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第25話
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「私を銃なんかで倒せると思ったら大間違いだぞ」
「そうなのか? よし、もう一人、前に来い」
あれ? 銃を手にしたSPが二人に増えたぞ。口は災いの元だと年下の上司の……いや、死ぬ間際に思い出すような奴じゃないな。それにしてもまいったなあ。一発くらいならよけられるのに、例え元気だったとしても2発となれば自信が急降下だったろうな。
ただ、銃を構えた二人とも自信なさげだな。それはそうだ。この日本で人間相手に銃を撃つなんてまず考えられないし、悪徳政治家が個人で雇っているSPなのだから弾代をケチってほとんど練習させてもらっていないのだろう。それにいるだけで抑止力として十分だから、きっとこいつらは見せかけのSPなはず。
もしかしたら、あの銃だってモデルガンの可能性もあるんじゃないか。いや、さすがにそれはないか。少なくともあの二人のSPが持っている銃は本物だ。そしてそれで十分だろう。撃たれる側にしたら、一つでも本物を見せられると、例え他が偽物だとしても全部を本物だと思ってしまう心理トリックのようなものだ。悪徳政治家を謳っているだけあって、悪知恵が働くじゃないか。
それにかけてみるというか、そういうことにしてみよう。本物の銃は2つ。あいつらはきっとバカだから何も考えず同時に撃つ。そしてすぐに殺したくないから、致命傷を避けるために上半身よりは下半身を狙う。幸いに2つともリボルバーだ。オートマチックに比べれば連射速度が遅いから、2発目を撃つまでに最後の力を振り絞って悪徳政治家の屋敷内まで逃げれば、私に勝機が出るぞ。
なんとか冷蔵庫を見つけて『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』を飲んでやる。いくら強欲な明智君でも、かさ張る缶飲料を根こそぎ持っていってないだろう。これだけの家だし、何より金に汚い悪徳政治家なのだから他に金目の物をいくらでも目につく所に置いているはずなので、明智君ならもっと割の良いものを見つけて持っていく。希望が湧いてきたぞ。
後は、あのSPたちが銃を撃つ瞬間にタイミングよくジャンプするためにも、引き金にかかっているあいつらの指に集中するだけだ。いや、待てよ。あいつらの銃の腕を過信していては危険だな。練習すらまともにしていない……いや、撃ったことすらない可能性が高い奴らが狙った所にまともに撃てるわけないじゃないか。下手したら、私が跳んだ先に期せずして弾が飛んでくるかもしれないぞ。
うーん、少しでも体力を温存したいが確認は大事だな。
「お前たち、私に当てる自信はあるのか? どうせ銃なんて一度も撃ったことがないんだろ」
「な、なぜ分かった? ここここいつらの構えを見ただけで見抜くとは、お前はなかなか只者ではないな」
分かりやすく動揺しているが、これしきの事でそんなに動揺して、よく何十年も悪徳政治活動をやってこれたな。日本の将来が心配だぞ。明智君は老後のために、『円』だけではなく『ドル』や『ユーロ』も持っておいた方が良さそうだな。なんとか忠告してやれるだろうか? そのためにも生きて帰ってやる。
だけど私のヤマカンが当たったところで、私が優位に立ったとは言い難いぞ。あいつらが銃の名手だったならタイミングよく避ければ良かったものを、撃った弾がどこに行くのか分からないようなド素人相手なら、場合によってはじっとしている方が良かったという結末になるじゃないか。
何かいい方法はないだろうか。うん? 何もあいつらが撃つのを待たなくてもいいんじゃないのか。あいつらが撃った弾なんて、どうせどこに飛んでいくのか分からないのだから、少しでも早く動いて悪徳政治家宅の冷蔵庫に少しでも近づいてやる。その結果、弾が命中したとしても、やるだけやったのだからと諦めが……渋々諦めてやるさ。
少しでも時間を稼ぐために空に向かって指を指し「あれは何だ?」と言えば、アホ面が一斉に向くので、その隙にダッシュしてやる。
この窮地でこんな完璧に自分の生還のための道筋を立てられるなんて、私は本当に本物の天才だな。
もたもたしていると、あいつらが先に動きかねないから、善は急ごう。
「あれはなんだ?」
あれ? 体が動かないぞ。脳は私の体にダッシュするように指示を出しているのに、手足からの応答がない。どうやら私は体力だけでなく、気合いまでも使い果たしたようだな。無駄口を叩くんじゃなかったな。それも、あんな大声で。
