魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第四章【白】

『魅了』の魔力

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 俺とレンが話をしている間、雛と澪は魔女同士の話をしているようだった。こうして見ている分には、見目のいい黒の幼女と白の少女に見える。…黙ってりゃ男が寄ってきそうだな。

 ふと、話が終わったのか雛が駆け寄ってきた。俺とレンを見上げて首を傾げる。


「ゆうこうじょうやくでもむすんだ?」

「何だその友好条約って」
「まあそんなもんだ」


 レンは軽口を叩くと、雛に膝を折る。頭を垂れて、静かに言葉を発した。


「お久しぶりです、『黒』の君。無性にも便りを出さず失礼を」

「久しいな、レン。ファータは其方がいる事で心安い事も多かろう。あのような気性であるが故、厄介事も多かろうが頼んだ」

「畏まりまして」


 まるで主従のような関係。『白』の魔女と契約を交わした『騎士』であろうと、主と同じ『古の魔女』たる雛もまた敬うべき存在なのだろう。…となると、『緋』の魔女に対してもそうなのか?


「と、まあおやくそくはこれくらいにして。レンだっこー」

「へいへい、ほーら高い高ーい」

「いえーい」


 ひょい、と雛を持ち上げて高い高い。子供にする行動としては合っているが、先程の様子のギャップがなんともいえない。


「話は終わったのか?雛様」

「うん、ファーのこともきいたよ」

「世話かけるな」

「いえいえ、もちつもたれつですから」


 まるで単なる世間話。二言、三言交わしてレンは澪の所へと戻った。澪はそれを待つかの様に、レンが戻ると軽く手を振って去っていく。


「もういいのか?」

「うん、はなしておくことはおわったから。こんかいもひなはみとどけるだけで、うごくのはファーだからね」

「・・・お前、俺が依頼を受けてるか知ってるな?」

「いちおうね。でもシグがまではしらないよ?きいたほうがいいの?きかないほうがいいの?どっち?」


 見上げる雛はいつも通りで。決して『魔女』として聞いているわけではないことがわかった。『魔女』として頼み事を聞くのではなく、こいつはただ『雛』として聞いてくれるつもりがあるらしい。
これが雛が『気に入ってくれている』ということなのか。


「・・・なあ、お前は何だって俺をそこまでかってくれるんだ?」

「ん?ききたい?」


 ニヤァ…っとほくそ笑む。もしかして聞いたのが間違いだったか?しかし教えてくれる気になった時に聞いておかないと、多分雛は教えてはくれない。



     □ ■ □



 立ち話も何だな、と思った俺は近くの広場へと移動した。各エリアには小教会と、その近くに憩いの場として広場が設けられている。そこで飲み物と、雛におやつを買い与え、広場のベンチで話すことにした。変に店に入るよりはここの方がいいだろう。


「シグわかってるぅ」

「そろそろ『腹が減った』と言い出す頃だろうからな」


 おやつに買ったドーナツを頬張る雛。傍から見ればのんびり午後のひとときを過ごす兄妹…くらいには見えてるだろう。ドーナツを三つペロリと平らげた雛は、果実水を飲みながら話し出した。


「ひながシグをきにいってるりゆうは、シグがひなのことを『まじょ』だってしってもたいどがかわらないから、かな」

「・・・そんな理由か?」

「それってだいじだよ?ひなだって、へんなめでみられるのはイヤだからね。あのむらにいるひとたちは、もともとひなが『まじょ』ってしってるからいいけど。それでもやっぱりシグみたいににしてくれるひとはかぎられるよ?ダグとかね」


 確かに、雛が『魔女』だと知っても俺はあまり忌避感はなかった。これまで『魔女』とは敵として戦ってきた事もある。好きか嫌いかで言えば、俺は『魔女』を否定する側であったと思う。自身に降りかかった呪いのことも加味して。
 
 けれど雛にはそれがなかった。何故かと問われてもわからない。こればかりは感覚が物をいうからだ。
 その後出会った『氷の魔女』や『情熱の魔女』に対しても忌避感はあまりない。しかし雛よりはさすがに威圧感や畏怖は感じていた。『魔女』としての魔力を感じていたからだろうか。


「というか、俺はお前といてもあまり『魔女』としての魔力を感じないんだが」

「そりゃそうでしょ、このすがたのときはださないようにしてますし。ダダもれてたらたぶん、シグもひなからはなれられなくなっちゃうよ?」

「何だよそりゃ」

「さっきファーのまりょくにひきずられてたでしょ?ひなたち古の魔女のまりょくには『魅了チャーム』のちからがあるんだよね。たいせいがあればひきずられないけど、たいていのひとはむりだよね」


 『古の魔女』には常時『魅了チャーム』の力が働くらしい。これは魔法とか魔術とは関係なく、本人達が持つ強大な魔力そのものが発する力であり、本人達も意識的に使っているものではないのだと。意識的に切り離す事はできても、周囲に無尽蔵にバラまいている状態なので放っておいているのだとか。

 さっき俺が澪に対して視線を外せなかったのはそれか。確かに自分の意識とは別に引っ張られる感覚だった。

 しかし聞けば聞くほど、『古の魔女』ってのは化物のような存在なんだな…

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