魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
上 下
54 / 85
第四章【白】

自走する薬草

しおりを挟む


 トテトテトテ、と歩いてきたのは、マンドラゴラだった。


「・・・」

「すごいでしょ?」

「すごいかすごくないかで言ったらそれは勿論すごいが、ありえないだろ・・・」

「そうなんだけどね」


 俺達が会話する間にも、そのマンドラゴラは二本の足(足・・・なのか?)で歩き、テーブルの近くでピタリと止まった。そしてなんとも言えない鳴き声をあげる。


「キエェェェエエェェェ」

「おい、鳴いてるぞ」

「そりゃマンドラゴラだもん、なくでしょ」

「そりゃそうかもしれないが、普通のマンドラゴラは自走しないだろ!」

「そういわれましても」
「キエェェェエエェェェ」

「おい、これ黙らせられないのか」

「あ、さわったらしずかになるよ」


 そう言って雛はひょい、とマンドラゴラの草部分(髪の毛、か?)を持つ。そうするとしっかり立っていたマンドラゴラは『キエッ』とひと声鳴いて黙った。顔も消えた。さっきまではなんとも言えない顔が見えていたが。

 テーブルにぽん、と乗っけてまた座る雛。こうして見ると普通に町で見るマンドラゴラだ。なんで歩いてたんだ。


「なんでマンドラゴラが歩くんだ」

「ひなにもわかんない」

「初めて見たぞ?普通は引っこ抜く時にすごい叫び声を上げる、って薬草なんじゃないのか?」


 どうやら雛によると、ここの畑で育つ薬草ハーブはどれも喋ったりするという。マジかよ?それでも信じられないのに、あのマンドラゴラは収穫可能になると勝手に畑から出て歩いてくるらしい。雛がどこにいてもやって来るそうだ。


「お前の畑の薬草ハーブは喋るのか・・・」

「うん。おみずください、とかいう」

「嘘に聞こえるが本当・・・なんだろうな」

「いってみる?まだマンドラゴラもなんぼんかはえてるよ?」


 ここまで来たらなんとやら。俺は雛と薬草畑へ。そういえばこの前は近くまでは行ったが中には入らなかったな。裏手の勝手口から出て、階段を降りれば畑の中に出た。裏口は畑に直通となっているようだ。
 野菜が植わっている所もある。珠翠が世話をしているのが見えた。いつぞや馳走になったシチューやサラダはここから収穫した野菜を使っていたのだろう。
 
 薬草ハーブが植えられている一角は、さすがに見事なものだった。俺も見たことがないような物も多く、まさしく『魔女の庭園』と呼ぶにふさわしい。


「シグ、こっちこっち」


 こいこい、と手招きする雛。そこには確かにマンドラゴラが。土から少し本体(胴体?)部分を出し、わさわさと葉っぱ部分が風もないのに動いている。…マンドラゴラってこういうものだったか?


「・・・」

「どしたの」

「マンドラゴラ・・・って、葉の部分動くもんか?」

「うーんと、ひなのところはうごく」

「という事は、普通は動かないんじゃないのか」

「そうかも?でね、まだじゅくしてないやつちょこっとぬいてみて」

「あん?これか?」

「うん、ちょっとだけ」


 何だ?少しだけ?

 確かマンドラゴラは抜く時にえも言われぬ叫び声を上げるのだと言う。確かにさっきのも…正気を失ってるような鳴き声だったが…
 俺はそっと葉っぱ部分を掴み、少しだけ土から引き抜く。すると、土から出た部分に顔が浮き出て、小さく声を発した。


『まだよ』

「・・・は?」

『まだ、ひきぬかないで』


 さみしそうに、そう言葉を発するマンドラゴラ。なぜかその声は切なげな女の声だった。微妙な気持ちになり、土の中にグッと戻す。すると『・・・ありがとう』と少しくぐもった声がした。考えたくないがマンドラゴラの声だろう。


「・・・」

「どうです、ウチのマンドラゴラ」

「異常だろ」


 なんだか、ものすごく申し訳ないことをした気になった。何だってこんな気持ちにならなきゃいけないんだ。

 他の薬草ハーブにしても、『コップ一杯の水をください』だとか、『おみずはたりています』と、足を止めると目の前から声がする。
 魔女の庭園、ってのはどこもこんな摩訶不思議なところなのか?まさか、野菜も喋るんじゃないだろうな?そう雛に聞くと、『ひなはわかんないけど、しゅすいはせいれいさんだからきこえるみたいだよ』と。

 収穫時期が分かるのはいいが、『食べないで!』なんて言われたりしないだろうな?今後ここで飯を馳走になるのがなんだか怖くなってきた。
 随分色んな経験をしてきてはいるが、さすがに喋るメシ、なんて嫌だからな。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...