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第一章【黒】
商業都市ギルドの内紛
しおりを挟む「なんだこのカレーすげぇ旨い」
「はっはっは!そうだろうそうだろう!
『片翼の鷹亭』自慢のオリジナルカレーだ!」
辛味とコク。おいこの酒場どうなってんだ?主人はガチムチの多分元冒険者だろうし、その割には王都でも店を出せるほどの飯の旨さ。
今更だが、この宿屋の名前は『片翼の鷹亭』という。看板にも翼が一枚しかない鷹が描かれている。タグが好きなのか?鷹。
「しかもなんだよこのパン」
「それはな、リーゼんとこがカレーに合うようにって作ってくれたんだ。わざわざお前さんの為に焼いてもらったんだぜ?旨いだろ」
「もう他のカレーが食えないくらい旨い」
俺の分だけ、というのは嘘ではなかったらしい。他の客が注文するが『悪いが今日はこの兄ちゃんの分だけしかないんだ、2週間後な!』と断っていた。ゴネる奴もいやしない。
「なんでそいつの分しかないんだ!ここは飯屋じゃないのかよ!」
いや、いた。後ろからわかりやすい怒号が聞こえた。ジーナが対応していたが、それを見て主人のダグが出ていく。
「ジーナ、中にいなさい。・・・あのなぁ、女相手になんだって声を荒らげるんだ。カレーくらい我慢しろよみっともない」
「なんだと?客に向かって!」
「客に対する態度がなってないな!」
「全くこれだから辺境の村なんかに来たくなかったんですよ、僕は」
酒が入っているせいか、商業都市ギルドの冒険者3人組はいつになく横柄だ。俺達は客だぞ?という態度を崩さずにダグに食ってかかる。アイツら、実はランクかなり下の冒険者なんじゃないのか…?
「そうかそうか、来たくなかったか。んじゃあ出てってもらおうか。確かあんたらの宿代は今日までしかもらってなかったな?だったらちょうどいいな」
「はぁ!?」
「何言ってるんだあんた!」
「この村にはもう一軒だけ宿屋がある。そっちに行きな。今から行って部屋があるといいが。ジーナ、荷物を持って来てやりなさい」
「もう持ってきたわよ。ほらお客さん達、早く行かないと部屋はないかもしれないわよ?こーんな辺境の村だけど、商人の出入りがない訳じゃないんだから」
「お、おい!」
「何するんだよ!」
「こ、こんな事してタダで済むと・・・」
「なぁんか文句でもあんのか?お客さん?」
ずい、と睨みつけるダグ。もう3人組はダグの鋭い目付きに黙ってしまった。ようやく自分が相手しているのが『格上の猛者』である事に気がついたらしい。自分達の荷物を引っ掴み、慌てて出ていった。
フン、と鼻を鳴らし、カウンターの中へと戻るダグ。
「お疲れさん」
「ああまったくだ。昨日の事があってからロクな奴らじゃないと思っていたが、ああもどうしようもないとはな。
・・・アイツらには俺のカレーはやらん!」
「カレーかよ」
□ ■ □
次の日、起きると窓の外に連絡用の鳥がまた来ていた。俺の方からは飛ばしていないから、王都ギルドからの第二弾か?商業都市ギルドからの返事が来たんだろう。俺は着替えるのも後回しにし、手紙を読む。
内容は最悪だった。どうやら商業都市ギルドのギルド長は王都ギルドからの質問を突き返したようだ。なんでも最近商業都市ギルドはギルド長が変わったらしい。前任者は元冒険者のベテランだったようだが、今のギルド長は商人上がりの人間らしく、こちらからの言い分をのらりくらりと交わして知らぬ存ぜぬを決め込んだと。
「おいおい、じゃあどうすんだ・・・?」
王都ギルドのギルド長曰く、
『新しいギルド長はどうやら魔女の香草を大量採取して、売りさばくつもりのようだ。採取制限がある事を信じていないようで、あるだけ取ってこいと指示していると思われる。
しかし魔女の香草はそんな簡単に採れる物ではない。もしかしたら採取できないとわかって、君の採取した物を強奪する可能性もあるから注意してほしい。
王都ギルドとしては、この件を国王陛下に奏上した。明朝に王国から商業都市の長へ指示が行くだろう。そちらへ手が回るとしても数日かかる事が予想される。
今回の採取クエストについては無理をしなくて構わない。採取できる分だけ持ち帰ってくれればいいので、くれぐれも無理はしないで欲しい』
と書かれていた。
おいおい、それじゃあ派遣された商業都市ギルドの冒険者も、多分ランクが足りてない奴らじゃないか?高ランク冒険者であれば、ギルド長からの指示に異議があれば従わない判断もするはずだ。仮にもランクB以上であれば、あんな無茶な『マーキング』なんてしないはず。
ともかく、俺は自分が確保してある分だけ確実に持ち帰ろう。アイツらの処分がいつになるかわからない中で、規定を超えた『マーキング』分の薬草をアテにする訳にもいかない。
10本採るはずが3本しか採れないとなると、高級回復薬のレートは随分高くなりそうだ。依頼報酬もこれじゃ貰うわけにいかなくなってきたな。
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