魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
上 下
10 / 85
第一章【黒】

採取クエスト、開始

しおりを挟む


 深緑の森の奥地。降り注いでいた月灯りは徐々にその明るさを消し、それとは反比例して目の前の薬草の花には零れんばかりの燐光を閉じ込めている。
 
仄かな光の粒が周囲に散らされ、神聖な美しさを誇る。俺は亜空間倉庫インベントリから保存容器を取り出し、採取を開始した。

 ダグによれば『夜が白み始める時』が一番の最高品質を誇るという。確かに辺りがうっすらと明るくなり始めてから、花に満ちている燐光が光の粒となって零れ落ち始めていた。これが全て落ち切るのがおそらく太陽が中天に昇る時なのだろう。
 俺は手早く薬草を周りの土ごとスコップで掘り起こし、保存容器へと移す。このやり方は王都ギルドで学んだ。土ごと持ってくる方が安定するのだという。確かに摘んでしまうよりかはいいだろう。普通の植物採取のクエストだってこうして土ごと、と言われる事が多い。


「ふう・・・これで最後だな」


 全ての薬草を採取し、穴が空いた地面を少しならす。そしてそこに側の泉から水を汲んで撒く。これは王都ギルド長が『できたらやって欲しい』と言っていた事だ。まぁそれくらい大した手間ではないし、地面に穴開けたしな。これでまた次のシーズンに薬草がちゃんと生えるといいんだが。

 さて、これで採取は完了だ。亜空間倉庫インベントリにしまい、村への帰路に経つ。徐々に明けていく空がラベンダー色から青へと変わってきていた。



     □ ■ □



 『片翼の鷹シングルホーク亭』に戻り、朝飯。今日はギリギリ間に合った。焼きたての分厚いトーストにバターが染み込んで旨い。このバターも村で朝絞った牛乳から作ったばかりだという。


「あーくそ、旨い」

「だろう?この村は滋養豊かな土地だからな。そこで育つ牛や豚や羊の肉も旨いし、乳も旨い。鶏も放し飼いだから卵も旨いぞ」

「これまたあんたの腕が入るからなあ」

「そういうこった。王都じゃこんな事出来んだろ?」


 確かに朝に牛の乳絞って、それをすぐにバターにして…パン屋では鶏から朝産んだ卵を使ってパンを焼き…


「旨くない訳がねえな」

「だから住み着く奴も多いんだよ。俺もその口だな。
・・・で?どうだ?採れたんだろ?」

「ああ、3本だけな」

「見せてみろ」


 ちょいちょい、と店の奥へ招かれる。まぁいいか、かなり助言ももらったからには少しばかり見せるくらいはな。

 俺は亜空間倉庫インベントリから保存容器をひとつ取り出すと、ダグの目の前の机に置く。


「お前さん亜空間倉庫インベントリ持ちか。・・・なるほどな、王都ギルドが1人で派遣させるだけの実力はありそうだ」

「まあそれなりにな」


 しくじったか?確かにマジックバッグならまだしも、亜空間倉庫インベントリ持ちは数少ない。ダグも元冒険者だし、今はギルド協力者だ。俺の正体に気が付いても黙っていてくれるだろう。

 俺が採取してきた魔女の香草ハーブを保存容器越しに確認し、うむ、と頷いた。


「文句なく最高品質だな。これなら王都ギルドも文句ないだろ。普段の数揃えるよりも価値あるだろうな」

「そうなのか?俺は魔女の香草ハーブをこの状態で見たことないから何とも言えないが」

「おおー、キレーキレー」

「んなっ!」


 下から声がした、と思ったらヒナがぴょこん、と顔を出していた。ひょいっと保存容器を取り上げて顔をくっつけて見ている。


「おいこら返せ」

「ちょっとだけだからー」

「まぁまぁ見るだけならいいだろ」


 引っ掴もうとした俺をダグが止める。ヒナはじーっと眺めると、飽きたのか俺に返してきた。


「キレイなものをどうも」

「どういたしまして、だ」

「すごいねー、よくみつけれたね?まいとしのおにいさんたちはもっとひかりすくなかったよね」

「・・・そうだったのか?」

「うん、それのはんぶんくらいかな?まぁよがあけるまえからいかないとそういうのはとれないからね」

「お前詳しいな」

「ヒナはもりのことはくわしいですよ」


 すると、ヒナは机に置いてあった深緑の森の地図を取った。それを広げ、じーっと眺める。


「ほほう、くわしい」

「当たり前だろ、数年かけて作成したらしいからな」

「ねえねえ、ここはみた?」

「あ?」


 ヒナの手が指す場所。それほど奥地ではない。王都ギルドの調べた地図の印がない一点を指す。


「ことしはここにもさいてますよ」

「はぁ!?何だってそんな事!」

「ふふふふふ、それはないしょです」

「おいおい、勘弁してくれ」


 こんな子供のいう事を真に受ける気はない。だが、ヒナを見る限り嘘を言っている感じはない。ダグをチラリと見ると、行ってこい、というように顎をしゃくった。


「嘘じゃねえだろうな」

「ひなはうそつかないもん。もしちゃーんとあったらきょうはシグのおごりね!ダグのおみせでごうゆうします」

「・・・いいだろう、その言葉忘れるなよ」

「早く行ってみろ、『マーキング』しておけば今日の夜から採取可能だぞ」


 ダグの言葉に決断し、そのまま森へと戻った。ヒナが指した場所に当たりを付け、森の中を探索すれば確かにある。2本だが、ないよりマシだ。急いで『マーキング』を施す。
 これで5本になる。当初の半分になるが、品質が高いならそれなりに達成した事になるだろう。自分の評価というより、この薬草で作られる高級回復薬の数が出回るようになる方がよりいい。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...