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冒険者ギルド編~多岐型迷路~
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しおりを挟む迷宮探索当日。
ギルマスであるグラストンから、今回の調査に近衛騎士団から人が来る事を伝えられる。
「こりゃ、近衛騎士団も本気だな」
「ああ。まさか『剣聖』を出してくるとはな。こっちも『獅子王』が行く事を伝えてある。むしろ良かったんじゃないのか?下手にレベルの違う騎士を付けられるよりはな」
「ま、そうだな。あっちが魔物に殺られる心配をしながら調査をするなんて事にゃならなくて済む」
シオン・カイナスか。あの当時もずば抜けて才能がある男だった。自分とはまた違う類の強さだが、今回の調査に関しては助かる。確か、魔法もそれなりに使えたはずだからな。
武器も防具も手入れを済ませ、1週間ほど迷宮に潜るために食料も薬も詰んだ。マジックバッグにはまだかなり余裕がある。一応戦利品の場所も考えんとな。
依頼品である『毒胞子』の目標数は5から8。
あの後、ギルドの資料から『悪魔茸』の交戦率を見て予想した数がこれだ。運が良ければ10個は出るかもしれない。
依頼人であるエンジュ・タロットワークを待つ。すると、カウンターから1人の若い女が近づいてきた。
「すみません、『獅子王』様」
「あん?どうした」
「エンジュ様から伝言です。『支度に時間がかかるから、迷宮の入口で会いましょう』と」
「仕方ねえな、女の支度は時間がかかるもんと相場は決まってるしな。あんがとよ、姉ちゃん」
「キャズ・シールケといいます。どうぞ無事のご帰還を」
「そうだな、無事に帰ってきたら祝杯をあげてくれ、シールケ」
「っ、はい!」
若いが、いい女だ。体は成熟しちゃいるが、男の匂いがしない。勿体ねえな、この見た目と歳でまだ手付かずなのか?
胸も尻も程よく肉がついているし、啼かせたらさぞいい声だろう。ちっと固そうに見えるが、こういう女ほどベッドの上じゃ化けるからな。
「あ、あの。何か・・・?」
「お前、まだ男を知らないのか?」
「えっ!?」
「勿体ねえな、いい体してんだから楽しんどけよ。冒険者なんかしてたらいつどうなるかわかんねえぞ?」
「わ、私はそんな簡単に寝ません!」
「そうか、なら身持ちのいい男でも捕まえてサッサと子を産んどけ。お前ならいい母親になるだろ」
「・・・『獅子王』様はいつもそんな事考えているんですか?」
少し責めるような物言い。だがどこか媚びるような甘い声音。こういうタイプの女は、長期のクエスト後に誘うと大体落ちる。
「当たり前だろ?男ならみんなそうさ、冒険者ならな。
クエストから帰ってきて欲しくなる物と言えば、美味い飯、美味い酒にいい女だ。女の柔らかい肌で眠ってやっと『帰ってきた』って気になる」
「そういうものですか?」
「俺はな。だからお前がその気なら、色っぽい下着付けて、綺麗にして待っとけよ?」
「なっ!!!」
「じゃあな」
さて、ここからは本気のクエストと洒落込むか。
俺も多岐型迷路は初だ。さてさてどんな仕掛けが出てくるのやら。
王都を出て、数十分の先にある道の外れ。
朽ちた砦のような門構えの建物の中に、多岐型迷路はある。
この朽ちた建物も、以前はなかったという話だ。
恐らくこれも迷宮の一部なんだろう。
ギルドの職員が交代で門番を勤めている。
勝手に迷宮に入ることを防ぐためだ。こういったギルド管轄の迷宮に入るには、あらかじめ許可が必要になる。
冒険者であれば、自らのランクを示すタグ。
そこに魔法で名前や職業、パーティ情報、自らの強さを示す冒険者レベルやランク、犯罪歴など、あらゆる個人情報が書きこまれている。
ギルドではこのタグを使い、クエストの受発注をしている。
今回は俺のタグにはギルド本部からのクエストと、エンジュ・タロットワークの依頼したクエストの両方が書き込まれているわけだ。
そこには多岐型迷路の出入りを許可する事も含まれる。
見張りの職員にタグを渡す。
所定の機械へ通し、通行許可を確認される。
これで多岐型迷路へ潜れるというわけだ。
「早いな、もう来てたのか」
「久しぶりだな、レオニード。もう10年振りじゃないか?」
「お前もな、カイナス。いつの間に副団長なんかになりやがった?よくやるな」
迷宮の入口。
そこには近衛騎士団から派遣された、シオン・カイナスが待っていた。周りに数人の騎士。恐らく部下が見送りに来たのだろう。
対して俺は1人。これが単なる冒険者と騎士様の差かね。
「調査は一通り行う事になる。主導権はそちらに譲るよ」
「んな事していいのか?」
「迷宮は君らの独壇場だろ?俺はそれについていって、こちらで重要だと思う調査をするよ。
気掛かりは同じだろうけど、お互いの方法で挑む方が、違う角度から情報が得られるだろう?最終的に得られるものは多い方がいい」
「確かにな。ひとまず足でまといになるような奴が来なくてホッとするぜ」
「俺もだよ」
互いを見れば、どの程度できるかわかる。
ガチでやってもいい勝負になるだろう。それがわかるから安心して戦えそうだ。何があるかわからないのが迷宮の深層。上層は手を抜いていられるが、『悪魔茸』は下層になる。
そういや、依頼人は来ないのか?
