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第一章【黒】
大樹の家
しおりを挟むヒナの後をついて行くと、村の外れに小さな門があった。ヒナのような子供でも、背伸びをすれば外れる位置に掛金がある木戸。…こんな所あったか?
「こっちこっちー」
「なぁ、こんな所あったか?」
「あるでしょ」
ここに、とばかりに指差すヒナ。それは確かにそうなのだが。この数日村にいるが、この場所にこんな小さな木戸があったかと言われればはっきりとは答えられない。
しかし俺もクラスSの冒険者だ。こんな所に木戸があればもっと早く気づいたのではないか?街道に続くのではなく、森の近くの小道に出る。
ヒナは俺が木戸を通るとまた背伸びして掛金をする。ちょこまかと回り込んでまた先を歩き始めた。この先にヒナの家があるというのか?
□ ■ □
結果から言うと、小道の先は森へ入る道になっていた。しかし深緑の森へ入っていくにしては、道が整備されすぎている感じがある。ホントに小さな街道と言うくらいだ。困らない程度にならされているし、脇には花が咲いていたり。
小道から森に入り、10分くらいだろうか。小さな森を抜けた先には、家があった。それも、大きな樹を使って作られたツリーハウス。そしてどうやらこの小さな子供の家らしい。確かに幹には窓らしき物やベランダ、木で組まれた階段がある。
「シグー」
「お、おう」
いったいここは何なんだ?こいつの親はどこにいるんだ、この間とは全く違う理由だが顔が見てみたい。
ヒナが手招きする所に行くと、どうやらそこは荷物倉庫のようだ。棚に色々な食物が置いてある。野菜やウインナーもぶら下がっている。
「んとね、ここおいて」
「全部ここでいいのか」
「うん、だいじょうぶー。なかでおちゃごちそうしますよ」
そう言うと、ヒナは一度外に出る。ついて行くと階段を上がり、2階に当たる所の大きめの扉を開けた。
「ようこそひなのマイハウス~」
「・・・邪魔する」
中に入ると、そこは思ったよりもきちんとした家だった。大きなテーブルに椅子。玄関には靴箱。ソファも置いてあって、普通の家の居間だった。
奥にキッチンがあるようで、ソファに座って待っていると大きなポットにティーカップ、菓子皿にはクッキーといった立派なおもてなしセット。
「悪いな」
「いーえ、おきゃくさまにはおもてなししないとね!ヒナとくせいのハーブティーとクッキーです」
本当にクッキー作る為の小麦粉なのか、あれは。その後はヒナが色々質問をしてくるのに答えたり誤魔化したりと時間を過ごした。
誤魔化したというのは他でもない。『シグは強いの?』と聞かれたのでまあまあだ、と言っておいた。
自慢じゃないが、クラスSの冒険者は、東大陸でも5人しかいない。俺もその中の1人で、今は王都ギルドの専属冒険者となっている。他の4人も各都市のギルドに専属契約をしているはずだ。
クラスSともなると、災害級の魔物を討伐する事もある。俺も過去に一度、ドラゴン撃退クエストに参加させられている。勇者とまではいかないが…そういう事情もあって、自分からクラスSだと言うのは伏せていた。
クラスAの冒険者パーティでS認定されている人達もいるが、個人単位でS認定されるには常人とはかけ離れた力を持つ場合が多い。俺も含め。
こんな子供相手に隠した所で、と思う気持ちもあるが、これはもう染み付いた癖だ。
もう一杯!もう一杯!と腹がガブガブになるまで茶を飲まされた。これ以上は危険だ、というレベルまで飲まされた俺は這う這うの体で村に帰った。
おみやげ~とクッキーを持たされる。ダグにもあげてね、と言われれば付き返せない。
村まで戻り、寝る前にふとヒナの親を見るのを忘れたなと気付くが、いやに寝付きが良く、そのまま眠ってしまった。
□ ■ □
翌朝、夜明けと共に目が覚めたので、魔女の香草の様子を見に行った。一度行ったところなので、半分の時間で着いた。さすがに数回コンパスで確認はしたが、『マーキング』の魔力を辿れば早い。帰りも順調に戻り、昼過ぎには村に戻れた。
途中、森の中でアイツら3人組を見た。『マーキング』したエリアを回っているんだろう。5ヶ所もあったら奥地でないとはいえ、1日がかりになるだろうな。本来なら3ヶ所程度で済むもんなんだが。
片翼の鷹亭に着くと、中にはお子様ランチを食べるヒナ。また遊びに来てたのか?
「おう、帰ったか」
「ああ。今日は早く戻れたよ。昼飯あるか?」
「待ってろ、用意してやる」
「ごちそうさまでしたー」
俺が腰掛けると同時に、ヒナはぴょいと椅子から降りた。どうやら帰るところに寄ったらしい。まったねーと言いながら出ていった。
「つむじ風みたいだな」
「ヒナちゃんか?まあそうかもな」
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