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森の人編 ~種の未来~
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しおりを挟む目の前で倒れ伏すジョシュア。
それがこんなにも絶望を感じさせるものだとは。
「ジョシュア、ジョシュア、ジョシュア!」
「うわ、直撃したぞおい!大丈夫か!?」
「・・・まずいですね、シェリア、解毒を!」
「っ、は、はい!」
ミレイユが飛び出した。
もうレディとの1VS1だなどど言ってはいられない。レディも私達がジョシュアの所へ行くのを邪魔はしてこない。ただ、見ているだけだ。
駆け寄れば、ジョシュアの意識は既に無い。
肌が紫や青色に変わってきている。辛うじて息はあるようだ、ミレイユが確認している。
ウルズさんやキールさんがレディからジョシュアを隠すように対峙してくれている。
私は私の仕事をしなくては。
…ジョシュア、今、助けます。心の底から祈る。
彼の瞳が、また私を宿してくれますように。
********************
倒れた青髪君に、青の均衡のメンバーが駆け寄ってくる。最初に飛び出したのは、狩人のミレイユさんだ。さすがに瞬発力は高い。
跡を追うように、ウルズ君、キール君、シェリアさん。
倒れた青髪君の元に膝を付いて様子を看るシェリアさんを隠すように、男性陣が立ちはだかる。
…ここは私が悪役となるべきね?
彼等にはもう少し、自分達の役割を認識して貰わなくては。
それに、レベルアップしてもらわないとその『渦』も乗り切れるのかしら?どの程度の魔物が溢れるのか知らないけれど、危機感が足りない気がする。
盾となり、立ちはだかる2人に対し、私は肩を竦めてみせる。
『どうぞ、回復してあげて?』という意味に取るだろう。…バカにしている、とも取るかもしれないが。
「いいのかエンジュ、横入りはどうかと思うぜ」
「いいわよ、言ったでしょう?『仲間に助けを求めることも許可するわ』って。本人はちゃんと声を上げなかったけれど、大目に見るわ」
「お前がいいなら、続けるがよ。
・・・いいんだな?お前等。エンジュと『戦う』ってことだな」
告げる獅子王の声は抑揚も無く、怒ってもいないし責めている訳でもない。ただ、確認しているだけだ。
それがまた一層怖いのではなかろうか、と思うのだが。
ウルズ君が口を開こうとすると、弾かれるようにミレイユさんが叫んだ。
「上等よ!やってやるわ!その女を叩きのめしてやる!」
「っ、待てミレイユ!」
「待ってください、ジョシュアがまだ!」
「キール、結界お願い!シェリアはそのままジョシュアの治療を維持して!絶対に回復させて!」
「~~~、あーくそ!後で覚悟しろよミレイユ!」
「そんなのあの女を負かしてからいくらでも受けて立つわよ!」
キリ、と私に向けて弓を番える。
なんの躊躇いも無く、彼女は私に向けて矢を放った。
私は、ワザと何もせずその矢を受けた。左腕に、突き刺さる。
「っ、痛ぅ」
「っ!?」
「・・・、フン!大したことないじゃない!このまま蜂の巣にしてやるから覚悟しなさいよ!」
そのまま躊躇することなく、二撃。
敵に対して容赦なく追撃。なかなか割り切っているようだ。
しかし痛い。ものすごく痛い。
何となく背後からすんごい恨みのオーラ感じるんですけど、オリアナじゃないよね?一撃必殺で殺りかねないんですけど、気のせいですよね?
