魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第五章【灰】

護衛任務の依頼

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鉱山より帰還し、ギルドへ戻る。
ジャネットは『またね~ん』とスキップするように受付へと戻っていった。
報酬は持ち帰ってきた素材を全て鑑定をしてから支払う、とのことだ。宿代に困っていることはないし、とりあえずいいだろう。

ギルドに併設している食堂で一息ついていると、周りの冒険者たちの話も聞こえてくる。



「おい、本当に行ったのか?砂漠地帯」

「ああ、確かになってきてるぜ、砂嵐」

「あの噂、マジだったのか」

「ま、俺もこれまでの砂嵐と見比べて・・・って訳じゃないからな、実際にどうとは詳しく言えんが。
一緒に随伴していた熟練者ベテランが言うことだ、間違いないだろ」

「薄くなってる、って事は、抜けられるのか?」

「いや、抜けるのはまだ無理だろう。あれを越えるなら、かなりの手練れが必要になるぜ」

「魔法使いがいるって事か?」

「そうだな、それにギルドも調査隊を出すって話だぜ」



ジャネットに聞いた通り、砂漠地帯の砂嵐は薄くなってはいるらしい。
ただし、砂嵐を抜けて先へ行くことはできないようだ。

調査隊を出す、というのも本当の事なんだろう。
腕のいい魔法使いを揃え、結界でも張って抜けていこうとするつもりだろうな。



「おにーさん」



砂嵐の向こう。かつて古い王国があったという跡地。
─────あれから、戻ることはしていない。身一つで追い出されたあの日から。



「すみませーんなのです、あのー」



砂嵐に閉ざされたままの故郷。
いや、既に故郷と呼べるまでの景観などないかもしれないが。



「聞こえてますかー?」
「あらん、その人を指名するのかしらん?」

「あ、はい、この人なら1人でも平気そうなのです」
「そうねん、確かにね」

「ん?ジャネット?鑑定終わったのか?」

「まだに決まってるじゃない。明日、明後日にはなるわ」

「・・・誰だ?」

「貴方をご指名の依頼人よ」

「依頼人、だと?」



ぺこり、と頭を下げる少女。
・・・雛ほど子供ではない。年の頃は10~12というくらいか?
若草色のフード付きのマントを被り、茶色の髪に緑の瞳。

最近俺は子供に縁があるのだろうか?



   ◻︎ ◼︎ ◻︎



「依頼とは?」

「こちらです」



ぺらり、と依頼票を差し出す少女。
顔を見ながら、差し出された依頼票を手に取ると、会釈をして自己紹介を始めた。



「私の名前は、ティルティリカティムティオです」

「・・・は?」

「ティルティリカティムティオです」

「・・・」

「長いので、ティティでよろしくなのです」

「あ、ああ・・・。シグムント・スカルディオだ」



依頼を受けた、というわけではないが、名を告げられたとすれば、名乗り返すのが礼儀だろう。
ティティ、と名乗ったその少女は、フードを被ったままでニコニコとミルクを飲んでいる。

依頼票に目を通す。・・・護衛、か。



「護衛、か」

「はい、砂漠地帯にあるいくつかのオアシスで取れる薬草が欲しいのです。
いつもなら砂漠地帯を主に探索してくれる冒険者さんにお願いしてるのですがー」

「出払っちまってる、と」

「はいー」



ふにゃん、と項垂れる。
確かに、砂漠地帯のオアシスには、質のいい薬草が生えている。
俺も砂漠越えの時は数度世話になった。水分をふんだんに含んだ葉もあり、水を手に入れられない箇所では役に立つ種類もある。

だが、現物を持ってこい、ではなく自分で採取するから護衛を、というのは珍しくもある。



「採取依頼、ではないんだな」

「いつもはそうする事も多いんですけど、自分を鍛えないといけないですし。
いつまでも冒険者さん頼りも良くないのです」

「・・・戦えるのか?」

「魔法を使えるのです。なので、おにーさんの補助ができるのです!」



ふんす、と気合を入れたティティ。
本人曰く、砂漠地帯の魔物も手強いが、最近砂漠地帯に出ている冒険者も多いので、強い個体は排除されているようだ。

まあ、妥当な線だろう。
自らのレベル上げに、採取。コクーン近辺のオアシスを2~3箇所回ればいいだろう。
鉱山で集めた素材の鑑定待ちにはちょうどいいかもな。



「・・・わかった、請けよう。出発は明日か?」

「はい!よろしくお願いするのです!」

「日帰り・・・は無理そうだな」

「オアシスで一泊程度のつもりなのです」

「そうか、わかった。テントの用意は・・・」

「自分のことは自分でするのです」

「なら構わない。明日はギルドで待ち合わせでいいか?」

「はいなのです」



それでは、とぺこりと一礼。
ま、砂漠地帯の様子も見てきたいと思っていた。

さすがに、あの依頼人を連れて砂嵐のある現場を見に行く事は難しいだろうが。
オアシスで情報を得るくらいのことはできるだろう。

ジャネットに依頼を受ける事を伝え、手続きをしてもらう。



「はい、これで終了。まあちょうどいいわね、戻る頃には鑑定も済んでいると思うから」

「ああ、暇潰しにはなるな。オアシスには常駐の奴等もいるだろう?
砂漠の変化についても聞けるだろうし」

「ふぅん?砂嵐の件ね?」

「ああ、どれくらい弱まっているのか、追いかけてる大物の話も気になるしな」

ねえ?噂だと、見上げるほどの巨体って話よん」

「見上げるほど、なあ?そんなデカい個体が砂漠地帯にいるとなると・・・デザートワームか?」

「あれも厄介よねえ。ま、強酸さえ浴びなければただのイモムシなんだけど」

「マウントロックスよりは楽な相手だが、見返りが少ないからな、アレは」

「でも今ならあいつの吐く糸玉も高く買うわよ?」

「他の奴等に期待してくれ。さすがに依頼人を連れてやり合う気は起きねえな」

「それもそうね。ティティちゃんよろしくね」

「知り合いか?」

「まあね、たまに薬草や素材を買いに来るの。師匠と2人で住んでいるそうよ」



身寄りのない子供、というわけでもなさそうだな。
まあ、護衛任務はさほど難しくもない。俺の目的もあるし、気楽にやらせてもらう事にしよう。

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