45 / 85
第三章【情】
盗品の行方
しおりを挟む最初は自警団に持ち込まれた遺失物探し。祭りの間に物を失くした、落としたなどと駆け込む人は数多い。それこそ王都の人間、旅行者、貴族。詳しく聞き取りをし、その場所に近い自警団員が数名で聞き込みかつ捜索をする。
今回の場合、どうやら取られたらしい。本人は『落とした』と言っているが、街の人間から『揉めていた』という目撃証言が多数見つかった。本人も祭りで酒が入っていたのもあり、ちょっとした事から口論に。突き飛ばされた時に転がり落ちた箱を、その口論した相手に持っていかれてしまったようだ。
取られた、と言わなかったのは自分が口論で負けたのを誤魔化すためか?まあそんな事はたくさんあるからそこはあえて追求しなかったそうだ。
しかし、取られた相手がまずかった。そいつらはその箱が厳重に封印されている様子なのを見て、裏のマーケットへと持ち込んだそうなのだ。持ち込まれてしまえば『表』の人間に出来ることはほとんどない。自警団員も掛け合ったが無理だったため、王国軍なら、と勧めたそうだが…
「中身が中身なだけに、ギルドへ来たってわけか。ったくやんなるな」
「俺達は中身が何かは知らない。かなりの物か?」
この自警団のリーダーは話がわかる男だろう。前から見た覚えがあるし、1人くらい情報に通じている奴がいた方が何かと動ける。俺はオッサンだけを手招き、耳元で単語のみ告げた。
「・・・『魔女の眼球』」
「んなっ!そんなものを、王都に!?」
「言うなよ、あんただけならと思って明かしたんだ。これだけの情報を出してくれた礼だ。他の奴には荷が重いだろう」
「なんて、なんて事を・・・」
「できるだけ早く収束を計る。万が一に備えてくれ」
「わかった。俺達も出来るだけの備えをしておく。・・・すまない、あんた達に押し付けて」
「仕方ないさ、これも仕事だ」
自警団の詰所を出る。さてどうしたもんか。俺でも『裏』のマーケットにはそんなに太い伝手はない。オークションに潜り込む事は出来る。以前何回か見に行ったことがあるからな。
『裏』にはいくつかのルートがあって、その中のひとつとなら連絡も取れるが…この時期に繋ぎを取ったことがない。果たして応じてくれるかどうかなんだが。
それでも藁をも掴む気持ちで、伝手を辿る。裏道にある、怪しげな薬品店。そこに入れば、隻眼の小男が笑ってこっちを見た。
「おやおや、有名人が来なさった」
「モルド、ちょっと聞きたいことがあって来た」
「果てさて何が入用だ?お前さんに売れる『魔女』の情報なんぞあったかな?」
「『眼球』が入った、って聞いてきた」
「・・・情報が早いな。オークションに行きたいのか?」
「お前の所で扱ってんのか」
「いや、ウチじゃねえや、ギズモの所さ。あそこはヤベぇ代物ばかり集めやがる。今回のソレも扱いを間違ったら吹っ飛んじまうってのに」
「ギズモかよ・・・一番最悪な所に行ったか」
そいつは王都の『裏』でも非常にヤバい奴だ。堅気の奴はまず近付かない。向こうも『表』の人間には決して手を出さない為、きちんとルールに則っていると言える。だが、扱うものは史上最低のものばかりだ。
女の内蔵やら、子供の眼球やら、胎児やら…どこの誰が買うのかと思う商品ばかり扱っている。だが消えない所を見ると、そこを使う奴がいるという事だ。
「・・・わかった、こりゃ正攻法じゃダメだな」
「なんだ、ギルドにクエストで入ったのか」
「ああ、『取り戻してくれ』とよ。依頼人もクズだが、こんなもんを流す奴も流す奴だ。悪いがギルドが介入する事は黙っといてくれよ」
「俺ァあれがどこかに行ってくれるんならどうでもいいさ、まぁ頑張んなよ。オークションは日付が変わる時間からだぜ」
「ありがとよ」
さてどうする。『裏』も中身が『魔女の眼球』と知っているという事はわかった。下手に封印を解くことはしないだろうと思う。だが扱ってるのがギズモじゃ、その信用もできない。オークションの最中に興が乗って箱を開けかねないからな。
どうしたもんか、と屋台街に出た時、またもやらかしている雛を見た。
「おー!すげぇなお嬢ちゃん!」
「まだ食うのか!?」
「おかわりー!」
「ぶにゃ」
「猫も食うもんだな!」
「しかし何杯目だ…?」
そこには使い捨ての容器を積み重ねている雛の姿が。ったく、目を離していたらすぐにこういう事に…
「あー、シグー!」
「にゃお」
「呼ぶな・・・呼ばないでくれ・・・」
俺の想いも虚しく、騒ぎ立てる雛に周りの観客がこちらを見る。その視線にはやし立てられ、俺は雛の所に行かざるを得なくなった・・・
「何食ってんだ」
「んとね、おそば!」
「にゃふー」
「何杯目だよ、なんだこの器の数」
「わんこそば、っていうんだって!ひゃくはこえたよ!」
俺と話す間も食っている。どれだけ食えば気がすむんだ。さっきまでの悩みが薄れるほど、俺は目の前の光景に呆れ果てて言葉も出なかった。
10
お気に入りに追加
711
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる