明智君という名の犬と自己中見習い怪盗と初老新米怪盗の私

きよバス

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第26話

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「バンッ!」
 とうとう撃ちやがったな。でも極限を超えた疲労困憊のせいで痛みを感じないのかもしれないが、私に命中はしていないようだ。でも意識は朦朧としてきたな。これで、本当にさよならだ。
「と、トラが出たー」「こっちのトラは、頭はトラだけど胴体は小さなライオンみたいだぞー」「ひぃー、助けてくれー」「警察を呼んでくれー」「バカヤロー、警察なんて呼ぶんじゃないぞ」「誰かを生贄にして、その隙に逃げろー」
 はあー、天国は穏やかで静かな所だと想像していたのに、地上よりも賑やかだな。まあ賑やかな所は嫌いじゃないから、十分にやっていけるだろう。一つ誤算があるとしたなら、天国に来ても体中がだるくて目を開ける元気すらも回復してないじゃないか。そういうものなのか? まあいい。少しばかり眠ればなんとでもなるから、その後でゆっくり天国を散策するか。時間はたっぷりあるだろう。
「リーダー? リーダー! リィーダァー!」
 痛い痛い。私の頭を遠慮なくバンバン叩くのは誰だ? まるで阿部君みたいじゃないか。まさか天国にも阿部君のような非情な人がいるというのか。なんか想像と全然違うじゃないか。このままじっとしていたら何をされるか分かったものではないな。
 私の目よ、開けー。やったぞ。こんな力がまだ残っていたんだな。私を叩いている天国に紛れたやつの顔を確認してやるか。ん? こ、これは……『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』で視界が塞がれているぞ。私の手よ、動けー。あれ? 蓋が開いているぞ。でも中身はぎっしり詰まっている。迷っている場合ではない。これが誰かが毒か何かと入れ替えられていたとしても、飲むしかない。飲まないなら、ここが天国であろうと、私は死んでしまうような気がする。
 私は飲んだ。それも一気に。おおー、みるみるうちに体力が回復してきているのが実感できるぞ。これは、この『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』のおかげか。それとも、たまたまちょっとした手違いがあって、時間差でやっと天国らしさを発揮してくれて回復したのだろうか。
 とりあえず、ここが本当に天国なのか、あの賑やかな人たちに聞きに行こう。いや、待てよ。何らかの行き違いでまちがって、この私が地獄に来てしまったのなら、あいつらは地獄の鬼かもしれないぞ。
 うーん、どうしようか。
「リーダー?」
 誰かが私を呼んでいるぞ。なぜ私が『リーダー』だと分かったのだ。そんなに『リーダー』のオーラが出ているのだろうか? 出ているのだろう。すぐにでも返事してやらないとかわいそうだけど、どこかのおとぎ話で、返事をしたら瓢箪の中に吸い込まれて閉じ込められるのがあったな。私は何を迷っているんだ。体力が完全に戻っている私に不可能はないのだから、恐れる必要なんてないじゃないか。
「リーダー、大丈夫ですか?」
 せっかちなやつだな。今、返事してやるよ。
「だいじょ……ええー! あ、阿部君じゃないか」
 ここは、天国かもしくは地獄だぞ。そして阿部君がいるということは、残念ながら地獄だな。阿部君までも悪徳政治家の毒牙にかかったっていうのか? じゃあ、誰が明智君とトラゾウの面倒をみてやるというんだ? いや、もしかすると明智君とトラゾウまでも。あそこで鬼たちを威嚇するように立っているトラのようなライオンのような犬のような動物は、明智君とトラゾウなのか。許さんぞ、悪徳政治家。何が何でも今すぐ地上に戻って、お前たちに制裁を加えてやるからな。
「リーダー、何をぶつぶつ言ってるんですか? 気持ち悪いですよ。じゃなくて、もう大丈夫そうですね。元気になりました? あと、ミッション中は、私は『レッド』ですよ」
「ミッション中? 大丈夫か、阿部君? 阿部君は悪徳政治家に殺されて、じご……天国に来てしまったんだぞ。辛い気持ちはわかるが、現実を受け止めないといけないよ」
「ああー、リーダー! かわいそうに。とうとう本当に頭がおかしくなったんですね? もしかしたら私がさっき調子に乗ってフルパワーでリーダーの頭を何回も叩いたせいですか? どうしようかな? 同じ衝撃を加えれば元通りになるって、ドラマの中のお医者さんが言ってたような。リーダー、治してあげますからね」
「痛い痛い痛ーい!」
 やっぱりここは地獄確定だな。しょうがない諦めよう。地獄なら地獄なりに振る舞わないといけないぞ。私は自他ともに認める臨機応変人間なのだ。
「リーダー、治りました?」
 えっとー、『レッド』と呼べばいいのだな。
「ありがとう、レッド。私はもう大丈夫だ。だからもう帰ってもいいぞ」
「分かりましたー。それじゃ先にアジトに戻りますね。たくさん盗ったから、分け前を楽しみにしておいてくださいね」
「ああ」
 阿部君は死んでもまだミッション中だと思っているのだな。それはそれで幸せなのかもしれない。
「ああー、どうしよう」
「どうした、あ……レッド?」
「パトカーが来ちゃいました。屋敷の方まで後退して隠れましょう。ブルー、おいで。イエローは目立たないように偵察をお願い」
 引きづられるように屋敷の方まで行きじっとしていると、トラゾウのようなトラが私の足元までやって来た。この屋敷は見覚えがあるし、ちょっと離れた所に記憶に新しいへっぽこ警備員がまだ気持ちよさそうに気絶しているぞ。うん? あれ? もしかすると、私は死んでいないんじゃないか。よく考えたら生命力の塊の阿部君が簡単に死ぬわけないじゃないか。
「レッド、確認だが、私は生きてるよな?」
「あれー、また頭がおかしくなったのかな? よし、もう一度。それー」
「やめろー! 私はまともだ。そして元気だ。いやっほー」
「リーダー、静かに。おとなしくしないと……」
 私は瞬時に石となった。でも状況が飲み込めないぞ。私は撃たれたはずなのに、これはどういうことなんだろう? あー簡単だ。あのへっぽこSPが外したのだ。2人とも。
 でもなんで阿部君がいるんだ? まさか私を助けに? いやいや、阿部君が……来てくれた。
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