17 / 85
第一章【黒】
古の魔女
しおりを挟むダグに見送られ、街道を目指して出発。馬車で隣村へ送ると言われたが、辞退した。皆には日々の生活もあるんだし、そもそも行きも隣村から歩いて来たんだ。俺の足なら2時間も歩けば着く。
長閑な田舎道を歩き、丘の上の木が見えてきた。
その木の下に、誰かがいるのが見える。俺に気づくと手を振っている小さな姿。
「おーい」
「・・・何してんだこんな所で」
「いやん、おまちしてましたよ♡」
「へいへい」
「まってー、おいてかないでー!」
通り過ぎようとしたらスライディングしてきた。危ないだろうが全く。足にまとわりつくのが邪魔なので持ち上げると、にへへと笑った。
「おつかれさまでした」
「そうだな、色々あったよ」
「ひなはおみやげをもたせようとおもって、ここでまってたんですよ」
「土産だぁ?」
降ろしてやると、いったいどこから取り出したのか大きな紙袋。どうぞ!と向けてきたのでもらってやる事にした。中を見ると、お茶のティーバッグがたくさんある。それと薬が入っている小さな壷。
「これは?」
「シグ、ハーブティーさがしてたでしょ?」
「これ、どこから持ってきたんだ?探したけど雑貨屋には置いてなかったろ」
「それは、ひなのおてせいハーブティーなの。できたぶんだけざっかやさんにおろしてるからうれちゃうんだよね」
「そうだったのか、道理で」
「まじょのそだてたハーブいりなので、イライラしたこころもリラックスします」
「!?」
自分から『魔女』と名乗るヒナ。俺は驚いて見つめると、子供らしからぬ艶やかな笑みを見せた。
「・・・系譜は、『白』、か?」
「しりたいなら、シグもひみつをおしえないとね?」
「俺の秘密?」
「シグムント・『ウル』・スカルディオ」
「っ、!?」
ヒナは歌うように俺の『本当の』名前を口にした。
俺は王都ギルドでもその名前を口にしたことは無い。もう過去に捨てた名前。何故、それを。
「なんでそれを知っている」
「ひなはなんでもしってますよ」
「・・・そうか、くそ、魔女だからか」
「ながいきしてますんでね」
「・・・そうだ、それが俺の名前だ。だが今は違う。俺は王都ギルド所属のクラスS冒険者の『シグムント・スカルディオ』だ」
そう、『ウル』の名前は継承権と共に捨てた。故国を離れ、王族としての義務や誇りは全て置いてきた。それが義兄上の望みだったから。反乱は本意ではなかった。全て大人達に仕組まれて、踊らされた。そして滅びの道を辿った。国も、民も、全て消えて無くなった。『スカルディオ』の名前も、人々の記憶から消えた。
あれから何年、いや何十年、それ以上の時間を生きてきた。呪われた体と共に。
「お前は全て知っているんだな」
「あれはエルヴァリータのごきげんとりでおきたことなんだよね。まじょはたがいにかんしょうしないのがやくそくなので、ひなはみていただけだけど」
「っ、『緋』の、魔女」
「シグのおにいちゃんが、エルヴァリータにほれちゃって。それでたのしませようとしたけっか、ああなりました」
「・・・なんだよそりゃ!」
なんだそりゃ。俺は義兄上の暴走に巻き込まれただけだってのか!?もしかしてこの呪いは『緋』の魔女に関係してるのか!?
「おい、教えてくれ。俺の体にかかってる呪いはなんなんだ」
「えーと、それはね、ざんねんなことにシグのおにいちゃんがしたまじゅつと、シグのおかあさんがしたまじゅつがへんにからまってそうなってるの」
「・・・は?」
ヒナによれば、義兄上が俺にかけた魔術と、母上が俺を守ろうと魔術を使った結果、変に混ざってこうなったと。
「か、解呪できないのか!?」
「え、それむり」
「はぁ!?」
「そのまじゅつ、エルヴァリータのけいとうだから、とくにはエルヴァリータじゃないとあぶないかなー。ひなやってあげてもいいけど、たぶんシグけしとぶかくりつたかいけどいい?」
「いい訳あるかぁぁぁぁぁ!」
全く、全然役に立たねえ魔女だな!…しかし、『緋』の魔女の名前をばんばん口にしているがいいのか?確か格上の魔女の名前を口にするにはかなりの覚悟がいると聞いた事がある。だからこそ、人間は魔女の名前を口にはしない。
「ヒナ、お前『緋』の魔女の名前を口にして大丈夫なのか」
「ん?シグはじぶんのことよりひなのことをしんぱいしてくれちゃうの?みかけによらず、やさしい」
「捻り潰すぞ」
ガシッと頭をわし掴む。小さい子供の頭なら俺の片手で充分収まるサイズ。指に力を込めればあわわわわ、と慌てる。小動物め。
だが、次の一言で俺は人生で一番のショックを受ける事になる。
「まあひなは『くろ』のまじょなので、エルヴァリータのなまえをいってもへいきだよ」
「───────お前、今、なんて」
手から力が抜ける。そんな俺を見て笑ったヒナは、じゃあまたねー、と声をかけて手を振った。まだ固まっている俺に対し、王族の姫君のような優雅な礼をしてみせた。
「我が名は『黒』の魔女ラゼル。
『緋』の魔術に染まりし数奇なる運命を辿る人の子よ、また機会があればその時に」
小さな子供の姿を取る、古の魔女。
この時俺は止まっていた自分の時間が動き出すような、そんな音を聞いたような気がした。
21
お気に入りに追加
712
あなたにおすすめの小説
隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる