魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
上 下
8 / 85
第一章【黒】

大樹の家

しおりを挟む


 ヒナの後をついて行くと、村の外れに小さな門があった。ヒナのような子供でも、背伸びをすれば外れる位置に掛金がある木戸。…こんな所あったか?


「こっちこっちー」

「なぁ、こんな所あったか?」

「あるでしょ」


 ここに、とばかりに指差すヒナ。それは確かにそうなのだが。この数日村にいるが、この場所にこんな小さな木戸があったかと言われればはっきりとは答えられない。
 しかし俺もクラスSの冒険者だ。こんな所に木戸があればもっと早く気づいたのではないか?街道に続くのではなく、森の近くの小道に出る。

 ヒナは俺が木戸を通るとまた背伸びして掛金をする。ちょこまかと回り込んでまた先を歩き始めた。この先にヒナの家があるというのか?



     □ ■ □



 結果から言うと、小道の先は森へ入る道になっていた。しかし深緑の森へ入っていくにしては、道が整備されすぎている感じがある。ホントに小さな街道と言うくらいだ。困らない程度にならされているし、脇には花が咲いていたり。

 小道から森に入り、10分くらいだろうか。小さな森を抜けた先には、家があった。それも、大きな樹を使って作られたツリーハウス。そしてどうやらこの小さな子供の家らしい。確かに幹には窓らしき物やベランダ、木で組まれた階段がある。


「シグー」

「お、おう」


 いったいここは何なんだ?こいつの親はどこにいるんだ、この間とは全く違う理由だが顔が見てみたい。

 ヒナが手招きする所に行くと、どうやらそこは荷物倉庫のようだ。棚に色々な食物が置いてある。野菜やウインナーもぶら下がっている。


「んとね、ここおいて」

「全部ここでいいのか」

「うん、だいじょうぶー。なかでおちゃごちそうしますよ」


 そう言うと、ヒナは一度外に出る。ついて行くと階段を上がり、2階に当たる所の大きめの扉を開けた。


「ようこそひなのマイハウス~」

「・・・邪魔する」


 中に入ると、そこは思ったよりもきちんとした家だった。大きなテーブルに椅子。玄関には靴箱。ソファも置いてあって、普通の家の居間だった。

 奥にキッチンがあるようで、ソファに座って待っていると大きなポットにティーカップ、菓子皿にはクッキーといった立派なおもてなしセット。


「悪いな」

「いーえ、おきゃくさまにはおもてなししないとね!ヒナとくせいのハーブティーとクッキーです」


 本当にクッキー作る為の小麦粉なのか、あれは。その後はヒナが色々質問をしてくるのに答えたり誤魔化したりと時間を過ごした。
 誤魔化したというのは他でもない。『シグは強いの?』と聞かれたのでまあまあだ、と言っておいた。
 
 自慢じゃないが、クラスSの冒険者は、東大陸でも5人しかいない。俺もその中の1人で、今は王都ギルドの専属冒険者となっている。他の4人も各都市のギルドに専属契約をしているはずだ。

 クラスSともなると、災害級の魔物を討伐する事もある。俺も過去に一度、ドラゴン撃退クエストに参加させられている。勇者とまではいかないが…そういう事情もあって、自分からクラスSだと言うのは伏せていた。
 クラスAの冒険者パーティでS認定されている人達もいるが、個人単位でS認定されるにはかけ離れた力を持つ場合が多い。俺も含め。

 こんな子供相手に隠した所で、と思う気持ちもあるが、これはもう染み付いた癖だ。

 もう一杯!もう一杯!と腹がガブガブになるまで茶を飲まされた。これ以上は危険だ、というレベルまで飲まされた俺は這う這うの体で村に帰った。
 おみやげ~とクッキーを持たされる。ダグにもあげてね、と言われれば付き返せない。

 村まで戻り、寝る前にふとヒナの親を見るのを忘れたなと気付くが、いやに寝付きが良く、そのまま眠ってしまった。



     □ ■ □



 翌朝、夜明けと共に目が覚めたので、魔女の香草ハーブの様子を見に行った。一度行ったところなので、半分の時間で着いた。さすがに数回コンパスで確認はしたが、『マーキング』の魔力を辿れば早い。帰りも順調に戻り、昼過ぎには村に戻れた。

 途中、森の中でアイツら3人組を見た。『マーキング』したエリアを回っているんだろう。5ヶ所もあったら奥地でないとはいえ、1日がかりになるだろうな。本来なら3ヶ所程度で済むもんなんだが。

 片翼の鷹シングルホーク亭に着くと、中にはお子様ランチを食べるヒナ。また遊びに来てたのか?


「おう、帰ったか」

「ああ。今日は早く戻れたよ。昼飯あるか?」

「待ってろ、用意してやる」

「ごちそうさまでしたー」


 俺が腰掛けると同時に、ヒナはぴょいと椅子から降りた。どうやら帰るところに寄ったらしい。まったねーと言いながら出ていった。


「つむじ風みたいだな」

「ヒナちゃんか?まあそうかもな」


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...