はあー、私の最後の言葉が「あれは何だ?」になるのか。考えようによっては哲学的かもしれないな。インテリな奴ほど深く掘り下げて、案外名言となって後世に伝えられるかもしれないぞ。この悪徳政治家が私に情けをかけるか、笑い話にするつもりで公にしたらだけど。
「あれは、お月さんだぞ。知らないのか? それとも、一匹狼とか言ってたくらいだから、オオカミにでも変身してワシらをやっつけるってか? ハハハーヒヒー」
ふんっ。悪徳政治家の割になかなか面白い冗談を言うじゃないか。生まれ変わったら、怪盗オオカミ男になってやろうかな。いや、だめだ。普通の人間にしておこう。
満月のたびにオオカミになっていたら、気軽に明智君と散歩できないぞ。明智君のことだから、オオカミに変身した私を敵とみなしたふりをして、殴る蹴るかじるの暴行をここぞとばかりにするじゃないか。そして私が人間に戻ったら「どうしたの、そのケガは?」とわざとらしく聞いてくるまでが、お決まりのパターンとなる。
私だからそれでも捨てられないし、明智君のようなわがままで強欲な犬と一緒に生活していても大丈夫だけど、私がいなくなったら、犬だろうが猫を被って新しい飼い主のもとで末永く幸せに暮らしておくれ。明智君が我慢できそうなら、阿部君の家に居座るのもありかもしれないな。法外な家賃は取られ、晩酌時は理不尽な説教の対象になるのを耐えればすむことだ。
どうせ阿部君は新団員として自分の両親を加えるだろうから、明智君も阿部家にいた方が集まるのも容易だし、思いついた時に作戦会議なり活動そのものをやりやすいぞ。居候の身なので、取り分は新米の阿部君パパママと同じに設定され、阿部君7、阿部君パパママ明智君がそれぞれ1になるが、世の中そういう風にできていると明智君なら既に知っているだろう。
さようなら、明智君。
そして短い間だったけど、一緒に暮らせて楽しかったぞ、トラゾウ。
ついでに、阿部君にもお礼を言わないと。……何か言う事があったかな。全く思い出せない。これはまいったぞ。お世辞でも作り話でもなんでもいいから何かお礼を言わないと、阿部君のことだから想像もつかない暴挙に出るに決まっている。
仕方ない。阿部君に何をされてもいいように、天国に行ったら体力と精神力を鍛えよう。天国がまるで地獄のように感じるほどのトレーニングが必要だな。
あっ、お礼の一つも言えなくて申し訳ないが、明智君とトラゾウの事は頼んだぞ、阿部君。
「そうなのか? よし、もう一人、前に来い」
あれ? 銃を手にしたSPが二人に増えたぞ。口は災いの元だと年下の上司の……いや、死ぬ間際に思い出すような奴じゃないな。それにしてもまいったなあ。一発くらいならよけられるのに、例え元気だったとしても2発となれば自信が急降下だったろうな。
ただ、銃を構えた二人とも自信なさげだな。それはそうだ。この日本で人間相手に銃を撃つなんてまず考えられないし、悪徳政治家が個人で雇っているSPなのだから弾代をケチってほとんど練習させてもらっていないのだろう。それにいるだけで抑止力として十分だから、きっとこいつらは見せかけのSPなはず。
もしかしたら、あの銃だってモデルガンの可能性もあるんじゃないか。いや、さすがにそれはないか。少なくともあの二人のSPが持っている銃は本物だ。そしてそれで十分だろう。撃たれる側にしたら、一つでも本物を見せられると、例え他が偽物だとしても全部を本物だと思ってしまう心理トリックのようなものだ。悪徳政治家を謳っているだけあって、悪知恵が働くじゃないか。
それにかけてみるというか、そういうことにしてみよう。本物の銃は2つ。あいつらはきっとバカだから何も考えず同時に撃つ。そしてすぐに殺したくないから、致命傷を避けるために上半身よりは下半身を狙う。幸いに2つともリボルバーだ。オートマチックに比べれば連射速度が遅いから、2発目を撃つまでに最後の力を振り絞って悪徳政治家の屋敷内まで逃げれば、私に勝機が出るぞ。
なんとか冷蔵庫を見つけて『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』を飲んでやる。いくら強欲な明智君でも、かさ張る缶飲料を根こそぎ持っていってないだろう。これだけの家だし、何より金に汚い悪徳政治家なのだから他に金目の物をいくらでも目につく所に置いているはずなので、明智君ならもっと割の良いものを見つけて持っていく。希望が湧いてきたぞ。
後は、あのSPたちが銃を撃つ瞬間にタイミングよくジャンプするためにも、引き金にかかっているあいつらの指に集中するだけだ。いや、待てよ。あいつらの銃の腕を過信していては危険だな。練習すらまともにしていない……いや、撃ったことすらない可能性が高い奴らが狙った所にまともに撃てるわけないじゃないか。下手したら、私が跳んだ先に期せずして弾が飛んでくるかもしれないぞ。
