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第二章【氷】
無銘の賢者
しおりを挟む秘密の転移門を使い、ショゴス島へ。ここは人が住んでいない島だ。というか、船が着くような波止場はなく、島の周囲は断崖絶壁となっている。
島の内部はとにかく鬱蒼とした森があり、その中央に塔が立っている。『無銘の賢者』の住処だ。
「爺さん、いるか」
「・・・なんじゃ、スカルディオの小僧か」
「小僧ってほどガキじゃねぇわ」
「カカカ、そうじゃったな」
塔には侵入者防止の仕掛けがあるらしいが、俺には発動しないようにしておいてもらっている。最初のウチはトラップを解除して上に昇るのが大変で…
流石に賢者の住処だけあって、仕掛けてあるトラップがエグい。夢に出そうだ。何がエグいって、この塔の地下に飼ってる生物がヤバい。トラップにかかるとソイツの所へ行かされるのだが、アレは俺でも逃げるのが精一杯だ。粘性のモンスターなのだが、魔法は無効だし、打撃も効かない。どうやって倒すのかわからん。
爺さん曰く『アレは元からここにおっての。儂とはなんとなく意思が通じるから危険ではないぞ』とのたまった。あんなもんと共生できる爺さんの精神はどうなってるんだ。
「あんなもんとよく暮らせるな」
「そうか?侵入者は退治してくれるし有能じゃぞ?鳴き声も慣れれば可愛いしな」
「・・・鳴き声?」
「聞いた事ないのか?『テケリ・リ』って鳴くじゃろ」
「・・・あれアイツの鳴き声だったのかよ」
確かに聞き覚えはある。しかしあんな化け物から聞こえるには随分可愛いものだから、イコールで結んでなかった。とはいえだからといってアレが可愛いとは思わない、決して。
この塔には開いただけでごっそり魔力や気力が持っていかれるような危険な魔道書も多くある。その書物を奪おうとする侵入者もいるが、断崖絶壁の島、ヤバい魔獣の住む森、塔のエグいトラップ、地下の危険な門番(?)の四重苦だ。最後に爺さんのトラウマになりそうな魔法攻撃とくれば、到達する者もいない。
ごくたまにトラップまでは到達するようだが、さすがにあの危険生物にはお手上げの様だ。
「さてと、今日は何の用じゃ?悪いが未だお主にかけられた呪いを解呪する方法は見つかっておらんぞ」
「あー、まあ、それはある程度目処がたった」
「なんと。どうやってじゃ」
「それよりもな、今日はちが・・・」
「先にそっちの話をせい」
しまった、話をする順番を間違えたな。この体の呪いは、賢者である爺さんにとっても奥深い謎解きであるらしい。出会った時にそれを見抜かれ、それからの仲だ。
俺にかけられた呪いの種類、解呪方法を調べ、呪いを解く事と引き換えに、俺はこの爺さんからの色んな依頼を受けている。持ちつ持たれつってやつだ。この関係ももう20年以上になる。…俺もそうだが、爺さんの見かけも変わってないのだが。
□ ■ □
「なんと・・・」
「という訳だ。ひょんな事から『古の魔女』に出会ったという訳だ」
深緑の森でのクエストの一部始終を話す。魔女の香草の事から、ヒナという魔女の事まで全て。
爺さんは目を輝かせて聞いていたが、『古の魔女』の話になると、深く嘆息し、思慮深い目の色を浮かべた。
「あの御方達に関わる事だとは・・・」
「爺さん、知っているのか」
「・・・儂も賢者、『魔法使い』の端くれじゃぞ?儂等魔法使いにとってもあの御方達は神にも等しい」
「爺さんの系譜は『白』だったか?」
「・・・いや、儂は『黒』の系譜の魔女に学んだ魔法使いじゃ。儂の師匠は、儂が『黒の系譜』に連なる事を許してはくれなんだ」
「そうだったのか!?」
『無銘の賢者』メルキオール・ラヴクラフト。俺も知らなかったが、爺さんは『黒の魔女』の弟子である『氷の魔女』エリカ・ノーマンに師事した魔法使いだったらしい。
世間に知られている『黒の魔女』の弟子は3人。
『氷の魔女』エリカ・ノーマン
『灰の魔女』チャコーレア・グラニス
『情熱の魔女』アイーラ・フルクレア
『白』と『緋』の魔女の系譜に連なる魔女は数が多いが、真実『黒』の系譜の魔女はこの3人だけだ。爺さん曰く、弟子は取っても『黒の系譜』となる事は許可されないらしい。
「どうしても『黒の系譜』となりたければ『黒』の魔女を探し出して認めてもらう事ね、と師匠は仰せだった。しかし死を覚悟しろとな」
「・・・いや本人はボケボケっとした幼女だったが」
「その姿で平和に暮らしておるのじゃろ?孫弟子たる儂が無理に押しかける様な真似はすまいよ。そんな無体な事をしたら、たちまち師匠に存在ごと消し飛ばされる」
「なんだな、『氷の魔女』ってのはエラい恐ろしいな」
「女神と見まごう程の美貌じゃぞ?だが一度怒らせたら永久凍土の奥底に封じられるわい」
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