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始まりは仲間の逮捕
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我が家兼アジトで私が二度寝を満喫していると、珍しく私の携帯電話が音を出し始めた。携帯電話を目覚まし時計代わりにしていないので、誰かが電話をかけてきたのが明白だ。ただ、私の電話番号を知っている者は、この世に3人しかいない。そのうちの2人の事は、おいおい話すとしよう。
頻繁にかけてくるとなったら、一人だけだからだ。それも、寝坊したので重役出勤をすると言うためだけなのだ。幽霊会社ではあるが重役には違いないので、言葉使いとしては間違っていない。幽霊会社の社員は、犬を含めて3人しかいないのだから、必然的に全員が重役なのだ。
今日もどうせ寝坊したのだろう。しかし何かが違う。私が電話に出る前から、私の携帯電話が非常に切迫しているように感じさせていた。気のせいだろうか。うん、気のせいだ。新入社員でもあり重役でもあり私の本職の仲間である阿部君に、切羽詰まるような事があるとは思えない。半信半疑だけど、物事は自分の都合のいいように取ったほうが人生が楽しくなるというものだ。
というわけで、ここで私の本職の説明をした方がいいだろうか。でも、阿部君が早く出ろと言っている気配が、これでもかと私の携帯電話から漏れ出ているぞ。私の本職の説明は後に回すとしよう。
いや、待てよ。阿部君がうっかり携帯電話を触ってしまい、知らずしらずのうちに私にかかってしまっただけかもしれないな。だって今日は休日なのだから。電話に出ずにしばらくほっておいたら、そのうち切れるだろ。
と思って再び二度寝に専念しようとしたら、殺気を帯びた視線を感じた。今度は気のせいではない。そして見るまでもない。私の家の居候兼『株式会社ラッキー』の社長秘書兼取締役の明智君が、私に敵意を表せているのだ。せっかくの安眠を邪魔されたことに対して、電話をかけてきた阿部君にではなく、よりによってこの私に対して。
ちなみに明智君とは、私が何年か前に閉店セールをしていたペットショップで買ってきたゴールデンレトリバーだ。この明智君は、ごはんをあげて散歩にも連れていってあげている私よりも、阿部君と仲が良いからたちが悪い……じゃなくて、えっとー、そのー、電話に出てやるとするか。
「もしもし、阿部君かい。今日は休みなのを忘れたのかい? だから、いつものように重役出勤をしなくてもいいんだよ。じゃあ、おやすみー」
「リーダー、切らないでください!」
社長の私が、なにゆえ『リーダー』と呼ばれているのか説明したいところだけど、阿部君の様子からして横道に逸れていられる場合ではないようだ。やっぱり私が確信していたように、阿部君は切羽詰まっていた。どうだ、私はすごいだろ。なんでも丸わかりなのだ。揚げ足は取るなよ。
携帯電話から飛び出す阿部君の声を聞いて、私を噛み殺しそうなオーラを溢れ出せていた明智君までもが、急に神妙な顔になった。私は命拾いしたのだろう。いやいや、明智君が甘噛み以上の力で私を噛むわけはないか。
「どうしたんだい、阿部君? 何かあったのかい?」
「はい。リーダーに頼るのは癪で不安しかないけど、他にいないので仕方なくお願いがあります」
阿部君はものの頼み方も知らない常識外れの人でなしだと感じた人に、私が阿部君に代わって言い訳をしてやる。阿部君は、ただの正直者なのだ。そして私は世界一心が広い。なのでイラッともせず舌打ちも分からにように1回だけしてから、阿部君に応対できるのだ。
「分かった分かった。何でも聞いてあげるから、そのお願いとやらを言いなさい。明智君までもが不安そうにしているぞ」
明智君の不安は、私が明智君の朝ごはんを忘れてしまわないかどうかだろうけど。そして、阿部君のお願いなんて知れている。どうせ私と一緒に写真を撮りたいとかに決まっている。なにせ私は……。横道に逸れてはだめだったな。阿部君が何か話そうとしている。
「私、逮捕されました。それで弁護士に電話をかけるふりをして、リーダーにかけてるので、あまり長く話せません。一応断っておきますけど、私たちの怪盗団とは関係ないので。私が何をしてほしいか、分かりますよね?」
あっ。私の本業が怪盗というのは、私の口から説明するはずだったのに。ひよっ子の阿部君にこの栄誉を奪われるなんて。私は心が広いと言ってしまった手前、阿部君に嫌がらせはやめておくしかないじゃないか。でも、少しくらい阿部君をからかってやるか。それくらいなら……当然の権利だろ。
「えっとおー……美味しいワインでも差し入れてほしいのかな? えへへ」
「ああ、そうそう、一応言っときますけど、私は無実です。なのでよほどの事がない限りは、いつかは釈放されると思います。そしてその暁には、ふざけた対応をしている人に、ものすごい仕返しを計画してますからね」
しょうがない。阿部君が怪盗の話を持ち出した事は聞いていないことにしよう。みんなも忘れておくれ。近いうちに私が発表した時に、嘘でも驚いてくれたらいいだけだ。それで私は救われる。
「あっ、ごめんごめん。でも無実なら、何も心配することないんじゃないの? 私に何をしてほしいんだい?」
「すぐにでも、ここから出たいんです。この小汚い留置所から」
「まあ気持ちはわかるけど。少しの我慢だよ。警察は無能ではないから、すぐに無実だと分かって釈放されるんじゃないのかな」
「それがですね、じょうきょうしょうこってやつがたくさんあって……」
「状況証拠? 阿部君は何の罪で逮捕されたんだい?」
「今のところは傷害です。だけど被害者が重体なので、殺人罪になるかもしれないんです」
頻繁にかけてくるとなったら、一人だけだからだ。それも、寝坊したので重役出勤をすると言うためだけなのだ。幽霊会社ではあるが重役には違いないので、言葉使いとしては間違っていない。幽霊会社の社員は、犬を含めて3人しかいないのだから、必然的に全員が重役なのだ。
今日もどうせ寝坊したのだろう。しかし何かが違う。私が電話に出る前から、私の携帯電話が非常に切迫しているように感じさせていた。気のせいだろうか。うん、気のせいだ。新入社員でもあり重役でもあり私の本職の仲間である阿部君に、切羽詰まるような事があるとは思えない。半信半疑だけど、物事は自分の都合のいいように取ったほうが人生が楽しくなるというものだ。
というわけで、ここで私の本職の説明をした方がいいだろうか。でも、阿部君が早く出ろと言っている気配が、これでもかと私の携帯電話から漏れ出ているぞ。私の本職の説明は後に回すとしよう。
いや、待てよ。阿部君がうっかり携帯電話を触ってしまい、知らずしらずのうちに私にかかってしまっただけかもしれないな。だって今日は休日なのだから。電話に出ずにしばらくほっておいたら、そのうち切れるだろ。
と思って再び二度寝に専念しようとしたら、殺気を帯びた視線を感じた。今度は気のせいではない。そして見るまでもない。私の家の居候兼『株式会社ラッキー』の社長秘書兼取締役の明智君が、私に敵意を表せているのだ。せっかくの安眠を邪魔されたことに対して、電話をかけてきた阿部君にではなく、よりによってこの私に対して。
ちなみに明智君とは、私が何年か前に閉店セールをしていたペットショップで買ってきたゴールデンレトリバーだ。この明智君は、ごはんをあげて散歩にも連れていってあげている私よりも、阿部君と仲が良いからたちが悪い……じゃなくて、えっとー、そのー、電話に出てやるとするか。
「もしもし、阿部君かい。今日は休みなのを忘れたのかい? だから、いつものように重役出勤をしなくてもいいんだよ。じゃあ、おやすみー」
「リーダー、切らないでください!」
社長の私が、なにゆえ『リーダー』と呼ばれているのか説明したいところだけど、阿部君の様子からして横道に逸れていられる場合ではないようだ。やっぱり私が確信していたように、阿部君は切羽詰まっていた。どうだ、私はすごいだろ。なんでも丸わかりなのだ。揚げ足は取るなよ。
携帯電話から飛び出す阿部君の声を聞いて、私を噛み殺しそうなオーラを溢れ出せていた明智君までもが、急に神妙な顔になった。私は命拾いしたのだろう。いやいや、明智君が甘噛み以上の力で私を噛むわけはないか。
「どうしたんだい、阿部君? 何かあったのかい?」
「はい。リーダーに頼るのは癪で不安しかないけど、他にいないので仕方なくお願いがあります」
阿部君はものの頼み方も知らない常識外れの人でなしだと感じた人に、私が阿部君に代わって言い訳をしてやる。阿部君は、ただの正直者なのだ。そして私は世界一心が広い。なのでイラッともせず舌打ちも分からにように1回だけしてから、阿部君に応対できるのだ。
「分かった分かった。何でも聞いてあげるから、そのお願いとやらを言いなさい。明智君までもが不安そうにしているぞ」
明智君の不安は、私が明智君の朝ごはんを忘れてしまわないかどうかだろうけど。そして、阿部君のお願いなんて知れている。どうせ私と一緒に写真を撮りたいとかに決まっている。なにせ私は……。横道に逸れてはだめだったな。阿部君が何か話そうとしている。
「私、逮捕されました。それで弁護士に電話をかけるふりをして、リーダーにかけてるので、あまり長く話せません。一応断っておきますけど、私たちの怪盗団とは関係ないので。私が何をしてほしいか、分かりますよね?」
あっ。私の本業が怪盗というのは、私の口から説明するはずだったのに。ひよっ子の阿部君にこの栄誉を奪われるなんて。私は心が広いと言ってしまった手前、阿部君に嫌がらせはやめておくしかないじゃないか。でも、少しくらい阿部君をからかってやるか。それくらいなら……当然の権利だろ。
「えっとおー……美味しいワインでも差し入れてほしいのかな? えへへ」
「ああ、そうそう、一応言っときますけど、私は無実です。なのでよほどの事がない限りは、いつかは釈放されると思います。そしてその暁には、ふざけた対応をしている人に、ものすごい仕返しを計画してますからね」
しょうがない。阿部君が怪盗の話を持ち出した事は聞いていないことにしよう。みんなも忘れておくれ。近いうちに私が発表した時に、嘘でも驚いてくれたらいいだけだ。それで私は救われる。
「あっ、ごめんごめん。でも無実なら、何も心配することないんじゃないの? 私に何をしてほしいんだい?」
「すぐにでも、ここから出たいんです。この小汚い留置所から」
「まあ気持ちはわかるけど。少しの我慢だよ。警察は無能ではないから、すぐに無実だと分かって釈放されるんじゃないのかな」
「それがですね、じょうきょうしょうこってやつがたくさんあって……」
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