うーん、少しでも体力を温存したいが確認は大事だな。
「お前たち、私に当てる自信はあるのか? どうせ銃なんて一度も撃ったことがないんだろ」
「な、なぜ分かった? ここここいつらの構えを見ただけで見抜くとは、お前はなかなか只者ではないな」
分かりやすく動揺しているが、これしきの事でそんなに動揺して、よく何十年も悪徳政治活動をやってこれたな。日本の将来が心配だぞ。明智君は老後のために、『円』だけではなく『ドル』や『ユーロ』も持っておいた方が良さそうだな。なんとか忠告してやれるだろうか? そのためにも生きて帰ってやる。
だけど私のヤマカンが当たったところで、私が優位に立ったとは言い難いぞ。あいつらが銃の名手だったならタイミングよく避ければ良かったものを、撃った弾がどこに行くのか分からないようなド素人相手なら、場合によってはじっとしている方が良かったという結末になるじゃないか。
何かいい方法はないだろうか。うん? 何もあいつらが撃つのを待たなくてもいいんじゃないのか。あいつらが撃った弾なんて、どうせどこに飛んでいくのか分からないのだから、少しでも早く動いて悪徳政治家宅の冷蔵庫に少しでも近づいてやる。その結果、弾が命中したとしても、やるだけやったのだからと諦めが……渋々諦めてやるさ。
少しでも時間を稼ぐために空に向かって指を指し「あれは何だ?」と言えば、アホ面が一斉に向くので、その隙にダッシュしてやる。
この窮地でこんな完璧に自分の生還のための道筋を立てられるなんて、私は本当に本物の天才だな。
もたもたしていると、あいつらが先に動きかねないから、善は急ごう。
「あれはなんだ?」
あれ? 体が動かないぞ。脳は私の体にダッシュするように指示を出しているのに、手足からの応答がない。どうやら私は体力だけでなく、気合いまでも使い果たしたようだな。無駄口を叩くんじゃなかったな。それも、あんな大声で。
はあー、私の最後の言葉が「あれは何だ?」になるのか。考えようによっては哲学的かもしれないな。インテリな奴ほど深く掘り下げて、案外名言となって後世に伝えられるかもしれないぞ。この悪徳政治家が私に情けをかけるか、笑い話にするつもりで公にしたらだけど。
「あれは、お月さんだぞ。知らないのか? それとも、一匹狼とか言ってたくらいだから、オオカミにでも変身してワシらをやっつけるってか? ハハハーヒヒー」
ふんっ。悪徳政治家の割になかなか面白い冗談を言うじゃないか。生まれ変わったら、怪盗オオカミ男になってやろうかな。いや、だめだ。普通の人間にしておこう。
満月のたびにオオカミになっていたら、気軽に明智君と散歩できないぞ。明智君のことだから、オオカミに変身した私を敵とみなしたふりをして、殴る蹴るかじるの暴行をここぞとばかりにするじゃないか。そして私が人間に戻ったら「どうしたの、そのケガは?」とわざとらしく聞いてくるまでが、お決まりのパターンとなる。
私だからそれでも捨てられないし、明智君のようなわがままで強欲な犬と一緒に生活していても大丈夫だけど、私がいなくなったら、犬だろうが猫を被って新しい飼い主のもとで末永く幸せに暮らしておくれ。明智君が我慢できそうなら、阿部君の家に居座るのもありかもしれないな。法外な家賃は取られ、晩酌時は理不尽な説教の対象になるのを耐えればすむことだ。
どうせ阿部君は新団員として自分の両親を加えるだろうから、明智君も阿部家にいた方が集まるのも容易だし、思いついた時に作戦会議なり活動そのものをやりやすいぞ。居候の身なので、取り分は新米の阿部君パパママと同じに設定され、阿部君7、阿部君パパママ明智君がそれぞれ1になるが、世の中そういう風にできていると明智君なら既に知っているだろう。
さようなら、明智君。
そして短い間だったけど、一緒に暮らせて楽しかったぞ、トラゾウ。
ついでに、阿部君にもお礼を言わないと。……何か言う事があったかな。全く思い出せない。これはまいったぞ。お世辞でも作り話でもなんでもいいから何かお礼を言わないと、阿部君のことだから想像もつかない暴挙に出るに決まっている。
仕方ない。阿部君に何をされてもいいように、天国に行ったら体力と精神力を鍛えよう。天国がまるで地獄のように感じるほどのトレーニングが必要だな。
あっ、お礼の一つも言えなくて申し訳ないが、明智君とトラゾウの事は頼んだぞ、阿部君。
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