魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第三章【情】

魔女の散歩

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 王都グロウケテルで開催される建国祭。

 王都中が花飾りで飾られ、バザーや出店が並んで一際騒がしくなる。

 そんな時、冒険者ギルドは暇になるだろうと思われがちだが、こういう時は大体王都内の色んな所から用心棒に立ってほしい、など要請があったりするものだ。

 俺が毎年駆り出されるのは、王都内の見廻りだ。これだけ人が集まると、やはり喧嘩になったりだとか揉め事は起きてしまう。
 そこで、腕の立つ冒険者が単独で見廻りに立ち、大事にならないように未然に防ぐのだが…


「何をしてるんだ、お前は」

「ラーメンならんでます!」
「うにゃ」


こ、こいつは…何だってこんなところに!



     □ ■ □



「うまし」
「ぶにゃー」


 ちゅるるるる、とドンブリを抱える子供。その横で猫がドンブリに頭を突っ込んでラーメンを食っている。嘘だろ、熱くないのか?猫だろ?猫舌じゃないのか。


「はふー、さすがにんまいね!」
「ぶにゃにゃ」

「お前、どうやって来たんだ?あの村からじゃかなりあるだろ?」


 深緑の森の村からは、俺でも二日はかかる。雛の足だと歩くにも遅いだろうし…まさか三日ぐらいかけて来たってのか?
 しかし雛は驚く事を言った。上を指差し、こともなげに。


「そんなことないよ?にじかんくらいだよ」

「は?んなわけ・・・」

「ちょくせんきょりで、にゃもさんにのってきた」

「直線・・・距離?」


 にゃもさんに乗って…ってまさか、神級闘狼エンシェントウルフに乗って空を飛んできたってのか?

 俺の考えた事を読んだのか、雛はにこーっと笑って頷いた。マジかよ、よく見つからなかったな?


『阿呆が、見つかるような真似はせんわ』

「はっ!?あ?お前、か?」

『他に誰がいるというのだ、無能め。思念波によって話しかけている。言葉を発すると痛い人間に見えるぞ』

「悪かったな、っと・・・」

「にゃもさん、つぎはなにたべよっかー」
「うにゃ」


 ラーメンを汁まで残さず平らげた雛は、使い捨ての容器をゴミ箱に捨てながら、そんな事を言ってマダラと歩いていこうとする。
 待て待て、『黒』の魔女を王都内に放置しておく訳にも行かないだろ!俺は雛たちの後をついて行く事にした。


「ついてこなくてもいいよー?」

「んな訳に行かないだろ?仮にも・・・を、王都に放置する訳にはいかない」

「いまのひなをみて、まじょだっておもうひとなんていないよ?」

「それはそうかもしれないが・・・」

「シグはなにしてるの?」

「俺は王都内の見廻りだよ、仕事だ仕事」

「なんだ、ひなのいらいクエストひきうけてきてくれたんじゃないの?」

「は?依頼クエスト?」


 こっちこっち、と冒険者ギルドへと入る。うんしょ、とドアを開けて入ってきた子供に、ギルドの中にいた冒険者達も珍しそうに見ていた。


「あ、ほらほらこれ」

「・・・」


 そこには確かにクエスト依頼が。しかしこれを受領するってどうなってるんだよ?普通おかしいと却下するだろ?そこには、雛の書いたひらがなで『おうとけんぶつ。みちあんないもとむ!シグムントさんしてい ひな』と書かれていた。

 ね?とドヤ顔をした雛。ったく、と依頼ボードからクエスト依頼の紙を取り去り、カウンターへと行けば、いつもの受付嬢がカウンターに乗っかったマダラを撫でまくっていた。
 
 おいやめろ、それはここにいる全員もひと薙ぎで全滅させることのできる神級闘狼エンシェントウルフだぞ!


『この娘、撫で方が上手いな』

「にゃもさんもごまんえつー」

「あら、この猫にゃもさんって言うの?丸々しちゃってかーわいいー」

「でしょでしょー?おなかのとことかふっかふかなの」

「あらほんとだわー」

『フフフフフもっと撫でろ』


 …なんだかヒヤヒヤする。いつ逆鱗に触れてしまうかと思うと。いやいや今はそれじゃなくて、このクエストを受けてることへの説明をだな!


「おい、ナターシャ。これはなんだ」

「え?・・・あら、私も初めて見たわ?道案内?随分初歩的なクエストを指名されたものね、シグムント」

「お前が知らないなんて、じゃあ誰があそこに依頼を載せてるんだよ」

「私じゃなければ、ギルドマスターでしょ?」

「はぁ?ワイズマン?」

「あんね、あたまつるつるのおじさんが『まかしとけ!』ってはってくれたよ」

「ワイズマンね」
「ワイズマンだな・・・」


 ワイズマンはスキンヘッドだ。本人『ハゲてはいない、俺は隠さないだけだ』と訳の分からない事を言っていたが。
 道案内、ってのはあれか。建国祭の間、美味い飯屋を教えろとかそんな所か…?しかし雛は金を持っているのか?あの村ではほとんど物々交換だったから気にしていなかったが。

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