ミレイユさんの二撃目は私の結界に容易く弾かれる。一撃目はワザと当たってあげた。私の優しさ?罪滅ぼし?名前をつけるのは難しい。
しかしどうやって抜こうかな、怖いと思いながらも回復魔法をかけると、弓矢自体が溶け消えた。もしかして魔法で作ってあった矢だったり?不思議だな。
大きく深呼吸。さて、意地悪だとは自分でも思うけれど、完膚なきまでに負かすことにします。
…しかし今タナトス召喚して『冥府の扉』放ったらどうなるんだろ。全員ぽっくり行くかしら。あれ、50%の確率で即死なのよね。
「・・・さて、一撃くれたお礼をしなくちゃね?」
「いやいやいや!ワザと当たりましたよねレディ!?」
「な、なん、ですって?」
「あら、そうだったかしら?でも私に一撃くれて怪我させたのは紛れもない事実だし、それに対するお礼はたっぷりさせてもらわないと。
・・・シェリア、さっさと治療を終えなさい?じゃないと他の仲間も戦闘不能に追い込むわよ」
「っ、レディ、本気で」
「だいたいね、貴方達、温いのよ。さっきのそこの狩人を見習いなさい、私を『敵』と認識して殺そうとしてきたじゃない。それくらい真剣にやりなさいよ」
片手を上げる。その手には青白く光るタロットカードが降りてくる。アルカナは『死神』。
…今思ったけど『タロットワーク』って語感似てるわよね。
「私は貴方達全員を殺すつもりで攻撃するわ。耐えてみせなさい、A級の誇りがあるのなら」
タロットカードを握りつぶす。
呼び掛けなくても、召喚は可能だ。
私の前に、タナトスが現れる。
それを見て、青の均衡の顔色が変わる。
「タナトス、『冥府の扉』スキル発動」
「$∂∂#☆$☆@££!!!!」
ガクン、と立っている2人の膝が折れる。
ミレイユさんは意識を失う。ウルズ君は片膝を付きながらも持ち堪えた。キール君もシェリアさんもなんとか堪えている。
私はタナトスを戻し、杖を彼等に向ける。
先程青髪君にやった事をもう一度。今度はどう対処する?
「『炎の矢』」
「っ、来るぞ、キール!」
「わかっています。シェリア、ジョシュアは」
「大丈夫です、ミレイユを治癒させます!」
さっきは初級魔法、今度もそうだけど、少し攻撃力もある魔法だ。
集中しなければ、結界は壊れ、仲間全員に被害が出る。さて、どこまで対処できる?
集中豪雨、とまではいかないが、外に出るにはそれなりのダメージを覚悟しないと出られないレベルの矢が降り注ぐ。『アローレイン』とかってスキルだとこんな感じかしら。
その間、キール君が結界を維持、ウルズ君は回復薬で自分とキール君を回復、昏倒したミレイユさんをシェリアさんが治癒魔法で回復中。
一撃死、とはいえ本当にあの世にさよならというわけでもない。そもそも魔法で『殺す』ならば、骨も残らず焼き尽くす、とか必要だと思う。
なので、即死=戦闘不能に追い込む、という事になる。
タナトスの『冥府の扉』がヒットすると、一撃で気絶させるという事になるようだ。…知らなかったわけじゃないよ?やった事無かったから実験?
即死=戦闘不能というのは、セバスに聞いて知ってはいたのだ。だが、本当にそうなのかということは試せなかった。
まあ、小鬼達と戦った後で、小鬼の王達が倒れている仲間に回復薬ぶっかけて起こしてたから、予測はついていたけどね。
なんていうのかしら、MP根こそぎ奪って昏倒、とかHP一気に削りすぎてショックロールに成功しちゃった感じかな。
となると、さっきの場合は他の3人はショックロールに失敗したのか…運のいい奴らめ。ダイスの女神が微笑んだのか。
そんな事を考えていたら、ミレイユさんが復帰。
周りの状況を見て、歯噛みしている。
「っ、何よあの一撃・・・!」
「お前がレディに喧嘩売ってくれたから、レディも出し惜しみせずにやってくれたってこったよ」
「この攻撃じゃ、外にも出られない・・・!」
「お前の弓は弾かれるだろうし、俺のナイフも接近しないと無理だ。ジョシュアを起こせれば、反撃に転じられないか」
「やっていますが、ジョシュアもかなり衰弱していて、すぐには復帰できないと思います・・・すみません」
「・・・っ、すまない、みんな。もっと早く呼べて、いれば」
「お喋りはそこまでにしてくれ。レディが次の手を打って来るはずだ」
おっと、キール君がいい読み。
私は唇の端を持ち上げて、嫌味に笑ってみせる。
さて、どこまで耐えてくれるかしら?
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