37 / 50
第37話
しおりを挟む
本番が始まると、小林ひな以外の役者たちはいつも通りのさすがという演技を見せつけられた。そして肝心のひなちゃんは、健二さんとたっぷり練習したのか、違和感もなく一人浮くこともなく誘拐される子供になりきっていた。プロの僕からしたら、演技というよりは良くも悪くも素のままで表していたと言うべきか。ひなちゃんのセリフはほとんどなく、あっても短文か単語くらいで、あとは頷いたり首を振ったり怯えたり喜んだりだったのでそう見えただけかもしれないが。そうは言っても結果リアリティが格段に上がったので、健二さんや監督の思惑はそれだったのかもしれない。主演とはいえ一出演者の僕と違って、監督はもちろん健二さんも大局を見ていたのだろう。健二さんが親バカぶりを発揮してひなちゃんを出演させたなんて少しでも考えてしまった事を反省しないと。
撮影は順調に進んだし、俳優として一つ勉強にもなったので、今日は有意義な一日だった。そして今日の発見を誰かに披露したくて自慢げに塚谷君に話すと、塚谷君は浮かない顔をしている。何か気がかりな事があるのか、お腹が空いているのかどちらかだろう。すると、スタッフに褒められているひなちゃんを残して、健二さんが僕たちの方へやって来た。
「よおーし、無事に終わったことだし、ごはんを食べに行くぞ、ひろし。美樹ちゃんももちろん行くよな?」
「もちろんです。それで何を食べに行くんですか?」
「みんなそろそろあのすき焼きを食べたいんじゃないか? うちのひなにもあれを味あわせてあげたいし」
「それはだめです。」
「えっ! なんで? もう、ひなと約束したのに」
「だめなものは、だめです。あのすき焼きは、大人になってから仕事の大変さや大切さを分かってから食べてこそ味が分かるんです。健二さん、ひなちゃんがかわいいのは分かりますよ、他人から見てもかわいいし。だけど甘やかしては、ひなちゃんのためになりません。どうしてもひなちゃんをあのすき焼き屋さんへ連れていくというのなら、私は二度と健二さんとはごはんに行きません」
「そ、そんなあ。俺は11年もの間、ひなのために何もしてやれなかったんだよ」
こんな泣き言を言う健二さんを初めて見た。だけど、僕も塚谷君の意見に賛成だ。だけれども静観する。
「そんなこと分かってます。だからこそ冷静になってください」
「うーん。どうしてもだめかなあ?」
「ひなちゃんのためです。かわいがると甘やかすは別物です。それにドラマ出演が決まった以上、健二さんがわざわざ発表しなくても、世間の人はひなちゃんが健二さんの子供だといずれ知ることになるんですよ。今さら出演シーンをカットなんてできるはずもないですし。今までひなちゃんのためにと思って隠していたのに、そんな事をするなんて。どうせひなちゃんに『お願い、パパ』とか言われたんでしょうけど、私は少し軽率だったと思いますよ。よその家庭の事にいちいち口出しなんてしたくないですけど、私の目の前でかわいいひなちゃんが必要以上の贅沢をしているというよりはさせられている状況を見過ごすわけにはいきません。私は健二さんのことを尊敬していますし、その健二さんは子供の頃から今まで積み重ねられてきて現在の素敵な健二さんになったと思いますけどね。ひなちゃんはただ寂しかっただけだと思いますよ。健二さんと一緒にいたいだけなんです。だから、ドラマに出たいというよりは、健二さんと一緒に出たいという方が強いだろうし。贅沢したいじゃなくて、ただ健二さんと一緒にごはんを食べたいだけなんです」
「美樹ちゃんの言う通りよ、健二さん」
いつの間にか僕の後ろで聞いていたリカさんが思わず口を開いた。それでも僕は静観する。
「若いうちから活躍していたリカまで、そういう意見なんだな。ということは、ひろしもそう思うか?」
思っていたよりも早く僕の出番が来てしまった。
「そうですね。健二さんは売れた後の事よりも仕事もなくて苦労していた時の事を、本当に嬉しそうに話しますよね? それが答えなんじゃないですか。リカさんだって見せないだけで、人知れず苦労をしてきたはずですよ。あのすき焼きは、お酒のように大人になってからの楽しみの一つとして残しておいてあげてほしいという願望もありますけど。そうすれば、ひなちゃんが大人になるまでは健二さんも仕事を頑張れるじゃないですか」
「そうだな。まだ完全に納得しているわけじゃないけど、俺の大好きな美樹ちゃん、リカ、そしてひろしがそこまで言ってくれるんだから信じるよ。今は素直にお礼を言えないけど、近い将来に感謝できると確信してるから。でも、今日これから一緒にごはんに付き合ってくれるよな?」
「当たり前じゃないですか。もうお腹ぺこぺこだから早く行きましょう」と塚谷君が返す刀で代表して返してくれた。これは相当お腹が空いているに違いない。
「何か食べたいものはあるか?」
「お好み焼き」
「お好み焼き」
「お好み焼き」
リカさんを僕の車に乗せて僕と塚谷君の3人と健二さんとひなちゃんの2人は別々の車で出発したが、お好み焼き屋へは同時に着いて5人仲良く入っていった。すると店員さんは僕たちが何も言わないのに比較的死角になる席に案内してくれた。健二さんとリカさんに気づくのは当たり前の光景だけど、今回は僕にも気づいてくれたうえに、僕に一番喜んでくれているような気がする。そして嬉しいことに、それを察知した塚谷君が店員さん以上に喜んでくれていた。
みんなが席に着き各々食べたいものを注文して店員さんがいなくなると、ひなちゃんがもう我慢できないとばかりに口を開いた。ひなちゃんなりに悩んでいたに違いない。
「ひろしさん、ごめんなさい。誰にも言わないって約束したのに、パパに話しちゃった」
「違うんだよ、ひろし。ひなが『すごく良い事があったけど、教えられないの』って言ったんだけど、俺はどうしてもひなの『良い事』が知りたくなって。懇願しても全然教えてくれないから、前からお願いされていたテレビ出演を交換条件にしたんだけど。それでもやっぱり頑なに教えてくれなかったんだよ。それでどうしたら教えてくれるのかダメ元で聞いたら、俺とドラマで共演できたら教えるかもって言われたから今回の結果になったんだよ。だけど、もし俺が他の誰かに言ったなら一生許さないし一生口を利かないって脅されたけどな。言い訳にならないのは分かってるけど……。でもまさかそれが、ひろしのバス運転士の事だとは全然予想してなかったよ」
「パパっ、だめでしょ! ひろしさんの事を誰にも言わないって約束したじゃない」
「ああ、大丈夫だよ。ここにいるみんなが、ひろしがバス運転士だって事を知ってるんだから」
「そうなの? リカさんとそのおばさんも?」
「お、お、お、お・ば・さ・ん?」
ひなちゃんと塚谷君以外は大爆笑なのに、僕だけがお尻をつねられた。納得はできないが理解はできるのが悲しい。
「ひなちゃん? このかわいくて優しくて素敵なお姉さんも、ひろしさんの事を知ってるのよ。お姉さんね」
「そうなんだね。おば……お姉さんは、ひろしさんとどういう関係なの?」
「お姉さんはね、あ、私のことは美樹ちゃんでいいよ」
「美樹ちゃんって、結構図々しいじゃなくて、人懐っこいんだね。あっ、かわいいし」
「おほほほほ。ひなちゃんは正直だね。美樹ちゃんはひろしさんのマネージャーなの……あっ、違う、敏腕美人マネージャーなの」
「やっぱり美樹ちゃんは……」
ひなちゃんは子供ながらに気を使って最後まで言わなかったのか、それともお好み焼きが運ばれてきたから黙ったのかは定かではない。それにしても相変わらず塚谷君は誰とでもすぐに仲良くなって、すっかりひなちゃんとは友達のようだった。
「美樹ちゃん、これどうすればいいの?」
「私が今から見本を見せるから、しっかり見ててね」と塚谷君の言葉が合図かのように、みんなが鉄板にお好み焼きを流し入れた。ひなちゃんもそれに倣ったが、ここまでは誰でも簡単にできる。そしてしばらく焼くと、ひっくり返すタイミングがやって来た。
「ひな、パパがひっくり返してあげるよ」
「だめ」
「だめです」と、二人が同時に発した。
「私は自分でやるもん」
「ひなちゃん、えらい。それでこそ、私の弟子だね。じゃあ、最高のひっくり返し方の見本を見ててね」
百戦錬磨の塚谷君は鮮やかにひっくり返したが、見よう見まねでひっくり返したひなちゃんのお好み焼きは、とんでもないことになってしまった。
「ほら、だからパパがやってあげるって言ったのに」
「いいの。失敗を知った私は、成功した時にものすごく嬉しいはずだもん」と言って、必死にお好み焼きを丸く整えているひなちゃんを、あえて誰も手伝わなかった。そして、健二さんの目が潤んでいることにも、誰もが気づいていないように振る舞っていた。
撮影は順調に進んだし、俳優として一つ勉強にもなったので、今日は有意義な一日だった。そして今日の発見を誰かに披露したくて自慢げに塚谷君に話すと、塚谷君は浮かない顔をしている。何か気がかりな事があるのか、お腹が空いているのかどちらかだろう。すると、スタッフに褒められているひなちゃんを残して、健二さんが僕たちの方へやって来た。
「よおーし、無事に終わったことだし、ごはんを食べに行くぞ、ひろし。美樹ちゃんももちろん行くよな?」
「もちろんです。それで何を食べに行くんですか?」
「みんなそろそろあのすき焼きを食べたいんじゃないか? うちのひなにもあれを味あわせてあげたいし」
「それはだめです。」
「えっ! なんで? もう、ひなと約束したのに」
「だめなものは、だめです。あのすき焼きは、大人になってから仕事の大変さや大切さを分かってから食べてこそ味が分かるんです。健二さん、ひなちゃんがかわいいのは分かりますよ、他人から見てもかわいいし。だけど甘やかしては、ひなちゃんのためになりません。どうしてもひなちゃんをあのすき焼き屋さんへ連れていくというのなら、私は二度と健二さんとはごはんに行きません」
「そ、そんなあ。俺は11年もの間、ひなのために何もしてやれなかったんだよ」
こんな泣き言を言う健二さんを初めて見た。だけど、僕も塚谷君の意見に賛成だ。だけれども静観する。
「そんなこと分かってます。だからこそ冷静になってください」
「うーん。どうしてもだめかなあ?」
「ひなちゃんのためです。かわいがると甘やかすは別物です。それにドラマ出演が決まった以上、健二さんがわざわざ発表しなくても、世間の人はひなちゃんが健二さんの子供だといずれ知ることになるんですよ。今さら出演シーンをカットなんてできるはずもないですし。今までひなちゃんのためにと思って隠していたのに、そんな事をするなんて。どうせひなちゃんに『お願い、パパ』とか言われたんでしょうけど、私は少し軽率だったと思いますよ。よその家庭の事にいちいち口出しなんてしたくないですけど、私の目の前でかわいいひなちゃんが必要以上の贅沢をしているというよりはさせられている状況を見過ごすわけにはいきません。私は健二さんのことを尊敬していますし、その健二さんは子供の頃から今まで積み重ねられてきて現在の素敵な健二さんになったと思いますけどね。ひなちゃんはただ寂しかっただけだと思いますよ。健二さんと一緒にいたいだけなんです。だから、ドラマに出たいというよりは、健二さんと一緒に出たいという方が強いだろうし。贅沢したいじゃなくて、ただ健二さんと一緒にごはんを食べたいだけなんです」
「美樹ちゃんの言う通りよ、健二さん」
いつの間にか僕の後ろで聞いていたリカさんが思わず口を開いた。それでも僕は静観する。
「若いうちから活躍していたリカまで、そういう意見なんだな。ということは、ひろしもそう思うか?」
思っていたよりも早く僕の出番が来てしまった。
「そうですね。健二さんは売れた後の事よりも仕事もなくて苦労していた時の事を、本当に嬉しそうに話しますよね? それが答えなんじゃないですか。リカさんだって見せないだけで、人知れず苦労をしてきたはずですよ。あのすき焼きは、お酒のように大人になってからの楽しみの一つとして残しておいてあげてほしいという願望もありますけど。そうすれば、ひなちゃんが大人になるまでは健二さんも仕事を頑張れるじゃないですか」
「そうだな。まだ完全に納得しているわけじゃないけど、俺の大好きな美樹ちゃん、リカ、そしてひろしがそこまで言ってくれるんだから信じるよ。今は素直にお礼を言えないけど、近い将来に感謝できると確信してるから。でも、今日これから一緒にごはんに付き合ってくれるよな?」
「当たり前じゃないですか。もうお腹ぺこぺこだから早く行きましょう」と塚谷君が返す刀で代表して返してくれた。これは相当お腹が空いているに違いない。
「何か食べたいものはあるか?」
「お好み焼き」
「お好み焼き」
「お好み焼き」
リカさんを僕の車に乗せて僕と塚谷君の3人と健二さんとひなちゃんの2人は別々の車で出発したが、お好み焼き屋へは同時に着いて5人仲良く入っていった。すると店員さんは僕たちが何も言わないのに比較的死角になる席に案内してくれた。健二さんとリカさんに気づくのは当たり前の光景だけど、今回は僕にも気づいてくれたうえに、僕に一番喜んでくれているような気がする。そして嬉しいことに、それを察知した塚谷君が店員さん以上に喜んでくれていた。
みんなが席に着き各々食べたいものを注文して店員さんがいなくなると、ひなちゃんがもう我慢できないとばかりに口を開いた。ひなちゃんなりに悩んでいたに違いない。
「ひろしさん、ごめんなさい。誰にも言わないって約束したのに、パパに話しちゃった」
「違うんだよ、ひろし。ひなが『すごく良い事があったけど、教えられないの』って言ったんだけど、俺はどうしてもひなの『良い事』が知りたくなって。懇願しても全然教えてくれないから、前からお願いされていたテレビ出演を交換条件にしたんだけど。それでもやっぱり頑なに教えてくれなかったんだよ。それでどうしたら教えてくれるのかダメ元で聞いたら、俺とドラマで共演できたら教えるかもって言われたから今回の結果になったんだよ。だけど、もし俺が他の誰かに言ったなら一生許さないし一生口を利かないって脅されたけどな。言い訳にならないのは分かってるけど……。でもまさかそれが、ひろしのバス運転士の事だとは全然予想してなかったよ」
「パパっ、だめでしょ! ひろしさんの事を誰にも言わないって約束したじゃない」
「ああ、大丈夫だよ。ここにいるみんなが、ひろしがバス運転士だって事を知ってるんだから」
「そうなの? リカさんとそのおばさんも?」
「お、お、お、お・ば・さ・ん?」
ひなちゃんと塚谷君以外は大爆笑なのに、僕だけがお尻をつねられた。納得はできないが理解はできるのが悲しい。
「ひなちゃん? このかわいくて優しくて素敵なお姉さんも、ひろしさんの事を知ってるのよ。お姉さんね」
「そうなんだね。おば……お姉さんは、ひろしさんとどういう関係なの?」
「お姉さんはね、あ、私のことは美樹ちゃんでいいよ」
「美樹ちゃんって、結構図々しいじゃなくて、人懐っこいんだね。あっ、かわいいし」
「おほほほほ。ひなちゃんは正直だね。美樹ちゃんはひろしさんのマネージャーなの……あっ、違う、敏腕美人マネージャーなの」
「やっぱり美樹ちゃんは……」
ひなちゃんは子供ながらに気を使って最後まで言わなかったのか、それともお好み焼きが運ばれてきたから黙ったのかは定かではない。それにしても相変わらず塚谷君は誰とでもすぐに仲良くなって、すっかりひなちゃんとは友達のようだった。
「美樹ちゃん、これどうすればいいの?」
「私が今から見本を見せるから、しっかり見ててね」と塚谷君の言葉が合図かのように、みんなが鉄板にお好み焼きを流し入れた。ひなちゃんもそれに倣ったが、ここまでは誰でも簡単にできる。そしてしばらく焼くと、ひっくり返すタイミングがやって来た。
「ひな、パパがひっくり返してあげるよ」
「だめ」
「だめです」と、二人が同時に発した。
「私は自分でやるもん」
「ひなちゃん、えらい。それでこそ、私の弟子だね。じゃあ、最高のひっくり返し方の見本を見ててね」
百戦錬磨の塚谷君は鮮やかにひっくり返したが、見よう見まねでひっくり返したひなちゃんのお好み焼きは、とんでもないことになってしまった。
「ほら、だからパパがやってあげるって言ったのに」
「いいの。失敗を知った私は、成功した時にものすごく嬉しいはずだもん」と言って、必死にお好み焼きを丸く整えているひなちゃんを、あえて誰も手伝わなかった。そして、健二さんの目が潤んでいることにも、誰もが気づいていないように振る舞っていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
よこはま物語 壱、ヒメたちとのエピソード
セキトネリ
ライト文芸
ぼくの中学高校の友人で仲里というヤツがいる。中学高校から学校から徒歩20分くらいのところに住んでいた。学校帰り、ぼくはよく彼の家に行っては暇つぶしをしていた。彼には妹がいた。仲里美姫といって、ぼくらの学校の一駅手前の女子校に通っている。ぼくが中学に入学した時、美姫は小学校6年生だった。妹みたいなものだ。それから6年。今、ぼくは高校3年生で彼女は2年生。
ぼくが中学1年の時からずっと彼女のことをミキちゃん、ミキちゃんと呼んでいた。去年のこと。急に美姫が「そのミキちゃんって呼び方、止めよう!なんかさ、ぶっとい杉の木の幹(みき)みたいに自分が感じる!明彦、これからは私をヒメと呼んで!」と言われた。
「わかった、ヒメ。みんなにもキミのことをヒメと呼ぶと言っておくよ」
「みんなはいいのよ。明彦は私をそう呼んで」
「ぼくだけ?」
「そういうこと」
「・・・まあ、了解だ」みんなはミキちゃんと呼んで、ぼくだけヒメって変だろ?ま、いいか。
「うん、ありがと」
ヒメはショートボブの髪型で、軽く茶髪に染めている。1975年だから、髪を染めている女子高生というだけで不良扱いされた時代。彼女の中学高校一貫教育のカトリック系進学校では教師に目をつけられるギリギリの染め方だ。彼女は不良じゃないが、ちょっとだけ反抗してみてます、という感じがぼくは好きだ。
黒のブランドロゴがデザインされたTシャツ、デニムの膝上15センチくらいのミニスカートに生足。玄関に立った彼女の目線とぼくの目線が同じくらい。
ポチャっとしていて、本人は脚がちょっと太いかなあ、と気にしている。でも、脚はキレイだよ、無駄毛の処理もちゃんとしてるんだよ、見てみて、触って。スベスベだよ、なんて言う。小学生の時だったらいいが、ぼくも高校3年生、色気づいていいる。女子高生に脚を触ってみて、なんて言われても困る。彼女は6年前と変わらず、と思っていた。
「よこはま物語」四部作
「よこはま物語 壱½、ヒメたちとのエピソード」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/913345710/343943156
「よこはま物語 弐、ヒメたちのエピソード」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/913345710/245940913
「よこはま物語 参、ヒメたちのエピソード」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/913345710/59941151
「よこはま物語 壱、ヒメたちとのエピソード」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/913345710/461940836
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる