魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
上 下
33 / 85
第二章【氷】

対価の支払い

しおりを挟む


「おい、何なんだこれは」

「ですからリストですわよ」

「いったいいつ用意したんだよ!ここに来る前からこれをリストアップしていたのかあんた!」

「まあ人聞きの悪い」
「あっ、これひなもたべたい」


 『氷の魔女』が薬の対価として示したもの。それは、王都に散らばるスイーツを一つ残らず買い上げて来る事…しかもいったいいつ調べたのか店の名前と買うものをリストアップされた物を寄越した。


「薬を調合して差し上げようっていうんですのよ?それくらいは当たり前ではありませんこと?本来なら素材の入手からやってもらう所を、雛様の手前もありますし、今回はワタクシの手持ちから出してあげようと言うのですから、これくらいはしていただかなければ」

「この量・・・これ全部本当に店あんのか?」

「ワタクシに不可能はありませんのよ!貴方、亜空間倉庫インベントリ持ちなのでしょう?そのくらいの量なら持ち運びなんて楽ではなくて?」


 確かに亜空間倉庫インベントリがあるから、品質や持ち運びに難があったとしても問題ではないだろう。ただ、この店の数!そしてメニューの数だ!一日回ったって足りないぞ!?


「それでは急いでくださいな。今回はワタクシが特別サービスで王都の入口まで転移魔法テレポートを使って差し上げましてよ?光栄に思いなさいな」
「あ、シグ、ひなのぶんわすれないでねー」

「薬の調合には・・・そうですわね、三日後かしら?また雛様の家に来なさいな。四人分の用意をしておきますわ」
「あ、むらのきど、つかえるようにしとくね?」

「おいちょっとま」


 俺が言葉を発し終わる前に、視界がキラキラと光が瞬く。おい嘘だろ、今すぐ!?瞬時に視界が暗転し、俺が立っていたのは正しく王都に繋がる街道の上だった。足元には俺のマントも落ちている。


「・・・こんな、簡単に戻れんのかよ?」


 辺りは夜。今から王都に着いても中には入れない。門は降りているからな。ただ、待合所で待つくらいはできる。そこで一眠りさせてもらうか。
 霊樹の家を出たからか、体に倦怠感を感じていた。シチューは完食したからか、歩く程度の力はある。俺は王都外の待合所に着くと、へたりこんで眠ってしまった。



     □ ■ □



 一眠りすると、体は嘘のように楽になった。夜明けと共に王都内へ。先にギルドへ顔を出した。

 ロロナ達の事もあるが、何よりスイーツを買い集めるのに手持ちの金では無理だ。ギルドに預けてある俺の貯金を降ろさないと。…どんだけ使うんだろう。受付嬢にでもリストを見せて、概算を出してもらった方が良さそうだ。


「シグムント!帰ったか!」

「ああ、とりあえず一時的にな。ワイズマン、話がある」

「ああこっちもだ、座れ」


 ギルド長の部屋に行くと、ワイズマンは既に来ていた。もしかしたらここ数日ここに詰めているのかもしれない。顔には疲れが出てきていた。

 俺は手早く、伝手を辿って『氷の魔女』に薬の入手を頼んだ事、その対価を払う為に王都に戻った事、三日後にはまた『氷の魔女』を訪ねないとならない事を話した。


「これがそのリストか・・・しかしまあ・・・」

「その店が全部この王都にあるのかも俺にはわからないんだが。本人曰くあるって言うし、全て揃えて戻らないと薬も手に入らないんだ」

「わかった、金はギルドで払う。人手も出そう、三日後には取りに行かないといけないとなると、実質王都にいられるのは二日か?」

「そうだな、明日の夜には出ないといけない。人手を貸してくれ、後これいくらかかるのかわからないんだ」

「気にするな、いくらかかってもギルドで払う。ま、目が覚めたロロナ達に少しは請求するさ。
・・・しかしまあ、お前、すごい人に渡りをつけたもんだよ」


 まさか『氷の魔女』とはな…と呟いたワイズマン。『黒の系譜』は表舞台には出てこない。既に絶えているのでは、と言われる事もあるからな。
 ロロナ達はやはり、四肢の末端から石化が始まっていた。既に手足の半分は石化しているらしい。このままじわじわと進めば、やがては体幹に届く。全て石化する前に薬を服用させられれば…


「ロロナ達には、アリーシャが付いている。気休めかもしれないが、少しでも進行が収まればと」

「そうか、なら急がないとな」


 それからは、ギルドから金と人を使ってのお使いだ。王都全てのスイーツ店を周り、菓子を買い集める。
 ちなみに雛が強請ったのは俺でも知っている有名なマドレーヌの店のものだ。多めに買って渡しておくか…かなり世話になってしまっているし。さすがにあんなにあっさりと『氷の魔女』を呼ぶとは思いもしなかった。

 ギルドのメンバー総出で買い集めただけのことはあり、なんとかリストにあった菓子を手に入れられた。それをひたすら亜空間倉庫インベントリへと入れる。
 最初のうちは気にもしなかったが、段々と辟易してくる。いったいどれだけあるんだこれ。そしてこれを全て食べるのか、『氷の魔女』は。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...