異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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異変の始まり

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私達が御守りタリスマン作りで盛り上がっていると、ゼクスさんがようやく部屋から出てきた。
どうやらお客様は別の扉からお帰りになったみたい。



「何しとるんじゃ」

「あっ、師匠!エンジュ様が凄いんです」
「ていうか、エンジュ様が作ったもので凄くないものがあったかと」
「エンジュ様見てると飽きないっすよね!オレずっと付いてきます」
「師匠、これ見てください」

「どらどら」



イスト君が私の作ったカメオもどきをゼクスさんに。
ゼクスさんも興味深そうに摘み、じっくりと観察している。その目はキラキラと新しいものを見た子供のよう。



「ほほう・・・これは見事な」

「どのデザインで作ってもらってもこうなりまして」

「さすがはエンジュじゃな、儂でもここまではならん」

「えっ、そうなんですか?てっきりゼクスさんならもっと凄いものが出来上がりそうですけど」

「師匠はダメです」
「師匠にやってもらうと、違う意味で凄いものができます」
「材料もったいないっすよね」
「こらお前達」

「はっはっは、儂はこういう細かいものは苦手での。作れない事はないんじゃが、使い勝手の悪いものしか出来んのよ。
大きな魔石から作る護符アミュレットならばまだいいのだがの」



どうやらゼクスさんが作ると、それなりに魔力操作に長けていない人には難しいレベルのものが出来てしまうらしい。
クズ魔石から作るものにしては、価格が釣り合わなくなるのでダメなんだとか。



「・・・ふむ、それにしてもエンジュの物は良いものだの。これならば初心者にも使いやすかろうよ。
魔力の通りもスムーズだし、それなりに耐久性もある」

「そうなんですよ、この御守りタリスマンの中でもかなり高品質です。少し価格を上げれば釣り合いが取れますよね」

「え?何の話?」



どうやら、このクズ魔石から作られる御守りタリスマンなのだが、難点があったらしい。

さすがに原料がクズ魔石というだけあって、耐久性がない。
数回使えば壊れてしまうのだとか。しかし、初心者レベルの冒険者にとっては、そんなものでもあるとないとでは大違い。

攻撃力を上げる、防御力を上げる、素早さを上げる、精神力や魔力を強化する…そういった底上げがなければ命取りになることもある。

その為、魔術研究所で作られるこの御守りタリスマンシリーズはかなり人気商品なのだとか。
しかし、中級者にとっては少し物足りない。上級冒険者…つまりランクでいうAとかBとかになってくると、懐具合も温かいのでいい魔石を使った護符アミュレットが買えるのだが、CやDランクくらいになってくると、人によっては懐具合にも格差が出てくる。彼等が手を伸ばすには難しく、だがこちらの御守りタリスマンシリーズになると、いくつあっても足りないのだとか。

しかし、私の作ったものはその護符アミュレットに近いくらいの耐久性があるようだ。

そこで、イスト君はこれを御守りタリスマンシリーズでも少し価格帯を上げて、売り出せばいいのではないかと。



「あー、なるほど。それなら購入者も別れるわね」

「そうなんです、でもこれエンジュ様にしか作れないので・・・まあ掘り出し物みたいな扱いになると思いますけど」

「エンジュが良ければいいのではないか?もちろんそれなりの支払はするからの。やるか?エンジュ」

「片手間でいいんなら構いませんよ、楽しいし。
こればっかりいっぱい作れと言われたら困りますけど」

「よいよい、それで充分。ほれお前達、エンジュの部屋に材料と機材運んでやれ」

「了解です!」
「新しいものもらってきますかね」
「んじゃ、オレ行ってくるっす」
「キリ、全種類持っておいで。エンジュ様は多分全種類使うから」

「そうじゃの、エンジュ、色々と試してみておくれ。もしかしたら違う物もできるかもしれんしな。イストのデザイン画も参考にしてみたらいい」

「わかりました、さすがに他のも作れるようになりたいですし・・・なんで全部カメオになるのかわからないですし」

「さてエンジュ、少し話があるんじゃが・・・そなたの部屋の方が良かろうな」

「話、ですか?」



そのまま私の部屋へ向かうゼクスさん。
ゼクスさんのお部屋で話すには少し差し障りがあるのかな?残っていたヨハル君に『少し外す』と言い置いて、ゼクスさんと私は部屋を移動した。



********************



私の部屋へ行くと、キリ君とイスト君が材料のクズ魔石が入った箱を次々と運び込んでいた。
机の上には、先程のアクアビーズセット。プレートとピンセットが長さの違うものが3本セットで置いてある。

ワゴンが置かれ、そこには箱詰めにされたクズ魔石がたくさん。全属性のものなのだろう、色とりどりの石が入っている。



「こんな感じでいいでしょうか。使う分だけこちらの籠に入れて机に置けばいいと思います。この籠も特注なので、魔石を入れて置いても大丈夫です」

「うむ、ご苦労。後は良いぞ」

「エンジュ様、足りなくなったらまた運びますので、その都度言ってくださいね」

「ええ、ありがとうイスト君。キリ君も」



2人が出ていくと、ゼクスさんもソファに座る。
一応寛げるように、作業用の大きな執務机の他に、応接セットを置いている。主に私がお昼寝してるソファなんだけど。

私はお茶を2人分用意して、ゼクスさんの向かいへ。



「ああ、すまんの。喋り疲れたわい」

「そういえばお客様が来ていましたね。最近多くないですか?イスト君達も気にしていましたよ」

「そうじゃの。あ奴らにも言わねばならんが。先にエンジュ、そなたにも話しておく事がある」

「・・・なんですか?きな臭い事ですか」



私に話しておかないといけない事…?
何か大事なのかしら。それは困るなあ。

ゼクスさんはお茶を味わい、ちょっと無言。
私は話し出してくれるまで、ゆっくり待つことにした。



「そうじゃの・・・何から話すかのう。エンジュは冒険者ギルドについてどこまで知っておる?」

「冒険者ギルド、ですか?キャズが働いてて、ランクがあって、クエストがあって・・・あと、『獅子王』っていう凄腕ランクの冒険者がいるってことくらいしか」

「ほほう、『獅子王』とな。珍しい名を聞いたのう」

「知ってます?」

「ああ、知っとるよ。前に騎士団にもおったな。折り合いが悪くて騎士団を辞めて冒険者になった。剣の腕は高くてな、クレメンスといい勝負じゃろうな。年齢も近いはずじゃ」



へえ、そうなんだ。そのうちフレンさんに話ができるようになったら聞けるかな?アナスタシアも知っているかしら。



「後は何か知っとるか?」

「いえ、それくらいで。ほとんど何も知りませんね、私」

「・・・冒険者ギルド、というのは役目があってのう。『迷宮ダンジョン』と呼ばれる自然の迷宮を管理しておる。そもそも、『迷宮ダンジョン』を管理していた者達が集まって『ギルド』という団体を立ち上げたのが始まりでな」

「『迷宮ダンジョン』・・・ですか?」



これは異世界転移お約束のものが出てきましたよ!
今まで聞いたこともなかったけど!『迷宮ダンジョン』って本当にあるのね?

ゼクスさんの話によると、『迷宮ダンジョン』というのは自然災害に近いものらしい。その地に魔素溜り…いわゆる負の思念とか、良くない魔力が集まり、『迷宮ダンジョン』となる。
その場所によって、形も変わり、建物型、森型、地下洞窟型とパターンも様々なようだ。

そこには『迷宮主ダンジョンマスター』とも呼ばれる高ランクの魔物が存在し、その魔物を筆頭にたくさんの魔物が湧く。
もちろん、その魔物から取れるドロップ品は品質の良いものが多く、価値も高い。普通に現れる魔物よりも素材としてはいいそうだ。

そんな自然災害の『迷宮ダンジョン』を攻略し、安全を守る団体が『冒険者ギルド』なのだという。



「・・・そんな事になっているんですね、初めて知りました」

「エンジュが来てからは、本当に小規模の『迷宮ダンジョン』しかなかったから、あまり話に聞かなかったんじゃろうな。王国には騎士団があるが、こちらは他国相手の防衛などに手を裂かれる。なかなか『迷宮ダンジョン』が出ても攻略には向かんのだよ」

「他の国にも、『迷宮ダンジョン』はできるんですか?」

「もちろん、そうじゃな。その度にその国の冒険者ギルドが、登録している冒険者達を募って対処しておる。冒険者達も己の腕試しと懐具合を潤す為にこぞって参加するからな」



そうかなるほど…クエストってそういうのも含まれるんだろうな。街の周りに無限に魔物が湧いたりしないだろうし…

キャズも行ったりしてるのかしらね?

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