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第一章【黒】
元冒険者の懺悔
しおりを挟む3人組は引っ捕えられ、商業都市まで王国軍騎士が護送するらしい。宿の部屋から出てきた保存容器には、確かに魔女の香草が採取されていたが、ほとんど光が抜け落ちていた。採取する時間帯が遅かったんだろう。
一応それも証拠として抑えられ、騎士達が運んでいった。ようやくこの村に静寂が訪れる。
そして、俺も次の日には王都へ戻る事にした。宿屋の前で、村人が見送ってくれた。なんだか色々と『土産だ』と持たされてしまった。村の出入口までは、ダグが見送ってくれた。
「クエストご苦労さんだったな」
「ダグには世話になったな、あれが採取できたのもあんたのおかげだよ」
「いやいや、礼ならヒナ様にしてくれ。採取の細かい事を話してもいいと許可したのは、他ならぬあの方だ」
「ヒナ、が?」
どうやら小麦粉を運んだ日、お茶をしながら話した事でヒナは俺を『いい人』と判断したらしい。その後ダグにちょいちょい情報を教えていいよ、と許可したそうだ。
「参ったな」
「・・・俺はな、元冒険者なんだ。ま、お前さんには気付かれていたと思うんだが。『隻眼のダグラス』って名に聞き覚えは?」
「あ?確か十数年前まで活躍してたランクSの冒険者だろう。災害級魔獣との戦いで片目を失ったが、その後も功績を残してたと聞く。ここ数年噂を聞かないが」
目の前にはニヤニヤ笑う元冒険者。
…まさか、嘘だろ?
「あ、あんた」
「ウチの宿屋の名前は?」
「!? 片翼の───って、そういう事かよ!」
『隻眼のダグラス』のパーティのロゴは鷹だった。そしてダグラスは『隻眼』。くそ、こんな事に気付かないとは!
「ちょっと待てよ、隻眼って、今見えてるだろ」
「これはな、ヒナ様に治してもらったのさ」
う、そだろ。失くした目を戻す?そんな事が可能なのか、魔女ってやつは!ダグは昔話を始める。
□ ■ □
昔、自分がリーダーとして冒険者として活躍していた頃。隻眼であったにも関わらず、パーティの援護もあり、ランクSになるまで上り詰めたダグ。自らを過信する事もなかったはずだが、その時は訪れた。
とある採取クエスト。危険と隣合わせの高難易度のクエストに挑み、結果としては素材も確保。後は無事に戻るだけだった。しかし、アクシデントが発生した。パーティも疲弊し切っている。
ダグラスは自分が囮になる事によって、パーティ全員と素材を持たせて帰還させた。自分は遭遇してしまった霊獣と相討ちになる事を覚悟して。
「あの時は俺が油断しちまってな。自分の腕なら勝てると思ったんだ。だが、俺の強さは皆の補佐あっての事だったのさ。皆の補佐があれば勝てたと思う。…だが、俺はパーティの奴らの不調に気付いてやれなかったのさ」
「それは、・・・そうか」
あんただけのせいじゃない、そう言うのは容易い。だがダグラスはパーティのリーダーだった。常に皆の調子を把握し、戦闘を避ける事もしなくてはならなかった。だがその時は自分の力を過信し『勝てる』と判断を誤った。
「それでな、霊獣を追わせないように谷底へ落としたのさ。しかし俺も気力が尽きて、一緒に落ちてしまった。もう死んだと思ったね」
「助かった、んだな」
「その霊獣がな、俺をこの森へ運んだんだ。正しくはこの森に住む魔女の元へな」
お前も行ったんだろ?霊樹の家に、と言われる。瞬時に頭に浮かぶのは、ヒナに連れられて行ったあの家。
あそこは魔女の庭で、限られた者しか入れない深緑の森の奥深くにあるそうだ。ヒナは毎日近道して村に来る、と言っていたそうだ。俺が通ったあの道か!
あの後、どんなに探しても村から出る扉は見つからなかった。自分が使う時だけ見えるようにしてあるのかもしれない。
ダグが目覚めた時、ヒナと霊獣が見下ろしていたそうだ。死を覚悟したが、ヒナは『ごはんつくれる?』と聞いたそうだ。
「血だらけのボロボロの人間に何を言っているのかと思ったよ。だが瞳を見てわかった。これは『違う存在』だってな。だから、傷を治してくれたらいくらでも飯を作ると言ったんだ。料理は店を持ちたいくらい得意だって言ってな」
「で、治したのか?」
「どれだけ驚いたよ。『じゃあよろしくー』と声がかかって周りが暖かくなったと思ったら、傷も痛みも無くなってた。失った視界すらも取り戻してるんだからな」
その時の思いを口にはできない。ただ、この先死ぬまでこの人の役に立とう、とそう決めたそうだ。それが『魔女』であったとしても。
「どうして俺を助けたのか聞いたよ。そしたら『このこがもっとあそびたいっていってるから』ってさ。相討ち覚悟で戦った霊獣は俺と遊んでただけだってんだから」
「そりゃ・・・剛毅だな」
「後は予想出来るだろ?俺は死んだ事にして、この村で宿屋兼酒場を始めた。この村は『魔女』に助けられた人達で作ってる村だ。俺も例外じゃない」
「そういう事か。・・・幸せなんだな?あんた」
「おうよ。ここで妻ができて、娘も授かった。後はあの人の望むだけ、旨い飯を作ってやるだけさ」
そう笑うダグは満足そうだった。元冒険者とはいえ、そこに帰ることもできたはずだが、それを選ばなかった。その時のダグの思いはわからないが、想像はできる。
命の恩は、命で返す。
つまりはそういう事だろう。
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