81 / 85
第五章【灰】
砂漠での狩り
しおりを挟むリグノ爺さんが荷物を預かってくれるらしいので、ティティのリュックだけ預ける。
もちろん、貴重品類は俺のマジックバッグだ。なにがあるか分からないからな。
奥地へと向かうオアシスの出口へ向かうと、さっきの冒険者パーティが待ち受けていた。
「よう、兄さん。2人だけかい?」
「ああ、そうだが。何か用か」
「いいや?そっちのお嬢ちゃんを連れ歩くなんていい趣味してるなと思ってよう」
「可愛いよなあ」
「やめなさいよ、下品じゃない」
「・・・用がなければこっちは行くが、いいな?」
チラチラとティティを見る目。奴隷と間違われているのか。それともそんな事すらどうでもいい?
俯きがちに立っている少年がなんだか可愛そうに見えた。
ティティもさすがに変だと思ったのか、俺のマントを引っ張ってきた。
「なんなのですかね、あの人達」
「・・・手荒な真似をしてこないといいが、おそらく狙いはティティだろうな」
「えっ?ティティですか?」
「幼子趣味、なんだとよ。さっきお前くらいの少年がいただろう」
「ティティ、あんな歳下のお子様は嫌ですう」
そうだった、こいつ364歳だった。
しかし、コレに合う相手は見つかるのだろうか。同じエルフになるだろうが、その前にどちらかの性を得ないとな。
◻︎ ◼︎ ◻︎
「ほら、そっち行ったぞティティ」
「はいっ!」
視界にオアシスを収めつつ、狩りを始めると、わらわらと出てくる、デザートイーグル。
なんだ?大量発生でもしてるのか?それとも他の奴等が素通りしているのか。
こっちにしてみれば、俺が射落とし、ティティが水魔法で仕留めるという方法でサクサクと討伐できている。
たまにサソリや蜘蛛型の魔物も出てきたが、なんなく倒せた。やはり水系統の魔法が使えるのは大きい。
「羽でスカートが作れそうなのです」
「確かにな。爪も取っておくか」
「あれ?あれって・・・さっきのあの子でしょうか」
「あ?」
ティティの指差す先。そこにはヨロヨロと歩く少年の姿。オアシスの出口付近で見かけた時は荷物を背負っていた気がするが、今は何も持っていない。
後ろからデザートイーグルが向かってくるのが見える。…さて、どうするか。
「危ないですかねえ」
「そうだなあ」
「シグムントさん、助けようと言わないのですね」
「ティティもな」
「ティティとしては、自分でどうにかできないのに砂漠に出てくる方が間違っていると思うのです」
「真っ当な意見だな」
俺もあまりこういう時に人の手助けをする事はない。
冒険者でいる以上、自分で始末を付けられない事に首を突っ込むのであれば、それは自己責任だからだ。
最初の頃は、なんだかんだと手助けしていたが、その挙句身包み剥がされる事もあったり、いい事ばかりではない。
こちらの善意が、あちらにとっても善意と映るとは限らないからだ。
見殺しにする、というのも後味が悪いが。
…それより、あいつの仲間はどうしたんだ?全滅したのか?
と考えている間にも、少年はこちらに気がついたのか、俺達の方へ逃げてくる。
…本人は一生懸命なんだろうが、下手すれば押し付け行為とみなされるんだがな。
「ティティ」
「今夜は焼き鳥パーティーですかねえ」
「・・・まあ、そうだな。鳥鍋でもいいぞ」
「それもいいですね!」
パシュン、と俺が打った矢が飛ぶ。
一撃目はワザと外した。デザートイーグルの目標をこちらに移すため。
俺がデザートイーグルを引きつけるうちに、ティティが少年を確保する作戦だ。
こちらに向かってすっ飛んできたデザートイーグルを、剣で一閃。首が落ちる。
丸ごとマジックバッグへ収納すると、ティティの悲鳴が上がった。…やっぱりか。
顔を上げると、少年の近くに蔓でグルグル巻きになっているティティ。…どうしてそうなった。
「なんでそうなったんだ?ティティ」
「ティティにもさっぱりなのですーぐるぐるっとしたのですー」
「ち、近寄らないで、ください」
「お前は何のためにティティを捕まえてんだ?」
「め、命令なんです。僕は、悪く、ないんです」
「・・・」
「驚くほどクズなのです、びっくりなのです」
呆れて言葉が出なかったが、ティティが思った事を口にした。お前、今どういう状況かわかって言ってるか?
少年も悔しそうな顔をしてティティを見ている。
と、後ろから歓声が上がった。
「お、やりゃあできんじゃん、ケネス」
「弱っちいのも作戦のうちだなあ」
「ケネスく~ん?あとでたっぷり可愛がってあげる!」
「っ、」
「お~っと、待てよ兄さん?足元に転がってるのが見えてんだろ?」
ニヤニヤ、と嫌な笑みを浮かべたリーダー格の男が、ケネスと呼ばれた少年に並んで肩を抱く。
少年は肩を抱かれると、何もかもを諦めたような顔をした。
他の2人も追いつき、もう1人の男がしゃがんでティティを眺める。
「お、ちらっとしか見えてなかったけど、やっぱかわいいじゃん」
「どうもなのです」
「今日の夜は俺がたっぷり可愛がってやるからなあ?」
「それは後で決めようぜ?」
「げー、本当にゲスね、あんた達。こんな子供にしか興味ないなんて」
「それはお前もだろうが?・・・さあて兄ちゃん、取引だ。獲物を置いてここから消えな」
「・・・」
「持ってるもの全部置いてけよ?安心しな!俺たちが有効に使ってやるさ!」
「妙な真似をしたら、この子酷い目に合うわよお?」
「・・・ティティ、好きにしていいぞ」
「あん?何を」
「わかりましたのです!」
さあどうするか、こいつらの出方次第だなと考えていたが、思っていたよりも下衆かった。
転がって成り行きを見ているティティも、徐々にイライラしているようにも見えたので、ティティに任せる事にする。
こいつも灰の魔女の弟子、だ。これまでの戦いぶりを見ていても、かなり場慣れしている。
ティティが返事した次の瞬間、周りにかまいたちが巻き起こる。
「っ、痛っ!」
「うわっ!」
「砂が!痛え!!!」
「うわああああっ!」
「やってやったのです、スッキリしたのです」
むん、とない胸を張って仁王立ちするティティ。
自分の周りに風の刃を発生させ、拘束していた蔦を切り飛ばしたのだろう。
周りに遠慮をしなかったので、近くにいたあいつらにも、もれなくダメージが起きた。
4人の服はボロボロ。髪もぐしゃぐしゃだ。…対してティティは全くダメージなし。俺もだが。
「・・・さて、戻るか。そろそろ日も落ちる」
「そうなのです!焼き鳥パーティーなのです!」
「ま、待ちやがれ・・・」
「てめえら、こんな事して許されると」
「まだやる気か?」
「うっ、」
俺は4人に殺気を向ける。これでもS級冒険者だ。ひと睨みで動きが止まった。
最初からこうすればよかったのでは?と思うが、向こうの意図がきちんと確認できなかったので、静観してたんだが。
「お前らがどんな趣味をしていようが、俺には関係のない事だが。これ以上手を出すならこちらにも考えがある」
「く、くそが・・・」
「ふざけやがって!」
「これ以上喧嘩を売るのなら、俺が相手になるが?『閃光』の名は伊達じゃないんだが」
「っ!?」
「嘘だろ、マジかよ」
「『閃光のスカルディオ』?
マズイわよ!S級冒険者に喧嘩を売っただなんて!」
「コクーンのギルドにはしっかり報告はさせてもらう。・・・覚悟するんだな」
「ま、待ってくれ!」
「許してくれ、つい出来心で・・・!」
「未遂で終わったんだから、いいじゃない!ね?」
「だとよ。どうするティティ?」
「何を思って『未遂』と言っているのかわからないのです」
「ああ、その通りだな。お前らがそこの子供を使って、俺たちに押し付け行為をした事もそうだし、
ティティを拘束して捉えて如何わしい事をしようとしたのもそうだ。今更『未遂だから許して』は虫が良すぎないか?」
何をしようとも逃げられない事を悟ったのか、静かになった4人。
俺とティティはそいつらを放置して、オアシスに戻った。
10
お気に入りに追加
713
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる