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第24話
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うん? 一人暴走している奴がいるぞ。なんで銃口を向けてるんだ? おいおい、私はこの通り両手を上げて降参しているじゃないか。誰かそいつを止めてくれ。
どういうことなんだ? なぜ誰もそいつを抑えないんだ? 警察が来ないのと関係があるようだな。そのSPの単独の判断ではなく、この家の主である悪徳政治家が関係していそうだぞ。だけど、この法治国家である日本でこんな事が許されていいはずないじゃないか。いやそんな綺麗事はここでは意味をなさないのだろう。
せめて私を殺さないといけない理由を知りたいが、話す元気も残されていないようだ。気づけば銃口を向けているSPの隣に悪徳政治家がしゃしゃり出てきているじゃないか。こいつのゴーサインで、私は死ぬということなのだろう。
「おい、お前は何者だ?」
どうせ殺されるのだ。憎まれ口の一つでも叩きたいのに、疲れすぎてそれすらできないじゃないか。心残りだな。「私は小心者アドバイザーだ。これからは漏らしても分からないような暗色のスーツを着た方がいいぞ」って言ってやりたかった。
「変な模様で塗りつぶしてるから日本人かどうかよく分からなかったが、黙ってるということは、ワシの言葉が分からないのだな。どこの国のスパイなんだ? ……。あっ、日本語が通じないんだったな。おーい、誰か英語のできる奴はいるか?」
え! 誰も返事をしないということは、これだけいて英語のできる奴がいないのか? SPって英語を話せなくてもいいのだろうか? 政治家なら外国に行ったり、外国の要人と接触することも少なくないだろ。
私の知ったことではないな。それに英語で話しかけられたりしたら、例えこんなに疲弊していなくても、私はだんまりを決め込むぞ。
「やはりいないようだな。SP代をケチらないで、もっと優秀な者を雇うべきだったかな。まあいい。お前たち、臨時ボーナスを出すから英会話教室に通え」
「ウォー! やったー、ボーナスだー」
こいつら……。英会話教室に通うふりをして、きっと他の事に使うぞ。私には断定できる。口をきく元気があったとしても、この悪徳政治家に忠告する気はないがな。
「よーし、ここは気合いで乗り切ろうじゃないか」
え? 何をする気だ? それに気合いを入れたいなら、まずはトラゾウを見て漏らした跡がくっきり残っているお前のズボンをなんとかした方がいいんじゃないのか。
「お前は何者だ?」
なるほど。声が大きくなって、さらに大げさなジェスチャーが加わったな。確かに気合いだ。間違いない。若干、ズボンも乾いたようだし。
私も気合いで声くらい出せるんじゃないのか? うん、きっと出る。信じればできるのだ。人間ってある意味単純な生き物なのだ。
「通りすがりのタイガーマスクだ」
「おおー。ほら見ろ、会話なんて気合いでできるんだぞ。みんな覚えておけよ。臨時ボーナスは、やっぱり無しだな」
SPたちの目が、すぐにでも私を殺したいと言っているような。一応できるだけの事はやってみるか。
「おいおい、政治家が国民に嘘はついても、SPに嘘をついていたら命がいくらあっても足りなくなるぞ」
「確かに。お前、なかなかいい事を言うじゃないか。よし、やっぱり臨時ボーナスを支給するぞ」
「ウォー! ありがとうございます」
悪徳政治家にというよりは、私にお礼を言っているような。でも、銃口は私に向いたままだな。
「オホンッ。ところで、タイガーマスクというのは、ワシをバカにしてるつもりなのかもしれんが、無駄だぞ。その手の暴言やふざけた対応には慣れているのでな。もう一度聞くぞ。お前は何者だ? 答えによっては、このSPの人差し指が引き金を……」
「しがない怪盗です。何か金目の物がないかと思って忍び込みました。もうしないので許してください。さようなら」
うーん、道を開けてくれないな。まあ、開けてくれたところで、歩くのは気合いでも不可能に近い。立っているのがやっとだ。
「なるほど。たった一人で来たのか?」
「はい。散歩していたら、たまたま大きな家があったから、ついつい」
「確かにワシの家はこの辺りで、いや日本で一番立派な家だからな。はっはっはっー。それで、何を盗ったんだ?」
「な、何も。屋敷に入る前に見つかったので、逃げるだけで精一杯でした」
「そうか」
うん? 悪徳政治家を若くしただけのそっくりな奴が、何か悪徳政治家に耳打ちしているな。あいつは息子か、そうでないにしても身内に違いない。さては先に家の中を確認しに行って、状況を悪徳政治家に報告しているのだな。
これはまいったぞ。少なくとも絵は無くなっているし、阿部君と明智君のことだから派手に荒らしているはずだ。細かく何が無くなっているかまでは分からなくとも、誰かが侵入したのは一目瞭然だっただろう。
「お前は嘘をついてるな? 私は嘘つきが大嫌いだ。それが例え身内であったとしても許すつもりはない」
自分は散々嘘をついているくせに。まあ、そんな事を言ってわざわざ怒らせる必要はないだろう。ここは低姿勢で。
「いえ、本当に何も盗ってないですよ。なんなら調べてもらっても、何も出てこないです」
「そうか。では、たまたま同じ日の同じ時間に、お前とは何の関係もないコソドロが我が家に入ったと言うのだな」
「あーそうなんですか? 何か無くなってるんですか?」
「とぼけていられるのも今のうちだぞ。おとなしく仲間の居所を教えるか、盗った物を返しに来させるかするなら、お前に情けをかけてやってもいいとは思ってるんだがな」
よくもまあ心にもない事を、あんな堂々と話せるな。国民を騙せても、私には通じない。お前の悪行を白シカ組組長から聞いてなかったとしても、お前の顔におもいっきり『悪』と書かれているのが、私には見えているぞ。どうせ情けをかけるとか言っても、苦痛を感じないようにするだけで、私をすぐにこの世から抹殺することにかわりはないに決まっている。
例え私を今すぐには天国送りにしないという確約があったとしても、大事な仲間を売る気はないがな。
「そう言われても、私は誇り高き一匹狼なので」
「そうか。心の広いワシからのチャンスをふいにしたのは、お前だからな。シャーロックホームズのような優秀な探偵を雇えば、盗まれた物は戻ってくるし犯人は天罰を与えられるから、あの世で仲良く再会させてやる。ワシは本当に優しいだろ?」
ホームズは100年いや1000年に一人の名探偵だ。そんな簡単に見つかるというか、この21世紀にはまだ存在していないぞ。どんなに早くても、現れるのは29世紀だな。だけどそこそこの探偵でも、阿部君と明智君の痕跡から事件を解決する可能性は高いような気がする。もっときちんと怪盗のイロハを教えておくべきだったのか。
いや、阿部君と明智君は悪運だけは強い。世界一と言っても過言ではないくらいだ。そして間違ってもそこら中に指紋やDNAを残してはいない……可能性が少しばかりある。
いや、阿部君と明智君を信じよう。天国で再会できるのは何十年後だな。阿部君は天寿を全うするし、明智君は強欲ぶりを発揮した怪盗活動で荒稼ぎしたお金に物を言わせて最先端医療を受けまくり、犬の長寿記録を大幅に更新するのだから。素直ゆえにトラの平均寿命で天国にやってくるトラゾウと束の間の自由を謳歌しようじゃないか。
よし、腹はくくれた。後は体力の続く限り抵抗して1秒でも長くこの世に踏みとどまってやる。私を敵に回した事を後悔すれば、私の大事な仲間に手を出す気は失せるだろう。
さあ、かかってこい。銃弾くらいよけてやる。
どういうことなんだ? なぜ誰もそいつを抑えないんだ? 警察が来ないのと関係があるようだな。そのSPの単独の判断ではなく、この家の主である悪徳政治家が関係していそうだぞ。だけど、この法治国家である日本でこんな事が許されていいはずないじゃないか。いやそんな綺麗事はここでは意味をなさないのだろう。
せめて私を殺さないといけない理由を知りたいが、話す元気も残されていないようだ。気づけば銃口を向けているSPの隣に悪徳政治家がしゃしゃり出てきているじゃないか。こいつのゴーサインで、私は死ぬということなのだろう。
「おい、お前は何者だ?」
どうせ殺されるのだ。憎まれ口の一つでも叩きたいのに、疲れすぎてそれすらできないじゃないか。心残りだな。「私は小心者アドバイザーだ。これからは漏らしても分からないような暗色のスーツを着た方がいいぞ」って言ってやりたかった。
「変な模様で塗りつぶしてるから日本人かどうかよく分からなかったが、黙ってるということは、ワシの言葉が分からないのだな。どこの国のスパイなんだ? ……。あっ、日本語が通じないんだったな。おーい、誰か英語のできる奴はいるか?」
え! 誰も返事をしないということは、これだけいて英語のできる奴がいないのか? SPって英語を話せなくてもいいのだろうか? 政治家なら外国に行ったり、外国の要人と接触することも少なくないだろ。
私の知ったことではないな。それに英語で話しかけられたりしたら、例えこんなに疲弊していなくても、私はだんまりを決め込むぞ。
「やはりいないようだな。SP代をケチらないで、もっと優秀な者を雇うべきだったかな。まあいい。お前たち、臨時ボーナスを出すから英会話教室に通え」
「ウォー! やったー、ボーナスだー」
こいつら……。英会話教室に通うふりをして、きっと他の事に使うぞ。私には断定できる。口をきく元気があったとしても、この悪徳政治家に忠告する気はないがな。
「よーし、ここは気合いで乗り切ろうじゃないか」
え? 何をする気だ? それに気合いを入れたいなら、まずはトラゾウを見て漏らした跡がくっきり残っているお前のズボンをなんとかした方がいいんじゃないのか。
「お前は何者だ?」
なるほど。声が大きくなって、さらに大げさなジェスチャーが加わったな。確かに気合いだ。間違いない。若干、ズボンも乾いたようだし。
私も気合いで声くらい出せるんじゃないのか? うん、きっと出る。信じればできるのだ。人間ってある意味単純な生き物なのだ。
「通りすがりのタイガーマスクだ」
「おおー。ほら見ろ、会話なんて気合いでできるんだぞ。みんな覚えておけよ。臨時ボーナスは、やっぱり無しだな」
SPたちの目が、すぐにでも私を殺したいと言っているような。一応できるだけの事はやってみるか。
「おいおい、政治家が国民に嘘はついても、SPに嘘をついていたら命がいくらあっても足りなくなるぞ」
「確かに。お前、なかなかいい事を言うじゃないか。よし、やっぱり臨時ボーナスを支給するぞ」
「ウォー! ありがとうございます」
悪徳政治家にというよりは、私にお礼を言っているような。でも、銃口は私に向いたままだな。
「オホンッ。ところで、タイガーマスクというのは、ワシをバカにしてるつもりなのかもしれんが、無駄だぞ。その手の暴言やふざけた対応には慣れているのでな。もう一度聞くぞ。お前は何者だ? 答えによっては、このSPの人差し指が引き金を……」
「しがない怪盗です。何か金目の物がないかと思って忍び込みました。もうしないので許してください。さようなら」
うーん、道を開けてくれないな。まあ、開けてくれたところで、歩くのは気合いでも不可能に近い。立っているのがやっとだ。
「なるほど。たった一人で来たのか?」
「はい。散歩していたら、たまたま大きな家があったから、ついつい」
「確かにワシの家はこの辺りで、いや日本で一番立派な家だからな。はっはっはっー。それで、何を盗ったんだ?」
「な、何も。屋敷に入る前に見つかったので、逃げるだけで精一杯でした」
「そうか」
うん? 悪徳政治家を若くしただけのそっくりな奴が、何か悪徳政治家に耳打ちしているな。あいつは息子か、そうでないにしても身内に違いない。さては先に家の中を確認しに行って、状況を悪徳政治家に報告しているのだな。
これはまいったぞ。少なくとも絵は無くなっているし、阿部君と明智君のことだから派手に荒らしているはずだ。細かく何が無くなっているかまでは分からなくとも、誰かが侵入したのは一目瞭然だっただろう。
「お前は嘘をついてるな? 私は嘘つきが大嫌いだ。それが例え身内であったとしても許すつもりはない」
自分は散々嘘をついているくせに。まあ、そんな事を言ってわざわざ怒らせる必要はないだろう。ここは低姿勢で。
「いえ、本当に何も盗ってないですよ。なんなら調べてもらっても、何も出てこないです」
「そうか。では、たまたま同じ日の同じ時間に、お前とは何の関係もないコソドロが我が家に入ったと言うのだな」
「あーそうなんですか? 何か無くなってるんですか?」
「とぼけていられるのも今のうちだぞ。おとなしく仲間の居所を教えるか、盗った物を返しに来させるかするなら、お前に情けをかけてやってもいいとは思ってるんだがな」
よくもまあ心にもない事を、あんな堂々と話せるな。国民を騙せても、私には通じない。お前の悪行を白シカ組組長から聞いてなかったとしても、お前の顔におもいっきり『悪』と書かれているのが、私には見えているぞ。どうせ情けをかけるとか言っても、苦痛を感じないようにするだけで、私をすぐにこの世から抹殺することにかわりはないに決まっている。
例え私を今すぐには天国送りにしないという確約があったとしても、大事な仲間を売る気はないがな。
「そう言われても、私は誇り高き一匹狼なので」
「そうか。心の広いワシからのチャンスをふいにしたのは、お前だからな。シャーロックホームズのような優秀な探偵を雇えば、盗まれた物は戻ってくるし犯人は天罰を与えられるから、あの世で仲良く再会させてやる。ワシは本当に優しいだろ?」
ホームズは100年いや1000年に一人の名探偵だ。そんな簡単に見つかるというか、この21世紀にはまだ存在していないぞ。どんなに早くても、現れるのは29世紀だな。だけどそこそこの探偵でも、阿部君と明智君の痕跡から事件を解決する可能性は高いような気がする。もっときちんと怪盗のイロハを教えておくべきだったのか。
いや、阿部君と明智君は悪運だけは強い。世界一と言っても過言ではないくらいだ。そして間違ってもそこら中に指紋やDNAを残してはいない……可能性が少しばかりある。
いや、阿部君と明智君を信じよう。天国で再会できるのは何十年後だな。阿部君は天寿を全うするし、明智君は強欲ぶりを発揮した怪盗活動で荒稼ぎしたお金に物を言わせて最先端医療を受けまくり、犬の長寿記録を大幅に更新するのだから。素直ゆえにトラの平均寿命で天国にやってくるトラゾウと束の間の自由を謳歌しようじゃないか。
よし、腹はくくれた。後は体力の続く限り抵抗して1秒でも長くこの世に踏みとどまってやる。私を敵に回した事を後悔すれば、私の大事な仲間に手を出す気は失せるだろう。
さあ、かかってこい。銃弾くらいよけてやる。
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