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第四章【白】
魔女への懺悔
しおりを挟む雛からの話が一区切りすると、俺は今回の特殊依頼についての話を切り出した。雛は黙って俺の話を最後まで聞いていた。
「・・・と、まあこれが今回の依頼になるんだが。俺としてはお前に話しておかないとどうも気持ちが悪くてな。だからどうしてほしいという訳でもないし、依頼を受けたからには護衛には立たなきゃならないし、もしも『魔女』が襲撃に来たとしても戦わなきゃならない」
「うーん・・・」
「何だ?」
「とりあえず、ほかのまじょがきたらおうせんしてもいいとおもうよ?でも、ファーがでてきたらさがったほうがいいね」
「出て、くるのか」
「それがファーのするべきことだからね」
雛はどう言おうか、と考えているようだった。俺は聞きたいこともあるが、とりあえず雛の言葉を待つことに。何故かそうした方がいい、と思えた。雛は目を伏せ、静かに語り出す。
「・・・聞いた話もそうだが、妾に視える彼の娘は既に息絶えておる」
「死んで・・・る・・・?だが、ここのギルドマスターの話だと到底生きているとは思えないが動いてた、って」
「それ以上は許せ。今其方にそれを話せば迷うだろう。だからこれだけを言っておく。ファータとレンが現れたら下がれ。剣を下ろせとは言わぬ。其方が疑われるからな、距離を取って下がるだけでいい」
雛はそれ以上の事を話しはしなかった。俺が迷う…だと?しかも死んでいるって?どうなってるんだ。
その後、雛は普通の雛に戻り、宿屋に帰ろ、と言った。モヤモヤとした物もあったが、俺はそれに従う。今までの事から言って、雛は今はこれ以上の話をしてくれる気はないだろう。
その夜、ギルドから呼び出しがあった。明日の正午、教会広場で異端審問を行うと。俺だけでなく、教会都市にいる全てのB級以上の冒険者に参加命令が出た。
□ ■ □
「悪い、呼び出しが来た。正午からは教会広場に来ない方がいい」
「え、いくけど?」
「あのな、」
「みとどけるだけ。ひなはてをださない」
「・・・いいのか?」
「むしろひながてをだしたら、きょうかいひろばはすてきなこうけいがひろがっちゃうんですけどそれでもOK?」
「・・・却下だ」
ふへへ、としまらない笑いをする雛。俺は雛が魔術を使う場にいた事がない訳ではないが、『氷の魔女』、『情熱の魔女』二人が揃って言った言葉。
『あの方は私達の師匠ですわよ?』
彼女達二人の魔術、魔力は目の当たりにした。その二人が『師匠』と呼ぶのだ。こんなにひ弱な幼女姿でも、本来の姿に戻ったらどうなるのかなど想像もつかない。
俺は朝食後すぐにギルドへ。雛は薬草市を見に行くと手を振っていた。この際、雛の事は頭から抜いておく。俺は俺の仕事に目を向けなければならない。
ギルドへ付くと、既に多くの冒険者がごった返していた。20人程だろうか。剣士や戦士だけでなく、魔法使いや僧侶職まで。俺は集団の後に行き、壁にもたれてギルドマスターが来るのを待った。
「みんな、よく集まってくれたね」
女の声が響く。二階から教会都市のギルドマスター、タリアが完全武装姿で降りてきた。この姿を見た事がない冒険者も多いのだろう、ザワつきが広がった。タリアは片手を上げてそれを制す。
「今回は秘匿性の高い特殊依頼となる。難易度も高い為、今回王都ギルドからS級冒険者の参加も依頼している」
そう言うとタリアは俺を見る。周りの冒険者が俺に視線を集め、『閃光のスカルディオか』などと声が上がる。仕方なく俺も片手を上げて応えてやった。
「本日正午、教会広場で異端審問が行われる。
───数年ぶりの異端審問だ。アタシも連れてこられた『魔女』を見たよ。アレは本当に本物の『魔女』かもしれないね」
「な、」
「マジかよ・・・」
「この中にも『魔女』に恨みがある奴もいるだろう。だが今日はあえてその想いは封印しておくれ。アタシ達はあるかもしれない他の『魔女』からの襲撃に備え、教会広場の警備に立つ。これは『教会』からの正式な要請だ。教会騎士もいるが、攻撃や防御にバリエーションを持たせたいとの事だ。しっかりやっておくれ」
皆、声を出しはしないが、ある種の興奮に包まれている。念願の『魔女』の裁判。目の前でそれを見届けられるという興奮。他の『魔女』からの襲撃、という事は恨みを晴らすチャンスでもある。
そんな中、俺は声を掛けた。昨日雛から言われた事については、ある筋からの情報としてタリアにも言ってある。タリアからはこの場で俺からの『警告』として皆に言ってほしいと言われた。
「───水を差すようで済まない。俺から情報をひとつ。
『高位魔女』の出現情報を耳にした。もしも出てきた場合、俺達では歯が立たない。命を大事にしてくれ」
「こ、『高位魔女』、だって!?」
「おい、それは本当なのか!?」
「俺も半信半疑の情報だ。だが出処は信用が置ける情報屋からだ。警戒はするに越したことは無い。タリア、あんたの判断に任せる」
「ああ、わかっているさ。通常の『魔女』ですらA級が数名でやっとなのに『高位魔女』となればS級のあんたがいても生き残れるかわからない代物だ。皆、その時はアタシの指示に従っておくれよ!」
それはどうだか…澪が出てくるならばレンが出てくるという事だ。『魔女の騎士』と戦って生き残れるかなんて考えたくもない。レンが『人間』であれば止められるかもしれないが、あいつは『魔女の騎士』だ。俺でも届くかどうか…
剣を合わせる事にならないことを祈るだけだ。
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