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冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~
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しおりを挟むギルドの昇級試験も終わり、あれからギルドからは今後も昇級試験の時に、魔術研究所から試験官を呼びたいと正式に申し出があった。
とはいえ、難解障壁の魔法は使い手が少なく、現在は私かゼクスさん、そしてセバスしか使えない。
都度私達のうちだれかが行く訳にも行かないので、そこはイスト君に集中特訓する事で決まった。いずれはギルド職員の誰かに覚えてもらい、やってもらう。
こちらもイスト君だけでなく、トーニ君にも覚えてもらう事にした。この2人は魔力操作も上手く、少し手解きをすればなんとかなりそうだ。
…さすがに上級者用のは、私が行かないといけないみたいだけど。
そういえば、あのポーションキャンディの名称が決まった。
ゼクスさんに『どんな名前がいいか考えてくれ』と言われ、色々と頑張って考えていたのだが、最終的にどうでもよくなってきて『もうハイチュウとかでいいんじゃないですねえ』と答えた。
ゼクスさんがOKを出そうとしたが、すかさずそこでライラが『そのテンションで決めると後で後悔する羽目になりますので却下致します』と告げた。
さすがはライラ、私の扱いがわかっている。
もう、単純に回復持続飴とした。
通常の体力回復の方を『キャンディス』、魔力回復の方を『マナ・キャンディス』と呼ぶように。
ハイチュウがダメならメントス、ミンティア、はたまたフリスク?と思っていたがそのどれもをライラは『却下致します』と言い続け、うーんじゃあシンプルにキャンディス…と言った瞬間『それがいいと思います』と言った。
えっ…?何?ライラ私の頭の中見えてるの?と胸がトゥンクとときめいたのは別の話である。
そして私はちゃあんとアナスタシアにキャズの恋人候補を見繕ってください、とお願いしておいた。
アナスタシアは二つ返事で『あのギルドの受付嬢だな?任せておきなさい、とびきりのいい男を見繕ってやろう』と男前な台詞を言ってくれた。
やだもう貴方より素敵な人はいません!とときめいてしまった私。アナスタシアったらホントにカッコイイんだから。
日常に戻ると、私の1日は某アトリエシリーズのように、回復薬の作成、御守りの作成、回復持続飴の作成…と、調合しかしていません。
私の名前、そのうち錬金術師になったりしない?
うに…うにを作るべきですか!?
フラムとか作って常備するべきかしら?時代は戦う錬金術師の時代よね!?…っていうか私ペル○ナ呼べるから要らないか。
そんな事を考えながら回復持続飴をカラカラ作成。たまに口寂しいのでつまみ食いしています。アセロラ味の方ね。
時に、能力値回復薬はまだチャレンジしていません。なんか満月の日じゃないとダメみたいで、まだ満月の日にできていない。この間の満月は、『獅子王』の部屋に行ってしまった日だったのよね…
「エンジュ様、師匠が呼んでるっす」
「またお客様?」
「はい、近衛騎士の団長コンビが来てるっす」
「コンビって何?」
「副団長と揃って来てます」
2人揃って?なんか怪しい雲行きね?
用事ならどちらか片方でも済むはずだ。むしろアナスタシアが来るのが普通だからね。
私がゼクスさんの執務室へ行くと、そこには近衛騎士団団長フリードリヒ・クレメンスと、副長シオン・カイナスの両名が揃っていた。2人ともこちらを見るけれど、厳しい顔は変わらない。
ゼクスさんだけが面倒くさそうな顔をしていた。
「お呼びですか?」
「すまんな、エンジュ。儂の代わりに話を聞いてくれんか」
「ゼクスレン様、ふざけてないで頂きたい」
「ふざけとらんよ、今回の事はエンジュに任せる」
「ゼクスレン様、こちらは正式に申し出ているんです」
「だから、正式に任せとるんじゃ。エンジュは紛れもなく『タロットワーク塔』の『塔の主』じゃ。任せるに値する役職者じゃろ」
「また厄介事かしら?ゼクスレン」
「すまんの、儂は今王宮を離れられん。スマンがこっちの事は頼む」
「仕方ありませんね、わかりました。お2人共、申し訳ないのですが私の部屋に移動していただけます?」
「・・・承知しました」
「行きましょう、団長。ゼクスレン様、ありがとうございました」
団長さんは渋々。シオンはそんな団長さんを補佐するように、私の後をついて行くように急かしている。
ゼクスさんは最近、ずっと王宮に詰めている。
原因はあの『トリュタケ』だ。王都だけでなく各地の街に出回り、需要が加速して値段が跳ね上がっているのだ。
しかし迷宮の出入りはギルドが制限している。出荷される量は増えないが、求める人間は増え続けている。
今では不正に迷宮に潜る人間も出てきているのではないか?という始末。
…ギルドも困っているが、市場の拡大を抑える方も困っているのだ。
部屋のドアを開け、2人を招き入れる。
あ、しまった、調合器具が出しっぱなし。
「ごめんなさい、ちょっと片付けるから、座っていて」
「ああ、失礼する」
「手伝いましょうか?エンジュ様」
「いえ、大丈夫。すぐ終わるから」
キャンディスも入れっぱなしだ。品質は変わっていないみたいなので、大瓶へ移し替える。そんな私を2人は眺めている。
「・・・エンジュ、いや、レディ・タロットワーク。その飴はもしかして回復持続飴、か?」
「ええ、そうよ?知ってるのね」
「知ってるも何も、魔術研究所から『試験品』として納品された。かなり画期的な物が開発されたもんだと思っていたが、まさか、作ったのは君か?」
「えっ!?確か何年も技術開発して作られたと聞いていますが・・・ん?そういえばこの前試作品と」
「なんか混ぜてたら出来たのよね」
「・・・あー、くそ、そうだ、そうだよな、こういう人だったな」
「えっ、あっ!?待ってください、まさか『何年もかけて』というのは辻褄合わせですか?」
「食べる?割れてるから商品にならないやつ」
いくつか割れているものがあったので、小皿に出して渡す。
アセロラ味のキャンディス。2人は恐る恐る口にした。団長さんは酸っぱいのかキュッと口を窄めている。
「酸っぺえな」
「確かに酸味が強いですね、って、あの、これ、」
「じわじわ効くでしょ?」
「シオン、とりあえずもう諦めろ」
「何でしょうかねこの既視感。なんだか少し懐かしい気がします。これがタロットワークなんですね、忘れていましたよ」
「何かしら?何だかすごく失礼な事を言われている気がするのだけど」
「気の所為だ」
「気の所為です」
「あらまあ仲良しさんね」
器具を片付け終わり、私も席に着く。
お茶が入った大きなポットとカップを3つ。それとマートンが焼いたクッキーの缶。なんだか最近、素敵な缶を買ってきては、クッキーを詰めて渡してくるマートン。…何に目覚めたのかしら?
「どうぞ、召し上がれ?」
「スマンな、レディ」
「ご馳走になります」
「甘い物でも食べて、少しはそのイライラを取ってちょうだいね。それからお話してくれるかしら?」
「・・・あー、叶わんな本当に」
「今更格好付けても仕方ないでしょう?」
「まあそうだな、すまん、イライラしていた。ゼクスレン様にも後で謝罪しないとならん」
「今はあまり構わないでほしいわ。ゼクスレンもずっと王宮に詰めていて大変なのよ。多分同じ要件で来ているのよね?」
「・・・そうか、対応しているんだな」
「すみません、こちらの都合ばかりで」
「いいえ、こういう時こそきちんと情報交換すべきね。
ギルドの方には誰か行っているの?」
「いや、あちらには行かせていない。門前払いだった」
「ギルドマスターにはお伺いを立てたのですが、取り込み中だと言われています」
「・・・グラストンも手詰まりか。今確か『獅子王』が多岐型迷路へ入っているはずよ?確か攻略前に下見をすると言っていたから」
「なんだと?・・・本部が動いたか」
「そうですね、以前エンジュ様のクエストをしている時にもそう言っていました。本格的に事前準備に入ったということでしょう」
「単独では難しいから、一時的にでもパーティを組んで攻略するという方向のようよ。他のパーティにも依頼をしているようだけれど、上手くいっていないみたいね。
・・・魔術研究所からも転移方陣の調査をしたいから、別に依頼を出したいのだけれど、ね」
「アナスタシアから聞いている。レディ、その転移方陣だが、どのくらいの信憑性がある?」
「どういう事かしら?」
「現在、市場に予想よりも多い『トリュタケ』が流れている。ギルドではクエストで採取し、市場に流す量を制限しているはずだ」
「それが、ある時を境にぐんと増えているんです。
覚えていますか?私が報告した事を」
「・・・ギルド員ではない者が、迷宮へ入っている形跡がある、と言っていたわよね?
その時私は『別の入口があるかもしれない』と言ったと思うけど」
「それだ。それを前提とし、あの近辺を捜索した。んだが・・・はかばかしくなくてな」
「別の入口があるなら、あの近辺にあると思うんですが」
「え?別に近辺じゃなくてもあるでしょ、多分」
「は?」
「えっ?」
「だって、多岐型迷路、なんでしょ?
だったら入口も多岐型だとしても何ら不自然ではないじゃない?」
「すまん、結びつかない。シオン分かるか?」
「すみませんエンジュ様、私もピンと来ません」
「・・・ちょっとクッキー3枚くらい食べて糖分入れなさいな」
私は席を立ち、執務机へ。
確か、ルーレットを書庫から持ってきてたはず。昔ボードゲームについてたような小さいやつね。これ何に使われてたのかしら。
応接セットに戻ると、団長さんもシオンも頑張ってクッキーをかじっていた。なんかいい大人がそうやってお菓子食べているのって変なの。私が薦めたんだけどね。
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