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第四章【白】
自走する薬草
しおりを挟むトテトテトテ、と歩いてきたのは、マンドラゴラだった。
「・・・」
「すごいでしょ?」
「すごいかすごくないかで言ったらそれは勿論すごいが、ありえないだろ・・・」
「そうなんだけどね」
俺達が会話する間にも、そのマンドラゴラは二本の足(足・・・なのか?)で歩き、テーブルの近くでピタリと止まった。そしてなんとも言えない鳴き声をあげる。
「キエェェェエエェェェ」
「おい、鳴いてるぞ」
「そりゃマンドラゴラだもん、なくでしょ」
「そりゃそうかもしれないが、普通のマンドラゴラは自走しないだろ!」
「そういわれましても」
「キエェェェエエェェェ」
「おい、これ黙らせられないのか」
「あ、さわったらしずかになるよ」
そう言って雛はひょい、とマンドラゴラの草部分(髪の毛、か?)を持つ。そうするとしっかり立っていたマンドラゴラは『キエッ』とひと声鳴いて黙った。顔も消えた。さっきまではなんとも言えない顔が見えていたが。
テーブルにぽん、と乗っけてまた座る雛。こうして見ると普通に町で見るマンドラゴラだ。なんで歩いてたんだ。
「なんでマンドラゴラが歩くんだ」
「ひなにもわかんない」
「初めて見たぞ?普通は引っこ抜く時にすごい叫び声を上げる、って薬草なんじゃないのか?」
どうやら雛によると、ここの畑で育つ薬草はどれも喋ったりするという。マジかよ?それでも信じられないのに、あのマンドラゴラは収穫可能になると勝手に畑から出て歩いてくるらしい。雛がどこにいてもやって来るそうだ。
「お前の畑の薬草は喋るのか・・・」
「うん。おみずください、とかいう」
「嘘に聞こえるが本当・・・なんだろうな」
「いってみる?まだマンドラゴラもなんぼんかはえてるよ?」
ここまで来たらなんとやら。俺は雛と薬草畑へ。そういえばこの前は近くまでは行ったが中には入らなかったな。裏手の勝手口から出て、階段を降りれば畑の中に出た。裏口は畑に直通となっているようだ。
野菜が植わっている所もある。珠翠が世話をしているのが見えた。いつぞや馳走になったシチューやサラダはここから収穫した野菜を使っていたのだろう。
薬草が植えられている一角は、さすがに見事なものだった。俺も見たことがないような物も多く、まさしく『魔女の庭園』と呼ぶにふさわしい。
「シグ、こっちこっち」
こいこい、と手招きする雛。そこには確かにマンドラゴラが。土から少し本体(胴体?)部分を出し、わさわさと葉っぱ部分が風もないのに動いている。…マンドラゴラってこういうものだったか?
「・・・」
「どしたの」
「マンドラゴラ・・・って、葉の部分動くもんか?」
「うーんと、ひなのところはうごく」
「という事は、普通は動かないんじゃないのか」
「そうかも?でね、まだじゅくしてないやつちょこっとぬいてみて」
「あん?これか?」
「うん、ちょっとだけ」
何だ?少しだけ?
確かマンドラゴラは抜く時にえも言われぬ叫び声を上げるのだと言う。確かにさっきのも…正気を失ってるような鳴き声だったが…
俺はそっと葉っぱ部分を掴み、少しだけ土から引き抜く。すると、土から出た部分に顔が浮き出て、小さく声を発した。
『まだよ』
「・・・は?」
『まだ、ひきぬかないで』
さみしそうに、そう言葉を発するマンドラゴラ。なぜかその声は切なげな女の声だった。微妙な気持ちになり、土の中にグッと戻す。すると『・・・ありがとう』と少しくぐもった声がした。考えたくないがマンドラゴラの声だろう。
「・・・」
「どうです、ウチのマンドラゴラ」
「異常だろ」
なんだか、ものすごく申し訳ないことをした気になった。何だってこんな気持ちにならなきゃいけないんだ。
他の薬草にしても、『コップ一杯の水をください』だとか、『おみずはたりています』と、足を止めると目の前から声がする。
魔女の庭園、ってのはどこもこんな摩訶不思議なところなのか?まさか、野菜も喋るんじゃないだろうな?そう雛に聞くと、『ひなはわかんないけど、しゅすいはせいれいさんだからきこえるみたいだよ』と。
収穫時期が分かるのはいいが、『食べないで!』なんて言われたりしないだろうな?今後ここで飯を馳走になるのがなんだか怖くなってきた。
随分色んな経験をしてきてはいるが、さすがに喋るメシ、なんて嫌だからな。
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