こちらで会おう、と言っていたが…
「ああ、いたいた。背が高いと目立つわね」
「来たか」
「ごめんなさい、準備に手間取ったわ。こんにちは、副長さん」
「・・・エンジュ様?何故こちらへ」
「この人に用があってね。私の依頼を受けてくれてるの」
俺の目の前に立ち、手に持っていた巾着を寄越す。
…なんだこりゃ。
「なんだよ、これ」
「薬だけど?用意するって言ったでしょ」
「こんな小せえ袋にか?」
「関係ないわよ、マジックバッグだもの」
「マジックバッグだあ!?こんなに小せえもんがあんのか!?」
「あるんでしょうね、目の前に」
しれっと言う姉ちゃん。
あのな、こんなサイズで作れるなんざ、それこそ国宝級じゃねえのか?大抵は小さくてもリュックサイズだ。俺が持っているのもそのサイズ。
そんな事はお構い無しに、エンジュ・タロットワークは俺にその巾着を渡した。…どのくらいの量が入るんだ?こりゃあ。
「ええと、中身はポーションと高級ポーションが5本ずつ。解毒薬と麻痺解除薬が3本に、聖水が3本ね」
「おいおいおいおい!どれだけかかってんだよ!」
「元手はタダよ?私が作ったものだもの」
目眩がする。道具屋でこれを揃えたら金貨が2枚は吹っ飛ぶだろう。なのにそれをポンと出す。…自分で作っただと?マジかよ…
くるり、と振り返ってカイナスにも巾着を差し出していた。
受け取ったカイナスも驚いている。
「エンジュ様、これは・・・」
「一昨日、アナスタシアが魔術研究所へ来てね。副長さんが彼と多岐型迷路へ入ると聞いたの。
・・・調査に入るのは、私の予想の為よね?」
「いえ、そんなことは」
「まあいいわ。彼には別口で『毒胞子』の依頼もしているの。できたら手伝ってもらえると助かるわ、今後の為にも」
「・・・了解しました、心掛けます」
「その巾着の中身は同じよ。危なくなったら使って?
神殿の聖水に引けを取らないと思うわ、多分」
「待ってくださいエンジュ様、まさかこの聖水」
「それはここで言うべきじゃないわね?」
しー、と唇に指を当てて笑う。
…まさか聖水も作ったのか?頭が痛くなってきた。
またも俺を振り返り、小瓶を差し出した。
「で、これはオマケね。まだ効果を試していないから、ちょっと使ってみてくれない?」
「なんだこれは。・・・飴か?」
「そうなの、新作よ?」
「あのな、子供じゃあるまいし、こんなの俺達にどうしろってんだよ」
「えーとね、疲れたら歩きながら舐めるといい事ある?かも?」
「なんで疑問形なんだよ」
「言ったじゃない、効果を試してないって。青い方と赤い方、味が違うのよ。赤い方は魔法を使ってから、青い方は疲れたなと思ったら舐めてみてね」
「俺達は被検体かよ・・・」
「まあまあ、多分いい事あるから。あ、副長さんも試してね?感想を期待しているわ」
「はは、じゃあご馳走になりますね」
「お前強いなカイナス・・・」
「じゃあいってらっしゃい。お土産を期待しているわね、『獅子王』さん」
「成功報酬は弾んでくれよ?頼むぜ」
「考えておくわ」
にこにこ、と手を振るレディ・タロットワーク。
俺とカイナスは連れ立って迷宮に挑む。
さて、成功報酬を頂きに気張るとするか。
しかしなんなんだよこの飴…
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