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第五章【灰】
オアシスへの配達
しおりを挟む「悪いわねえ」
「いや、ついでだから構わない。ティティ、お前も行くのか?」
「シグムントさんと行くと、ティティの魔法の練習が捗るのです!」
「良かったわね、ティティ。シグムント、戻るまでには報酬を用意しておくわね」
「・・・それは頼む」
結局、チャコーレアの寝室には行かなかった。
行かなかった、が、向こうが夜這いをしに来た。
…一体なんだって雛の弟子はこんなに積極的なんだ。誰の教えなんだ。雛なのか?
俺も男だ、魅力的な女に誘われれば嫌とは言わない。
市井の女は後の事を考えないとならないが、こっちの事情をわかっている相手ならば後腐れもない。
ティティはまたリュックに色んなものを詰めている。
オアシスで商人へ売るのだそうだ。薬草などはよく売れるらしい。
ティティの先導で、昨日のオアシスへ出る。
そこから目的地のオアシスまではそう時間がかからず到着した。
「着いたな」
「魔物さん、出なかったのです」
「鍛えたいなら、後で反対側へ出てみるか。日が落ちる前に戻れればいいだろ?」
「はいなのです!」
ティティは商人がたくさんいる辺りへ向かう。
隊商の団体があるためか、最初に立ち寄ったオアシスよりも賑やかだ。
心なしか、冒険者の数も多い気がする。
さて、手紙を預かったんだったな。名前を聞いてはいるが、見たらすぐわかると言われている。…似てるのか?
「・・・すまない、リグノというのはあんたか?」
「ほう?儂の名前を知っているとは何者かね?」
「すまない、あんたの知り合いから手紙を預かっている」
確かにそっくりだった。双子か?それとも歳を取ると似てくるのか?
リグノ、という爺さんは手紙を開き、目元を緩ませた。
「ラグノからか。すまんな若いの、疑って」
「いや、いきなり名前を言われたら戸惑うだろう。慣れてる」
「若いの、冒険者かい?」
「ああ」
すると、リグノ爺さんはちょいちょいと手招き。
あまり大きな声で話したくない事でもあるのだろうか。
「すまんが、素材回収を手伝ってもらえないか?見たところ、腕に覚えがありそうだ」
「素材回収だと?そこらに冒険者がいるだろう。なぜ奴等に頼まない?」
「奴等では些か心配でね。その点、あんたはその心配もなさそうだ」
「・・・厄介なのか?」
「デザートイーグルの風切り羽さ」
「なんだ?向こうの爺さんにもそれを言われたな。そんなにデザートイーグルの風切り羽が不足してるのか」
「不足も何も、全く入って来んよ。砂漠の奥地を目指す奴等にとって、あれは素通りする魔物なんじゃ。
身を隠しさえすれば、奴等は寄って来ないからの。先を急ぐ身には楽な魔物じゃ」
確かに。デザートイーグルはしつこく追っては来るが、身を隠しさえすれば凌げる。
砂嵐が弱まったという話がある今、奥地を目指す冒険者は敬遠するだろうな。
しかし、デザートイーグルの風切り羽は、加工して飾りにすると素早さが上がる。
戦えない商人などは、砂場車に装備して魔物を撒いたりするのに必須のアイテムとなる。
それが手に入らない、となると死活問題でもあるようだ。
とはいえ、いつまでもこの状態が続くとは思えないのだが…
「砂嵐といっても、然程弱まっていないと聞いたぞ?」
「ウルグスタから調査隊が組まれた。数日のうちにここまで来るみたいだよ。
それに護衛として混じりたい、という冒険者でここいらはいっぱいさ。てっきりあんたもかと思ったが違いそうだね」
「・・・出るのか、ウルグスタから」
「そりゃそうだろう。砂漠地帯に町を作れれば、ウルグスタはもっと栄える。
それこそ、旧ローリマ公国のようにな。砂漠を無くすことは無理だろうが、オアシスを利用すれば町を作れる」
確かに。ローリマは砂漠とオアシスの国だった。
水源は未だ衰えてはいないだろう。あの頃のように、砂漠にいくつか町を作り、そこを繋げれば海岸地帯と交易も可能だ。
現在は海岸地帯とは限られた3つのルートがあるだけで、大型の隊商は通行できない。
どうしても小規模となるため、交易もあまり見込めない。
チャコーレアの話をまとめれば、迷宮の密林…灰の魔女が生み出した魔術は、現在旧ローリマの大きな町を飲み込んでいる。
公都スピルリナス、水の町グウェンデル、娯楽の街ジャルド、鍛治の町イシューラの4箇所だ。
いずれも民が多く住んでいた大きな町。小さな村は既に魔力の調整は終わっているようだ。
その4つの町を取り囲むように、砂嵐がいくつも発生している。
木々が回収した魔力で砂嵐ができているのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
ウルグスタ連合国の王都は、荒野地帯にある。砂漠遅滞もウルグスタの国内ではあるが、統治しているとは言い難い。
砂嵐のお陰で広大な敷地を把握できないだろうからな。仕方がない。
「で?どうだ?頼まれてくれんか。報酬は上乗せするぞい」
「狩れるかどうか、ってところだな。もしも狩れたら買い取る、ということでどうだ?」
「それでも構わんよ。今日の寝床くらいは確保しといてやろうかね。若いの、1人かい」
「いや、連れがいる。あそこの小さいのだ」
「・・・連れにしちゃ、若すぎんか」
「あれは依頼人だよ、護衛のな。俺の趣味にはまだまだ遠いね」
「なら安心じゃな。なに、最近の冒険者はそういうけしからん趣味の奴等も多いからの」
「連れて歩く奴等がいるのか?」
「奴隷としてな。荷物運びを兼ねておるんじゃろうが・・・あまりいい趣味とは言えんの。そら」
くい、と顎をしゃくる。
そこには、2人の男と1人の女の冒険者パーティ。その近くに、ティティと同じ歳頃の少年が。
冒険者達はそれなりの装備をしているが、少年の装備は最低限だ。大丈夫なのか?
そこへティティがこちらに走り寄ってくる。
そのフード姿を目にして、なにやら意味ありげな視線を感じた。おい、仲間だと思われてないだろうな。虫酸が走る。
「シグムントさん、売れましたのです」
「そうか、良かったな。外に狩りに行くか?」
「はいなのです!ティティの魔法が水を吹きます!」
「・・・張り切るのはいいが、巻き込むのはやめてくれよ」
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