「警察を呼んでくれー」「バカヤロー、警察なんて呼ぶんじゃないぞ」「誰かを生贄にして、その隙に逃げろー」
はあー、天国は穏やかで静かな所だと想像していたのに、地上よりも賑やかだな。まあ賑やかな所は嫌いじゃないから、十分にやっていけるだろう。一つ誤算があるとしたなら、天国に来ても体中がだるくて目を開ける元気すらも回復してないじゃないか。そういうものなのか? まあいい。少しばかり眠ればなんとでもなるから、その後でゆっくり天国を散策するか。時間はたっぷりあるだろう。
「リーダー? リーダー! リィーダァー!」
痛い痛い。私の頭を遠慮なくバンバン叩くのは誰だ? まるで阿部君みたいじゃないか。まさか天国にも阿部君のような非情な人がいるというのか。なんか想像と全然違うじゃないか。このままじっとしていたら何をされるか分かったものではないな。
私の目よ、開けー。やったぞ。こんな力がまだ残っていたんだな。私を叩いている天国に紛れたやつの顔を確認してやるか。ん? こ、これは……『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』で視界が塞がれているぞ。私の手よ、動けー。あれ? 蓋が開いているぞ。でも中身はぎっしり詰まっている。迷っている場合ではない。これが誰かが毒か何かと入れ替えられていたとしても、飲むしかない。飲まないなら、ここが天国であろうと、私は死んでしまうような気がする。
私は飲んだ。それも一気に。おおー、みるみるうちに体力が回復してきているのが実感できるぞ。これは、この『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』のおかげか。それとも、たまたまちょっとした手違いがあって、時間差でやっと天国らしさを発揮してくれて回復したのだろうか。
とりあえず、ここが本当に天国なのか、あの賑やかな人たちに聞きに行こう。いや、待てよ。何らかの行き違いでまちがって、この私が地獄に来てしまったのなら、あいつらは地獄の鬼かもしれないぞ。
うーん、どうしようか。
「リーダー?」
誰かが私を呼んでいるぞ。なぜ私が『リーダー』だと分かったのだ。そんなに『リーダー』のオーラが出ているのだろうか? 出ているのだろう。すぐにでも返事してやらないとかわいそうだけど、どこかのおとぎ話で、返事をしたら瓢箪の中に吸い込まれて閉じ込められるのがあったな。私は何を迷っているんだ。体力が完全に戻っている私に不可能はないのだから、恐れる必要なんてないじゃないか。
「リーダー、大丈夫ですか?」
せっかちなやつだな。今、返事してやるよ。
「だいじょ……ええー! あ、阿部君じゃないか」
ここは、天国かもしくは地獄だぞ。そして阿部君がいるということは、残念ながら地獄だな。阿部君までも悪徳政治家の毒牙にかかったっていうのか? じゃあ、誰が明智君とトラゾウの面倒をみてやるというんだ? いや、もしかすると明智君とトラゾウまでも。あそこで鬼たちを威嚇するように立っているトラのようなライオンのような犬のような動物は、明智君とトラゾウなのか。許さんぞ、悪徳政治家。何が何でも今すぐ地上に戻って、お前たちに制裁を加えてやるからな。
「リーダー、何をぶつぶつ言ってるんですか? 気持ち悪いですよ。じゃなくて、もう大丈夫そうですね。元気になりました? あと、ミッション中は、私は『レッド』ですよ」
「ミッション中? 大丈夫か、阿部君? 阿部君は悪徳政治家に殺されて、じご……天国に来てしまったんだぞ。辛い気持ちはわかるが、現実を受け止めないといけないよ」
「ああー、リーダー! かわいそうに。とうとう本当に頭がおかしくなったんですね? もしかしたら私がさっき調子に乗ってフルパワーでリーダーの頭を何回も叩いたせいですか? どうしようかな? 同じ衝撃を加えれば元通りになるって、ドラマの中のお医者さんが言ってたような。リーダー、治してあげますからね」
「痛い痛い痛ーい!」
やっぱりここは地獄確定だな。しょうがない諦めよう。地獄なら地獄なりに振る舞わないといけないぞ。私は自他ともに認める臨機応変人間なのだ。
「リーダー、治りました?」
えっとー、『レッド』と呼べばいいのだな。
「ありがとう、レッド。私はもう大丈夫だ。だからもう帰ってもいいぞ」
「分かりましたー。それじゃ先にアジトに戻りますね。たくさん盗ったから、分け前を楽しみにしておいてくださいね」
「ああ」
阿部君は死んでもまだミッション中だと思っているのだな。それはそれで幸せなのかもしれない。
「ああー、どうしよう」
「どうした、あ……レッド?」
「パトカーが来ちゃいました。屋敷の方まで後退して隠れましょう。ブルー、おいで。イエローは目立たないように偵察をお願い」
引きづられるように屋敷の方まで行きじっとしていると、トラゾウのようなトラが私の足元までやって来た。この屋敷は見覚えがあるし、ちょっと離れた所に記憶に新しいへっぽこ警備員がまだ気持ちよさそうに気絶しているぞ。うん? あれ? もしかすると、私は死んでいないんじゃないか。よく考えたら生命力の塊の阿部君が簡単に死ぬわけないじゃないか。
「レッド、確認だが、私は生きてるよな?」
「あれー、また頭がおかしくなったのかな? よし、もう一度。それー」
「やめろー! 私はまともだ。そして元気だ。いやっほー」
「リーダー、静かに。おとなしくしないと……」
私は瞬時に石となった。でも状況が飲み込めないぞ。私は撃たれたはずなのに、これはどういうことなんだろう? あー簡単だ。あのへっぽこSPが外したのだ。2人とも。
でもなんで阿部君がいるんだ? まさか私を助けに? いやいや、阿部君が……来てくれた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。


椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる