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白イノシシ会の組長に話を聞くために、心の準備を
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容疑者となったのだから、話くらいは聞きに行かないといけなくなったな。はっきり言って、怖い。私は元警察官なのにと思われるかもしれない。だけどそういうのを超越した事をしてしまったのだ。なんと、怪盗のミッション時に白イノシシ会の若い衆5人を一人でやっつけてしまった。信じない人は信じなくてもいい。できれば、あの時の若い衆が信じてなければ嬉しいくらいだ。
組長との間にわだかまりはないが、おそらく若い衆は私を恨んでいる。それは、やっつけられただけが理由ではない。その後、組長からこっぴどく怒られただろう。暴力団がコンプライアンスなんて守るわけがないのだから、それはもう筆舌に尽くしがたい怒られ方をしたはずだ。
でもよく考えたら、あの時、私たちは変装していた。ならば私たちが素顔で訪れても、白イノシシ会の面々はまさかあの時の怪盗が私たちだったと、気づくはずがない。ただ一つの例外を除くがな。
実は、白イノシシ会の組長宅の番犬に、私は遭遇してしまったのだ。ついでに言うと、おもいっきり噛まれてもいる。当時は明らかな子犬だったので、致命傷にはならなかったのだけれど。しかしあれから、もう半年は経とうとしている。犬の成長は速いのだから、今はそれなりの大きさになっているだろう。
明智君と阿部君がいるから大丈夫とは思うが、なにせ暴力団に飼われている犬だ。明智君と阿部君の交渉が始まる前に、いきなり私に襲いかかるかもしれない。そうなったら明智君と阿部君は止めてくれるだろうか。うーん……すぐには止めてくれない。それは止めるのが怖いからではない。理由はわざわざ説明する必要はないだろう。
そもそも暴力団である白イノシシ会が話を聞いてくれるだろうか。臨時捜査官である、私たちの。いくら警視長の名前を出しても、清廉潔白な警視長に恩を売ったところで、何の見返りもないのだ。案外、怪盗団として訪れた方が話になるかもしれないぞ。
確か白イノシシ会からは300万円頂戴したな。そして話し合いの末に、私が組長の要望を聞いてあげたら、帳消しにしてくれる約束だった。言うまでもなく叶えてあげた。ということは、貸し借りがゼロだな。ゼロじゃだめじゃないか。何かしらの貸しを無理やりこじつけるしかないな。
いい案を思いついた。だけどその前に、まずは白イノシシ会の組長が私に出した要望の説明を出した方がいいな。そうしないと、私が人の弱みにつけ込む姑息な人間だと思われかねない。
端的に言うと、当時、白シカ組の組長は白イノシシ会が犬を飼い始めたと知って、その対抗心からか猫を飼い始めたのだ。だけど白イノシシ会の組長曰く、白シカ組組長は動物を愛でる心なんて全く持ち合わせていなかったらしい。それで飼われている猫を不憫に思った白イノシシ会の組長が、その猫を救出という名の誘拐をするように、私にお願いしたのだ。もちろん私は二つ返事だ。阿部君と明智君が奪った300万円を、組長が忘れてくれると言ったからではない。悲惨な環境で飼われている猫がかわいそうだと、純粋に思ったからだ。本当本当。
あっ、言うのを忘れていたが、阿部君と明智君は私を囮にしたて奪った300万円を持って、先に逃げ帰っていたのだ。そんな作戦は一切聞いていなかったが、仏の私が怒るわけがない。
まあそんな訳で、私たちは白シカ組から猫を自由にするために命をかけた。ついで金目の物をいただこうなんて、阿部君と明智君以外は考えていなかったからな。
がしかし、探しても探しても、猫は気配すらも見せない。そう、私並み……それはいないか。私の半分くらいの賢明な人なら、もう分かっているだろう。白イノシシ会の組長が猫だと聞いていた動物は、実はトラだったのだ。
それでもその時は、そのトラとは別にどこかに猫がいるかもと、希望的観測で信じてはいた。猫とトラは似て非なるものだし。わざわざトラを誘拐する謂れはない。
しかし、少し前に話したように、流れでトラを連れ帰る羽目になってしまった。これで私たちは、白イノシシ会の組長の要望を叶えたと言って差し支えないだろう。命に関わるリスクが比べようのないくらいに上だったけれど。ただ、このリスクの差が、ここで生きてきた。これは白イノシシ会の組長への十分な貸しになる。それに救出した猫を保護団体に預けるようなら、その連絡先を教えてくれと言ってたぞ。本心かどうかは定かではないけど、猫に対する罪滅ぼしとしてお金を寄付したいらしい。
結局、トラなんて引き取ってくれる保護団体なんて見つからなかったというか、そのトラ自身が故郷に帰りたいと言ったので、私たちはそのトラの故郷であるインドネシアに送り届けてあげた。おそらくそこには、トラが安心して生きていける大自然を維持するための団体があるだろう。
だけど、猫と言ったのに、トラなんて知らんとか言われて追い返されるかもしれない。はっきり言って、インドネシアまでの旅費だってばかにならなかったのだから、それも欲しいくらいなのに。社員旅行も兼ねてはいたし、その他にも所要があってフランスなんかも経由したので、ついでと言えばついでだったが。
まあ、追い返されたらされたで、無理やり入ればいいか。穏便に和やかに談笑しながらの聞き取りが理想だけれど、力技も致し方ない。相手が暴力団なんだから、決して悪手ではない。そうは言っても、組員たちは私の強さを身をもって知っているので、早々にやられたふりをして地べたに這いつくばってくれる。
ただ組長は、私の強さを知らないし。長の意地もある。そしてたちの悪いことに、組長はほんの少し人間離れをした思考の持ち主だ。もちろん悪い方に。なのであらゆる違法な武器で私たちを仕留めようとするだろう。
しかし私は銃弾ですら避ける自信がある。根拠はないし、何よりも試したくはないが。でもできると思うのだ。銃弾なんて、阿部君がノーモーションで投げる包丁に比べたら、止まっているようなものだから。それでも撃たないように、組長を必死に説得するがな。
だって自信があるどんな人でも、失敗することがないとは言えないから。それに何より、阿部君と明智君が私を盾にしているのが目に浮かぶのだ。どうやってかわせばいいんだ? 無理だ。
いや、そもそも怪盗のままで事件の話を聞くというのに無理があるじゃないか。怪盗相手にアリバイや何か捜査に役立つ事なんて言うわけがない。捜査をしている怪盗なんて、良くてバカにされるかで、悪ければ内情を調べられるだけだ。場合によっては、私たちの正体に気づかれる恐れだってある。捜査官として訪れる一択だな。
まずはインターホンを鳴らして丁寧に挨拶をして世間話をしつつ、訪問の理由を平身低頭で説明しよう。ここから300万円を奪った件に関しては忘れてくれると、阿部君と明智君にはしっかりと話した記憶があるので、二人とも白シカ組組長に再会した時ほどは怯えないだろう。怯えていたなら、付いてこないけど。なので、はしゃいでインターホンのカメラに我先に映ろうとして、白イノシシ会の組長をいらつかせないようにしないといけない。だけど努力の甲斐もなく、警察の名前も出すことから、一回目の訪問は門前払いされるだろう。
時間があれば日を開けて訪れたいところだけど、なにぶん私たちには一週間しか時間がない。え? 阿部君が無実だというのは十中八九間違いないのだから、何も期限を守らなくてもと? いや、そもそも真犯人を捕まえる義理すらもないと言いたいのか?
確かに阿部君を釈放するために、警視長が出してきた条件だ。当時は、少なくとも警察内では、阿部君の嫌疑が晴れているからほど遠かったからな。だけどそんな状況にもかかわらず、警視長は私たちを信じてくれたのだ。
今度は、私たちが警視長の恩に応える時じゃないのか。それに、私にはプライドもある。阿部君には名探偵に憧れがある。明智君には……色々ある。というわけで、私たちは犯人を捕まえる。それも一週間以内に。
そうと決まれば計画を立てよう。まずは怪盗の変装をしないで、臨時警察官として話を聞きに行ってみる。白イノシシ会の組長の愛犬、確か名前は『ゴンベエ』とか言ったな、以外はただの平凡な捜査官だと信じてくれるだろう。良くも悪くもだけどな。なので決して協力的にはならない。かといってあからさまに嫌悪感を見せるだろうか。うん、見せる。
どうしよう。下手に出るか。それとも威圧的になって、家の中に入れさせるか。暴力団が脅しに屈するわけがないな。少なくとも組長がいるまえでは。
ここは怒らせるのを覚悟でインターホンのボタンを何度も押してやろう。暴力団がインターホンの電源を切って逃げるまねはしない。まして警察の通報するわけがない。なので渋々私たちを中に入れるだろう。話をするためではなく、私たちを痛めつけるために。いや、いくらなんでも、それはないか。臨時とはいえ肩書きは警察官だ。公務執行妨害罪になる。それ自体はさほどの罪ではないが、それをきっかけに家宅捜索なんてされたら困るだろう。
白イノシシ会は適当に話を聞いて、「知らん」の一言を貫き通す。根くらべなら……私はともかく、阿部君と明智君には勝ち目がない。仕方がない。司法取引を提案するとするか。本職の警察官ならやってはいけないのだろうけど、私たちは臨時だ。臨時って都合のいいものだな。臨時だって、ダメなものはダメとか言わないでくれるかい。誰が告げ口をすると言うんだい? ヘヘッ。
司法取引の内容を発表するか。実は、ここの組長は散弾銃を隠し持っているのだ。怪盗のミッション時に撃たれたことのある私が言うのだから、間違いない。それも懐に忍ばせている。拳銃ではなく散弾銃だからな。これだけで、こいつがイカれているのを分かってもらえるだろう。でも、これだけではない。
なんと、こいつは背中にも散弾銃を忍ばせているのだ。はっきり言ってバカだ。暴発の心配とかしないのか。それが勇気だと思っているのだろう。対峙した相手はビビるので、効果は絶大だけどな。
それは置いといて、銃刀法違反を見逃してやるからと言えば、少しは話をする気にもなるだろう。もしこいつが真犯人でないとしたら、疑われたままなのは嫌だろうし。警察と必要以上に敵対しても、何も良いことがないと気づいてくれるように祈ろう。
でも何か足りないような。よし、なんか悔しいが手土産も用意しよう。あいつが喜ぶものって……散弾銃? いやいや、さすがにそれはまずい。やつの犯罪に手を貸すようなものだ。手に入れるのは、私にとっては容易いがな。方法は言わないが察しておくれ。
犯罪に関わらないもので、ありきたりでない物がいいな。かつ、あいつの趣味にあうものでないと、あいつは喜ばない。だけど、あいつの趣味なんて知らないしな。そうだ。あいつの愛犬のゴンベエが喜ぶものなら、あいつとゴンベエの両方に媚を……なんて言うか、あっ、つけ込むスキを得られるぞ。
組長との間にわだかまりはないが、おそらく若い衆は私を恨んでいる。それは、やっつけられただけが理由ではない。その後、組長からこっぴどく怒られただろう。暴力団がコンプライアンスなんて守るわけがないのだから、それはもう筆舌に尽くしがたい怒られ方をしたはずだ。
でもよく考えたら、あの時、私たちは変装していた。ならば私たちが素顔で訪れても、白イノシシ会の面々はまさかあの時の怪盗が私たちだったと、気づくはずがない。ただ一つの例外を除くがな。
実は、白イノシシ会の組長宅の番犬に、私は遭遇してしまったのだ。ついでに言うと、おもいっきり噛まれてもいる。当時は明らかな子犬だったので、致命傷にはならなかったのだけれど。しかしあれから、もう半年は経とうとしている。犬の成長は速いのだから、今はそれなりの大きさになっているだろう。
明智君と阿部君がいるから大丈夫とは思うが、なにせ暴力団に飼われている犬だ。明智君と阿部君の交渉が始まる前に、いきなり私に襲いかかるかもしれない。そうなったら明智君と阿部君は止めてくれるだろうか。うーん……すぐには止めてくれない。それは止めるのが怖いからではない。理由はわざわざ説明する必要はないだろう。
そもそも暴力団である白イノシシ会が話を聞いてくれるだろうか。臨時捜査官である、私たちの。いくら警視長の名前を出しても、清廉潔白な警視長に恩を売ったところで、何の見返りもないのだ。案外、怪盗団として訪れた方が話になるかもしれないぞ。
確か白イノシシ会からは300万円頂戴したな。そして話し合いの末に、私が組長の要望を聞いてあげたら、帳消しにしてくれる約束だった。言うまでもなく叶えてあげた。ということは、貸し借りがゼロだな。ゼロじゃだめじゃないか。何かしらの貸しを無理やりこじつけるしかないな。
いい案を思いついた。だけどその前に、まずは白イノシシ会の組長が私に出した要望の説明を出した方がいいな。そうしないと、私が人の弱みにつけ込む姑息な人間だと思われかねない。
端的に言うと、当時、白シカ組の組長は白イノシシ会が犬を飼い始めたと知って、その対抗心からか猫を飼い始めたのだ。だけど白イノシシ会の組長曰く、白シカ組組長は動物を愛でる心なんて全く持ち合わせていなかったらしい。それで飼われている猫を不憫に思った白イノシシ会の組長が、その猫を救出という名の誘拐をするように、私にお願いしたのだ。もちろん私は二つ返事だ。阿部君と明智君が奪った300万円を、組長が忘れてくれると言ったからではない。悲惨な環境で飼われている猫がかわいそうだと、純粋に思ったからだ。本当本当。
あっ、言うのを忘れていたが、阿部君と明智君は私を囮にしたて奪った300万円を持って、先に逃げ帰っていたのだ。そんな作戦は一切聞いていなかったが、仏の私が怒るわけがない。
まあそんな訳で、私たちは白シカ組から猫を自由にするために命をかけた。ついで金目の物をいただこうなんて、阿部君と明智君以外は考えていなかったからな。
がしかし、探しても探しても、猫は気配すらも見せない。そう、私並み……それはいないか。私の半分くらいの賢明な人なら、もう分かっているだろう。白イノシシ会の組長が猫だと聞いていた動物は、実はトラだったのだ。
それでもその時は、そのトラとは別にどこかに猫がいるかもと、希望的観測で信じてはいた。猫とトラは似て非なるものだし。わざわざトラを誘拐する謂れはない。
しかし、少し前に話したように、流れでトラを連れ帰る羽目になってしまった。これで私たちは、白イノシシ会の組長の要望を叶えたと言って差し支えないだろう。命に関わるリスクが比べようのないくらいに上だったけれど。ただ、このリスクの差が、ここで生きてきた。これは白イノシシ会の組長への十分な貸しになる。それに救出した猫を保護団体に預けるようなら、その連絡先を教えてくれと言ってたぞ。本心かどうかは定かではないけど、猫に対する罪滅ぼしとしてお金を寄付したいらしい。
結局、トラなんて引き取ってくれる保護団体なんて見つからなかったというか、そのトラ自身が故郷に帰りたいと言ったので、私たちはそのトラの故郷であるインドネシアに送り届けてあげた。おそらくそこには、トラが安心して生きていける大自然を維持するための団体があるだろう。
だけど、猫と言ったのに、トラなんて知らんとか言われて追い返されるかもしれない。はっきり言って、インドネシアまでの旅費だってばかにならなかったのだから、それも欲しいくらいなのに。社員旅行も兼ねてはいたし、その他にも所要があってフランスなんかも経由したので、ついでと言えばついでだったが。
まあ、追い返されたらされたで、無理やり入ればいいか。穏便に和やかに談笑しながらの聞き取りが理想だけれど、力技も致し方ない。相手が暴力団なんだから、決して悪手ではない。そうは言っても、組員たちは私の強さを身をもって知っているので、早々にやられたふりをして地べたに這いつくばってくれる。
ただ組長は、私の強さを知らないし。長の意地もある。そしてたちの悪いことに、組長はほんの少し人間離れをした思考の持ち主だ。もちろん悪い方に。なのであらゆる違法な武器で私たちを仕留めようとするだろう。
しかし私は銃弾ですら避ける自信がある。根拠はないし、何よりも試したくはないが。でもできると思うのだ。銃弾なんて、阿部君がノーモーションで投げる包丁に比べたら、止まっているようなものだから。それでも撃たないように、組長を必死に説得するがな。
だって自信があるどんな人でも、失敗することがないとは言えないから。それに何より、阿部君と明智君が私を盾にしているのが目に浮かぶのだ。どうやってかわせばいいんだ? 無理だ。
いや、そもそも怪盗のままで事件の話を聞くというのに無理があるじゃないか。怪盗相手にアリバイや何か捜査に役立つ事なんて言うわけがない。捜査をしている怪盗なんて、良くてバカにされるかで、悪ければ内情を調べられるだけだ。場合によっては、私たちの正体に気づかれる恐れだってある。捜査官として訪れる一択だな。
まずはインターホンを鳴らして丁寧に挨拶をして世間話をしつつ、訪問の理由を平身低頭で説明しよう。ここから300万円を奪った件に関しては忘れてくれると、阿部君と明智君にはしっかりと話した記憶があるので、二人とも白シカ組組長に再会した時ほどは怯えないだろう。怯えていたなら、付いてこないけど。なので、はしゃいでインターホンのカメラに我先に映ろうとして、白イノシシ会の組長をいらつかせないようにしないといけない。だけど努力の甲斐もなく、警察の名前も出すことから、一回目の訪問は門前払いされるだろう。
時間があれば日を開けて訪れたいところだけど、なにぶん私たちには一週間しか時間がない。え? 阿部君が無実だというのは十中八九間違いないのだから、何も期限を守らなくてもと? いや、そもそも真犯人を捕まえる義理すらもないと言いたいのか?
確かに阿部君を釈放するために、警視長が出してきた条件だ。当時は、少なくとも警察内では、阿部君の嫌疑が晴れているからほど遠かったからな。だけどそんな状況にもかかわらず、警視長は私たちを信じてくれたのだ。
今度は、私たちが警視長の恩に応える時じゃないのか。それに、私にはプライドもある。阿部君には名探偵に憧れがある。明智君には……色々ある。というわけで、私たちは犯人を捕まえる。それも一週間以内に。
そうと決まれば計画を立てよう。まずは怪盗の変装をしないで、臨時警察官として話を聞きに行ってみる。白イノシシ会の組長の愛犬、確か名前は『ゴンベエ』とか言ったな、以外はただの平凡な捜査官だと信じてくれるだろう。良くも悪くもだけどな。なので決して協力的にはならない。かといってあからさまに嫌悪感を見せるだろうか。うん、見せる。
どうしよう。下手に出るか。それとも威圧的になって、家の中に入れさせるか。暴力団が脅しに屈するわけがないな。少なくとも組長がいるまえでは。
ここは怒らせるのを覚悟でインターホンのボタンを何度も押してやろう。暴力団がインターホンの電源を切って逃げるまねはしない。まして警察の通報するわけがない。なので渋々私たちを中に入れるだろう。話をするためではなく、私たちを痛めつけるために。いや、いくらなんでも、それはないか。臨時とはいえ肩書きは警察官だ。公務執行妨害罪になる。それ自体はさほどの罪ではないが、それをきっかけに家宅捜索なんてされたら困るだろう。
白イノシシ会は適当に話を聞いて、「知らん」の一言を貫き通す。根くらべなら……私はともかく、阿部君と明智君には勝ち目がない。仕方がない。司法取引を提案するとするか。本職の警察官ならやってはいけないのだろうけど、私たちは臨時だ。臨時って都合のいいものだな。臨時だって、ダメなものはダメとか言わないでくれるかい。誰が告げ口をすると言うんだい? ヘヘッ。
司法取引の内容を発表するか。実は、ここの組長は散弾銃を隠し持っているのだ。怪盗のミッション時に撃たれたことのある私が言うのだから、間違いない。それも懐に忍ばせている。拳銃ではなく散弾銃だからな。これだけで、こいつがイカれているのを分かってもらえるだろう。でも、これだけではない。
なんと、こいつは背中にも散弾銃を忍ばせているのだ。はっきり言ってバカだ。暴発の心配とかしないのか。それが勇気だと思っているのだろう。対峙した相手はビビるので、効果は絶大だけどな。
それは置いといて、銃刀法違反を見逃してやるからと言えば、少しは話をする気にもなるだろう。もしこいつが真犯人でないとしたら、疑われたままなのは嫌だろうし。警察と必要以上に敵対しても、何も良いことがないと気づいてくれるように祈ろう。
でも何か足りないような。よし、なんか悔しいが手土産も用意しよう。あいつが喜ぶものって……散弾銃? いやいや、さすがにそれはまずい。やつの犯罪に手を貸すようなものだ。手に入れるのは、私にとっては容易いがな。方法は言わないが察しておくれ。
犯罪に関わらないもので、ありきたりでない物がいいな。かつ、あいつの趣味にあうものでないと、あいつは喜ばない。だけど、あいつの趣味なんて知らないしな。そうだ。あいつの愛犬のゴンベエが喜ぶものなら、あいつとゴンベエの両方に媚を……なんて言うか、あっ、つけ込むスキを得られるぞ。
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