魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第三章【情】

盗品の行方

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 最初は自警団に持ち込まれた遺失物探し。祭りの間に物を失くした、落としたなどと駆け込む人は数多い。それこそ王都の人間、旅行者、貴族。詳しく聞き取りをし、その場所に近い自警団員が数名で聞き込みかつ捜索をする。

 今回の場合、どうやら取られたらしい。本人は『落とした』と言っているが、街の人間から『揉めていた』という目撃証言が多数見つかった。本人も祭りで酒が入っていたのもあり、ちょっとした事から口論に。突き飛ばされた時に転がり落ちた箱を、その口論した相手に持っていかれてしまったようだ。
 取られた、と言わなかったのは自分が口論で負けたのを誤魔化すためか?まあそんな事はたくさんあるからそこはあえて追求しなかったそうだ。
 しかし、取られた相手がまずかった。そいつらはその箱が厳重に封印されている様子なのを見て、裏のマーケットへと持ち込んだそうなのだ。持ち込まれてしまえば『表』の人間に出来ることはほとんどない。自警団員も掛け合ったが無理だったため、王国軍なら、と勧めたそうだが…


「中身が中身なだけに、ギルドこっちへ来たってわけか。ったくやんなるな」

「俺達は中身が何かは知らない。かなりの物か?」


 この自警団のリーダーは話がわかる男だろう。前から見た覚えがあるし、1人くらい情報に通じている奴がいた方が何かと動ける。俺はオッサンだけを手招き、耳元で単語のみ告げた。


「・・・『魔女の眼球』」

「んなっ!そんなものを、王都に!?」

「言うなよ、あんただけならと思って明かしたんだ。これだけの情報を出してくれた礼だ。他の奴には荷が重いだろう」

「なんて、なんて事を・・・」

「できるだけ早く収束を計る。万が一に備えてくれ」

「わかった。俺達も出来るだけの備えをしておく。・・・すまない、あんた達に押し付けて」

「仕方ないさ、これも仕事だ」


 自警団の詰所を出る。さてどうしたもんか。俺でも『裏』のマーケットにはそんなに太い伝手はない。オークションに潜り込む事は出来る。以前何回か見に行ったことがあるからな。
 『裏』にはいくつかのルートがあって、その中のひとつとなら連絡も取れるが…この時期に繋ぎを取ったことがない。果たして応じてくれるかどうかなんだが。

 それでも藁をも掴む気持ちで、伝手を辿る。裏道にある、怪しげな薬品店。そこに入れば、隻眼の小男が笑ってこっちを見た。


「おやおや、有名人が来なさった」

「モルド、ちょっと聞きたいことがあって来た」

「果てさて何が入用だ?お前さんに売れる『魔女』の情報なんぞあったかな?」

「『眼球』が入った、って聞いてきた」

「・・・情報が早いな。オークションに行きたいのか?」

「お前の所で扱ってんのか」

「いや、ウチじゃねえや、ギズモの所さ。あそこはヤベぇ代物ばかり集めやがる。今回のも扱いを間違ったら吹っ飛んじまうってのに」

「ギズモかよ・・・一番最悪な所に行ったか」


 そいつは王都の『裏』でも非常にヤバい奴だ。堅気の奴はまず近付かない。向こうも『表』の人間には決して手を出さない為、きちんとルールに則っていると言える。だが、扱うものは史上最低のものばかりだ。
 女の内蔵やら、子供の眼球やら、胎児やら…どこの誰が買うのかと思う商品ばかり扱っている。だが消えない所を見ると、そこを使う奴がいるという事だ。


「・・・わかった、こりゃ正攻法じゃダメだな」

「なんだ、ギルドにクエストで入ったのか」

「ああ、『取り戻してくれ』とよ。依頼人もクズだが、こんなもんを流す奴も流す奴だ。悪いがギルドが介入する事は黙っといてくれよ」

「俺ァあれがどこかに行ってくれるんならどうでもいいさ、まぁ頑張んなよ。オークションは日付が変わる時間からだぜ」

「ありがとよ」


 さてどうする。『裏』も中身が『魔女の眼球』と知っているという事はわかった。下手に封印を解くことはしないだろうと思う。だが扱ってるのがギズモじゃ、その信用もできない。オークションの最中に興が乗って箱を開けかねないからな。

 どうしたもんか、と屋台街に出た時、またもやらかしている雛を見た。


「おー!すげぇなお嬢ちゃん!」
「まだ食うのか!?」

「おかわりー!」
「ぶにゃ」

「猫も食うもんだな!」
「しかし何杯目だ…?」


 そこには使い捨ての容器を積み重ねている雛の姿が。ったく、目を離していたらすぐにこういう事に…


「あー、シグー!」
「にゃお」

「呼ぶな・・・呼ばないでくれ・・・」


 俺の想いも虚しく、騒ぎ立てる雛に周りの観客がこちらを見る。その視線にはやし立てられ、俺は雛の所に行かざるを得なくなった・・・


「何食ってんだ」

「んとね、おそば!」
「にゃふー」

「何杯目だよ、なんだこの器の数」

「わんこそば、っていうんだって!ひゃくはこえたよ!」


 俺と話す間も食っている。どれだけ食えば気がすむんだ。さっきまでの悩みが薄れるほど、俺は目の前の光景に呆れ果てて言葉も出なかった。

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