異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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幕間~王都での休息~

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数秒、エドワードは私を見つめたまま動かない。
次の瞬間、彼は席を立ち、私の傍まで移動し、傍に跪いた。

1度伏せた顔を上げ、鮮やかに笑む。
おっと、セクシーなイケメンの笑顔はダメージ深いです。



「貴女に再会し、直に答えられるこの時を、女神に感謝する」

「・・・ここの主神って女神なの?」

「その方がやり甲斐あるだろ?」



パチン、とウインク。
そうですね、エドワードにしてみれば男神より女神の方がやる気出るかもしれない。

騎士の叙任式の如く、エドワードは片膝を付いて私に対する。



「あんまり長ったらしいのも男らしくねえからな。
俺は、サヴァン伯爵家を継ぐ。同時に、俺だけの商業ルートを開拓する。欲しいものは手に入れるさ、その方がらしいだろ?」

「ふふ、そうね。貴方らしいわ」



『伯爵家の息子』に課された義務と、『自分の夢』どちらも諦める事無く、強欲に手にしてみせる。
自信たっぷりに笑うエドワード。『何処ぞの貴族に婿に行くしか』なんて言っていたのが嘘のようね。

なら、それを後押しするのは私の役目なのかしら。

片手を彼に差し出して笑ってみせる。



「その日を見られるのを楽しみにしているわ、
タロットワークの力など借りず、自分の力だけで叶えてみせなさい。その時が来たなら、が贔屓にしてあげても良くてよ」

「有り難きお言葉。一日も早くその日を迎えられるよう精進して見せましょう」



片膝を付いたまま、私の手の甲にキス。
騎士が主へと忠誠を違うように。

そんな彼に向けて、私はを取り出して見せる。

チャリ、と涼やかな音が鳴る。



「これが何かご存知?」

「─────、待ってくれ、それ!」

から受け取ったものよ。貴方が私の期待に応えられる日が来たら、貴方サルドニクス商会の為に使ってあげてもいいわ」



あの時、グレシオサイノスと名乗る半人半馬ケンタウロスから受け取った装飾品のキーホルダー。『さらなる友愛を誓う』と言葉を受けた。
あの後、邸へ戻った私にセバスはこれを『また驚きの種族を従えましたね』と笑った。あのドMの半人半馬ケンタウロス、族長だったらしい。いいのかあれで。

このキーホルダー、族長の証らしい。
全然知らない私はうっかり貰ってきてしまった。
『この印を持つ人間には無条件に従うでしょう』とはセバスの言葉。あの半人半馬ケンタウロスはこれを見越して私に渡したのか?分からない。

エドワードは感激したのか頬を紅潮させ、目を潤ませた。
グッと瞑目し、一段と何かを決意した顔に。



「10年。10年で成果を上げてみせます」

「焦って取りこぼさないようにね。カーティス、貴方が目をかけるならば道を踏み外す事も無いでしょう。大樹へと育つ若木を手折る事のないようにお願いね」

「レディ、貴方がそうするならばそのように。
漢を見せたね、エドワード。君の決意はしっかり受け取ったよ。精々僕達の期待を裏切らないように精進するんだね」

「当たり前だ、ここでやらなきゃ男じゃねえだろ」



ニヤッと悪い顔する二人。
子どもではなく、一人の男性としての顔。
この先、国を支える大貴族へと成長して行くのでしょうね。

…とすると、あと二人なんですが。
私はカーク殿下に目を向ける。



「焦りすぎる所は変わらないわね、カーク。
周りの人を重用しようとする所は成長したのだろうけど。懐に入れた人間に甘い所は見直すべきかしら」

「─────はぁ、こうやって怒られるのは何度目だろうな?」



ガリガリ、と頭を搔くカーク殿下。
私が言葉を和らげた事で、少しだけ本音部分を見せた。
少し、ドランが驚いている。

カーク殿下の前にドランへ少し忠告を送りましょうか。



「オリヴァー・ドラン。貴方と話すのは2度目かしら?
何時ぞやはカフェでお話をしたけれど。思い出せる?」

「カフェ、ですか」

「ああ、記憶になければそれで構わないわ。
ただし、これから言うことをきちんと考えて頂戴ね。
─────私、エンジュ・タロットワークは本来、そこに居るカーク殿下、またシリス王太子を抑えて第一王位継承権を持つ王族の一人です」

「!?」

「現在のアルゼイド王家に対し、タロットワークは王権を主張する気はありません。故に私の継承権はないに等しい。
けれど国王陛下、及び筆頭魔術師はを諦めてはいません」



血縁や魔力だけを重視するのであれば、現状私が1番王位継承権を持つ。伯父がタロットワークの始祖、マデイン・タロットワークの配偶者である故に。
その子供が現在のタロットワークの血筋を繋いできているのであれば、血の濃さを言うならば『私』らしい。
え、それなんか違わない?と思うのだが、長い年月色々な家と混血を繰り返した現在のタロットワークやアルゼイド王家と比べたら云々と言い張る。そういうもんですか?

