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第一章【黒】
魔女の村
しおりを挟む「は?魔女に救われた者?だって?」
「別におかしい事じゃねえだろ。とはいってもここの住人が全て魔女に救われたって事はねえな。爺さん婆さんが救われたからここに住みだして・・・って奴が大半よ」
「・・・要するに昔の事だからわかんねえって事か?」
「だからといって、この村が受ける恩恵は他とは比べ物にならんさ。そりゃ五大都市に比べりゃ比較にならない程ちっぽけだが、ここには平和があるからな」
若い奴は出てく奴もいるぜ、とダグの話。確かにここの住人に若者は少ない。ジーナとあとはパン屋の娘くらいじゃないか?
ジーナは昔、子供の頃大きな病気をしたらしい。その時にダグの嫁さんは亡くなった。ジーナは森の魔女の作った薬で良くなったそうだ。嫁さんは手の施しようがなかったと。
「何でも治るもんじゃないのか」
「魔女様が言うことにゃ『本人に命の力、寿命が残ってないとどうしようもない』んだってよ。嫁はその寿命が残ってなかった。これは誰にもどうしようもなかった。ジーナが助かったんだ、それだけでも良しとしないとな」
だからジーナはこの村を出ていかない。自分の命を救ってくれた魔女様にご恩返しをするのだと、この村で自分のできることを増やすらしい。
「っと、話が逸れたな。魔女の香草は魔女がいる森でないと育たない。半年に一度ってのも、地中や大気の魔素を栄養に育つから遅いんだ。そして咲いた花には月光を宿す。その力はまぁ何に効くのか知ってるよな?」
「万病を癒す霊薬の材料、だろ?
なるほどな、魔素で育ち、月光を宿す薬草か。だったら絶大な効き目を誇る薬になるだろうな」
「そういう事だ。月光が抜けちまうと効き目は格段に落ちる。完全に光が抜けちまうと、頑張っても高級回復薬程度じゃないか?」
「それでも10本まで、なんだろ?採取できなくしているのは、魔女の使う魔術って訳か」
「そりゃ大量に流通したら世の中乱れるだろうが。あの数が『適正ライン』なんだよ」
「よくできてやがるな。採りきれなかった薬草はどうなるんだ?」
そこでダグはチラリとヒナを見た。なんでそこでヒナを見るんだ?ヒナは果実水をちゅるちゅる飲んでいる。
「ヒナ様、どうしますか?」
「は?何言ってんだダグ」
ダグは俺に答えない。その瞬間、背中を冷や汗が伝う。一瞬にして記憶がフラッシュバックした。
思い出せ、あの森の奥の家は?どうしてこんな子供が1人であんな大樹の家に住んでいる?何故森の中の事を把握している?『ことしはここにもはえてる』ってどうしてわかった?
全てのパズルのピースが一瞬にして埋まる。こんな時に察しなくてもいいんじゃないのか俺!回っていたアルコールの淡い酔いも吹っ飛んだ。
「しょうがないな~おいしいごはんもたらふくたべさせてもらったし、シグにはおまけだからね!」
「・・・」
「えっとね、とりきれなかったやつは、きえちゃうよ」
「消える?だって?」
「うん、あれはね、ひなのまりょくでみたされたもりのちからのけっしょうなのね。んで、しゅんぶんと、しゅうぶん。はるとあきにはながさくまでになるのね」
ヒナの話はこうだ。魔女の香草は、森に満ちたヒナ…魔女の魔力によって、森が結晶化させた植物だと。
そして春分と秋分の日に向けて1から魔力を精製する。それが結実すると薬草の形を取って地上に現れる。だから、採取されなかった分はまた大気や大地に魔素となって戻り、また1から始まる…という事だそうだ。
「つまり、魔女の香草となって現れる事でカウンターストップの状態になるってことか」
「そうそう。カンストしたらもとにもどらないと、またつくりだせないでしょ?」
「採取限度があるのはどうやってるんだ」
「それはひながもりのルールをきめてるから。ひつようなぶんはいいけど、たくさんもっていくのはダメです。あれだけじゃないよ?キノコとかきのみとか、まものもね。たべきれるぶんだけしかもっていっちゃダメなの」
お互い生かされてるんだからね、とヒナ。何を大人みたいな事を言って、と思うがこいつは魔女だった。ならばみかけは単なる幼女だが、本来は違うのかもしれない。
「ヒナ、お前幾つなんだ」
「え、そこでレディにとしをきくのはしつれいです」
「何がレディだよ、魔女に歳を聞いたってアホみたいな年齢言ってくるだろうが!」
「シグ、どこのおねえさんのはなしをしてるの?だまされたの?かわいそうに」
「そうじゃねえ!」
「うーん、かぞえなくなってずいぶんたつからわかんない」
「・・・」
「まぁいいじゃねぇか、つまりはそれだけ長年この地を守ってくれてるんだからよ」
「ダグおとなー!よくわかってるぅー」
しかし、こいつが魔女ねえ…。これだけ人間と友好ならば、ヒナは『白』の系譜の魔女かもしれない。ジーナを救った事からして、何時ぞやの薬の注文も、ヒナが作ってる薬なのだろう。
こう考えると、この村は『人間』と『魔女』が理想的な共存をしている場所なのだと感じた。
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