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第四章【白】
古き友との邂逅
しおりを挟むギルドマスターの部屋から戻ると、雛はまだ掲示板の前で依頼が貼り付けてある紙を眺めていた。手には飲み物。果実水でももらったのか、ストローをくわえたまま。
「何かおもしろいものでもあんのか?」
「これこれ。これならひなでもできる」
指差した方を見れば、『活きのいいマンドラゴラ求む』という依頼票。まさかとは思うが、あの自走していたマンドラゴラ持ってきているのか?出したら歩いたりしないだろうな?
「もしかしてアレ持ってきたのか」
「バッグのなかはいってる。やくそういちでうれるかなって」
「・・・やめとけ。動き出したらどうすんだよ。そもそもお前ギルドに所属してる冒険者でもないだろうが。どうやって納品すんだよ」
「そこはシグがちょいちょいと」
確かに俺が受注すればいい話なんだが。その後あのマンドラゴラが起き上がって歩きでもしたら大変な事になる。
「・・・却下だ」
「けちー」
果実水を飲み終わったらしく、空のカップを受付嬢に返しに行った雛。戻って来たのでギルドを出ることにした。とりあえず異端審問が起こるまでは俺もお役御免という事だ。始まる前には呼び出しがあるだろう。それまでは雛に付き合うとするか。
□ ■ □
薬草市が教会広場でやっている、と雛に教えると見に行くと言う。ぴょこぴょこ動く雛を視界に入れながら、俺は雛の後ろを歩く事に。何かあっても対処できないと困るからな。
街の中心である大教会。そのお膝元に広がる教会広場。地面はレンガ敷きとなっているが、うまくモザイク模様を作っている。この広場の光景だけでも美術的価値もあるだろう。
今はたくさんのテントが張られ、様々な薬草を売る大きな市場が出来ていた。教会関係者と思われる司祭やシスターもちらほらと見かける。商人や薬師だろう人々も多く賑わい、これからこの街で異端審問が行われるとは思えない。
雛はあっちをウロウロ、こっちをウロウロしている。何か欲しいものがあるんだろうか。
「何か買うのか」
「みたことないやくそうがあったらかう」
「・・・お前が見た事ない薬草なんてあるのか?」
「たまにだけど、あたらしくできたやつとかあるよ?あ、あのマンドラゴラもここでむかしかいました」
多分きっとその時は普通のマンドラゴラだったと思うが。自走するマンドラゴラなんてある訳ない。そんなものが出回っているのなら、噂にならない訳がないからな。
それでもちょこちょこと買い足しているようで、金の代わりにマンドラゴラを交換していたりもしたが、止めなかった。…動かないだろう、多分。そうであってほしい。
一通り見て満足したのか、雛が離れて待っていた俺のところへ駆け寄ってきた。
「もういいのか?」
「うん、あとまたあしたもみる。ひによってくるひとちがうし」
「そういうもんなのか。・・・あと、明日からはここじゃなくて中央広場でやるらしいぞ」
「そうなんだ、シグものしり」
「・・・ギルドで聞いた」
「ふぅん?それはひなにきかせたいおはなし?」
「っ、」
躊躇する。雛に言ってもいいものか。異端審問が行われると。それは本物の『魔女』が対象なのだと。
これは裏切りなのか?人間に対する。だが、黙っていていいのか?異端審問に合うのは紛れもなく雛の同族だ。
俺が躊躇していると、雛はズボンの裾をくいくいと引っ張る。
「まあそれはいいたくなったらいうといいよ。ひな、いきたいところがあるんだけど、シグどうする?」
「行きたい所?」
「たぶん、きてるとおもう」
スタスタ、と歩き出す雛に付いていく。街の中心から離れ、街の中を通る水路にかかる橋へ。この街は各エリアが水路で分断されており、アーチ型の橋がいくつもかかっている。
雛が向かう先には、橋桁に腰掛ける女と、その側に立っている男の二人組。雛はタタタ、と走り寄る。
「ひさしぶりー、あ、レンもきたんだね」
「こいつ一人で歩かせると帰ってこないからな、迷って」
「仕方ないだろう、記憶にある道と違うのだから」
「ファーはほうこうおんちだからね」
「言えてる」
「言うのう」
近くまで寄ると、橋桁に腰掛けるフードを被った女がこちらを見た。フードから零れる髪は、新雪のような白。両の瞳は銀を思わせる薄灰色。顔立ちは冷たく整った儚げな美少女だった。
「・・・おや、珍しいモノを連れているな?ラゼル」
「そうでしょ?」
儚げな美少女が浮かべた笑いは、皮肉気なもの。見た目とのギャップが物凄いな。黙って立っていれば何処ぞの姫君とも見紛う容姿に思えるが。側に立つ男は、藍色の髪と目をしていた。目付きが鋭く、顔立ちは美男子ではあるが、そのやる気のなさそうな鋭い目付きで全てを壊していると言ってもいい。
何者かわからないが、腕は立ちそうだ。これだけの腕ならS級冒険者でもおかしくはないだろうが…俺には見覚えがない。名のある冒険者なら、知らないはずもないんだが…
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