また、魔力量でも私はかなり多い。でもまだゼクスレンの方が魔力量多いと思う。王様に相応しいのも私よりあの人だと思うし。
属性数で言っても、王太子より多い。
それだけ聞いていると万能、どこの才色兼備かと思いはするが、その対象は所詮、私なのである。無理にも程がある。

───私がシリス王太子と婚姻していたならば、私を女王として頂きに据え、彼を王配として統治する未来も彼等の頭の中には描かれていたのだろう。
周りをゼクスレンやアナスタシア、フリードリヒのクレメンス公爵家が固める。考えるだけは自由だし、無敵状態かもしれないけどまさに胡蝶の夢よね。
一般庶民育ちの私に今更帝王学とか無理ですから。頭から全部知識出ていくわよ。

しかし!ドランに上下関係叩き込むならこれが最適。多分。



「貴方はまだ若い」

「はっ」

「若いが故の過ちでも、度を過ぎれば目に余ります。
その振舞いはカーク殿下といえど庇い切れるものではない。
が理解できますか?」

「───今、染みております」

「言葉で応えるのは容易い。身を持って証明なさい。
これまでの振舞いは人の記憶から消えません。覆すにはさらなる時間と労力が必要でしょう。
心得なさい、貴方の振舞いがカーク殿下の評判を左右するものであるということを」



ぐっ、と拳に力が入る。
他の人から言われはしても、恐らく本当の意味で理解できていなかったとしか思えない。どんだけお坊ちゃんなんだよ。



「カーク殿下」

「はい」

「オリヴァー・ドランを側近から外しなさい」

「レディ、それは承知し兼ねます」

「何故?」

「何故、と問われましても」

「これはでもありますよ、カーク殿下」

「っ、」
「!?」

「貴方の振舞いが彼を増長させていた心当たりは無いのですか?
この態度を見るに、今ここでだけの振舞いではないのでしょう?現状、貴方達の成長を阻害しているのは、互いの関係性故と見ますがどうお思いかしら?」

「・・・・・」



カーク殿下は答えない。いや、答えられないのだろう。
気づいていたのかいないのか。



「カーティス」

「その通りですね、レディ。私は彼に付かなかった。それだけの事です」

「っ! ステュアート!?ならば、何故!?」

「おままごとに付き合う気は無いよ。最初にそう言ったでしょう?君の耳は飾りなの?
僕はちゃんと理由を言ったよね。君とドランの関係性を。忠告に耳を貸さず、思い違いをしていたのは誰?
エドワードに手を貸しているのは、それに気付いてカーク殿下、君からきちんと適切な距離を取った『一貴族としての振舞い』を心掛けているからだよ。
いつまで学生気分で主従ごっこを続けているつもりなのさ。呆れるね」

「・・・・・すまないカーク、私のせいで」
「いや、目を背けていたのは俺だ。ナル、いやオリヴァー、お前の所為ではない」

「エドワード、君にもここで言っておくよ。
僕が全面的に支援をしないのは、君が中途半端に彼等を甘やかして放置しているからだ。カーク殿下の陣営に入った意識があるんなら、何故彼等を諌めない?それが君の役目でもあるだろ?
『いつか自分のように気がつくはず』なんて夢物語だよ」

「・・・・・それについては俺の落ち度だ。すまない2人共」



まさかの被弾。エドワードにもステューのホームランが当たりました。これまで言っていたのかもしれないけど、こうしてきちんと『カーティス侯爵』として正すのはなかったのかもしれない。
いや、『カーティス侯爵』にしてみれば、それだけの事をしてあげる有益性は見い出せなかったのかもね。今私がいたからついでに、レベルかも。



「オリヴァー・ドラン。近衛騎士団への試験が通り、入団後3年間は『一騎士』として過ごしなさい」

「っ、」

「近衛に入れたならば、はないと大成しないでしょうね。これまでの王国騎士団での扱いとは雲泥の差でしょう。そのくらいの努力ができなければ、第二王子殿下の側近など資格がないと思いなさい」

「・・・・・」

「本来、王族の護衛は近衛騎士団出身の騎士のみです。
貴方は『幼馴染』として側にいたにすぎない。自身を鍛え、その剣を、その身を捧げる覚悟がないのなら、近衛になるまでも無い。殿下の側近を辞しなさい。この場で」

「お待ちください、レディ」

「カーク殿下、言ったはずよ?は貴方への罰でもあると。
───幼少の頃からの者を側近として重用するのは理解します。王族たるもの、心を許せる相手は限られるでしょう。それが必要である事も十二分に理解できます」



国王陛下には、それがゼクスさんであるだろう。ゼクスさんにとってはセバスだろうか?
相手がどのような地位、職業であろうと、そういったかけがえの無い人材は必要だと思う。



「ですが、その関係性が互いにとって有益で無ければ意味がありません。互いの足を引っ張り合い、落ちていく関係性など無い方がいい。
貴方が一貴族の子弟であるならばこんな事は言いません。ですが、カーク・トウ・アルゼイド、貴方はです。如何に臣籍降下が決まっていようと、この国の礎たる一族の一人であるはず」

「・・・・・はい」

「カーク、私は何度貴方に話をしたかしら。
─────これがであって欲しいわ」



えらい事を言いまくってる私、どこかからブーメラン飛んで来ませんでしょうか。既に後頭部に刺さっている気もする。
どの目線で言ってるんだと思う。でも今こういう事を言ってやれるは私しかいない。

やっぱり『弟』って可愛いものなんですかね、シリス王太子。
上がデキる子だと、下は少しくらいヤンチャでも大目に見ちゃうんですかね、国王陛下。
…ゼクスレンは多分気にも止めてなさそう。数に数えてあげて欲しい。育てばそれなりの太さの樹になるはずだし。

 
 
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